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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8<レジェンド・オブ・フェアリア>魔砲少女伝説フェアリア  第1章王立魔法軍
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王立魔法軍 旅立ちの秘密 6話

新型魔鋼騎が引き寄せた。

己が主を求めるかのように・・・


仮初の魔砲使いは初めて独りで乗り込んだのだった・・・が?

ブラックアウトしているモニター類。

車長席の正面に配置された画面は、黒一色・・・だと思われたが。


 トサッ


招かれたように美晴コハルの身体が座席に納まる。

初めての座席だと言うのに、違和感も感じない。


「確か・・・こんな風だったわよね」


フェアリアに来る遥か前。

まだ美晴みはるに魔王姫として宿っていると認識される前。

日ノ本の国で魔鋼少女隊の一員として闘っていた美晴みはるを通して知っていた。


ロボット兵器の<輝騎こうき>に乗っていた美晴の身体で感じていたから。

闘う少女の瞳を通して観たことがあった。

記憶にある<輝騎>のコクピットと、画面に囲まれた光景が似通っていると思ったのだ。


座席に付随した計器や、何かを動かすハンドル類・・・それにキーパッド。


「美晴だったら、別の感慨を持ったかもしれない」


言い切れないけど、美晴みはるだったら躊躇いもなく操るだろう。

僅かの間に、自分のモノにしてしまえるだろう。


「私じゃなく、この躰の本当の持ち主だったら」


現実世界で経験を積んで来た美晴みはるだったら、物怖じせずに操れるだろう。


「だけど・・・此処に座っているのは、コハルなんだ」


記憶の片隅にある光景と似通っていたが、操れるとは限らない。

事実、独りで座るのも初めてなのだから。


座席に腰を落ち着け、3面を取り囲む画面に目を向ける。

何も映っていない正面の画面には、美晴みはるの上半身が写り込んでいた。

今は誇美に身を預ける魔砲使いの顔が、映っている・・・黒い画面に。


美晴みはるだったら・・・善かったのにね」


本当だったら、この車長席に居るのは美晴みはるの筈だった。

数日前だったら、間違いなく憑代の美晴みはるの眼を通して観ているだけだった。

だけど、此処に居るのは魂を奪われた魔砲使いの身体。

仮初めの魂を宿した魔法少女の肉体。


「訓練を受けて来た美晴みはるだったら。

 何を為すべきかも分かったかもしれないね」


稼働しない画面を見詰る誇美コハル

ブラックアウトしているモニターに映し出された美晴みはるの顔を観て、心の棘が痛み出すのを抑えられなくなっていた。


「・・・美晴みはる


何度も想い人の名を呟いてしまう。

今はどうしようもない哀しさに、手が知らずに伸びて操作ハンドルに触れてしまった。


 ピィン!


その途端。


 ピイィンッ!


数個のランプに灯が燈る。


 キュウウゥンッ!


座席が動き、リクライニング機能が解除された。


「えッ?!」


何が何やら分からず、点灯された計器類に視線を向ける。


 ポンッ!


真っ黒だったモニターから何かの操作音が流れ出て。


 ピ!


正面のモニターに・・・


「え?!えッ?」


白いカーソルが表示されて。


 ピ!


続いて黒い画面上に現れたのは・・・


「名前を教えろって?」


車長席に居る者の名を質す文字が表示されたのだ。


「なんなのよ、これって?」


全く意図しない質問に、答えて良いのか分からなくなる。

戦車の機能に関係があるのかも、戦闘に関与があるのかも分からない。


「操縦者の名を聴いて何になるってのよ?」


動揺する誇美には分からないのも仕方がない。

開発者が搭載させた演算機コンピューターが、最初の搭乗者を認識して動き始めたことも。

座席シートに居る者の魔法属性を感知し、初期化し終わっていたメモリーに登録しようとしている事にも。


 ピ・・・ピ!


「何よ?!何度も名を訊くなんて」


回答しない誇美に、モニター上で繰り返される質問。


 ピピ・・・ピピピ!


キーパッドへ手を伸ばさない誇美に対し、モニター上に現れる文字は。


「音声にても登録が可能?

 声紋を収集し、正確な登録が可能・・・だって?」


先進技術を駆使してあるのが戦闘機械。

最新の科学技術によって造られるのが先端兵器。

女神ではあっても、人の技術には疎い誇美ならば仕方のないこと。


「声紋って何?正確な登録って?」


突然の事で画面を食い入る様に睨み、思った言葉を呟いてしまう。


 ピ・・・ピピ!


どこかにマイクが仕込まれてあるようで、誇美が問いかけたと認識したのか。


「個人の声を識別するの?!

 ・・・って。今度は何よ?

 網膜認識でも・・・指紋だって個人を特定できるの?」


モニターに次々と認識方法が表示され、キーパッドに手を載せる様に勧められて。


「こ、此処に手を載せれば良いのよね?」


操作パネルの手前に設えられてある黒いボードの上に手を差し出してしまう。


「なんだか・・・恐い」


おっかなびっくり。

何も知らない誇美が、パッド上に手を置いた。


 ピィンッ!


「ひぃやぁッ?」


置いた瞬間、光がパッドから放たれて。


「な?なッ?!なんなのよぉ?」


驚きのあまり、瞬時に手を引っ込めたのだが。


 ピ・・・ピピピピ!


「へ?!声紋も指紋も・・・それに視紋も登録出来たの?

 いつの間に・・・って、へ?!」


動揺する誇美が正面のモニターを観て言葉を失う。


 ピ!


そこには名前以外は何もかもが登録済になっている<美晴みはる>の画像が表示されたのだから。


「ど、ど、どうやって?!いつの間に写真を撮ったのよ?」


驚き、車内を見回した誇美だったが。


「そ・・・そっかぁ。

 これが魔法の戦車って言う訳なのよね」


・・・なんだか、勝手に納得してしまったようで。


「どんな魔法かは知らないけど。

 こうやって乗り込む人間の能力を識別するんだよね」


理屈抜きに凄い能力を備えているのだと理解した?


 ピ・・・ピピ


美晴みはるの上半身と登録された各種のデータが表示された画面に、再度質問が繰り返される。


「名を・・・名乗れって言うのよね」


登録を促す表示を観て、誇美はどうするべきかを思い悩んでいた。


「私を名乗るか、あたしを告げるべきなのか」


モニターに映し出されているのは、あくまでも魔砲の使い手である美晴みはるだった。

だが、この場に居るのは仮初めとは言えど女神のペルセポネー。


「もしも闘いが続いてしまうのなら。

 還って来た<あたし>が乗り込むことに為るかもしれない」


不幸にして闘いが本格化し、継続してしまうことに為れば。

魂を奪還できた暁には、美晴みはるが搭乗することに為るのは必然。

だとすれば、登録するべき名は自ずと決まって来る。


「そうだよね。

 私なんかの名を残すなんて、馬鹿げた話だわ」


すぅっと・・・深く息を吸う。


 ピ!


再度の問いが画面上に表示される。


「・・・ミハル」


ゆっくりと息を吐きつつ、名乗りを上げる。


 ピ!


もう一度。

今度は正確さを求めてくる表示。


「私は・・・美晴みはる

 魔砲少女でひかりの御子。

 嘗て世界を救った女神と同じ名の・・・ミハル・シマダ」


 ピ!


名乗った瞬間、表示が求めて来た。

もう一度・・・搭乗者が誰なのかを。


 スゥッ・・・だから誇美も深呼吸を繰り返して。


「理を司る女神と同じ名の。

 魔砲の使い手で光を纏う神子の・・・ミハル!」


車内に木霊するかのような声で名乗りを上げた。


 ・・・プッン!!


鋼の車内に誇美ミハルの声が響き渡った。

木霊のような反響音が消えた後、正面のモニターが再びブラックアウトした。


「なに?

 ちゃんと名乗ったのに?」


表示が消え、再び薄暗い車内と化したことに不安を感じた。


 ポォン!


次の瞬間。


「・・・ミ・・・ハ・・・ル?」


誇美の鼓膜に跳び込んで来たのは。


「やっと・・・逢えたのね」


誰かが自分を呼んだ声。


「え?!だ、誰なの?」


車内には自分より他は誰も居ない筈だった。

それなのに・・・聞こえるのだ。


「永かった・・・とても」


優し気で儚げな・・・女性の声が?!

 


誇美コハルは新型魔鋼騎に認められたのだ車長として・・・

認証の最後に名乗った・・・<美晴ミハル>だと。

芽吹きの女神の神名でもなく、人界での通名<誇美コハル>でもなく。

かの女神と同じ名前を・・・


次回 王立魔法軍 旅立ちの秘密 7話

聞こえてきた声は誰のモノ?眼に飛び込んできたのは誰なのか?

神々しいまでの金髪と、引き込まれるような青き瞳。それは女神だとでも言うのか?

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