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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第5章 産まれの謂れ
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Act31 生まれ変った この身体

挿絵(By みてみん)

第5章 産まれの謂れ


2人の少女が辿るのは運命と言う川。

穏やかに見えた流れは、やがて奔流となって襲いかかる・・・


機械兵を大量に製造し、一躍名を轟かせるようになったオーク社。

嘗ては闇社会のドンでしかなかったロッゾア・オークに率いられ、世界中の紛争地帯へ武器として売りさばいて富を勝ち得た新進の企業。


裏では闇の世界で暗躍し、ライバル企業を根こそぎ懐柔する・・・いいや、潰していくようなマフィアじみた手口を採っていた。

僅かに15年そこらで、これ程迄のグローバル企業になれたのも会長に収まっているロッゾアの手腕があったればこそだったが・・・




取り巻きは慇懃に会長に諂う。

シークレットサービスと言えば聞こえは良いが、会長の身を守る屈強な男達の眼が怖ろしいのだろう。

もしも下手なことを口走ろうものなら、忽ち男共に連れ去られてコンクリート詰めにされてしまうかもしれない。

会長が闇社会のドンであったことを知っていれば、尚の事逆らう事など出来よう筈が無かったのだ。


「おい!フェアリーのおてんば娘はどうなっているんだ。

 彼是3日も経っているんだぞ、早く呼び出さんかのろま共めが!」


ロッゾアの怒りが手下に向けられる。


「は、はい。既にエージェントは放ってあります。もう間も無くかと」


声を荒げる会長に、一人の部下が報告する。


「間も無く・・・だと。

 何度同じセリフを俺に返す気だ」


報告した部下であり手下の幹部へ威圧的な眼を剥いて罵った。


「い、今しばらくの猶予を」


どうやら報告を入れた男が担当らしいのだが。


フン・・・と、鼻を鳴らしたロッゾアが傍らに控える黒服の男に目配せする。

すると二人の黒服が運の悪い担当を小脇に抱えて引き摺りだす。


「ま、待ってくださいボス。

 もう一度チャンスを!」


慌てて許しを請うが、シークレットサービスの男達に引き摺られて部屋から消えてしまった。


「俺は気が長くはないと知ってるだろうが」


呟いたロッゾアは小太りの身体を揺すって部下達に背を向けると、


「お前等も・・・だ。

 後1週間以内にタワーを完成させろ」


有無を言わさぬ低い声で、世界最大の秘密要塞を竣工させろと命じるのだ。

タワーの外郭は出来上がっていた。

残りは最上部に備えられた、紫の巨大な珠の部分。


「あれさえ出来上がれば、俺が世界を牛耳れるのだからな」


珠の中に納められている物を想い、


「人類全てを俺の言いなりに出来るようになる。

 いいや、俺が本当の暗黒王となり世界を好きなように動かせるのだ」


嘲笑うかのように吠えたてるのだった。





 ・・・ニューヨーク アークナイト社研究棟内部・・・




眼の下に隈を造って、心非ずな顔を見せている。


「本当に大丈夫なのかいリィンちゃん?」


葬儀が終わってから2日。

出向いて来たリィンはいつもの明るさが全く見えなかった。


本当なら屋敷で静養をとっている位の窶れた顔を見せているのだが、今日はヴァルボア教授からのたっての頼みを聞いてやってきたのだったが。


「もうすぐヴァルボア博士が来るから」


声をかけるエイジに返事も返さず、唯虚ろな瞳を彷徨わせているだけのリィンへ。


「きっとリィンちゃんも驚くと思うんだ。

 ボクだって教えられた時には腰を抜かしそうになったんだもの」


教えて来るエイジの眼が、基礎台に立っているレイに向けられる。


「・・・エイジちゃん、誰が驚くの?

 あたしはね・・・もう、どんな事だって驚いたりはしないよ」


ぼそりと小声で答えるリィンの表情には覇気を感じられなかった。


「だって・・・あたしは・・・」


呟くリィンは項垂れ、泣き疲れた瞳を伏せる。


「あたしは・・・此処に居てはいけないの」


傍に居るエイジにさえ聞こえない位の小声でそう言った・・・時。



「お待たせしたのぅリィン嬢」


リィンとは正反対に明るいヴァルボア博士の声がかけられた。


「本日只今、彼女が生まれ変わったのをお知らせするぞぃ」


研究室に入って来た博士が手に携えたリモコンを差し出して来る。


「ヴァルボア・・・何が生まれ変わったと言うの?」


突き出されたリモコンを珍し気に観て、


「そのリモコンは・・・何の為の装置?」


気怠そうにヴァルボアとリモコンを眺めて訊いたのだった。


「言ったじゃろう。彼女が生まれ変わったんじゃと。

 最初の起動はリィン嬢に任せると言う意味じゃ」


「彼女?え・・・え?彼女って?」


頭が巧く回らないリィンが戸惑いをみせると。


「ほれ・・・レイを目覚めさせてみるんじゃ」


にこりと笑ったヴァルボアが、リモコンをリィンの手に掴ませる。


「充電も整備も完了しておる。

 後は・・・リィンタルトが起こしてやれば良いのじゃよ」


「え?レイを・・・って。起動させるだけなの?」


起動させるくらいなら、今迄だってやって来た。

特別に構える必要なんて無い筈だと、3割頭のリィンは考えた様なのだが。


「ふむ・・・物は試しじゃぞリィンタルト嬢。

 仕上げは自分の眼で確かめてみるもんじゃ」


ほれほれ早うしろ、とばかり急き立てるヴァルボア。


「その蒼いボタンを押し込めば善いだけじゃ」


リモコンに付いている青いボタン。

言われるままに指を載せて、


「これ?これを押せば何が起きると言うのよ?」


なんだか分からないまま。




 ポチ・・・と。



リィンの指がボタンを押し込む・・・と?!



 プツン!



遠隔操作のボタンが押し込まれた瞬間、部屋中の電気が消えてしまう。


「わッ?!」


流石にリィンも面食らったのか、驚いたような声を出してしまった。


「ちょっとぉヴァルボア博士。何も見えないじゃないの」


起動ボタンの筈が停電させるなんて聞いてないから・・・と溢した後で。


「え?何かが・・・え?!」


暗がりの中で何かが近寄って来る気配を感じて。


「なに?誰?」


目の前に誰かが居る気配がした。



 パッ!



証明が一斉に点灯した。

いきなり眩い光を受けた瞳孔が追い付かず、黒い何かだけが眼の中へ入って来る。


「誰・・・え?」


光の中に黒い影が目に映る。


「え?!ええッ?」


やがて眼が光に馴染むと、飛び込んで来たのは。


「レ?レイ・・・レイなの?」


少女人形レイの姿が飛び込んで来た。

目の前に自立している少女の姿が。


「どうじゃリィン嬢。

 これより先は自己能力で動けるのじゃぞ。

 人工頭脳で考え、人と同じように立ち振る舞えるのじゃ!」


ヴァルボアが解説する。

今より先はレイは自分の意思を以って行動できるのだと。


「これが自動人形オートマタ

 レイが人類最初の人形少女ヒューマドール

 リィンの友として生まれ変わった姿なのじゃよ」


立ち尽くしてレイを観るリィンへ教え、


「これよりはリィン嬢の傍に置いて欲しいのじゃ。

 傍に控え、如何なる時も守り続けれるようにじゃ」


少女人形は守護者(ガーディアン)になったとも告げたのだ。


「レイが?あたしを守るの?」


「そうじゃぞリィン嬢。

 如何なる時も、如何なる相手だろうとも・・・じゃ」


きっぱりと言い切るヴァルボアの眼が、レイにウィンクを贈る。

するとレイがコクンと頷き。


「私はリィンタルト様の忠実なるしもべ

 今よりはレイとお呼びくださいませ」


まるで本当に生きているかのような声を出したのだ。

しかも・・・その声色は。


「レ・・・レィちゃん?!」


病床に臥せっている麗美の声と瓜二つだった。


「嘘・・・本当にレィちゃんそっくりな声」


眼を見開き、驚きで口元を隠すリィン。


「どうじゃ?驚いたじゃろう」


驚きのあまり固まってしまったリィンへ、


「彼女の代わりに、レイが現れたとでも思ってくれれば良いのじゃ」


もう一度レイへ向けてウィンクしたヴァルボア。


「どうぞ宜しく引き回しの程を」


それには答えず、レイが恭しくリィンへ頭を下げると。


「う・・・う・・・うわぁ・・・うっく」


急に泣き出すリィン。


「おやおや、感動のあまり泣いてしもうたか」


顔を伏せて泣き出したリィンを、感動のあまりだと認識したヴァルボアだったが。


「ちっがぁ~うぅ!

 レィちゃんは平等を好むの。諂うなんてしないんだからぁ」


どうやらレイが僕と言ったのが気に入らなかったようだ。


「それに少女人形のレイはお友達!

 絶対に下僕なんかにはさせないんだからぁ」


泣いて怒るリィン。

だが、その声は嬉しさをも匂わせているようだ。


「だ~かぁ~らぁ~!

 これからはリィンのお友達に成ってよ。

 ううん、これからもずっと。

 あたしとの絆は消したりしないって約束だよ」


泣き顔のままレイに願って。

微笑を微かに表した瞳で、新たに変わった人形を見詰めて。


「だからねレイ。

 リィンと一緒に、いつまでも!」


そっと手を差し出したのだった・・・

少女人形となって蘇ったレィ。

朗らかだったリィンの顔には翳りが見える。


なぜ?

何を気に病むのか?


その訳は・・・あの人の前で告げられようとしていた。



次回 Act32 聴かせて?

君の涙の訳を・・・聴かせて?

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