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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8<レジェンド・オブ・フェアリア>魔砲少女伝説フェアリア  第1章王立魔法軍
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王立魔法軍 たった一つの誓い  2話

ルマの元からマリアが辞した頃。

休日初日の陽も落ちて行こうとしていた。


そこは住宅街に隣接する公園。

木々の合間から夕日が差し込む中、ベンチに腰掛けていたのは・・・

太陽がフェアリアの山々に影を造る。

土曜日の昼が終わりを告げ、夜が訪れようとしていた。


夕陽が木立の合間から零れる。

あと僅かもすれば、天に夜の帳が拡がり星が瞬く。

夜ともなれば、北欧に位置するフェアリアは夏前とは言え肌寒くなる。

星空の元で屋外に居れば、温かく迎えてくれる家庭を求めるだろう。


だが、家路に就けない娘が居た。

昼間なら木立が市民を癒す場所だろう公園で、たった独り物想いに耽っている。

いいや、物想いと言うには些か物憂げな表情にも見えた。

夜になろうとするのに、独りで公園に居ることからも深刻さを伺わせているようだが。


「どうしよう・・・どうすれば良いの私は?」


公園に設えてある長椅子に腰かけ、俯き加減で呟く。


「ねぇ、爺や。何か手がかりは掴めないのかしら」


揃えた膝の上に両手で持った狒狒の縫いぐるみへと語り掛けるように問いながら。


「奴からの召喚を待っているだけでは間に合わない。

 こうしている間も闘っている筈なんだから・・・」


焦燥に駆られた声は、覇気を欠いて小さかった。


「あの穢れた空間の主と。

 魔力が続く限り・・・今も尚」


縫いぐるみを握る指先に力が籠る。

苦渋に満ちた心を表わすかのように。


「ええ、判ってるわ。

 今は助けに行けたにしても返り討ちに遭うことぐらい。

 もしもあの子を盾にされでもすれば、キュリアさんのように助けることすらできない」


心の中で縫いぐるみと語り合っているのか、それとも自分の中で理解しているのか。

何かを求める様に喋り続ける。


「それに、奴に奥の手を晒してしまったのですもの。

 異能力を十分に発揮できる状況下では・・・

 簡単には引きずり込むなんて手を打っては来ないでしょうね」


十全に闘える状況では、敵も迂闊には手は出せない。

こちらの弱みを握った後に仕掛けて来るのは悪の常道でもある。


「それが今は整えられてはいない。

 だから、誘いをかけても来ないんだわ」


それが事実だとすれば?


「まだ・・・間に合うかもしれない。

 きっと、あの子は敵手に堕ちてはいないのよ」


ぎゅっ・・・と。縫いぐるみを握り絞める。

微かな希望に縋るように。


「だから。なんとかして手がかりを掴みたいの。

 どうにかして奴の在処を探り出さないといけないのよ」


唇を噛み締め、打開の道を探ろうとする。


「そうね、爺やの言う通りかもしれない。

 今の私では荷が重いのかもしれない。

 誰かの助けが欲しいけど、助力を頼もうにも今の身体では・・・」


だが頭の中で誰かが引き留めたのか、力なく項垂れる様にして。


「この躰でいる限り。

 ううん、人の身体に釘づけにされた状態では神通力もままならない。

 天界への助けも、現界している女神に助けを乞うのも出来ない。

 今出来るのは、人の身体で闘うだけだもの」


自分の姿に目を落とすだけだった。

項垂れた拍子に、長い前髪がしな垂れる。

夕陽が落ち、星の明りが髪を染める。

黒髪に星明りが反射し、まるで青白く染まったかのように観える。


「そうね爺や。

 この躰から出ることは・・・出来なくなったわ。

 そんなことをしたら、この躰に死を齎すかもしれないもの。

 魂の抜け殻になってしまえば、いつ呼吸が停まるかもしれない。

 ううん、心臓だって停まってしまうかもしれないんだから」


髪だけでなく、顔色も蒼白とも云えるぐらいにほの白く見える。

まるで現世に紛れ込んで来た霊魂のように。


「もしも、この躰が朽ちてしまえば。

 あの子の魂が還って来られても、人として生き返れない。

 二度と・・・美晴として生きてはいけなくなってしまうんですもの」


ポツリと溢すのは、本当の身体の持ち主を気遣う言葉。


「元の鞘に収まれなかったら。

 何の為に助け出すのか・・・意味も無くなってしまうわ」


どうして今があるのか。

なぜ必死に助けようと藻掻いているのかも。


「だから。

 だから!

 何が何でも助け出してあげなきゃいけないのよ。

 この躰を美晴へ返さないと。

 女神の私ではなく、人の美晴に生き続けて貰う為に!」


狒狒の縫いぐるみを見詰め、思いの丈を吐く。


「そうしなきゃ・・・約束を破ることになるの。

 理の女神様にも・・・お父様やお母様へも。

 誇美わたしは約束したのよ、たった一つ。

 必ず光の御子を護り抜くからって・・・」


星空に月が昇り始める。

薄明るかった大地が、月の光を受けて煌々と照らし出される。

垂れた前髪に光が差し、青白かった顏にも朱が差す。


「そうよね爺や。

 あの子だって諦めないと言っていたのだから。

 助ける側が諦めてちゃぁいけないよね。

 どんなに困難だろうとやり遂げなきゃならないものね」


苦渋に満ちていた顔に、微かな希望を宿し。


「私は美晴として、この世界で生きるわ。

 あの子が戻るその時まで。

 たった一つの誓いが果たされるその瞬間まで。

 女神としてではなく人として闘うわ」


美晴を助け出す為に生きると誓うのだった。

それは生き残る為に闘うのも辞さないと決心した女神の誓い。

この躰を本当の持ち主へと返す為には、どんなことをしてでも生きると決めたのだ。


「喩えそれが、どんなに罪深かったとしたって」


スッと顔を挙げて立ち上がる。

片手に携えた狒狒の縫いぐるみを握ったまま。


「だから今は・・・美晴の居るべき場所に戻ろう。

 生きているのなら、帰るべき居場所へと」


傍らに置いてあった鞄へと縫いぐるみを入れ、長椅子を離れた。

公園から出て、市街地へと歩み出す。

その先にあるのは・・・<あの子>が帰るのを望んだであろう場所。




「すっかり遅くなっちまったなぁ・・・」


足を速めて家路を急ぐ。


「ミリア母さんがわざわざ夕飯を共にしようって言ってくれてるんやから。

 遅刻する訳にはいかへんやろ」


喜び勇んで家路を急ぐ理由は、久しぶりの母娘おやこ水入らずの食事の為。


「前もって話してくれていないのは驚かせようとしてるからなんやろ~な。

 それやったら、ルマ司令官から聴いていないことにしたほうが良いんやろうな。

 心底驚いたふりを見せた方が良いやろ~な」


駆ける間も顔が綻んでしまう。

先に家へと辿り着けるのが、どちらであろうとかまわないと思った。

久しぶりの母娘の対面が叶うのならば。


「あっと。そや、この公園を抜けた方が近道や」


木立の向こうに街灯りを見つけ、公園を横切るのが早いと判断した。

そこで躊躇する事も無く、月明かりを頼りに園内へと駆け込んだ。


「よっしゃ!今夜は月が明るぅて困らんで済むわ」


煌々と月の明かりが辺りに降り注いでいる。

街灯もまばらな公園でも、道に迷うのを気にしなくて済む。

木々の合間を駆け抜け、中程にある広場まで来た時だった。

何かが直ぐ脇を通り抜けていこうとしているのに気付いたのは。


「ん?なんや、人影か?」


正反対の方角へ向けて、何かが過ぎ去ろうとしているが観えたのだ。


「あれ・・・って?」


ふわりと月光を反射させて靡くモノ。


「まさか?」


長い髪・・・白っぽく見えるのは月の光の所為なのか。


「せやけど・・・似てたような?」


瞳の色までは確認出来なかったが。


「美晴だったような気がするんやけど?」


前髪に隠れていた表情を観て思った。


「他人の空似かいな?

 あんなに険しい顔をしとる訳が無いんや。

 家路を急ぐにしたって、唇を噛み締める意味が無いんやから」


すれ違った人影が見知った相手だとは思えなくて。


「それに・・・や。

 いつも美晴はリボンを結っとるんや。

 今すれ違ったは長い髪を靡かせたままやった。

 まるで月夜に現れた魔女のように髪を乱れさせていたんや」


立ち止り、公園の中へと消えて行く人影に振り返りつつ思った。


「考え過ぎやろ。

 美晴はミルアと病院へ行ったんや。

 お見舞に行っただけなのに、こんな遅くまで居座る筈もないんやしな」


そう呟いたマリアだったが、ルマの許から辞するまで美晴が帰宅しなかったのを気にかけてもいた。


「どうせミルアの奴が帰さなかったんやろ。

 あいつも美晴のことを好いているようやしな」


そう言ったマリアだが、気懸りなことがあった。


「ルマおばさんも美晴が遅いことを気にしてない素振りやったし。

 ウチに約束を守るように頼んで来たし。

 なんか・・・調子が狂ってまうなぁ」


夕刻まで居た美晴の家で、母親から頼まれたのを思い出す。


「美晴が変ってしまう?

 そりゃぁ軍人になってもうたんやし、変わるやろうけど。

 これまでだって運命に翻弄されて来たんやし・・・」


ルマの真剣な眼差しを思い出し、その意味を図りかねてしまう。


「ま。美晴が変わろうが変わるまいが。

 ウチは親友を護るって決めてるんは変わらんけど」


今考えたって、どうにもならない。

何度試されても二度と手放す気にはなれない。


「喩え戦場だったとしたって・・・や」


振り返った先に観えていた人影も、もう見えなくなった。

もし、本当に見知った相手だと判断出来たのなら、一声ぐらいはかけただろう。

そうしなかったのは、長い髪の人影が誰なのかも分からないことを裏付けていた。


「美晴やったら、気付いて立ち止ったやろし。

 何かあるにしたって話しかけただろうしな」


影を追うのを止め、前を向いたマリアが切り替える。


「今夜は深く追求せやへんでおこう。

 月曜になってから訊いたらええのんやしな」


この二日だけは、ミリアとの時間を大切にしようと考え。


「美晴の事はルマ司令官に任せておけばええやろ」


親友は母に委ねておけば良いと思った。


「さぁ~て。

 ほんじゃぁ、ひとっ走りするか」


ほんの僅かだが時間を割いてしまったのを取り返すかのように、マリアが駆け出す。

母が待つであろう家へと。

最後の休日で心残りが無くなるようにと・・・

知らずに二人はすれ違った。

美晴の姿のままで駆け抜けた誇美だとは知りもせず、マリアは母の許へと急ぐ。

一方、仮初の身体で家路を急ぐ女神のコハルだったが。

ルマに何と伝えれば良いのかを想い悩んでしまう。

そして導き出した結果は?


次回 王立魔法軍 たった一つの誓い  3話

家へと帰りついたが、出迎える母は仮初の娘だと看破するのだろうか?

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