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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8<レジェンド・オブ・フェアリア>魔砲少女伝説フェアリア  第1章王立魔法軍
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王立魔法軍 たった一つの誓い  4話

光の御子が邪悪なる者に囚われて。

女神だけの力では救出できるのかが分らない。

女神である前に、先の大魔王姫でもある誇美は特使を送っていた。

闇に属した敵に対しての情報と、助力を得るために・・・

女神の誇美が美晴の身体でルマの許へと帰り着いた頃・・・


闇の中に浮かび上がるのは漆黒の王城。

門番は鎧を纏った魔獣人。

屈強なる魔獣人が守る城に君臨するのは・・・


「それは確かなのですか魔界将エイプラハム?!」


大魔王の宮殿に王妃の声が響く。


「女神を庇って光の御子が捕らえられてしまうなんて」


一報を齎した魔界の将を呆然と見詰めて、


「しかも、罠に嵌めたのが穢れた空間の創造主だなんて。

 女神をも手玉に取る程の邪悪な者に光の御子が虜にされてしまったと?」


事実を受け入れられずに訊き質すのだった。


「先程申し上げました通りにございます。

 我が姫ペルセポネー様から、ご一報を上奏せよとの命により罷り通した次第。

 願わくば、若へ・・・現王シキ陛下へのお目通りをお許しくだされ」


驚愕の面持ちで魔界将を見下ろす魔王妃。

魔界の王妃となっている闇の美晴ミハルへと誇美の爺やが願うのだが。


「今は・・・なりません。

 大魔王様は贖罪の宮へとお入りになられました。

 暫しの間はお出ましにはなられないかと・・・」

「これはしたり!危急の時ですぞ、お取り図りを!」


王妃から拒否されて、魔界将エイプラハムの眉が跳ね上がる。


「これはシキ王の言い付けなのです。

 如何なる者であろうと扉をあけてはならないとの厳命。

 このわたくしであろうとも・・・決して開けてはならないと申し付けられたのです」

「若が?しかし今は光の御子の大事だいじ・・・さようでござりますか」


王妃にさえ開けるなと命じていることから鑑みるに、余程の事が無い限りは出て来ないと思えた。

しかしそれでも、誇美の心を知る臣下としてエイプラハムは坐しては居れず。


「なれば。我が命を賭してでも報じねばなりますまい」


玉座の間で平伏していた魔界将が頭を上げる。


「いけません!そのようなこと。

 シキ王のお怒りに触れるだけです。

 況してや光の御子に纏わる変事を上奏するなど以ての外です」


立ち上がり玉座を退ろうとする魔界の将を留める王妃だったが。


「それに。

 人間界に関与するのは御法で禁じられているのです。

 王自ら、それを破るなど出来ぬ話だとは思わないのですか」


魔界の将へと理を説く。


「若に更なる罪を着せる気など毛頭もございませぬ。

 この狒狒爺が身勝手に彼奴等を討伐するだけにございますれば。

 その赦しを願い奉るだけにございます」


だが反対に、将は王妃へと応える。


「この身を罰せられるのは。

 光の御子を救い。尚且つ、我が姫の御心をお慰めした後にて。

 如何なる処罰をも受けとうございまする」


唯々、誇美を案じての言葉が王妃の心を揺さぶる。


「魔界将軍の忠心に感謝いたします。

 ですが、早まってはなりませんよエイプラハム。

 あなたと志を同じくする者が居るのですから」

「は?!それは誰を指しておられるのか?」


大魔王妃こと闇のミハルから、王への謁見を留められたエイプラハムが怪訝な顔で訊く。


「贖罪に勤められている王へは私がお伝えしましょう。

 ですがそれは、光の御子を救い出した後。

 それに拠る王からの罰は、私が受ければ良いと思うの」

「お、王妃陛下?!なんと畏れ多い」


それに応える王妃から知らされたのは、自らの判断で救出部隊を組織する許可を与えるということ。


「人間界に関与するなという御法があるとは言えど。

 先々代からの臣を無闇に罰するのは、善き王の成す事ではありません」


王妃は穏やかな顔になって忠臣エイプラハムへと語る。


「それに光の御子が囚われているのは穢れた空間だと言うではありませんか。

 法が曲げれないのであれば、法の抜け道を通れば良いだけです。

 そうでも考えなければ大魔王様の威信が堕ちてしまい兼ねませんから」


王妃が法を破ったのでは現王シキの威信に関わる。

人間界への不干渉を謳う法を、穢れた空間が異界と等しいとの曲解を以って、助けに向かおうと言うのだ。


「流石は王妃陛下。

 あり難き仰せに感服いたしましたぞ。

 ならば、この知らせを一刻も早く我が姫へとお知らせ致す所存」


我が意を得たとばかりに小躍りして喜ぶ魔界の将に。


「現世の女神に知らせるが宜しいでしょう。

 魔界の軍が味方となったのを。

 それと・・・光の御子の所在を明らかにするようにと伝えなさい」


一言、釘を刺すように命じたのだった。


「御意。我が姫ペルセポネー様にお伝えしましょう」


承って畏まる魔界の将が平伏した後、たちどころに姿を消す。

玉座の間に残ったのは、光の御子と対を為す闇の王妃。


「コハルちゃん・・・辛いでしょうね」


その顔には時を経た今も尚、忘れ得ぬ思い出が湧き。

懐かしき魔王姫を想う焦燥感が滲み出ている。


「女神と成って再臨してくれたのに。

 守るべき人を庇いきれなかったのですもの」


そう溢すように呟くと、王妃はサッとドレスを翻して玉座の間から姿を掻き消す。

すると玉座の間を妖しく照らしていた松明も、また瞬く間に消えた・・・


 ボッ!


篝火かがりびが燈る。

 

 シュン!


燈った火で辺りが見通せるようになる。

篝火が妖しく揺れる中、巨大な扉が現れる。


「お聞きになられましたか・・・大魔王陛下」


大魔王の寵愛を受ける王妃は、闇の異能を以って扉の前へと移動した。

巨大な扉が意味したのは。


「贖罪の邪魔になるとお思いなのでしょうか。

 それとも光の御子を疎ましく思いでしょうか」


扉を開けれない王妃が、室内へ向けて問いかける。


「光の御子は元を正せば私の分身。

 いいえ。彼女もミハルとして王に愛でられた一人。

 その危急に手を出しかねるのは如何なものでしょう?」


巨大な扉へと向けて問い質す王妃。

黒のドレスを身に纏い、紫がかった長い髪を靡かせ。

大魔王と同じ紅色に染められた瞳で見上げる。


「どうか。私の声を聴き上げてお通しくださいませ」


扉の中へと入る許可を求めた。


 ゴ・・・ゴゴン


王妃の求めに呼応したかのように、重い扉が開き始める。


 ズァアアアア・・・


開き始めた扉の中から、靄のような煙が零れ出す。

その瘴気にも似た煙が王妃の足元へと伸びる。


「宜しいのですね・・・陛下」


白い靄が王妃に纏わり着き、まるで誘うように蜷局を巻く。

グルグルと王妃の身体を包む様に蜷局を巻く靄。

やがて全身を靄に包まれて、王妃の姿が観えなくなる。


 ザザザッ・・・


途端に白い靄が扉の中へと戻って行く。


 ゴ・・・ゴゴォン!


靄が扉の中へと消えると、重い音と共に扉が閉まった。


 シュン・・


王妃が扉の前から消えると、篝火もまた消えてしまった。



白い靄が消える。

霞んでいた視界が広がる。


黒いドレスを纏った王妃が、独り佇んでいると。


「謁見の間に狒狒爺が来ていたようだが?」


薄らいだ靄の向こう側から話しかけられた。


「声を荒げてどうしたんだい・・・ミハル?」

「陛下・・・」


名を告げられた王妃の前に、豪華な椅子に腰かけている王が現れた。

薄紫色の髪。

面長の顔に紅く光る瞳。

そして纏っているのは魔界の君主であり、王の中の皇である証。

大魔王<シキ>を表わす白き王衣。


「お聞きになられていた筈です。

 人間界での変異を。光の御子が虜とされたのを」


城の中での出来事は、全て大魔王の知る処となる。

隠し立てを企もうとも、王の前では無駄な事。

だから王妃は聞いていると認識していたし、誤魔化すつもりもなかったのだ。


「陛下が人間界に残して来た・・・光の御子の危急を」


静かな口調で王へと問う。


「直ちに助け出せと御命じになられるものとばかり思いましたのに」


いいや、少し悲し気にも思える声で訊いて来る。


それに応える声は、王からは漏れ出なかった。

暫しの沈黙が流れる。


「なぜ・・・なにゆえなのです?」


王妃が質したのは、救援を命じない理由。


「なぜに聞こえなかった振りをなされるのです?」


自分に訳を話してくれない理由も。


「このまま看過するおつもりなのですか?」


何も手を打たずに放置するのかと。


真っ直ぐに王を見詰めて問いかける王妃。

赤紫色やみいろの瞳に悲しみを滲ませて。

切なさと悲しみの混じった表情を向けられた大魔王が、微かに笑みを浮かべて口を開く。


「勿論のこと、見過ごす気などは無い。

 だが、今は手を出すには時期尚早と思うんだよ」


言い募られた大魔王が諭すようにゆっくりと話し出す。


「良く考えてみれば分かるだろう?

 居場所も特定できないのに、助けに向かえる筈も無いじゃないか」


人間界での経緯を知っているかのように。


「余が直々に軍勢を率いて助けに向える場所に囚われているとは限らない。

 仮にだが、敵が事前に察知して人間界へと幽閉場所を移したのならば。

 我々には打つ手が無くなる虞があるのだよ」


そして光の御子を助けるのを拒んだ訳では無いのを知らせた。


「良く考えて、王妃。

 血気に逸って軍勢を送りつけても、確実に助けられるとは限らない。

 一度の失敗が取り返しのつかない悲劇を生む虞だってあるんだよ。

 そうならない為にも、自重しないといけないよ」


その上で、焦らずに事を構えるように諭して来るのだ。


「ですが!

 相手は女神をも罠に嵌める卑怯者。

 捕えられた光の御子が無事で済む訳もありません。

 一刻も早く、救出せねば・・・」

「魂を穢される・・・堕とされると思うのかい?」


自分の分身でもある御子を思うあまりに急き立てる王妃へと、聴き質して来た王。

その言わんとしているのは。


「あの娘は抗うだろう。

 喩え如何なる辛苦を与えられても。

 諦めたりはしない筈だろう、もう一人の御子?」

「う・・・そうあって欲しいですけど」


王妃は過去の自分もそうであったのを思い出す。


「敵手に堕ちたとは言えど、造り出された空間の中なんだ。

 そこでどれだけの辛苦を受けたとしたって・・・

 現実世界へと戻れば覚えてはいないだろう。

 唯それだけが、唯一の救いなんだよ」

「人間界の身体が滅ばぬ限り・・・ですが」


光と闇に分割されるきっかけとなった事件。

死に絶える筈だった身体が残り、もう一人の自分が生み出される事となった。

そして時が流れ、今は光の御子の魂が身体を使っていた。

元々の<美晴>である闇の王妃ミハルの代わりに。


「その通りだよ。

 その為に、女神が居るのだからね」


大魔王は王妃へと語る。


「人間界で人として生き続ける道を選んだ・・・コハルに託そうと思うんだ」


光の御子を護ろうとする女神の存在を。


「この大魔王シキの妹でもある誇美ペルセポネーに。

 人のとして・・・闘って貰いたいんだよ、ミハル」


そして今は、対照的な光と闇の存在となっている兄妹きょうだいなのだと明かして。

全てを女神いもうとに託しているのを知らせたのだった。


大魔王シキは妃へと仄めかす。

本当に大切なのは<美晴>が人であるべきなのだと。

その<ミハル>とは、光の御子を指すのか・・・それとも?


次回 王立魔法軍 たった一つの誓い  5話

現王の願いは唯一つ。ミハルを人へと戻すことのみ!

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