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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第5章 産まれの謂れ
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Act33 母へ寄せる想いは

叫ぶリィンに戸惑うのは?

いつも傍らにいた子が聞いていたのを知らなかった。


もう一人、心配する子がやって来ていたのだった。

それは?

リィンの声に足が停まる。

耳を打つ叫びに飛び出せなくなった。


「なんだよ・・・それって?」


二人の後を追いかけて来たエイジは、飛び出すのを躊躇して身を潜ませた。


「リィンちゃんとオーク社会長の娘が、一体どんな繋がりがあるんだよ?」


少女人形(レイ)の向こう側に居るリィンの表情は伺い知れないが。


「ロナルドさんとミカエルって人との関係って・・・まさか?」


リィンの父であるロナルドとロッゾア・オークの娘であるミカエル、この二人とリィンが関係があると言った。

考えた末に辿り着いたエイジの思考をリィンの叫びが肯定してしまう。


「あたし・・・産まれて来ちゃったの。

 ロナルドお父さんとミカエルお母様の間に。

 フェアリー家の娘ではなく、ミカエル・オークの娘として!」


耳を打つ少女(リィン)の泣き声。

それは信じ難いルーツの謂れ。

自分達が所属する少女人形企業アークナイト社、今迄ずっと敵対企業で忌み嫌っていたオーク社宗主会長の孫を意味していたのだから。


「嘘・・・だろ?」


聞いてしまったリィンの秘密。

告げられてしまった少女の心は、どんなに驚愕に揺れ動いただろうか。


二人から離れた場所で隠れているエイジにも、研究所で暗い顔を見せていたリィンの理由が判ったのだった。




少女人形に宿ったレィは、ヴァルボアとの約束を破ってしまいそうになる。

自分が麗美(レィ)だと知られてはいけないと、固く心に誓っていたのに。


ー 可哀想なリィン。出来る事ならこの手で抱き寄せたい・・・


自分の産まれを呪うかのように泣き続ける少女(リィン)を慰められるのであれば、自分に架せられた十字架を引き裂いても。


だが、レイとなっている今は・・・秘密は守らねばならない。

どんなに愛おしくても、我慢しなければならなかった。

それが、リィンを護る事にも繋がるのだから。



「もし・・・宜しければ。詳しい経緯をお教えくださいませんか」


話す事によってリィンの気持ちを和らげられるかも知れない。

少女人形が執れるのは、それくらいなものだろうから。


「それに。

 なぜこちらに居られる麗美れいみに逢えなくなるのかを」


少女人形レイは集中治療室にいる本当の自分の名を告げて促した。



 ピクン・・・



リィンの肩が揺れた。

一瞬、肩を震わせたリィンがレイを見上げて・・・


「そう・・・なんだ?」


少しだけ眼を見開いて少女人形の顔を見詰めると。


「教えて・・・欲しいんだね?」


何かを感じ取ったのか、


少女人形レィとして・・・聞きたいの?」


掠れる声で訊き返すのだった。


「ええ。そうです」


質されるレイは、室内を観ていたからリィンの僅かな変化に気付けなかった。

病室に居る自分の姿を眺め、敢えてリィンから視線を外していたから。


「・・・・そう」


でも、少女人形となったレィには感じられた。

リィンの呼吸が荒くなったのが・・・自分が話しかけた後に。


「そうなんだ・・・レイとして聞きたいんだ」


何かを感じ取られた?自分が麗美(レィ)なのだと知られた?


ー そんな筈は無い・・・知られる理由はない!


否定し続けるレイには分かっていなかった。

自動人形に化け、人の解釈を言葉にしただけ・・・だった筈。


だが、レイはリィンからは聴かされていない名を言ってしまっていたのだ。



「分かった・・・一度しか話さないからね」


一呼吸の後、リィンは何も無かったかのように語り始める。

しっかりとした口調で、先程まで泣いていた声色とは違った。


「二人の姉を見送った墓地で・・・

 ロナルドお父様とミカエルお母様の墓所へ行ったのは話したよね」


「ええ・・・」


漸く話し始めたリィンへ顔を向けたレイの声が詰まった。


ー あ・・・リィン?!


その表情を観た瞬間、レイにも分ってしまったのだ。


ー 私だと・・・気が付いてしまったの?!


あの懐かしい微笑を浮かべているから。

哀しい話になる筈なのに、微笑みを浮かべて自分を観ていたから。


動揺が身体を駆け抜ける。

瞼を開いて愛しい子の唇から紡ぎ出されてしまうのではないかと錯覚が過る。


ー お願いリィン、まだ呼ばないで。

  レィだと分かってしまっても、呼んではいけない!


手を握り締めて、その瞬間が来てしまうのではないかと怯える少女人形レィ


「そうだったよね。

 その後の話は・・・これからするよレイ


 ギュッ!


リィンの声からは、麗美(レィ)とは呼ばれない。

飽く迄も少女人形として呼ばれた・・・緊張していた手が更に強く握り締められて。


ー リィンは・・・私が名乗らないのを察してくれた?


それが尚更に切なく、一層悲しい現実に思えた。




一旦、言葉を切っていたリィンだったが、表情を引き締めてから語り始める。


「ロッゾア・オークの娘であるミカエルお母様はね、ロナルドお父様と恋仲だったの。

 おかしいでしょ?不倫相手なんだから恋仲だなんて言うのは」


「・・・既婚者でお子様も居られるのですから、不倫で間違っていないかと?」


リィンはフルフルと首を振り、


「不倫じゃなかった・・・と、言ったら?」


「・・・意味が図りかねますが」


妻子がある夫が、別の女性に走るのは不倫ではないと?

眉を寄せる少女人形レイに、リィンが教えるのは?


「フェアリー財閥の開祖はね。

 近代で起きた第2次大戦の折に移民して来たのが起こり。

 あたしも知らなかったんだけどフィンランドとソビエトって国が戦争した(※1)らしいんだ。

 災禍を避ける為、ステーツへ逃げて来たらしいんだよね」


「はぁ・・・ナチスとポリシェビキとの戦争ですか?」


第2次世界大戦の時に渡って来たと告げるリィン。


(※1 作者注)世界大戦が行われていた当時のソ連とフィンランドが、互いの領土を巡って争った。<冬の闘い><一年戦争>等とも呼ばれる。当時連合国側だったソビエトにフィンランドはドイツ政府の援助を受けて交戦した。


「まぁ・・・詳しくは知らないけどね。

 それ以来、ステーツで商いを拡げて財を成したんだって。

 それも・・・かなり悪どい商売のやり口だったらしいわ」


自嘲を含めるかのように肩を竦めるリィン。


「財を成したフェアリー家に、斜陽が始ったのはね。

 お父様のお父様、つまりお爺様が原因だったの」


斜陽・・・つまり家が傾き始めた理由。


「お爺様はワンマン経営者で、人の忠告を無視するような人だったらしいのよね。

 それでもって大層な女好きでもあったらしいの」


眉を顰めてレイに教えて、


「だって・・・エレオノーラお母様・・・いいえ。

 エリザとリマダの母を妾にしたんだから」


自分の母親だと信じていた人を妾だと言ったのだ。


「妾・・・と、仰られるのですか?」


レイはリィンの辛辣さに訊き質した。


「そうよ。

 お爺様はこともあろうにエレオノーラにほだされて。

 お父様を傀儡にして・・・自分の妾を嫁へと据え置いたの」


「・・・仰られた意味が、理解出来ません」


困ったように小首を傾げるレイへ。


「それはそうだよね。

 あたしだって理解出来なかったもの。

 ロナルドお父様から経緯を教えられたって・・・ね、へへへ!」


苦笑いなのか、本気で笑うのか・・・


だがしかし、真顔になると続けて言ったのは。


「エレオノーラはお爺様を傀儡にして栄華を極めようと試みた。

 年寄りのお爺様の寵愛を良い事に、自らがフェアリー家を乗っ取ろうと試みたのよ。

 お爺様との間で出来た娘達をお父様に押し付ける為に、名ばかりの結婚を迫ったの」


「え?!リィンタルトの祖父との間に・・・ですか?」


驚いて聞き返すレイに、リィンはゆっくりと頷いて。


「エリザとリマダはね。

 道理で・・・歳が離れすぎだと思っていたわ。

 でも、その後お爺様が他界されて。

 実権を握る前に当主がお父様へと引き継がれた。

 保身に走るエレオノーラが、

 戒心したと見せかけて子を授かった・・・ロナルドお父様との間に」


「その子が・・・ユーリィ?」


うん・・・と頷いて、


「だから・・・ユーリィ御姉様だけが姉妹だとも言えるの」


父から受け継いだ血は同じだから。エリザやリマダは伯母に相当するのだからと。


「こんな穢れた家族に嫌気がさしていたのよ、お父様は。

 無理やり仮初めの結婚を強いられ、愛も無い家族に囲まれるなんて。

 あたしだったら逃げ出してしまっただろうけど」


そこで区切ったリィンがレイを見詰め直して。


「見つけられたのよロナルドお父様は。

 同じような境遇の女性を。籠の鳥から解き放してくれそうな人を」


何かを訴える様な蒼き瞳を向けたのだった。


「それが・・・ミカエル様だったと?」


もう一度頷いたリィンから返されたのは。


「マフィアのボスだった当時のロッゾアから逃げ出して。

 まるで囚われの姫が逃亡して来たかのようだったって。

 騎士ナイトの助けを欲しているかのようにも思えたんだって!」


二人の巡りあわせ。父ロナルドと母であるミカエルとの邂逅。

少し顔を紅潮させるのは、希望を胸に描く乙女ならではだろうか。


「お二人が巡り合って・・・恋仲となられたのですね?」


「そ~!ロマンチックな話じゃない?」


お道化るリィンに眉を寄せ、


「ロマンチックかはどうか・・・で?」


先を促すと。


「ロナルドお父様曰く。

 あっという間に恋に落ち、二人だけで生きていく約束を交わしたんだそうよ」


「つまり?ロナルド様は家を捨てられると?」


家にはエレオノーラが居て邪魔をするだろうから、家外で恋を深めたに違いない。

そうだとすれば、二人の恋が成就する方法は唯一つに思えた。


「うん・・・そう思ったらしいのよ。

 そうしてでも二人は愛を育もうと考えていたらしい・・・」


言葉の端を濁したリィンが首を振る。

それは二人の考えが実行されなかったのを教えていた。


「二人の仲を引き裂いたエレオノーラが居たから。

 そして悲劇が起きてしまった。

 フェアリー家にとっても、恋人達にとっても・・・」


ロナルドから知らされた秘密。

誰も知らなかった真実を教わり、誰にも話すべきではない秘密を口にしようとした時。


「あたし・・・リィンタルト・フェアリーは。

 悲劇の日には産まれていたらしいの。

 亡くなったミカエル・オークとロナルドお父様との間に」


悲劇が起きると前置きしたのだ。

リィンが知らされた悲劇とは?


母ミカエルに何が起きたと言うのだろうか。


明かされそうになるレィ。

敢えて問わずにいるリィン?


話されるのはフェアリー家に纏わる歴史。

あの<魔鋼騎戦記フェアリア>の原本とも呼べる戦史。

小国で大国と闘ったフィンランド・・・その気高い戦史を知ってください。


脱線しましたW


次回はリィンではなくロナルドの視線で語られます。

お家騒動の果てに無惨にも亡くなった母を想うリィン。

そして知らされるのはロッゾアとの因縁。


次回 Act34 追憶の彼方

魔女はあなたの傍に潜んでいるかもしれない!死神を伴って嗤っているかも?


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