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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8<レジェンド・オブ・フェアリア>魔砲少女伝説フェアリア  第1章王立魔法軍
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王立魔法軍 たった一つの誓い  1話

挿絵(By みてみん)


邪なる敵に拠り引き裂かれてしまった美晴と誇美。

現実世界で美晴の魂を取り戻すまでは、誇美が代わりに生きねばならなくなった。

人である美晴が生きて戻れる為に生き続けなければならなかった。

それがどんなに辛く苦しいとしても・・・

出撃前の最後の休日だった。

土曜日の昼から日曜の検番までの僅かな時間を、有意義に過ごそうと思っていた。


「美晴はミルアと見舞に行ってもうたしなぁ。

 実家に帰るって言うても、ミリア母さんは出仕で留守やし・・・」


第3種軍服を着たマリア中尉が、空を見上げて溜息を溢して。


「当てもなくぶらぶらしてたってしょうがあらへん。

 ここは大人しく実家で身の回りの整理でもしとこうか」


母が帰って来たら、出撃する事を告げておこうとも考えて。


「それでも暇やったら。晩にでも美晴の家に行こか」


独りで休日を過ごすのは、もの悲しい。

せめて、最後の休日だけでも温かい気分を味わいたかった。

これからどう過ごそうか物思いに耽って歩いていたマリアだったが。


「あら?マリア魔法軍中尉じゃないの」


不意に誰かに呼び止められた。


「あ?!ルマ中佐・・・いや、美晴のお母はん?」


振り返った先に観えたのは、見知った人の優し気な顔。


「ふふ。そう言えば今日は土曜日だったわね」


昼下がりの市街地を、どうどうと軍服姿で闊歩していたマリアを観て。


「っと。そう言う私も半ドンなんだけどね。あはは」


朗らかに笑うのだった。


「良いのですか?司令官が土曜の昼間から休みを執って」

「良いのよ。今日だけぐらいは」


軍務に支障が出ないのかと心配したマリアに対し、ルマがはぐらかす様に答えて。


「聞いてるわよマリアちゃん。出撃が迫っているんだってね」

「はい・・・あ?!」


八特小隊が出動するのをルマが聞き、これが最後の休日になると判っているようだった。


「折角の休日なのに、留守にしておくのは寂しいじゃない?」

「そう・・・やったんですね」


これが出撃前の最後の休日になる。

それが分っているからこそ、ルマは帰宅すると言ったのだ。


「喜ぶと思いますわ、美晴が」


母と娘、二人っきりで過ごせる休日は何ものにも代え難く思えて。


「ええなぁ~。ウチもミリアお母はんと過ごしたかったわ」


帰っても会えないと思い込んでいるマリアが羨ましがる。


「あら?聴いてなかったのマリアちゃん。

 ミリア大臣補が夕飯を一緒にしようって仰られてたのを」

「え?」


羨ましがったマリアに、ルマが逆に訊いて来る。


「あ・・・これって、サプライズだったのかしら?

 あ~ら、ごめんなさいねぇマリアちゃん。バラしちゃったわ」


オホホと笑ってウィンクを送って来るルマに、目を見開いたマリアが。


「ホンマでっか?!お母はんが・・・帰って来てくれはるんでっか!」


喜色を浮かべた表情で訊き返した。


「嘘や冗談で言える筈が無いでしょ。

 ミリアさんだって元は軍人だったのですもの。

 娘が出撃を迎えるって言うのに、逢わずにいられる訳が無いわよ」


「はい!ありがとうございますルマお母はん!」


感謝の面持ちで頭を下げるマリアに、今度はルマの方が訊いて来る。


「ところでだけどマリアちゃん。

 こっちのお惚け娘は早々に帰宅したかしら?」


自分の方が早く帰宅することが出来るのならば、驚かせようとでも思ったのか。


「あ?いいえ、多分まだだと思いますけど」


マリアからまだ帰ってはいないと知らされて。


「そう?だったら夕飯の準備は間に合いそうね」


少しだけホッとしたような顔で応えて。


「どこかに寄り道したの?」


まだ帰宅していない訳を訊くのだった。


「はい。ウチの小隊員に付き添って。

 中央病院へ見舞いに寄っている筈なんで」

「そう?それなら、もう少し時間がかかりそうね」


帰宅が遅れている理由を知らされたルマだったが、何故だか表情を曇らせた。


「何か気になる事でもありましたんか?」


それに気づいたマリアが訊くと。


「いいえ、何でもないわ。

 それよりもマリアちゃん、夕方までは手持ちブタさなんじゃない?

 良かったらうちに寄ってかないかしら?」

「え?!良いんでっか」


マリアを家に招待するのだった。


「良いのよ、遠慮しなくたって」

「それじゃぁ、お言葉に甘えさせて頂きますわ」


快諾して貰ったマリアが、喜んで美晴の家にルマと同道したのは言うまでもない。



「ゆっくりしていってねマリアちゃん」


リビングに入り、ソファーを勧めたルマがキッチンへと向かう。


「あ、お構いなく」


後ろ姿を見送るマリアは、少し前を思い出していた。


「ここで・・・ウチは美晴と。

 初めて愛し合った・・・んやったな」


ルマが留守にした時、懐かしさと愛おしさのあまり求めあってしまったのを。


「ホンマに。女同士やってのに・・・百合の華を咲かせてしもうたんやな」


数週間前の事とは思えないくらい鮮明な記憶。

二年もの間、手紙以外では伝えられなかった想いの果てに。


「あんなにも艶っぽくなってるなんて、反則やろ美晴」


身も心も、重なり合えば合う程に離れ難く想えて。


「せやから。絶対に守るって思えるんやで」


座っているソファーを指でなぞり、誓った想いを口にする。


「喩え戦場でだって。約束を果たしてみせるんや」


大切な想い人を守る・・・それがマリアが誓った唯一つの約束。


ソファーに視線を落としていたマリアの前に、カップを手にしたルマが立っていた。


「あの子との想い出に浸っていたのかしら?」

「え・・・っと。そうです」


顔を挙げたマリアが肯定すると、向かい合わせに腰を降ろしたルマがカップを差し出す。


「どんな想い出?あの子に何を想うの」

「え?!いやあの・・・それはその」


急に問い質されたマリアが、顔を赤く染めてしどろもどろになる。


「日ノ本に居た頃の思い出かしら?

 二年も経ってしまったものね、懐かしいと思うわ」

「いやあの・・・それはそうやけど?」


知ってか知らずか。ルマから思いもかけない話を振られて。


「あの頃は何に対したって精一杯やったし・・・」


魔法少女として闘いに明け暮れ、恋や愛には縁遠い生活を送っていたから。


「同じ魔法少女として。仲間として・・・友として。

 想いを同じくする絆を絶やさないようにって・・・闘ってましたんや」


邪悪な敵に対峙してきたのは、友との絆があったからだと答えるに留めた。


「そうだったわね。

 二人はいつも一緒に闘ってきた。

 それは今後も・・・続けられるのかしら?」

「当たり前でっしゃろ!美晴は直属の部下なんやし」


対してルマが求めて来た事に当然だと返すマリア。


「もし・・・もしもの話よ?

 あの子があの子では無くなったとしても。

 マリアちゃんは約束を守ろうとしてくれるのかしら?」

「は?言ってはる意味が分からへんのやけど」


続けて問われたのは、美晴が代わってしまったとしたらの喩え。


「だから、もしもの話なの。

 あの子が別人になっても受け入れてくれるのかしら。

 遠い存在になったと分っても・・・約束を守れる?」

「美晴が別人に?」


急な問いに戸惑うマリアが口籠ると。


「あなたの知らない子が、美晴の身体で現れたのなら。

 あの子を護ると誓ったマリアちゃんは・・・どうするのかしら?」


続け様に問われてしまった。


「それって。

 別人に身体を乗っ取られたってことやん?

 だったら、そいつから美晴を取り戻さなあかんのとちゃうん?」


意味が飲み込めないマリアが訊き返すが。


「いいえ。

 その別人格も美晴の一つだとすれば?」

「そんなん・・・美晴とは違うやんか・・・」


別の人格も美晴だと答えられたマリアが、一呼吸飲み込んで。


「でも、別人格に変わったとしたって美晴は美晴なんやろ?

 だったら決まっとる。ウチはずっと前から決めてるんや。

 約束を・・・守るってな!」


喩え過去の想いを忘れてしまった美晴だとしても。

必ず約束を果たしてみせるからと、ルマに答えた。


「・・・そう。

 あの子は幸せ者ね」


きっぱりと言い切ったマリアに、ルマが微笑む。


「戦場へと赴く娘に、これ以上の言葉は無いわ。

 ありがとうマリアちゃん。いいえ、八特小隊長殿」


感謝を表した母の顔で。


「それを聞いて、胸の痞えが消えたわ」


それと、先程までの憂いが消えた眼差しをマリアへと向けて。


「なんか・・・あるんでっか?」


突然の問いに、訝しむマリアが訊くと。


「無いわ。只、聴いておきたかっただけ」


微笑んだままのルマが応える。


「あの子とマリアちゃんの仲が固いって確かめただけ」

「そりゃぁ・・・小学校からの親友なんやし」


固い絆の二人なんだからと言おうとしたマリアだったが、


「この前ここで愛し合った仲なんやし・・・あ」


つい、口を滑らせてしまった。


「ほほぉ?それはまた大それたことを?」

「うわわわッ!ちゃうんや、誤解せぇへんといて!」


ジト目で観て来るルマに、慌てて言い繕うとするマリア。


「おませちゃんなんだから、マリアちゃんって」

「いやいや、ホンマなんやから!」


二人は互いに目を併せると。


「ふふふ」

「あはは!」


噴き出すように笑いあえた。



夕刻。

一頻り談笑しあった後。


「それじゃぁ。また」


玄関で再会を約すマリアが居た。


「無事で。帰還される事を祈っています」


送り出すルマが、


「あの子の事を頼みます」


そっとマリアを包み込む様に抱く。


「はい!必ず帰って来ますから。二人で」


それに応える様に、マリアが誓いを立てる。


「待っているわね。その日を」


手を解き、娘と同じ歳の隊長へと贈る。


「健勝を祈念しております」


それに応じるのは。


「誓って。期待に添いたてまつらん」


今は軍人となった娘の友。

サッと額に手を添える軍礼を贈り、友の母への餞とする。


「還ってくるのよ、マリアちゃん」

「分っていますとも!」


最後は・・・笑顔で。

これが今生の別れでは無いとばかりに。


送り出すルマがマリアの背を見守り続ける。

送り出されたマリアは、背中で応える。


「これが最後にはしない。

 きっと・・・帰って来ますから」


親友の母への・・・想いを載せて。


マリアは知らなかった。

美晴が戻って来れなくなったのを。

だが、母親のルマは何かを感じ取っている?

見舞いへと向ったと聞いて表情を翳らせたのが意味しているのは?

誇美は辛い気持ちで仮初の身体を撫でる。

女神としてではなく人として、美晴の代わりに現実世界に居たから。


次回 王立魔法軍 たった一つの誓い  2話

後悔から敗北感が誇美を包み込む。その姿は思い悩む人と変らなかったが?

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