表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8 第2章 Phoenix Field <不死鳥の戦場>終焉を求める君への挽歌 
353/428

チャプター1 拗れる思惑 01

魔砲少女ミハル エピソード8

第2章 Phoenix Field <不死鳥の戦場>終焉を求める君への挽歌 

挿絵(By みてみん)


北欧の大地に、短い夏が訪れる前。

緩やかに風が雨期の前の乾いた草原を薙いで行く。


風に煽られたのか。

黄ばんだ砂塵が遠く霞のように低く流れていた。



「「・・・ザ・・・ザザッ・・・」」


身の丈ほどもある草の中からノイズ音が聞こえる。


「「ザ・・・こちら本隊。状況を報告せよ」」


通信装置から漏れる声に。


「我が本隊よりの距離50(5千メートル)に動き在り」


生い茂る草に身を隠した斥候が応答する。

カモフラージュされたヘルメットを被り、光学望遠鏡を眼に据えたまま。


「低速でこちらへ向かって来ると思われる」


レンズに捉えた砂塵の動きを見計らって、尚も敵状を報告する。


「「敵の規模は?近寄る敵の装備を報告せよ」」

「了解した」


敵の動きを知り、どのような敵戦力と対峙するのかが分れば、勝利を得ることも容易いだろう。

上官が命じて来ると、斥候は望遠鏡の倍率を上げた。


 スゥッ・・・


草原の彼方に砂塵が昇っている。

黄色く濁る視界の下方。

そこに居たのは・・・


「あれは・・・まさか?!」


レンズが捉えていたのは?


こちらへと進んで来る鋼の無限軌道キャタピラ車両。

長大な砲身が鎌首を上げ、真一文字に自分達へと向けている。

夏季仕様の迷彩塗装を施された鋼鉄の車体に、なお一層のこと眼を惹くモノがあった。


「せ、戦車だ!

 あの蒼いライオンを描いているのは・・・」


長砲身の主砲を装備した砲塔側面に描かれた部隊標識。

蒼い獅子ライオン・・・元王国であった頃の国旗にも似通っていて。


「フェアリアの魔法戦車マジックパンツァー?!

 フェアリアの魔女ウイッチ達が来やがった!」


いにしえの騎士が誇る紋章にも思える部隊標識。

蒼き獅子の紋章の意味を知る斥候が恐怖に怯えて叫ぶ。


「フェアリアの魔鋼騎だ!

 魔女の乗る魔法の戦車が3両も向かって来るぞ!」


その声を聴いた本隊からも。


「「即座に撤収しろ!

  魔女を相手にするのは我が隊には荷が重い!」」


斥候に撤収を命じ、速やかに撤退を決断する。


「りょ、了解だ!」


既に逃げ腰だった斥候は、命じられるなり足早に後方目掛けて走り出す。

後ろを振り返る余裕さえ見当たらずに。




 ギュラギュラギュラ・・・



人が歩く程の速度。

ゆっくりと回る転輪・・・無限軌道キャタピラが地を噛み続ける。


「どうやら・・・敵さんは帰るようだな」


望遠照準器に映し出された草原の彼方。

潜んでいたロッソア軍が尻尾を巻いて逃げて行くのを観て。


「ここらで良いだろう。小隊停車、合戦用意用具収め」


砲塔側面に<蒼き獅子>を表す部隊認識章と、序列数の<01>を描いた中型戦車から命令が下される。


 ギィ!キュッ!


キャタピラを軋ませて停車した小隊長車に併せて、両隣の二両も行き脚を停めると。


「ミーシャ少尉、了解」


即座に命令に従った<02>号車から通信が入る。


美晴みはる少尉、停車。戦闘を終えます」


そして左隣の新式戦車からも。


復命した二両が停車したのを確認し、周りに残敵が居残っていないのを探った後。


「よし。

 敵軍は撤収したようだ。こちらも帰還するぞ。

 全車反転180度、後方の陣地に戻る」


作戦の終了を宣言したのだった。


「了解。マリア小隊長」

「分かりました、帰還の途に就きます」


二号車と三号車の車長が返答する。


「帰還するにあたって、周囲の警戒を怠るなよ」


敵側が撤退したものの、それが安全を保障するものではない。

もしかすると、どこかに敵兵が潜んでいるかもしれない。

油断していれば伏兵の矢に射られるかもしれない。

<勝って兜の緒を締めよ>とは、非情なる闘いの常識なのだから。



3両の戦車がフェアリアの領土内を進む。


此処は両国が主張し合う国境の地。

フェアリアの領土とされる国境と、ロッソア連邦が唱える支配地域が入り混じる地帯。

両国の主張が食い違った結果、小競り合いが始った。

最初の一発がどちらからだったのか。

フェアリアはロッソア側の無許可越境が発端だと言い張り、ロッソアはフェアリア守備隊からの発砲が引き金だと突っ撥ねる。

小競り合いは次第に激化の一途を辿り始め、いつ本格的紛争に発展するか誰にも分からなくなり始めている。

それは、あの30年程前に起きた悲劇の再来にも思える。

そう・・・二国間で争った<普・露一年戦争>の悪夢が甦るかに思えた。

もしも。

もしかすると本当に今後、干戈が交えられたら。

当時とは雲泥の差の武装を保持するようになった今ならば。

両国の損害は、計り知れない悲劇を産むことなることだろう。


「戦闘だって言っても、一発も撃たずに済んだ。

 両軍共に撃たずに済んだ・・・被害も損失も無く」


帰還を計る小隊3号車の砲塔内で、黒髪の少尉が考えていた。


「マリア中尉の狙い通りに。

 相手が怯えて逃げ去るとの予測通りに終わったんだけど」


喉頭マイクが拾うのも構わず呟きながら。


「これが魔法を誇る戦車の威力ってモノなのかしら?」


砲塔内の車長席。

3面のモニターには周囲の画像が映っている・・・


「「まぁね。マリア中尉も無駄な犠牲を好まないだけましね」」


・・・だけではなく。


「はい。頼れる上官だと思います、審判ジャステス女神リーン様」


正面のモニターに映る外景・・・の片隅に、蒼き瞳で金髪の女神リーンが居て。


「「緩いわね芽吹きの女神。

  ここまで到達できるまでに掛かった犠牲を考えてみなさい」」


外部に漏れないように、脳に直接話しかけてくる。


「ゆ、緩いって・・・確かにそうですけど。

 敵が魔鋼騎こっちの存在を怯えたのには違いがないと思うのですが?」


画面に映る女神のリーンに揶揄われたと思った美晴コハルが訊き返したが。


「「甘い。甘いのよコハル。

  相手が侵略を目指した正規軍だったら、こうも容易くはいかなかった。

  中途半端な領土侵犯を志した小規模派遣隊だったのが功を奏しただけ。

  次は成功するとは思わないでおくことね」」


作戦の成功は、一重ひとえに敵軍の士気の無さが要因だと答えられ。


「「それともう一つ。

  コハルが嫌々ながらも闘って来た成果が功を奏したとも云えるのよ」」

「え?わたしが・・・ですか?」


これまでの闘いの成果だとも云われて。


「「そうよ新米女神のコハル。

  私の言った犠牲が何を意味するのかが分からないアナタでもないでしょ?」」

「犠牲・・・」


闘っての犠牲?そうだとすれば誇美は何を?


「「ロッソアまで名声が拡がってるのよ、この<マチハ>の。

  一撃で邪操の兵器を駆逐するチートな魔鋼騎としての名が・・・ね」」

「・・・そうでした・・・よね」


圧倒的な戦闘力を誇る魔鋼騎としての名前と。


「中に囚われていた魂をも・・・滅ぼして」


邪操機兵に囚われていた人の魂を・・・犠牲にしたこれまでの闘い。


「「救えなかった訳では無いのよ。

  これ以上の惨劇を防ぐ意味でも、囚われた魂を解放する意味でも」」

「でも!救えなかったのは変わりませんから」


機械の中に閉じ込められ、

理不尽な戦いの場へと送り込まれて来た・・・人であった魂。

滅びを与えられなければ、闘い続ける運命さだめに藻掻き続けねばならなかった。


「「救えたと、考えなさいと言った筈よ。

  光の存在である私達女神には、転生の業を持ち得ないのだから」」

「ですけどッ!だからって・・・あまりにも無力ではありませんか」


唇を噛み締め、自らの無力さを悔いる誇美だった。

車長席に力なく座り込み嘆いている少女を観て、女神リーンは思い出していた。


((あの娘も苦しんでいたわ。

  勝利に酔うことすらなく、敵だと言うのに悲しみに暮れて。

  自らの行為に恐怖さえ覚えていたの・・・ミハルと言う魔砲少女は))


自らも経験した戦争の怖ろしさ。

無慈悲にも消えて行く、儚い命達を思い返して。


((だからこそのSin・魔鋼騎。

  閉じ込められた魔法使いの魂を解放する為の闘い。

  人の業をも解き放つ、新たなる戦いに勝つために造られたのよ))


この<マチハ>が生まれた理由を語る。


((それだからこそ。

  双璧たる魔砲少女に授ける予定だったのよ。

  我々、女神ではなく人である新たなる魔砲少女ミハルへと))


巡る想い。廻る運命の歯車。

嘗て戦いに従事した女神が求めるのは・・・


「「無力な訳がある筈が無い。

  聴こえていたでしょう、穢された魂達の歓喜の声が。

  闘いに放り込まれた魔法少女達が解放されて喜ぶ声を」」

「・・・はい」


今を託すべき、新たなる女神ペルセポネーに。


「「その子等の犠牲を払ってでも阻止しなければ。

  より多くの犠牲を出さない為にも・・・ね、ペルセポネー」」

「はい。分かりましたリーン様」


順々に諭され、犠牲の意味を理解した誇美コハル

聖なるひかりを湛える蒼き瞳でリーンに応えて。


「きっと守りますから、平和への希望を」


遠くに見え始めたトレーラーへと視線を向けて。


「王女の想いも。皆の願いも・・・守ってみせますから!」


そこに居るルナリィ―ン皇太子姫を名指して。


「「そうね。期待しているわよ、春神コハル」」


蒼く燃える瞳に映る女神が微笑む。

闘う決意を新たにした新米女神を見詰めて。


フェアリアとロッソア。

両国が平和を得られるのか、不幸にして戦争へと堕ちるのか。

未だ、神だろうとても知る由も無かった・・・

戦場の魔砲少女達は何を想い、何を目指すのか?

闘いの中、尊い犠牲を払ってまで勝ち取ろうとするモノとは?

フェアリアとロッソアに跨る闇を切り開く闘いが始まっていた・・・


ロッソアの前哨を退けた八特小隊。

戻ってこれた陣地で一時の憩いを得ていたのだが・・・


次回 チャプター1 拗れる思惑 02

魔鋼騎に宿る女神が言った。運命は非常なのだと・・・


挿絵(By みてみん)

闘いは彼女等に何を求めるのだろう?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ