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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8 第2章 Phoenix Field <不死鳥の戦場>終焉を求める君への挽歌 
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チャプター1 拗れる思惑 06

そこに記されてあったのは、一人の魔砲少女を表す名。

嘗てフェアリアに伝説を蘇らせた、双璧の魔女が記されていたのだ。

その名に触れた時、誇美は不思議な感覚に捕らわれる。

戦場へと赴く前に知らねばならないことに気付くのだった・・・

懐中電灯を持った手に力が入る。

思わず近寄って見詰めてしまった。


「間違いない。書かれたのは先の二国間戦争時・・・

だったら、しるされた名は・・・」


 ドクン


身体が勝手に震えた。

心臓が震える様に高鳴る。


「伯母様の・・・名前」


宿る躰は島田しまだ美晴みはる

父親であるマモルは書かれてあるミハル・シマダの弟で、終末戦争時の勇者の一人。


「理を司る女神と成られる前。

 ここに居られた・・・人として闘いに身を呈されていたのね」


脚が勝手に進み、書かれてある名に触れようとして、そっと手を伸ばす。

だが、触れる寸前で手が停まった。


「当時の事は分かりようがない。

 どんな想いで此処に居られたのか。

 何の為に闘っておられたんだろうか?」


今の誇美が此処に来たのは、複雑な因縁が作用してのもの。

間もなく戦闘へと踏み込むことになる自分との対比を考え、当時の理の女神が人として何を考え何を思って戦場へと臨んだかを知りたいと思った。


伯母ミハル様が居られたのなら、何て答えられただろう?」


今から30年近く前の話だとしても、生死を分ける戦いの場へと臨む人の気持ちを知りたかった。


「私は美晴との約束を守る為に宿り続けないといけない。

 謂れも無い戦いに身を投じなければならないのも。

 抜け殻の身体を守らなければならないのも。

 この躰を返したいだけ・・・唯それだけ」


身体を維持し、魂の帰還を願う誇美。


「それが今の私に課せられた宿命。

 それだけが、闘う理由なんだから・・・」


目の前には懐中電灯の光で浮かんだ、嘗て戦場へと赴かざるを得なかった魔砲少女の名が記されてある。


「どうして?なぜ行かれてしまったのですか伯母様」


一刻は美晴みはるに仮宿りしていた女神を思い。


「どうして?現世へと舞い戻ったばかりの私なんかに。

 託して行かれたのですか・・・美晴みはるを」


もしもあの場に理の女神が居てくれたのなら。

このような事態となる悲劇を防げたかもしれない。

異界の創造主に囚われることにはならなかったかもしれないし、そもそも闘いに負けずにいられたかもしれない。

あの日、美晴の青き宝珠から女神がいなくならなければ。


「試練というには余りにも過酷ではありませんか。私にも美晴にも」


書かれてある魔砲少女の名に問いかける。

昇華したばかりの新米女神には重すぎる枷だと。


「未だに相手の正体すら掴めず。

 身体を維持し続ける限り、ルシファーお父様にもミハエルお母様にも逢えず。

 況してや天界に助力を願いたてるのも出来ないのですから」


新米女神ペルセポネーは、自らの落ち度で招いた不幸を乗り越えねばならなかった。

頼りとする父母の助けを求めることも出来ずに。


「救いがあるとするなら。

 爺やとグランが使徒になってくれたこと。

 それとマリアさんを始めとする仲間達がいてくれて。

 想いを同じくする友になってくれたこと・・・なのです」


魔砲少女の名が書かれた黒板に、差し出していた手が動く。

返って来るとは思いもしない答えを求める様に。


「友との約束。

 そして美晴と交わした約束を果たしたい。

 例え理不尽な闘いに臨むとしたって」


薄く霞んだ白墨に誇美の指先が触れる。

女神の異能が微かに残された記憶を辿るように文字をなぞった。


「ミハル・・・双璧の魔女・・・光と闇を抱く者・・・」


誇美の頭に、ぼんやりとだが彼女の姿が浮かんでくる。

軍服姿で・・・黒髪を紅いリボンで結った・・・魔法少女の後ろ姿が。


まるで光の中に消えて行くような。

眩い光に擦れていくようで・・・儚げな・・・そして。


振り返った魔砲少女が、微笑みを浮かべていた。

蒼く澄んだ瞳で・・・口元を緩めて・・・何かを語り掛けているのが観えた。


「・・・生き抜け?・・・諦めるな?

 たった一つの約束を守って闘え?!」


光に消えて行く魔砲少女が残してくれた。


「それが・・・伯母ミハル様の闘った理由ですか?

 闘い続けられたことわりなのですね?!」


一瞬の事だった。

指先に流れ込んで来た記憶が教えてくれた。


「人であろうとも、女神だろうと変わらない。

 願いを果たす為にも、努力し続けなければいけないんだ」


残されていた魔砲少女ミハルの想い。

それに女神として触れて知ったのは、諦めてはいけないということ。

・・・それと。


「約束を守り・・・果たさねばいけない」


誇美に残された約束は唯の一つ。


「どんなことになろうと、美晴を取り戻すんだ」


その為にここに居るのだから。


ひかりつよさを兼ね備え。

 大切なモノを守る為に・・・闘わなきゃ!」


だから・・・闘う必要があるのだと。


古城の遺物が教えてくれた。

古き魂の記憶が語ってくれた。

理不尽な闘いへと赴かざるを得ない者への応援エールを。


エンカウンターの古城。

そこには先の戦争で使われていた痕跡が残されていた。

フェアリアの戦車隊が駐屯し、魔砲少女の名が残ってもいた。

なぜ誇美が立ち寄りたくなったか。

審判の女神が行ってみるように勧めたのか。

すべては、彼女の想いが引き寄せたのかもしれない。


そう・・・魔砲少女ミハルと、嘗ては呼ばれし女神の優しさ故に。



心へ刻み込むように、差し出していた手を胸に添える。


「ありがとう・・・教えていただいて」


感謝の言葉が自然と漏れる。

そこには居ない魔砲少女へと。


「やっぱり、この城に来て善かった」


戦場へと赴く前から思い悩んでいた。

人として戦場で闘うことの意味と、進展しないみはるの奪還に。

それが黒板に記された名に教えられたのだ。


「約束を果たす為に闘い、願いを叶える為にも諦めない。

 逆境にも屈せずに抗い続ければ、きっと生き抜くことに繋がるんだから」


溢れんばかりの光を浴びた魔砲少女が語ってくれた。

微笑を湛えた少女が消える前に、教えてくれたと思っている。


「そうなのですね、ミハル伯母様」


頭の中に少女の背中が浮かんでいるようだった。

戦場と言う非日常の中でも笑みを浮かべていられる程、強い人なのだと思える。

少女なのに大きな背だと感じ、偉大な魔法使いだと思えた。


「私も。

 あなたのように強くなれるでしょうか?」


だから、心に刻み込んだのだ。

強く・・・強く・・・強くなりたいと。


誇美が理を司る女神へと問いかけた時だった。


「それは人として?それとも軍人としてなのかしら」


不意を突いて問われた。


「え?」


問いかけて来た声に、慌てて振り向く。


「あなたはどうして強くなりたいと言ったの?」

「あ?どうしてここに・・・あなたが?」


知らない声では無かった。

だが、どうして此処に来たのかが分らなかった。


「ル・・・いいえ、リィタ一等尉官殿?」


懐中電灯のほの暗い灯りに照らされているのは、金髪の特務要員で大尉相当官のリィタ。

・・・と、呼ばせているルナリィ―ン皇太子だったのだが。


「・・・もう一度訊くわ。

 あなたは強くなってどうしたいと言うの?」


誇美が思わず言葉を呑んだのを聞かなかったように質し直して来る。


「え?えっと、それは・・その」


答え難い。本当のことを話したって分って貰えるとは思えないから。

だから、言葉を濁すに留めたのだが。


「人の限界を超えたいと?

 魔砲の異能で敵を滅ぼしたいから?」

「違います。そんな意味で強くなりたいなんて思わない」


続けて畳みかける様に訊かれ、意図しない理由を言われた誇美が否定を表す。


「だとしたら・・・なぜ?」

「私は唯・・・約束を果たしたいだけ」


一等尉官リィタに応える。


「大切な人との約束を守りたいから」


ハッキリとした口調で。


「守りたいから強くなりたいのです」


真っ直ぐリィタを観て。


「・・・なるほど。それが魔砲少女の矜持なのね」


同じ様に真摯な顔を向けていたリィタが応じる。


「そう思うようになれたのは。

 あなたの先代が教えてくれたのかしら?」

「・・・そうなのかも」


何も言わなくても、黒板に書かれてある名を観れば分かるのかもしれない。

だけど、部屋に入ったばかりのリィタには死角になって観えていない筈。

しかも今、灯りを手にしているのは誇美だけだった。


「リィタ一等尉官殿は、どうして伯母様が此処に居たのを?」


咄嗟に訊き質してから思った。

先にこの部屋へと来ていたのか?

それとも・・・エンカウンターが懐かしいと言っていた審判の女神から、この城の意味を聞いていたのかと。

もし後から思ったのが正しいと言うのなら、それこそリィタの本性が暴かれる事にもなる。


「私は先代がって言った筈よ。

 魔法砲手が此処に駐屯していて。

 あなたが何かのインスピレーションを感じたのではないかと訊いたのよ」

「あ・・・う」


まさかの答えに、誇美は返答できなくなる。


「あなたこそ。

 伯母様って言ったわね美晴ミハル

 それって女神と成られた魔砲少女を言い表しているのよね?」

「ぐぅ・・・」


追い打ちをかけられた誇美がぐうの音も出せなくなって俯いてしまう。


「逢えたの?女神に」

「へ?」


と、リィタの声が訊いてくる。


「人の理を司るという女神に?」

「・・・いいえ」


その問い掛けには即答出来た。


女神ミハル様ではなくて、偉大なる魔砲の異能者スタントと。

 逢えたのではなくて、教えを頂きました魔砲少女から」

「・・・そう・・・なのね」


嘘を言ったのではないと伝わったのが、リィタからの声でも知れる。


「偉大な魔砲の異能者・・・か。

 確かに世界最高峰の魔法少女だった・・・かもね」


そして微かに頬を緩ませると、


「あなたに話さなければいけない事があるの。ついて来て」


踵を返して部屋から出ていく。


「え?!あ、あのリィタ一等尉官殿?」


有無も聞かずに部屋を後にするリィタに、戸惑いを隠せず。


「どこに?何を話すと言うのですか?」


懐中電灯の灯りを頼りにリィタの背を追う。

追うしかなかった・・・


闘わねばならない理由。

たった一つだけの約束・・・それこそが。

嘗ての魔砲少女と重なり、戦場へと赴く決意となった。

誇美が決意を固めた後。

現われたのはリィタ一等尉官・・・即ちルナリィーンだった。

彼女は誇美に何を告げると言うのだろう?


次回 チャプター1 拗れる思惑 07

夜空を見上げる二人・・・この星空だけが知っている本当の姿。

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