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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8<レジェンド・オブ・フェアリア>魔砲少女伝説フェアリア  第1章王立魔法軍
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王立魔法軍 旅立ちの秘密 1話

遂にこの日がやって来た。


独立戦車08小隊に新型魔鋼騎が配備される時が。

その受領式が始まろうとしていたのだ・・・

フェアリア陸軍訓練隊に朝が訪れる前。

まだ陽の光を感じるのは二時間ぐらいは待たねばならない時刻。


重低音を鳴り響かせる大型トレーラーが搬入門を通過した。

車体はゆっくりと敷地内を進み、機動車整備壕ハンガーを過ぎ。

そのまま試射場の奥にまで入ると、停車して発動機エンジンを停めた。

林の中に停車したトレーラーは、傍目で見れば小さな建物が現れた様にも見える。

それ程大きなトレーラーが、一体何を運び入れたのか。


助手席側のドアが開き、地面に降り立つ人影があった。


「ん~~っ。夜明け前の空気は澄んでいるわね」


背伸びする人影から、女性の声が流れる。


「特に今日は・・・格別なのかも」


やや高い声音からして、それ程年嵩では無いことが聞き取れる。


「ホント、この日をどれだけ待ち侘びて来た事やら」


それに、何かを期待しているようにも受け取れた。


「きっと、あの娘だって待ち望んだでしょうから」


まだ明けない夜空を見上げ、誰かを指して呟く。


「魔砲の異能を発揮させ得る秘密の<魔鋼騎>を」


トレーラーの荷室を垣間見て、誰に託すのかを仄めかした。




払曙・・・夜の終わりを告げる光が空を染める。

軍隊の朝は早く、既に何名かの訓練兵が所属部隊へと向かっていく姿が見受けられた。

その中の何名かが、グランド奥に見かけない物があるのに気付く。

もの珍し気に観てはいたが、任務を優先したのか調べようとはしなかった。


「どうやら。アレらしいな」


小隊待機所に出て来たレノアとミーシャが、トレーラーに気付いた。


「そうらしい。

 それにしたってデカイ図体のトレーラーじゃないか」


林の奥に停められた車体の巨大さに息を呑む。


「あんなにデカイ荷室だったら、一両だけを運ぶのは勿体ない話だ」


車体の何割かは林に隠れてはいたが、まるで建物のような荷室は人目についてしまう。


「確かにな。あのデカさだったら、三両位は楽に乗せられるんじゃないか」


戦車の全長が5メートル程だとすれば、トレーラーの荷台は15メートルを超えているだろうか。


「それにしたってだ。

 なぜコンテナ型のトレーラーで運んで来なきゃいけなかったんだ?

 いくら新型車両だからって軍極秘ではないだろうに」

「そう言やぁそうだよな。

 秘密にしたって、直ぐにお披露目されるのにな」


普通、戦闘車両を運ぶ際にはオープントップの車両で運搬される。

遠方ならば貨車を使い、至近の場所へなら自走させる事さえあるというのに。


「周知されるのを嫌ったのか。

 それとも、本当に極秘車両なのか・・・」

「魔鋼騎だからって戦車には違いがないとは思うんだが」


白い荷室に朝日が当り、いよいよもって巨大さが分って来る。

その偉容が憶測を呼び、二人の疑問が深まるのだった。



衣服を整え終えた小隊長が、受領準備の為に整備部へと向おうと部屋から出た処で。


「おはようマリア中尉」


見慣れない制服を着た女性に呼び止められる。


「今日は一つ。頼んだわよ」


年嵩の麗人とも云える、その女性から頼まれて。


「え?!あなたは・・・」


唐突な出会いに声を呑んでしまう。


「ミリアも承知してくれたのよ。

 私達が八特小隊に同道する事を」

「は?!私の母も・・・で、ありますか」


女性からの言葉に、マリアも驚きの声をあげて。


「マギカ・・・元老参議閣下?」


王家との繋がりも濃い、元華族で女王ユーリィの顧問を務めるマギカがこんな場所に居るのに驚くが。


「お久しぶりね、マリアちゃん。

 あなたが任官した時以来かしら・・・ね」


覚えていた名を明かすマリアに、金髪の麗人<マギカ元老参議官>が微笑んだ。



一方その頃。


「うぬぬ。何だか知らないけど・・・」


難しい顔の美晴コハルが使徒が宿る縫いぐるみに溢していた。


「落ち着いてくだされ姫様。

 確かに不明な異能を感じまするが・・・」

「別の神格者が現れたかに思われますが」


爺やも剣士も、それを感じ取っているようだが。


「強力な異能スタントを感じたのよ。

 並外れているだけじゃないわ。威圧感を感じるくらいに・・・ね」


眉間に指を添え、難しい顔を続ける美晴コハル


「しかも・・・よ?

 それが、あっという間に消えて無くなったんだから」


強力な異能を感じたと思えば、それが瞬く間に無くなったと言う。


「もし、他の神が現界したと言うんだったら。

 私に挨拶も無しに還るなんて・・・失礼な話だと思わない?」


天界から、何らかの理由で現世に降りて来たのなら。

先に人間界に来て居た女神を知らない訳が無い。

理由はどうあれ、現界したのを知らせるのは礼儀だと言っているのだ。


「そうでしょうかな、コハル姫様。

 この地に他の神が現界する理由など在りますまい。

 しかも、僅かな時間だけの所用など考え難いと思われますぞ」


知恵者でもある爺やが宥める様に取り成して。


「考えられまするのは、この地に居る既存の土地神が何らかの理由で発現した可能性が」


感じ取れた異能が、この地に潜む神なのかも知れないと考えたようだ。


「地場の神?

 それならもっと異能ちからが弱い筈だけどなぁ。

 さっき感じたのは、かなり強力だと思うんだけど?」


エイプラハムの考えに同調しかねる美晴コハルが、考え込む様に首を傾げて。


「土地神にしても、他の天界神にしたって。

 邪魔をしてこないのなら良いんだけどね」


干渉してこないのなら、相手にしないでおく方が良いと考える。


「コハル様の邪魔をする奴は、このグランが容赦いたしません」


獅子の縫いぐるみに宿る剣士グランが牙を剥き出しにして言い募った。


「はいはい。その時は頼んだわよグラン」


少し怒り気味だった美晴こはるも、使徒達から諫められて毒気が抜ける。


「私達の目的は、たったの一つ。

 美晴みはるに、この躰を返してあげるだけだもんね」


フッと笑みを零せるだけの余裕が出来て、改めて二人の使徒へと命じる。


「その時まで。私達が達成する時まで。

 美晴みはるの身体を守り通すのよ」


改めて命じたのは、自分にも言い聞かせる為だったのかもしれない。

たった一つの目的を果たす、その瞬間を求めて。



稼業時間の始りを告げるチャイムが鳴り亘る。

遂に八特小隊へ新規受領車が下げ渡される時が迫った。

大々的な式典などは無く、小隊の待機所に数名の技官が集っているだけが普段とは違っている風景だった。


「小隊長は遅いな」

「新規車両ってのは何所にあるんだ?」


整備班員から不満の声が漏れる。


「技術本部から来た技官も、僅かな人数だからなぁ」

「新型って言っても、大したことはないんじゃないか?」


整備を請け負う兵員は、期待外れではないかと訝しむ。


「まぁな。魔鋼騎なのは確かだろうけどなぁ」


トレーラーに搭載されたままの新型車両が、どんな性能を有しているのかも怪しんで。


「これから出撃だって言うのに。

 足手纏いな車両だったら・・・嫌だよなぁ」


ブツブツ文句を溢していた。


「おい、レノア。あれを観ろよ」


整備兵達が不満を声にしているのとは対照的に、


「ミーシャも。あれって昨日マリア中尉が言ってた要員って奴等か?」


ビッグがもの珍し気に指差すのは。

あまり馴染みのない制服を着ている少女達の姿だった。


「なかなかの美少女達じゃねぇか?」


ベリーショートの銀髪で紅い瞳が印象的な娘に。

金髪をピンクのリボンで纏めた、マリンブルーの瞳の娘。

それと・・・軍帽を眼深に被る少女。


「どの子も・・・凛々しいじゃないか?」


ビッグは好色で言っているのではない。

本当に美人ぞろいだったから驚いているのだ。


「中でも・・・あの子は」


くいっと指を立てて教えるのは、


「どこかで一度会ったことがある様な」


金髪をピンクのリボンで結い上げた、細面で凛々しい表情の少女。


「どこだったかなぁ?確か観たことがあるんだよなぁ」


記憶を呼び戻そうと、遠い目をするビッグの傍でレノアが3人の制服少女を観た時。


「え?!まさか・・・」


釣られて少女達を観たミーシャが声を呑んだ。


「ん~?ミーシャ。知ってる顔かよ?」


レノアには分からないようで、知り合いかと思って訊いたのだが。


「お前等っ!その眼は節穴かよ!!」


ミーシャの怒鳴り声が待機所に響き渡った。

随伴する特務要員。

3名の軍属娘が式典に参加する。

特に眼を惹いた金髪の1等尉官は、本当にルナリィーン王女なのだろうか?

真相は未だに分らないが・・・


次回 王立魔法軍 旅立ちの秘密 2話

本当かどうかを謀ろうとしたコハルは、とんでもないことを仕出かすのだが?

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