王立魔法軍 旅立ちの秘密 2話
受領式に現われた特務要員。
3名の軍属娘の中に、一際麗しい人が居る。
その姿を目にしたミーシャ少尉が唸り声を上げた。
一体、何を知っていると言うのか?
ミーシャの怒鳴り声にレノアもビッグも、金髪の少女に視線を向け直す。
確かに見覚えがある。どこかで眼にしたような気もした。
「お前等ぁ~。自国の王女殿下も観忘れたのかよ?!」
怒鳴られた二人の反応が薄かったから、業を煮やしたミーシャが明かす。
「あそこに居られるのは、フェアリアのルナリィ―ン殿下だぞ」
どうだ、畏れ入っただろう・・・と。
「・・・は?」
「惚けてるのかよミーシャは?」
だが、二人は信じかねている。
それはそうだろう、一介の戦車小隊に王女がやって来る訳があるものか。
「呆けているんじゃないっ!王族の写真を拝見したことがあるんだ」
「いやいや、ミーシャ。他人の空似って・・・知らないのかよ」
言い返すミーシャにビッグは呆れたように肩を竦める。
「お忍びだろうが、お戯れだろうが。
どこの王女様が戦車小隊に来れるってんだ?
仮にそうだとしても、身辺警護に辺り中が保安部隊で埋め尽くされてるだろうさ」
「そうだぞミーシャ。
王女様が単身で出向かれる筈がないだろうに」
一国の王女様ともあろう人が、何の前触れもなく現れる筈が無いと二人が言い返す。
「う?!そ、それは・・・そうだけどな」
二人から言い返されたミーシャも、漸く気が回ったようだったが。
「でもなぁ。観れば見る程、似てるんだよなぁ」
チラチラと、制服を着た金髪の乙女を観て。
「フェアリア王女殿下のルナリィ―ン様に・・・」
諦めつかないのか、ブチブチと溢していた。
八特小隊の士官達が集まり、受領式の準備を整えている後ろで。
「ミーシャ少尉さんが疑うのも判る気がする。
だって確かに普通じゃない気配を漂わせてるもの」
目立たないように他の士官達の後ろから観ていた美晴も、金髪の女性に感じるがモノがあったようで。
「ねぇ、爺?」
ベルトに提げているポシェットに手を添えて訊いた。
「「いえ、姫様。私めには分かりかねまするが」」
ポシェットの隙間から覗き見している狒狒の縫いぐるみからは応えられないと返って来て。
「能力とか魔法力なんかでは無くて。
佇まいとか、身から出る気高さとか。
何と言うか、高貴な感じがするのよね」
「「ふむ。やんちゃな姫様とは対照的・・・と?」」
真剣に感じたことを言った美晴に、爺やは茶化して答える。
「・・・怒るわよ、爺」
既に怒気を孕んでいる声で、狒狒爺に応えて。
「おしとやかとかじゃなくて。
身に沁み込んだ気品ってモノを感じただけよ」
「「ほほぉ。おてんばな姫様には無いモノですな」」
ふざける爺に、美晴がジト目になって。
「ねぇ爺?いっぺん・・・ぶっ飛ばされたい?」
ポシェットの縫いぐるみへと手を伸ばす。
「「ほぉっ!ほぉっ!ほ!やってみなされ」」
売り文句に買い文句?!
主従は諍いあうように・・・
「ん・・・じゃぁ。
ぶっ飛んできなさい!」
ポシェットの中から狒狒の縫いぐるみを掴み出すと。
「「ほぉ~~~っ!」」
問答無用で投げ飛ばした?!
ビシュンッ!
眼にも留まらぬ超速球・・・いや、超縫いぐるみ?
目差すのは・・・どこ?
待機所の士官達も気付かなかった程の投擲。
魔砲の異能を女神が活用したのだ、普通の人間に見極められる訳も無い。
・・・その筈だったのだが。
「ふむ?」
美晴の眼に、何かが起きたのが写り込む。
魔力の顕れを感じ、目前で何かがおきたのを現した。
「やはり。この人達って」
投げつけた筈の縫いぐるみが、まるでバリヤーにでも当って跳ね返ったように手元へと返って来た。
「「思惑通りですぞ、姫様」」
狒狒の縫いぐるみが知らせて来た。
「「あの娘等は、何らかの魔法を使役するようですぞ」」
投げつけられた・・・否。
自分から志願して体当たりを噛まそうと美晴を嗾けた。
女神であり主人でもある誇美を気遣い、狒狒爺が調べをつけようと志願したのだ。その想いを悟れない誇美でもなかった。
冗談を交わし合っている風でも、通じ合えている証なのだろう。
「そっか。やっぱり」
相手の正体は、依然として分からないままだが。
投げつけられた狒狒の縫いぐるみを跳ね返せるだけの魔法力を持ち合わせているのだけは確かだ。
「悪戯だと思われたのかしら。
それとも悪意を孕んでいると勘違いされたかしら」
単に正体を暴こうとしただけの行為でも、相手にとっては赦し難い不埒な行いだと思ったかもしれない。
「「案じられまするな、姫様。
こうして弾き返すに留めたことを観ても。
あの娘には分かっていたであろうことが伺え知れまする」」
「こっちが小手調べを打ったってのを?」
気になった金髪の娘を調べようと、縫いぐるみに宿った使徒を投げ放った。
もしも異能使いだとしたら、何らかの反応が返って来るのではないか。
その目的は半ば迄は完遂出来たのだったが、使徒エイプラハムを以ってしても如何なる魔法を講じて来たのかが分かり得なかった。
「「御意。目的の娘では無く、銀髪の娘が・・・で、ありまするが」」
「ふ~ん。なるほど」
目標としていた金髪の娘では無く、傍に居るもう一人の娘が応じたのを爺が教えて。
「「目にも留まらぬ速さで。
この爺にしても理解し難き技を以って」」
「爺でも見極められなかったのか・・・その魔法が」
一瞬、記憶のどこかに仕舞い込んだ過去が過った。
このフェアリアに帰って、とある晩に出遭った娘を思い出した。
「もしかしたら・・・時を停めた?
ううん、時を巻き戻したとでも言うのかしら」
月夜の晩に、現れた剣客が使役した魔法。
「あの・・・アクアとか言った娘と同じ魔法を使ったのかな?」
眼にも留まらぬ速さで・・・いいや。
時を留めることによって、相手を騙す。
瞬時に次の一手を操り、先手を打つ事の出来る魔法。
「そう言ってみれば、アクアに似てるかも。
あの殺気を消したら、こんな感じになるのかも」
何食わぬ顔で立っている銀髪の娘。
表情は穏やかに観えるが、紅い瞳には鋭い輝を放っている。
「あの様子だったら。
こっちから飛ばされて来たって解ってる筈。
それなのに何のアクションも仕掛けて来ない。
それどころか金髪の娘から離れようともしないなんて・・・」
並んでいる3人の娘の内、金髪の娘をそれとなく庇う銀髪の娘。
誇美には、それが護衛を任されているように観て取った。
「そっか。思った通りなんだわ」
納得したかのように美晴が呟く。
「「如何に?」」
その呟きに爺が訊ねた。
「あの人の正体が伺い知れたってこと」
「「金髪の娘・・・に、ございまするか?」」
問われて微かに頷き。
「そうね、多分だけど。
本名を名乗らなくっても、分かったのよ」
「「偽りの名を騙ると・・・仰られますのか?」
蒼く輝く瞳を金髪の娘へと向けて。
「こちらも明かせないけど。
きっとあちらも明かさないでしょうね」
女神で人の身体を持つ者としての見解を述べると。
「「なるほど。左様にございまするのか」」
臣下髄一の知恵者<狒狒爺>が頷いた。
数名の高官達が小隊指揮所に集い、整備兵には指導官が車両の図面を見せている。
受領し、小隊の3番目の戦車に加える式典。
それは控え目にも盛大とは言い難かったが・・・
受領式に先立ち、戦車嚮導司令部からの説明が執り行われる手筈になっていた。
「シュペー少将。
この後、この新式車両は<マチハ>と呼び習わされるでしょう」
「マチハ・・・伝説の魔鋼騎に因んだ名ですかな」
金ベタの襟章を付けた司令官と、白金の肩章を着用した高等官の貴婦人が並んでいた。
「しかしまた・・・元老参議官閣下がお出ましになられるとは」
旧軍からの叩き上げでもあるシュペー少将が、朝日を見上げながら訊く。
「そうね。
あの娘が往くのですもの。
餞に・・・と、思ったのよ」
「ほぅ?魔砲を司る娘に・・・ですかな?」
答えるマジカ高等官がスッと指揮所の方へと視線を向けて。
「いいえ。往くのは幼馴染の娘よ。
少しばかりじゃじゃ馬な処があるんだけどね」
軍属の制服を着た、金髪の娘を垣間見て。
「どうも、前世との因縁が濃い様でね。
今回の事変を治めたいようだから・・・留められなかったのよ」
「あの大尉相当官でありますか、閣下?」
マジカの視線から、金髪の軍属を指しているのが分る。
「そう。ホントに・・・あの娘そっくりだわ」
眺めている貴婦人の表情は柔らかい。
まるで旧知の友を見詰めているかのように穏やかだった。
「どちらの令嬢ですかな?その娘と言うのは」
シュペー司令官はマジカの言う娘が、王家に繋がりのある貴族出身だと思ったようだが。
「あら。分からないかしら、シュペー少将には」
「高貴な家柄の娘かとは思いますが」
想いもかけずマジカに問われた司令官が答えに詰まると。
「確かに。高貴で気高い魂を宿してはいるわね」
煙に捲くように正体を明かさずに留める。
そして制服を正し、おもむろに少将を促すのだった。
「さて。それでは式典に華を添えましょうか」
受領式が始まる。
訓練部隊の離れで、少人数の式典が始められた。
そして・・・隊員達の前に現れ出るのは。
いよいよ、受領式が開かれる。
現れたのは3名の特務要員だけではなかった。
理由は分りかねたが、元老参議であるマジカ<マギカ>フェアレイ夫人までもが出席するようだ。
そこに、ただならぬ訳が隔されているようなのだが・・・
次回 王立魔法軍 旅立ちの秘密 3話
思わぬ名乗りに誇美はつんのめる?!だが秘められた訳は謎のまま?




