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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8<レジェンド・オブ・フェアリア>魔砲少女伝説フェアリア  第1章王立魔法軍
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王立魔法軍 魔砲少女は斯くて闘う  6話

時代は再び混迷へと向っていた。

国境での紛争が伝わる中、八特小隊では厳しい訓練が続いていた。

それはまるで即応態勢を整えるかのようだった・・・

造兵局での検分から二日が経った。

事故で動けなくなった二両も、整備班の懸命の努力で漸く稼働出来るまでに漕ぎつけた。


試乗を兼ねた訓練が再会され、新車両を任される手筈になっている美晴にも搭乗割が与えられた。

八特小隊は、これに拠って3つのペアが出来たことになる。


「車長~ぅ?ねぇミハル車長~ぉ?」


搭乗訓練を終え、整備所ブンカーへと戻った戦車で。


「呆けている場合じゃないですよ~ぉ?」


まだエンジンが停められていない戦車の騒音に負けじと、大声でキューポラの美晴を呼ぶのは。


「うん?何か言ったミルア伍長」


操縦席ハッチから半身を覘かせているミルアに、やっとのことで気が付いた。


「何か・・・じゃぁないでしょう!

 搭乗訓練が終わったのなら、まず第一に報告する義務があるんじゃないですか」


「ほぇ?・・・あ。

 そうだった!順番待ちの搭乗者に申し継ぎしないと」


停車した戦車から降りず、放心状態だった美晴へミルアが具申してくる。

訓練で使用する車体は、一つのペアだけが使える訳ではない。

いちいちエンジンを停めていたら、再始動時に係る時間が無駄にもなるし燃料も余分に消費してしまう。

何より完熟訓練なのだから、エンジン起動は訓練項目には入ってはいないのだ。


「ミハル車長!ほら、急ぎましょう。

 レノア少尉が怖い顔で待ってますって」

「わ、分かった!」


ミルアに急かされて、慌ててキューポラから抜け出た美晴が待機所へと駆ける。

その待機所では、全体指揮のマリア中尉が眼を光らせていた。


「遅い。停車から2分もかかってるぞ」


ブスリと叱責混じりで文句を言うのは、次の搭乗割を与えられているレノア少尉。


「す、すみませんッ!」


それに平謝りする美晴。


「未だに初搭乗の気分が抜けないのか?

 それとも何かミスでも仕出かしたか?」


「い、いいえ!降車する際の確認事項に手間取ってしまいました」


車体から降りるのに時間がかかってしまった理由を問われた美晴が答える。


「砲側閉鎖弁のシリンダー内に、僅かな歪があるのを見つけましたので」

「ほぅ?整備班でも見つけられない程の・・・か?」


レノア少尉は少なからず驚き、傍らに居る整備員へと命じる。


「砲塔内の照準装置、ならびに装填器の確認を急げ」

「はッ!了解です」


命令を受けた整備員達が工具を手に駆け出して行く。


「ミハル候補生。

 他に引き継ぐ事項はあるのか?」


機付き整備員が車体に取り付くのを眺め、他に気付いた点が無いかと質す。


「はい。これと言った事はありませんでした」

「うん、よし!」


引き継ぐべき注意点が、他には無いと聞いたレノア少尉が頷いて。


「小隊長!

 申し継ぎ事項に留意し、搭乗訓練にかかります。

 使用機は2号車。訓練内容は完熟搭乗。

 レノア少尉、発進許可を願います」


指揮所に座るマリア中尉へと申告した。


「宜しい。許可する」


それに対し、マリア小隊長が訓練の許可を下す。

即座にレノア少尉は車体へと走り出す。

その姿は普段とは別人との思える程のきびきびとした態度だった。


「やる時は、やりますからねぇレノア少尉って」


横に居るミルアも、見送りながら小さな声で教えて来る。


「うん、そうだね。やっぱり軍隊なんだよね」


美晴も車上の人となるレノアを感慨深げに見送って。


「あたしも。もっと頑張らなくっちゃ」


イザと言う時に備えて、技術の習得に勤めないと言うと。


「頑張っておられますよ、候補生は」


努力を惜しんでいないと、ミルアが称えてくれた。


「え?あ・・・うん。ありがと」


褒められた美晴は、少し顔を染めて感謝する。


・・・と、そこに。


「小隊長!司令部より命令書が届きました」


通信兵が書簡を携えて駆け込んで来る。


「・・・読め」


極秘文では無いとみたマリアが、その場で読めと命じる。


「はい、読みます。

 発<魔法軍司令部>、宛て<第08戦車特別小隊指揮官>

 本文。<新車両受領後直ちに出撃準備を完遂せよ>です」


通信兵が抑揚をつけて読むと。


「それだけか?他に何か言って来ていないのか?」


何かを感じ取っていたのか、マリアは加えられた文言があるとみていた。


「は・・・はい。

 <出撃に際しては特務要員を随伴するものとす>・・・以上です」


その答えが<特務要員>が小隊に随行すると言っていたのだ。


「特務・・・要員か」


そこに何某かの意味があるのを悟らされる。

魔鋼騎小隊に随行する要員が、何を監視するのだろうか?


「よし。命令を受領したと返しておけ」


通信兵に司令部への答申を命じたマリアが、黙り込んだ美晴を観て。


「来るべきものが来たよ」


遂に懼れていた事態に巻き込まれると、覚悟を仄めかして。


「出撃命令が下されるまで、訓練に勤しむ様に」


まだ、出撃の日までは幾日かは余裕があるとも踏んで。


「休暇日には、心残りの無いよう。過ごすように」


そして戦場いくさばへと臨む武人としての心がけを言い渡すのだった。



「遂に・・・来ちゃうんですね。

 本当に戦場へと行かねばならないんですよね?」


顔を強張らせるミルアが、美晴へと訊く。


「覚悟は・・・出来てるのミルア伍長は?」


血の気が引いたミルアの横顔を見て、


「解ってるよ。まだ心残りがあるんでしょ?」


病院に残していく母親を想っているのが判ったから。


「・・・はい」


先程までとは打って変わって沈痛な声で答えるミルアに。


「この週末は、お母様の所で過ごしてあげてよ。

 あたしからもマリア小隊長に上申してあげるから」


外泊の許可を求め、親子水入らずで過ごすように勧めるのだが。


「あ、あの!

 宜しければ・・・その。

 ミハル候補生も一緒に来ては頂けないでしょうか?」

「え?!あたしも?」


突然の申し出に、面喰って戸惑う。


「以前に助けて頂いたのを、母に聞かせていましたので。

 お礼を申し上げたいと常々聞かされていましたから」


初めて出逢った晩の経緯を教えていたから、どうしても会わせてあげたいと言われてしまう。

もしかすると最期の機会になるかもしれないと思えば、無碍に断れる筈も無くて。


「そっか。

 うん、それじゃぁ一緒に行こうか」

「はい!母も喜ぶと思います」


病に伏せる母親を想うミルアからの誘いを受けることにした。


「きっと。母の病状も良くなると思いますから」


快諾した美晴に謝辞を返したミルアが、表情を隠しながら小声で言う。


「ミハル候補生が母に会ってくれれば・・・きっと・・・」


言葉の裏に秘められた意味を悟られまいとして。


「じゃぁミルア伍長。週末の休暇日に」


含まれた意味を知りもしない美晴が改めて約束すると。


「あ・・・はい!約束ですよ」


一瞬、言葉に詰まったミルアだったが、気を取り直したように頷き返して来る。

だが、その顔には微かに翳りのような暗さが現れていた・・・



その日の搭乗訓練も終わり、解散が命じられた後。


「ちょい待ち、美晴」


周りに隊員の姿が見えなくなった時だった。


「うん?なぁにマリアちゃん」


二人だけの気安さか、マリアが日の本語で呼びかけて来たのに応えると。


「出撃の件なんやけど。気にならへんかったか?」

「え?そりゃぁ・・・まぁね」


マリアが気にしているのが、自分が戦闘に巻き込まれてしまう事だと思った。


「本当に出撃って命令が来たら・・・やっぱりね」


心の奥底に仕舞い込んでいた恐怖が呼び覚まされてしまう。

フェアリアに還って来て、一番に懼れていた日が来てしまったから。


「でも、マリアちゃんも居てくれるから・・・モルモットなんかじゃないしね」


初めマリアもこの日が来てしまうのを恐れ、美晴を除隊させようとまで仕向けた。

我が姫と呼ばれる集団に拠り、実験体モルモットにされてしまうのを懼れてもいた。

だが、ルナリーン中佐の謀は失敗に帰し、八特小隊に属したままだったから・・・


「ちゃうちゃう!

 言いたかったんわ、電文に付随してた<特務要員>って奴のことなんや」

「・・・へ?」


大真面目に切り出すマリアへ、拍子抜けた顏を向ける美晴。


「命令にあったやんか。

 誰だか分からない奴が付いて来るって」

「あ・・・そう言えばそうだったっけ?」


てっきり自分を心配して話しかけてくれたとばかり思い込んでいた美晴には少々残念に思えたが。


「特務要員って。どんな仕事なの?」


なぜマリアが気にしているのかが分っていなかった。


「それなんや。

 特務って言う位やから、内密に執り行われるってことやないか?」


で。訊かれたマリアにも実際の処、分かっていないみたいだった。


「秘密裏に?何を調べるんだろう?」

「いやいや。もしかスッと、極秘作戦かも知れないで?」


美晴は随伴員が諜報活動をするのではないかと考え、マリアは秘密工作を企ているのではないかと勘繰る。


「それもこれも・・・や。

 あの新型魔鋼騎が譲渡されてからなんやが・・・」


あの造兵局での一幕を思い起こし、マリアが何かを感じ取って。


「能力未知数の魔法戦車と、特務要員か・・・油断出来へんなぁ」


指揮官であるのを自覚するように呟くと。


「そうだよね。相手も邪操機兵だけだとは限らないし。

 出撃したって戦闘になるとは限らないし。

 出来る事なら人同士の戦闘にはならないで欲しいよね」


まだ本当の戦闘というものを目にした事も無い美晴が答える。


「そやなぁ・・・美晴の言う通りや」


二人はこの先に待っている運命を慮る。


来隊する特務要員が何を意味しているのか。

出撃を命じる魔法軍司令部の思惑とは?


その前に、美晴はミルアの母へ会わねばならない。

ミルアは母の病状を良くする為に<ミハル>を連れ出そうと試みて来た。

それが思わぬ形で実現しようとしていたのだ。

このチャンスを逃そうとは考えていないだろうことは必至。

だとすれば、美晴に待っているのは?


いよいよ、母を救おうと目論むミルアの念願も成就されるのだろうか?



遂に届けられた出撃準備命令。

それに伴う<特務要員>の派遣が、何を意味しているのか?

今は唯、出撃に際して心の整理に務めねばならないのだ。

残される思いを払拭する為にも・・・


次回 王立魔法軍 魔砲少女は斯くて闘う  7話

病に臥した母を思うミルアは、美晴を見舞いへと誘うのだが・・・

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