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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8<レジェンド・オブ・フェアリア>魔砲少女伝説フェアリア  第1章王立魔法軍
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王立魔法軍 旅立ちの秘密 11話

特別な任官式から小隊に戻って来た美晴。

少尉の襟章を光らせる真新しい仕官公服を身に纏って。

その凛々しい姿は、仲間の目を惹いた・・・

候補生から少尉へ。

准士官待遇から本物の士官に。


軍隊に在って下士官・兵と、士官の待遇は大きく隔たっている。

例えば居住する部屋で言うと下士官や兵なら大部屋なのだが、士官には二人部屋か個室が宛がわれる。

また、平時には身の回りの雑事を熟す従兵が就けられるのも大きな相違点だ。

だが、実施部隊に在っては従兵を就けるだけの人員が充足していない場合が多い。

戦車小隊に過ぎない<第08独立戦車小隊>も、その例に漏れない。



特別な少尉任官式が終わって数刻が経た頃。

新車両を受領した八特小隊では、教導官の指図の下に整備が行われていた。

駐機場ブンカーの内外で忙しく立ち働いている整備員や操縦員が、歩いて来た士官に目を向ける。


真新しい紺青色のフェアリア軍、魔鋼戦車部隊搭乗員を表す仕官礼装上着。

白色の耐熱ズボンに黒の半長ブーツを履いた長い黒髪を靡かせる、澄んだ蒼い瞳を湛えた少女士官が歩み寄って来るのを見守った。


キラリと襟章の一本筋が光る。

これまでの准士官章には無かった金筋が陽の光を浴びて反射した。


「おおっ?!士官服だぞ」

「こりゃぁ~馬子にも衣装って奴か?」


新車両のカタログを片手に、ミーシャ少尉とレノア少尉が揶揄う。

同じ少尉なのだが、ミーシャ達は士官作業服を着ているのに対し、現れた新少尉はりゅうとした第1種制服(士官礼装)を纏っていたからだ。


「任官式から只今戻りました。

 これよりは少尉としての御指導を賜りますよう・・・」


皆の前迄来た新米の少尉が敬礼を贈りながら挨拶する。


「さすがは魔砲の使い手だよな。

 僅か一か月ちょいで任官できるなんて」

「本当だぞ。

 魔法使いだからって、こんなに早く少尉に任命されるなんてな」


ミーシャもレノアも、揶揄いつつも喜んでくれている。


「あの暴走劇の褒美かもしれないなぁ」

「馬鹿言え!事故で褒められて堪るかよ」


黒髪の少尉を囲み、二人は自分の事のように燥いでくれた。


「何にしたって・・・おめでとう」

「これからは同じ少尉として扱うからな」


二人から祝福され、同時に魔鋼騎乗りの同僚として認めて貰った。


「おうおう!士官服姿が似合ってるじゃねぇか?」


二人からの祝福の後、手にスパナを持ったまま駆け寄って来たビガーネル少尉からも。


「これからは少尉として扱ってやるからな。シマダ少尉どの!」


これまでの小娘呼びから一転して、殿あつかいして来る。


「ミハル候補・・・いえ、ミハル少尉。

 おめでとうございます!似合っておられますよ士官服」


にこやかに笑いかけるミルア伍長からも。


「この新車両の車長として、上官としても。今後も宜しく願います!」


操縦を任される部下として、車長の昇進を祝ってくれたのだ。


「おめでとうございます!」

「任官、お祝い申し上げます」


周りを囲んでくれた仲間からも、口々に祝福されて。


「あ、ありがとう・・・ございます」


少し恥じらった美晴コハルが礼を返し、


「どうぞ、今後とも宜しくお願いします」


頭を大きく下げて頼むのだった。


 がやがやがや・・・わいわいわい・・・


一頻り周りを囲んで談笑する小隊員達。

笑顔で応える美晴コハルだったが、そこに居ない人に気が付いて。


「小隊長は?どちらに居られるのでしょうか?」


マリア中尉が、この場に居ない事を気遣った。


「あ?中尉か。小隊長なら庁舎に呼ばれて向かわれたぞ」

「打ち合わせの為だと思うんだがな」


周りを見渡したが中尉は居ず、3名の特務要員も居なかった。


「そうでしたか・・・出撃が近いのですものね」


一応頷いて、分かった振りをみせる。

でも頭の中では違う考えが過っていた。


ー マリアさんを呼びつけたのは。

  ルナリィ―ン姫からの命令を伝える為だろうか。

  それとも既に作戦計画を練る段階に入っているのかな?

  どちらにせよ、出撃は遠からず来るのよね・・・


闘いへの覚悟を、自らに言い聞かせるみたいに。

庁舎から帰って来るマリアが、何を伝えて来るのか。


ー 王女が身分を隠してまで事変を解決しようとするのは?

  どうして自ら赴こうとするのか・・・何が秘められているのか?


王女の真意は未だに判らない。

それに式典で仮初めの王女から聞いた謎も、解る時が来るのだろうか?


想いを巡らしている間も、周りを囲む仲間達は騒いでいたが。


「そうそう。候補生を終えたんだから宿舎はどこになるんだ?」

「それなら、横の一室が空き部屋だったぞ」


ミーシャが今夜からどこで寝るのかを問い質して来る。

レノアの横が空室だと言って勧めるのだが。


「あ。それって、既に決められちゃってまして」


気を取り直した美晴コハルが速攻で返す。


「まだ不慣れなので。マリア中尉の横に配されたみたいです」


政務局に士官服を下げ渡しに向かった折、自室の撤去と新居を言い渡されたと答えて。


「でも、もう直ぐ出撃ですから。

 仮の住まいにしかならないでしょうけど」


小隊長の横に部屋を宛がわれたのを教えた。


「へぇ~。小隊長の横かぁ」

「夜まで訓練だったりして」


やっかみ半分、二人の少尉がニタニタ笑ってくる。


「残念だ。俺が夜戦を教えてやろうかと思ったんだがな」


ビッグも・・・やや下ネタに奔って揶揄うと。


「ビッグが言うと、冗談には聞こえねぇ~」

「ば?!馬鹿もん!ジョークだからなジョーク」


周りから揶揄われるのはビッグの方だった。


 ・・・くす


仲間達の会話が心地良い。

任官した自分を、心から祝福してくれているのが分るから。

だから、心からの微笑が零れてしまう。


「ありがとう・・・皆さん」


感謝の言葉が、知らずに漏れた。


「これからも宜しくね」


女神だと言うのに、一時の幸せを与えて貰ったように感じて。



一刻いっとき美晴コハルを囲んでの談笑が弾んだ。

派遣されて来た教導官が隊を辞した後も、整備に勤めた小隊に解散が命じられる。


「稼業時間もとっくに超えているし。

 電灯の灯りだけじゃぁ見え辛くなったからな。

 また明日にするか。総員整理を終えたら解散とする」


先任搭乗員を兼ねているミーシャ少尉の号令で、この日の作業は終わりとなる。


「マリア小隊長・・・戻って来ませんでしたね」


専属操縦員に任命されているミルア伍長が、庁舎の方角を観ている美晴コハルに言った。


「そうね。会議が長引いてるのかしら」


視線を庁舎から外し応える。


「また明日になれば。会議の内容を教えて下さる筈よ」


戻らなかった小隊長からの訓示を諦めるように。


「出撃に関してでしょうか?それとも戦闘に関してでしょうか」

「それは・・・聞かなきゃ分からないわ」


質して来るミルアが聴きたがっているのは、近付いた出撃日が何時なのか。

国境周辺での戦闘が如何なる状態なのか。

それは美晴コハルだって知りたく思っていることだった。


「意外と。

 出撃や戦闘の話じゃなくって、特務要員についてなのかも・・・ね」


だから、ワザと話を逸らしてみる。


「彼女等が事変の発端を解明してくれれば。

 無駄に闘う必要もなくなるんじゃないかしら」


事の起こりを解明できれば、責任がどちらに在ろうが解決の糸口には成る。

その為に現場へと赴くのが、今回の特務要員達に与えられた任務だと考えた。


「それはマジカ議員閣下からも聞かされましたけど。

 そうではなくて、マリア中尉がこんなにも遅くなっている理由ですよ」

「あ・・・うん。そうだねぇ」


話を逸らしたつもりだったが、却って核心部を問われてしまい。


「出撃に際しての補給とか。

 遠路をどんなルートで向うのとか・・・かしら」

「ほ~!なるほど。進出方法を練っておられると」


いい加減な考えを言ったのだが、逆に感心されてしまった。


「いやいや。私の勝手な考えだからね」

「う~ん。あながち間違ってないのかもって思いますよ」


しきりに納得するミルアに、困った顔の美晴コハル


「本当に美晴ミハル少尉の言葉通りなら良いのですけど」


独りで納得したミルアが頷きながら締め括り。


「それじゃぁ明日を待ちましょう。お先に失礼します」


独りで完結して、美晴コハルに帰宅を告げるのだった。


「あ?あ、うん。また明日」


訊きたいだけ話し、結局独りで完結したミルアに呆気にとられる。

別れた後、ミルアの差って行く後ろ姿を見送りフッと溜息を吐く。


「ホント。こんな時間までマリアさんは何をやっているんだろう」


自分が式典へと向かう迄は、小隊と一緒に居たというのに。


「折角の士官服姿なのに・・・見せてあげられなかったな」


任官式には一人で臨み、少尉の襟章が光る新調の公服も見せてあげれていない。


美晴ミハルだったら。

 見せられないと判れば・・・悲しむだろうな」


だから、もう少しの間。


「着替えずに。

 部屋の移動が終わるまでは・・・このままでいよう」


候補生の居住区から、戦闘部隊が寄宿している場所へと引っ越しする。

政務部から言い渡された部屋まで、僅かな手荷物を以って移動することにした。


指示されていた部屋番号を確認する。

間違いが無いことを、何度も確認し部屋に辿り着いた美晴コハル

左隣の部屋には<クルーガン中尉>の名札が掛かっている。


「マリアさん・・・まだ戻っていないよね」


前の部屋を退き払っている間に、もしかして帰って来たのではないかと思って呟く。

ドアをノックしようかと思ったが、無駄だと思い辞めておくことにした。


「はぁ・・・今日はこのまま引き籠ろうかな」


後に美晴ミハルが残念がるかもしれないとは思ったが、相手が居ないのであれば仕方がない。

真新しい<シマダ少尉>の名札を掛け、ドアノブを廻した。


「また・・・明日にでも」


そう一言、呟いて部屋に足を踏み入れた。


 ぐい!


「え?!」


明かりの灯っていない部屋。

誰も居ないと思い込んでいた中から。

あまりにも唐突にドアが開け放たれて。


「えッ?!」


女神だと言うのに奇襲を受けてしまった?!

新居となる部屋に着いた途端。

予想もしなかった展開となってしまう。

一体誰が?どんな意図を持って?

灯りの燈っていない部屋に忍び込んでいたのは?


次回 王立魔法軍 旅立ちの秘密 12話

思い想われ、請い焦がれ。往くは魔法の乙女達!

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