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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8<レジェンド・オブ・フェアリア>魔砲少女伝説フェアリア  第1章王立魔法軍
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王立魔法軍 旅立ちの秘密 4話

遂に姿を現す新型の魔鋼騎。

陸の王者<戦車>の威厳は如何に?

そして<あの日>の約束を思い出すことになるマリア中尉。

その約束を交わした人物とは?!

トレーラー後部のハッチが観音開きに開放され、中からディーゼルエンジンの騒音が漏れだす。

八特小隊の各員は、目を見開きエンジン音に耳を刺激され。

トレーラーから出て来ようとする新車両を、固唾を呑んで待った。


 ドルルル・・・


ディーゼルエンジン音が高まり、


 カキュッ!キュラキュラ・・・


無限軌道キャタピラが金属を噛む音が・・・


それに併せたのか、トレーラーのハッチと地面の間に導板みちいたがせせり出てくる。


 ガシャンッ!


導板が地面を噛み、金属音を響かせる。

二条の導板の意味するのは、中に居る車両が自らの力でトレーラー後部から出てくると言う事だ。

それが分っているからこそ、全員が注目しているのだが。


 ドルルルッ!


更にエンジン音が轟き、解放されたハッチの陰から車体の一部が覗いた・・・瞬間。


「ぱんぱかぱぁ~ん!08小隊の皆さん、おまちど~さま~」


注目している小隊員へ目掛けて、場違いな声が投げかけられる。


「これがぁ~。あなた達へと贈る新魔鋼騎ですよぉ~」


ハッチから現れる新型戦車。

それに併せる様に女性の甲高い声が流れて。


試製魔鋼騎プロトマギカ魔砲マギカガンナー能力者スタント専用車。

 走攻守のバランスが取れた性能を誇っているのよ~」


やや自慢気にも聞こえる声と共に、新型戦車がトレーラーから出て、大地へと降りる。


 おおおおッ?!


実車を観た、小隊員達から一斉に感嘆とも驚きとも採れる声が漏れた。


 ドルルルルッ!


導板を通って大地に降り立った新型戦車。

その車体は今迄の戦車と大きく違いはない。

装甲で覆われた車体に長く突き出た砲を持っているのは戦車そのもの。

だが。

今迄の車体に比べて低いボディー高に、扁平な砲塔。

被弾時に貫通でき難くする傾斜装甲が極端で、傾斜角は70度近くになっている。

幅の広いキャタピラとトーションサスペンションに統制された転輪。

その車体の上に載せられた砲塔も、前面が鋭利な角度を持った楕円形になっている。

砲塔前面に配置された砲も、それまでの主力戦車砲とは別物に思えた。

単に長砲身だと言うのではなく、口径が10センチを上回っているように観えた。

それだけの大口径砲を載せてあるのならば、勢い車重にも影響を及ぼすだろうし、走破性能にも関係するだろう。

しかし、女性の声が教えたように走攻守のバランスが取れた性能を持っているとされるのなら、この新型戦車は中戦車ではなく重戦車の類なのだろうか。それとも見掛け倒しの軽装甲な試作戦車なだけだろうか。


「いかがですかぁ~?なかなか頼もしそうでしょ~」


車体が大地へと降り、そのまま式典会場まで進み出て来た新式戦車。

それも注目の的だが、先程から延々としゃべり続けている女性は何処に居るのか?


「開発した私が言うんだから、保証するわよ~」


開発した?

と・・・言うことは?


 カシュッ!


砲塔上面に配置されたキューポラのハッチが開き、搭乗者の髪が観えた。


「造兵局以来かしらね。八特小隊長のマリア中尉」


キューポラから金髪が観え、続けて細面の女性が顔を現わす。


「約束通り新車両を渡しに来たわよ」


蒼い瞳を丸渕眼鏡で覆った顔の半分をキューポラから出した、あの日の開発者がそこに居た。


「あ?!あの時の!」


マリアが気付いて話に応じる。


皇太子姫ルナリィーン様の信任を受けた、兵器開発高等官」


開発者が腰に提げていた褒章を思い出したのか、驚いたように声に出す。


マリアの声に、部下達が二人を交互に観て騒めく。


「姫様の信任を受けた開発者だって?」

「ルナリィーン様が開発を託した?」


新車両に纏わる経緯を知らない隊員達が、不思議そうにマリアを観て。

身体をハッチから出さない金髪の眼鏡女性の言葉を待った。


「この魔鋼騎は、特定の魔法属性者に搭乗を任せて貰わなきゃいけない。

 魔砲の異能使いが扱えるように、特別に調整してあるんだからね」


しかし、キューポラの女性からは車両についての言葉しか出て来ない。


「整備についてはマニュアルに併せて行えば間に合うわ。

 だけど搭乗者に纏わる特記事項には、十分に留意して貰いたいわね」


新型戦車と言うだけに整備も新規に行う必要があるようだが、 取り立てて問題があるようではなさそうだ。

しかし、取り扱う搭乗者は限定され、しかも何らかの特別な訓練が必要になっているようなのだが。


「まぁ・・・魔砲の使い手だったら。

 秘められた能力を遺憾なく発揮出来るでしょうけどね」


八特小隊に魔砲の使い手は唯の一人しかいない。

限定された搭乗者が誰であるのかを、この場で明かしたようなものだ。


「ま・・・そうだろうな、美晴?」


マリア中尉が、意味深な顔つきで美晴コハルを観る。


「・・・はい」


その眼が訴えているのを悟った美晴コハルが、小さな声で応える。

不意に訊かれたコハルだったが、観ている先はマリアではなかった。

ジッとキューポラに見え隠れする金髪の開発者を注視していたのだ。


ー おかしいな。なぜ姿を現わさない?どうして隠れる様な姿勢のまま話すんだろ?


自らが開発した戦車のお披露目なのに。

もっと堂々と眼を惹いて、大っぴらに話しても良い筈なのに。


ー なにかがおかしい。

  どこかが変だ・・・何かを知られたくないのかな?


新型車両はお披露目された。

だから造った開発者が乗り込んで来た・・・のは、判る。

だけども、違和感を感じてしまうのは誇美だけなのだろうか。


「これで受領式は終わりよね。

 後は整備と訓練に勤めてよね、八特の戦車小隊。

 ・・・それじゃぁ、私はこれにて退散するわ」


違和感を感じながらも、これで受領式も終わりだと宣言する開発者。


今の今迄顏すら真面に見せていなかったのだが。


 サッ!


急にキューポラから身を乗り出したかと思えば。


「最後に特務要員に挨拶するわ」


声だけを車両に残したかのように、身軽に車体から飛び降りて。


「あ・・・ルナリィ―ン姫?!」


以前に眼にした開発者・・・とは違い。

開発者の白衣では無く、純白の軍服を身に纏い皇太子褒章を胸に提げた・・・


「姫様?!本当のルナリィ―ン皇太子姫?」


王女の衣装を着た、長い金髪を靡かせた少女が立っていたのだ。


 ざわ・・・ざわざわ・・・


皆が息を呑み、驚きの呟きが流れ出る中。

純白の皇太子軍服を着た娘が、特務要員に近寄って。


「任務に邁進されますよう・・・願っております」


同じ金髪の軍属で1等尉官の前に立つと語り掛ける。


「必ず・・・職務に励みます。御心配に及びません」


それに対し、尉官が顎を引いて応える。

僅かながら微笑を浮かべた顏で。

笑みを見詰める皇太子褒章を提げた娘も頷いて応える。


二人が僅かながらに視線を交えていると。


「これで受領式を終えます。

 殿下は私達と御同道くださいませ」


元老参議マジカが閉会を命じ、純白の軍服を纏った娘を呼ぶ。


「はい・・・」


ジッと1尉相当官を観ていたが、マジカに呼ばれて踵を返す。

マジカの許へと歩く後ろ姿を見送るリィタ特務要員は、笑みを浮かべたまま何かを呟く。

それは王女へと贈る感謝だったのか?

それとも任務を想い、誓いを起てる言葉だったのか。


「以上で新車両の受領式を終える。

 受け持ち各員は指導官に教わり、早期の完熟に勤めよ。

 各員解散・・・別れ!」


シュペー少将の解散の辞で、受領式は終わる。


残されていた隊員と特務要員は各々持ち場へと離れて行く。

その中で、美晴コハルとマリアだけは動こうとしなかった。


「なぁ、コハル?遂に闘いに向かって動き始めちまったぞ」


ぽつりと呟くように語り掛けるマリア。


美晴ミハルが乗るべき戦車に。

 女神のコハルが乗らなくっちゃいけないんやで?」


覚悟は出来てるのかと、問いかけて来る。


「うん・・・私がやらなきゃいけないんだ。

 こうなるって覚悟はしてきたつもりだよ」


目の前にある戦車を見詰め、誇美は言葉を絞り出していた。


美晴みはるが闘う覚悟だったのなら。

 私だって必死に闘う以外、道は無いんだから」


これから待っている戦場というものに怯えながら。


「・・・そっか。そやな」


マリアも誇美と同じ様に新車両に目を向け、頷くのだった・・・


新たなる車両は美晴みはるの異能に即していると言う。

以前に出会った開発者だったが、何か不自然に思えるのは美晴コハルだけ?

託される事になる新型魔鋼騎を眺める二人。

いよいよ、戦いへ向うことになるのだろうか?


次回 王立魔法軍 旅立ちの秘密 5話

現われた開発者と特務要員達。彼女等の関係は誰も知らない。知られてはいけない?

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