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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8 第2章 Phoenix Field <不死鳥の戦場>終焉を求める君への挽歌 
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チャプター1 拗れる思惑 05

エンカウンターの丘に立つ古城。

星空の許、苔むした城壁を見上げて思った。

ここには何かが眠っている。

この城には、何かが残されている・・・のだと。

焚火の明りがゆらゆらと辺りを照らす。

設営された野営の電灯が停められている車両を照らしていた。

消灯までの自由時間、小隊員達は思い思いに寛いでいた・・・が。


「ホントに出かけて行ったのか?」


寝酒を口に運んでいるミーシャが、傍らで地方地図に目を落としているレノアに訊いた。


「ああ。懐中電灯を片手に・・・な」


素っ気ない返事を返してきたのに対し、少々気になったのか立ち上がって近寄ると。


「何を見てるんだよ、レノア?」


この辺りの詳細が記載されているらしい地図に興味を惹かれたのか。


「この辺には観光するようなところなんてありゃしないだろ」


それとも何か目新しい物が載っているを見つけたのかと訊いてみたようだ。

すると地図から眼を離したレノアが。


「確かに観光地ではないようだけど。

 えんのある者には大切な場所のようだぞ」


すっと、地図の一点を押さえて応える。


「ん・・・大切な場所だって?」


指で示された地図には、見慣れない地図記号が描かれている。

それは・・・


「・・・あの城から観えるかもしれんな」

「観えるって何がだよ。戦跡でも残ってるってのか?」


ツイっと頭を上げて夜空を見上げるレノアに、不思議そうな顔で訊くミーシャ。


「戦の跡・・・か。

 確かに激戦が繰り広げられた跡だろうさ、死者を弔った場所だったら」

「戦没者の墓所・・・」


先にレノアがゆかりのある者にとっては大切な場所との言葉に秘められていたのは、この辺りで戦闘が起きた証。

何十何百かの命が奪われた証の地図記号。


「戦史に書かれてあったのを思い出したんだよ。

 少し先の平野で、ロッソア軍とフェアリア陸軍が衝突したって。

 双方が手痛い損害を出し、フェアリアの一個連隊が壊滅したらしいんだ」

「一個連隊が・・・壊滅した?」


星を見上げて話すレノアから知らされたのは、ここら辺りが凄絶な死闘の場所だったらしいこと・・・と。


「一個連隊って、千人規模じゃねぇか。それが壊滅したとしたら・・・」


損害の規模があまりにも桁外れだということ。


「生存者の報告だと、連隊長以下殆どが戦死したらしい」

「馬鹿な?!そんな狂った戦いがある訳がないだろ」


平和な時代に産まれた二人には、俄かには信じ難い話だったが。


「私等には想像も出来ない戦闘だったんだろう。

 指揮官が斃れ、命令系統が寸断された挙句に。

 各個が各々の判断で闘わねばならなかった・・・無駄死となるなんて思いもしないで」

「・・・無謀すぎる。どうして逃げなかったんだよ」


その闘いの中で倒れて言った将兵を想い、


「虚しく斃れて死を迎えるなんて。

 どれほどの無念さだったのだろうか」


墓所に眠る魂を想って、


「分からないが。

 彼等の死が無駄では無かったと・・・思いたい」


束の間の平和な時代を生きて来れたのは、彼等の死によって齎されたものだから。


「今のフェアリアがあるのは、死を賭して闘ってくれた彼等が居たからなんだ」


レノアとミーシャが夜空を見上げて語り合う。

平和な時代が瓦解しようとする中、彼等と同じ様に故郷を守らねばならないと考えて。


「戦争に発展するなら。

 私も彼等のように散らねばならないのか?」

「銃後の国民を守るのが軍人の務めだからな」


死に対する恐怖を超越するモノとは?

国家が軍人に求めるモノとは?


「もしも死が訪れるとしたら。

 その時は肉親のことを想いながら死を受け入れようと思う」

「そうだな。最期に思うのなら大切な人に決まってるだろうしな」


死を賭して闘うことに他ならない。


「・・・ああ。まったくだ」


二人が見上げる夜空の下には、黒いシルエットが浮かび上がっている。

丘の上で星の明りに浮かび上がるのは、静かに佇む崩れかけた城・・・



蔦が絡みついた城壁。

苔むした岩が転がり、下草が所かまわず生え茂る。

星の明りが届く間は郷愁を感じさせる雰囲気だったが・・・


「確かに・・・何か出て来そうな雰囲気ね」


懐中電灯の薄暗い灯りを頼りに、何とか古城に辿り着いた美晴コハルだったが。

朽ちた城壁を見上げ、城門だった場所へと進む。


 じゃり・・・


大きく開け放たれた門扉の下にあったのは、無限軌道キャタピラわだち


「これって戦車が通った痕跡なのかしら?」


懐中電灯の灯りに照らし出された轍。

何両かは判り兼ねるが、この城に寄っていたことは間違いないと思えた。


「ここで何があったんだろう?

 この古びた城に何が隠されているのかしら」


轍の跡を辿り、城の中へと入ってみる。

それほど大きくない中庭を抜けた所に、車両一台分程の駐車スペースがあるのに気付く。


「雨風をしのげる屋根もあるし、天井には電灯が付けられていた跡も残ってる」


古城に電気が引かれている事に違和感を覚え、ここが先程の轍の終点だったから。


「ここに戦車が置かれてあった・・・と、考えるべきね」


星の明りが降り注がない暗がりに、ライトを向けてみる。

石畳で床が造られてある車庫のような場所に、懐中電灯の灯りが浮かび上がらせた。


「あ・・・あれって?」


錆て朽ち果てようとしているドラム缶。

角ばったケースのような物・・・それに。


「ここって。フェアリア軍が占拠していたのね」


僅かに読み取れたのは、フェアリア語で書かれてあるということ。

錆びついた鉄の遺物達が物語っていたのは、ここが戦争の遺跡だと教えていたのだ。


「こんな古びた城で。

 どんな人達が戦に備えていたというのかしら?」


車庫とも呼べる場所の側面に、内部へと通じている扉が開いていた。

城の奥へと入り込めそうだと感じた美晴コハルが、提げているポシェットに手を伸ばして。


「入ってみるわ、爺」


狒狒の縫いぐるみを取り出した。


「「お気をつけくだされ、姫様」」


頭の中に直接エイプラハムの声が届く。


「解ってる・・・それじゃぁ行くわよ」


懐中電灯の灯りを頼りに、縫いぐるみを右肩に載せて歩き出す。

暗闇の城内。

ライトが描く光の輪が城の内壁を浮かび上がらせながら移動していく。

一つの扉の中には、何個かの机が並べられ、無造作に椅子が転がっていた。

またある部屋には、寝台のような物が並んで置かれてあった。


「爺。ここで何人が生活していたのかしら」

「「そう多く居た訳でもありますまい。

  この状況を鑑みて、十数人かと思われますが」」


光に浮かび上がる生活の痕跡。

そこには僅かながらに人の営みを感じることが出来たのだが。


「少人数の部隊だったみたいね。ちょうど今の八特小隊みたいに」


先の戦争の折に使われていたのが偲ばれる。

城門からの轍が、ここに駐留していたのが戦車隊だったことを教えていたから。


「どんな想いだったのかな。

 これから戦場へと向かうことになると判っていたのなら」


戦時下に駐留していたのだろうことは、さっき観た遺物達で分かっていた。

錆びたドラム缶には燃料が。

朽ちた鉄箱には整備道具が入っていたのだろうことが。


「生きて戻れると考えていたのかしら。

 そうだとしたら、何に縋っていたというのだろう」


この城から出撃して、戦場から帰れると考えていたのだろうかと。


「「お知りになりたければ。

  女神ペルセポネー様の異能ちからをお示しくだされ」」


爺が勧める。


「「ここでの生き様を垣間見れるでしょうから」」


狒狒の縫いぐるみが指先で教えて来る。

一つの部屋の中に何かが残されているのを。


「そこに・・・何かが残ってるのよね?」


促されるままに部屋へと入る。

そこは他の部屋と同じ様に暗く、そう広くは無かったのだが。


 サッ・・・と。


懐中電灯の灯りが内部を照らした時だった。

部屋の奥に黒板が掲げられてあるのが分ったのだが・・・


「あ・・・まさか?」


白いチョークで書かれてあった。

黒板が何故だか朽ちてはいないのにも違和感を覚えるが、もっと不可思議に思えたのは書かれたった文字が霞んではいたが現存していたこと。


「これは・・・この名は?」


美晴コハルが驚嘆の声を漏らした。

ライトに照らし出された黒板に書かれてあったのは・・・


「独立戦車97小隊!?

 その・・・搭乗割・・・ですって?」


漆黒の黒板に白のチョークで書き記されてあった。


「戦車長・・・まさか。

 まさか・・・あの・・・リーン・・・少尉?

 これって審判の女神様が仰っていた?」


思わず見入ってしまった。


「女神リーン様が人として闘った証?」


そして・・・もっと驚くべき名があるのに気付いてしまう。


「その下に書かれているのって・・・」


同乗していたと思われる人物の名。


「砲手・・・戦車の大砲を任されていた人物って」


知らない訳が無い。

美晴ミハルの名を知るのならば。


「ミハル・シマダ兵長・・・理を司る女神?!」


眼を見開いて再度確認したぐらいの驚き。

この躰に流れる異能の、名前のルーツである名を観てしまったのだから。

誇美コハルの眼に映ったのは、嘗てこの城に駐留していたフェアリア軍部隊の遺留品。

そして観てしまったのは、今迄聞かされた事も無かった人の存在。

ミハル・シマダ・・・同じ名だが美晴とは別人。

瞬時に悟ったのは、女神の勘だけではなかったろう。

その名に触れたのなら、如何に新米女神だと言っても分らない筈がなかった。


女神達の痕跡が軍隊に残されていた。

だとすればこの場所にはもっと他に重要な秘密があるのでは?

想いを胸にしていた誇美に、突如現われた者が語りかける・・・


次回 チャプター1 拗れる思惑 06

強くなりたいのは、たった一つの約束を果したいから・・・

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