王立魔法軍 旅立ちの秘密 3話
フェアリア国元老参議を務めるマジカが壇上に立つ。
語られるのは新車両を配備される八特小隊への期待か?
それとも、事変の収拾を担う特務要員への要望か?
厳かとは、軍隊にあっては控え目な言葉かもしれない。
この場に相応しい言葉を選ぶのならば、粛々と始められたと言うのが良いだろうか。
受領式は訓練部隊司令官シュペー少将が壇上に上がった時から始められた。
「諸子に告ぐ。
本日より加わる事となる新式車両を以って。
独立08小隊は実施部隊に編入されることに為る。
日頃からの訓練の成果を発揮し、より永く、より強く。
責務を果たされんことを望む」
簡潔な訓示により始められ、次に壇上へと昇った女性へと席を空ける。
司令官から間を空けず、壇上へと上がったのは金髪の麗人だった。
「皆さんに一言申し上げます。
いよいよ、新たな機材を受け取られるにあたり、時局の切迫に心して当られますよう。
生半可な気概では、この重大なる局面は乗り越えられません。
実践される訓練の成果は、フェアリアの存亡にもかかっているのです。
こと此処に到り、皆さんには重責を全うすることを願うばかりです」
静かに重い口調で、今回の事変についての心構えを教えてくる。
新車両を受け取り、出撃が齎す重要性を諭そうとしているようだ。
一度そこで言葉を区切った麗人が、居並ぶ小隊員達を見回してから。
「今はまだ、本格的な戦闘行動までには発展していません。
両国の間に不可侵域を制定し、越境を躊躇させている現状。
この機に事変の終局を目指さなければなりません。
その為、08小隊には特務要員を随伴させます。
彼女達は事変の解決へと導く特使でもあるのです。
因って、八特小隊には別個に命令を授けたいと思います」
一人の特務要員に目を向けていた。
それは、あの金髪で凛々しい少女とも云える尉官待遇の軍属。
「小隊には、彼女達の身柄の確保を命じます。
如何なることが在ろうと、彼女等を守護。
攻撃よりも護衛を主に、行動して貰いたいのです」
金髪の麗人が、特務要員に目を併せて言ったのだ。
如何なることに為ろうが、要員の無事を優先せよと。
「彼女等を守り通すのが小隊の行動倫理なのだと。
我が国の命運を握る彼女等を護り通し、無事の帰還を目指して貰いたいのです」
国家の運命は、彼女等の手に掛かっているのだとも。
「元老参議のマジカからの命令と心して貰いたい。
いいえ。この言葉は・・・
ユーリィ女王陛下から出されたものと思ってください」
自らの立場を明かしたマジカが、象徴とはいえ国を代表する王からの言葉だと言って聞かした。
女王ユーリィの名を聞かされたシュペー少将が姿勢を正すのと同時に、小隊員の殆どが直立不動の姿勢を執った。
「最後に。
皆さんの記憶に留めて貰いたいのです。
必ず生きて還る為に。生き残る為の苦労を厭わないで貰いたい。
友と手を携え、全力で事に当たると誓って貰いたいのです。
我がフェアリアの為にも、未来の世界にとってもあなた方は必要なのですから」
マジカの視線は、ずっと一人へと向けられている。
それは、この中に居る誰よりも重要な人だと目しているからだろうか。
「フェアリア元老参議のマジカからの言葉を忘れないで。
喩え、絶望に圧し拉がれても諦めないで欲しい。
生きて、生きて還れば。明日が在るのですから」
まるで我が子に諭すように、マジカが締め括った。
壇上を辞しようとするマジカに、小隊指揮官のマリアが一歩進み出て。
「マジカ閣下に。敬礼!」
意を計っていたかのように、マリアが号した。
呼応した全小隊員が一斉に挙手の礼を贈る。
そこには、並々ならぬ練度が窺い知れた。
・・・スッ
小隊員からの礼に、マジカ参議も黙って応える。
居並ぶ皆を前に、綺麗な敬礼を返して。
そして身を翻して壇上から降り、シュペー少将へと会釈をする。
「後は・・・宜しく」
後を頼み、3人の特務官の前を通り過ぎる時。
チラリと一人へと視線を向けた。
マジカ参議の蒼い瞳に写るのは。
「・・・」
コクンと僅かに顎を引き、頷いたのは。
ー やっぱり。あの娘を一番に想っての発言だったんだ・・・
ずっとマジカを見守っていた誇美は確信を得た気になる。
あの特務要員の娘が、王室にも近い元老参議にとっても重要な人物であるのが伺い知れたからだ。
ー もしかすると、昨晩の手紙は参議が放り込んだのかも?
差出人が不明な怪文書。
それを運んで来たのが参議マジカだったのなら、少なくとも悪意がある訳ではなさそうに思える。
ー でも。なぜ候補生に過ぎない美晴に渡さなければいけない?
それに姿を見せなかった意味も分からないし、個人に渡す理由もないわよね?
初対面のマジカ参議が身を隠す意味が無いことも、小隊員でしかない美晴へと託す訳も知れない。
あの手紙に記されてあった意味も、本当なのか疑わしくなる。
ー だけど。あの金髪の特務要員が特別なのは伺い知れた。
元老参議と面識があるってことは間違いないようだから・・・
3人の前を過ぎ、独り離れた場所に立ったマジカを眺めて、そう締め括った。
マジカ元老参議からの訓示が終わり、引き続き要員の紹介が手短に行われる。
「諸子に紹介する。
今次の行動に同伴するよう派遣が決まった要員である。
先ず、王室警護官を拝命しているアクァ3等尉官。軍籍ならば少尉に値する・・・」
左端に立っている銀髪で紅い瞳の娘が一歩前に出て。
「特務任務に選出された、アクァ3等官です。宜しく」
手早く名乗りを上げて紹介に応えた。
「次は・・・軍の私服組から選抜された同じく3等尉官のアンナ・・・」
シュペーの紹介が終わる前に、栗毛でボブショートの髪を揺らせて前に出た娘が。
「アクァ特務官と同期で3等尉官扱いのアンナ・パルミール。
以後、お見知りおきのほどを・・・」
すっと胸元に手を添え、軽やかに会釈した。
ほぉ・・・、と。皆が感心するほどの流麗な会釈を眼にした後。
「ゴホン。次にだが・・・」
シュペー少将が咳払いして言葉を切る。
一瞬だけマジカ参議に視線を向けてから、紹介するのは。
「今次派遣の責任者扱いの1等尉官で、我がフェアリアの・・・」
勿体付けたような司令官の言い回しに、美晴は焦れてしまう。
「王女様なんでしょ?勿体付けてないで言えばいいでしょ~に」
「まぁまぁ、姫。落ち着かれませ」
ブツブツと呟く様を、ポケットに忍んでいる爺が苦笑いを浮かべていた。
「我がフェアリア王家の御血縁でルナリィ―ン殿下の縁戚。
元老元帥ドゥートル閣下の孫にして特務要員を志願されたリィタ1等尉官」
シュペー少将が書類を眼にしながら読み上げる。
「そうそう。王女殿下なんでしょ・・・って?へ??」
聞いていた美晴がカクンっとつんのめる。
紹介された長い金髪でマリンブルーの瞳が麗しい娘が、流れる様に一歩前へと進み出て。
「ご紹介に預かりました1等尉官の・・・リィタ・フェアリアル・ドゥートリアです。
先任特務官として貴隊に同道することを願いたてます」
声高らかに名乗りを上げた。
「王女の縁者ですって?嘘でしょう?」
美晴は思わず耳を疑い言い返してしまった。
「姫、姫様。声が大きすぎまするぞ」
とりなす爺が停めた程の声で。
「う・・・うわ。ごめんなさい」
思わず周りに聞かれたかと思って謝るが、誰も気にも留めていなかったのが幸い。
「王女殿下の親戚縁者って?」
「そう言えば、そのような方が居られるって聞いた事があるな」
周り中が驚き、呟き合っていたから。
「静粛に。
王室に所縁のある方ではあるが。
今次の調査を任されておられる1等尉官に志願されたからには。
任務を優先する事だけに留意すること。以上だ」
司令官が注釈を与え、紹介を手短に切り上げる。
要員の紹介を終えた司令官が辞しても、隊員達の呟きは終わらない。
同道する要員の中に王室関係者が含まれていたことに驚きを隠せないのだろう。
だが、同じ呟きでも美晴は別の意味で驚きを隠せずにいた。
「王女の親戚ですって?
そう断言されたらそうかもしれないけど。
あの神力の在処が彼女だと思っていただけに・・・信じられないわ」
同じ女神の異能を感じ取り、それがリィタと名乗った1等尉官からのモノだと思い込んでいた。
だからこそ、彼女が伝説の女王リィンの直系の子孫であるルナリィ―ン王女を示しているものと考えていたのだ。
・・・クス
皆が驚く様を眺めていた銀髪の3等尉官、アクァが細く笑む。
笑んだまま、傍らのリィタを観て頷くのだ。
まるで秘密を共有した悪童のように。
小隊員達が騒めく中、新車両の整備を受け持っている整備官が前へと進み出て。
「特務隊員の紹介も終わった。
いよいよ受領されよ、第08戦車小隊の各員!」
整備指導官が手に捧げて来た信号弾を、上空へ目掛けて発砲する。
紅白の煙を放つ疑似弾が空へと昇り、何かの合図となる。
・・・と。その途端だった。
ゴゴゴゴ!
あのトレーラーの後部扉が開放され、中から発動機の轟が?!
「あ?!」
「あれは?!」
居合わせる全員の視線がトレーラーへと向けられ、
「あれが?!」
中から出てくる鋼の巨体に注目が集まった。
「新車両?!」
「新型の魔鋼騎なのか?」
遂にベールを脱ぐ新型<魔鋼騎>?!
大地に立つ陸の王者に、隊員達の感想は?
その新車両を紹介する人が現れる。
その声を聴いた時、美晴が想いついたのは?
次回 王立魔法軍 旅立ちの秘密 4話
貴女はなぜ隠そうとするのか?真実を告げようとしないのか?




