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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第5章 産まれの謂れ
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Act32 聴かせて?

少女人形としてリィンの前へ。


レィではなく、少女人形レイとして接しなければならない。

それがリィンの為でもあるのだから・・・

差し出された手を観てレイに宿る<記憶の麗美れいみ>は想う。


この手を握ればレィだと分ってはしまわないか・・・と。

それに思わず喋ってしまうかもしれない・・・手を握っているのがレィなのだと。


逡巡するレイ。

唯の握手だというのに、躊躇いが手を出せなくする。


だが、手を握らなくてはリィンが勘繰るかもしれない。

もしも差し出された手を拒んでしまえば、きっと悲しむに違いない。


微笑を浮かべるリィンを観て、レイは手をゆるゆると上げていく・・・と。


「ほれ!強く絆を交わすのじゃ」


レイが躊躇っている理由を読んだヴァルボアが促した。

言葉の中へヒントを混ぜて。


強く・・・優しくとは言わずに。


その言葉の意味が判った。

本当のレィだったら、リィンを想う気持ちが先に出て優しく手を握るだろう。

だが、人形少女であるのなら痛い位に握ってしまうだろう。

握手という物がどんな意味を持つものなのかなんて、機械には理解出来ない筈だからだ。


― ヴァルボア博士、ありがとうございます


胸の内で感謝を述べ、レイはやっとリィンの手をとった。



 ぎゅッ!



少しばかり強めに握ったくらい・・・だったのだが。



「ひぎゃぁ?!」


途端にリィンが絶叫してしまった。


「これは固すぎるくらいの絆なのねぇ~。痛い位の」


握手にお互いの絆をイメージしたリィンであったが。


「でもぉ~、分かったよレイの気持ちが・・・ね!」


痛さでなのか、嬉しくてなのか。

喜ぶリィンの眼から涙があふれていた。


「ふぅ~、まぁ善き哉善き哉じゃ。

 二人の仲は今、固く結ばれたのじゃ」


目でレイへ握手を解けと合図しながらヴァルボアが囃し立てる。


意図を汲んだレイが握手を解き、手を下げて一歩だけ後退る。

握っていた手はリィンから観えない腰に廻す。

気付かれてしまわないように、観られないようにと。

なぜなら、リィンと同じように喜びで震えてしまっていたから。

人形少女なのに、手が震えているなんて不自然過ぎるからだ。


レイはリィンばかりに気を遣っていたが、後ろに廻した手を観てしまっている瞳があったのには気が付かなかった。



「二人が固く結ばれたからには、リィンタルト嬢はレイを傍に置かねばならん。

 また、少女人形零(レイ)は片時も離れず護らねばならんのじゃ。

 ・・・故に、整備ユニットをリィン嬢へ託すとしよう」


「ほえ?!と、いうことは?」


急にヴァルボアが話を振って来た。

整備ユニットと言えば、人形の充電やら補修迄こなす機械を表していた。


「と、言うことじゃ。

 フェアリー家へ、既に運び込んであるのじゃ」


「は?!」


いつの間に・・・と訊くよりも。


「どうして勝手なことを」


リィンが珍しく眼を吊り上げ・・・


「あたしはもう・・・あの家には帰れなくなるというのに」


そして見る間に落ち込んでいく。


「もう・・・あたしはフェアリーの家には帰れなくなってしまうんだよ」


塞ぎ込むように、次第に声が小さくなり。


「きっと・・・あたしは帰れなくなっちゃうに決まっているんだから」


傍にあった椅子に座り込んでしまった。


様子を見ていたヴァルボアが、怪訝な顔になって問い質す。


「何があったのじゃリィン嬢。

 そこまで嘆くのには相当の訳があるのじゃろう?」


単なる家出とは思えない。

あの活発な少女の面影は無く、悩み苦しんでいるのがはっきりと分かった。


「ごめん・・・ヴァルボア博士。

 こればかりは教えられないの。

 訳は・・・いずれ分かるから・・・それまで待って」


家に帰れないと溢したリィン。

先程まで喜びに沸いていた顔からは想像も出来ない程、苦渋に満ちた表情で応えるのだが。


「でもね、レイをあたしに紹介してくれて嬉しかった。

 レイが傍に居てくれるのなら・・・寂しくはならないと思う」


レイを見詰めながら呟くリィンへ、


「どうしたのじゃリィン嬢。

 どこかへ行ってしまうとでも?」


心配したヴァルボアが訊き質したのだが。


「そうね・・・ここへも、もう来れないと思う」


フェアリー財閥傘下のアークナイト社なのに?


「2日後には・・・きっと」


天井へと顔を向けて、悲し気に教えた後。


「今日が研究室へ来る最後になる日だったの。

 だから・・・無理にでも来たかったの」


遠い目を見せてから、


「だから・・・嬉しかったわ。

 最後の最期に、とびっきりのプレゼントを貰えて」


枯れ果てていた涙を再び流し、博士に礼を言った。





「どんな訳があるのかは知らんが。

 儂達はずっと待っておるぞリィンタルト嬢」


此処へはもう来れないからと言うリィンへ、ヴァルボア達が玄関まで見送りに出ていた。


「ありがとうねヴァルボア博士。

 いつの日にかまた・・・逢えたら良いね」


既に何かを決しているリィンからは、サヨナラの言葉さえ出ては来ない。


「きっと・・・噂が教えてくれるわ。

 その時には訳が分かるから・・・」


翳りのある微笑で応えるリィン。


「だから・・・お元気で・・・ね」


手を振る事も無く、リィンはアークナイト社から出ていく。


「リィンタルト嬢も・・・じゃぞ」


ヴァルボアの声が後ろから追いかけて来たが、リィンは応えようとはしなかった。

それほど気に病み、声すら出なくなっていたのだ。


ただ・・・


「レイ、付き合って欲しいの」


後ろに従う少女人形へ頼んだだけだった。


「逢っておきたい人が居るの」


振り向かずに教えたリィンの足は、市街地へと向かう。


「彼女にだけは教えておきたいから・・・」


消え入りそうな声でレイを促す。


「わかりましたリィンタルト」


少女人形(レイ)は頷くとリィンに付き従う。

何処へ向かって歩くのか、誰へ逢いに行くというのか。




しばらく歩く内にその意味が分かった。


「あそこは中央病院ですが・・・」


レイの人工頭脳には地図が収められている。

自分達が歩いて行く方角から目的地が分ってしまうのだ。


「そうよレイ。

 あなたは知らないだろうけどね。

 あの中には・・・とても大切な人が居るのよ」


振り向きもしないリィンが教える。


「あなたにも会わせてあげるわ」


レイは知らなかった。

本当の自分がどんな状態なのか、どんな姿なのかなんて。

記憶として抜き取られた自分は、フューリーの持っていた毒で倒れたまでしか覚えていなかったのだから。

あの後、自分がどうなってしまっているのかを聞いた事はあっても、目にした事なんてなかった。


「はい・・・逢ってみたいです」


そう答えるのは・・・知らねばならないと思うから。




病院へと入ったリィンは真っ直ぐに集中治療室へと足を運ぶ。

レイを伴って、室内が見渡せる窓辺へと。


「ねぇレィちゃん。新しいお友達を紹介するね」


ガラス窓に手を添えて、そっとベットに臥せる女性ひとへ教える。


「きっとびっくりするよ。

 レィちゃんにいつも話していた子なんだから」


生命維持装置のランプが瞬く部屋に語り掛けるリィン。


「ほら、あたしの分身。

 少女人形の(ゼロ)・・・だったけど、今はレイって呼ぶんだ」


後ろで佇むレイを紹介すると、


「観てよレィちゃん、黒髪で似てるでしょ?

 まるでレィちゃんの髪が伸びたみたい・・・」


控えていたレイを窓辺へと誘った。


リィンが窓辺を開けて、室内を見渡せるようにしてくれる。

少女人形(レイ)は少しだけ躊躇したが、引き寄せられるように窓辺へと歩み寄る。


ー 私・・・私が・・・居る?!


記憶の麗美が現実の自分を観た。

そこに臥せていたのは。


ー 白い・・・まるで死人のよう。


酸素マスクを填められ、心電図や脳波計を着けられている。

それだけでも信じ難いというのに、


「あれがあたしのレィちゃん。

 あなたと同じ名の・・・大切な人なの」


リィンから告げられてしまう。


「このままなら、後一年も保てずに亡くなってしまうの」


余命を・・・命が絶たれてしまうのだと。


「・・・一年で死んでしまわれるのですか?」


何とか他人の振りで訊けた。

自分が亡くなってしまうと教えられても。


でも、リィンは頭を振ると答えてくれた。


「死なせたりするもんですか。

 あたしがどんなことになっても助けてみせるわよ!」


噛み締めるように・・・自分を犠牲にしてもと。


「必ず助けてみせるから。

 レィちゃんを助けれるのなら、あたしは・・・」


ぎゅっと手を固く握り、


「そうだよ、約束したんだから。

 必ず助けるって、誓ったんだから」


噛み締めるように呟いてからレイの横に来て。


「だからねレィちゃん。

 今日はお別れに来たんだ。

 もう・・・此処へは来れなくなるかもしれないから」


まるで今生の別れを告げるかのように・・・


「もしかしたら、あたしは二度とレィちゃんに逢えないかもしれない」


震える唇から溢すのだった。


「え?!」


驚きの声を出したのはレイ。


「なぜ・・・なのですか?」


戸惑いと混乱を兼ねた声が出てしまったのだ。


「大切な人だと仰られたではありませんか。

 どうして二度と逢えないなどと?」


あまりの事で自分が人形なのを忘れかけてしまったレイが、声のトーンを落とさずに訊いた。


「どうしてかって?

 それを教えに来たのよレィちゃんへ」


もう一度窓に手を添えるリィンが、悲し気にレイを観た。


「訳を・・・お話しくださいますかリィンタルト」


なるべく平静を装って、レイとして訊いた。


「そうだね、レイにも訊いて貰おうかな」


少女人形(レイ)なら、話を聞かれても良いと言うリィン。

微かに笑ったように見えたが、口元は震えているようだ。


「ねぇレィちゃんも聞いて。

 二人のお姉さまが亡くなって、葬儀が終わった後。

 あたしはロナルドお父さんと二人っきりになったの・・・」


ぽつりぽつりとリィンが語り始めた。


「あたし達が居たのは、オーク社に関りがあった女性ひとの墓所。

 その人はね、あたしにとってもロナルドお父さんにとっても掛替えの無い人だったの」


あの葬儀の後で、二人の間にあった話。

ユーリィと別れた後で、何が話されたと言うのか。


「その人の名はね、ミカエル。

 あのオーク社会長ロッゾア・オークの娘、ミカエル・オーク」


墓所には確かにオーク社の紋章があった。

そして父ロナルドが告げたミカエルという名。


「不思議でしょレィちゃん。

 なぜオーク社の娘とロナルドお父さんが関りがあるのかなんて。

 でもね、あたしにとっても大きく関わっているんだよ」


関わっていると言ったリィンが首を振り、


「違う、違うよ。

 関わっているのではなくて、大切な人なの」


何かを堪えているかのように首を振り続け。


「分かるかなレィちゃんなら、あたしが言いたい事が。

 父とミカエルさん、そしてあたしに関わっているって意味が」


大粒の涙で頬を濡らす。


「いいえ・・・多分お分かりにはならないでしょう」


少女人形(レイ)は知ってか知らずにか代わりに答える。

するとリィンは急に顔をあげると。


「そうでしょうね。

 誰がこんな話を真に受けるもんですか。

 あたしだって・・・信じられなかったわ」


潤んだ眼を抉じ開けて、


「だってそうでしょ!

 フェアリー家の娘だったあたしに告げられたのは・・・」


レイへと振り向いて叫ぶ。


「あたし・・・産まれて来ちゃったの。

 ロナルドお父さんとミカエルお母様の間に。

 フェアリー家の娘ではなく、ミカエル・オークの娘として!」


まるで産まれて来たのを呪うかのように、リィンが泣き喚いたのだ。



生まれの謂れ。

それは自らのルーツでもあるのだが・・・


リィンは知ってしまった。

母が誰なのかを。

そして悲しい現実を。

生い立ちをレイに教えるリィンの想いはどこに?


次回 Act33 母へ寄せる想いは

フェアリー家は第2次大戦の頃はフィンランドにあった?

ソビエトとの戦争・・・彼の<1年戦争>が起きたときに遡る?

作者注・それが<魔鋼騎戦記フェアリア>の原題です

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