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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8<レジェンド・オブ・フェアリア>魔砲少女伝説フェアリア  第1章王立魔法軍
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王立魔法軍 魔砲少女は斯くて闘う  3話

新型魔鋼騎の魔薙破が加わることに決まった八特小隊。

その車体に興味を示すミルアに訊かれた美晴だったが。

実際のところ、性能も実力の程も分かってはいなかったのだが・・・


造兵局での車体検分を終えて、訓練部隊へと帰って来た美晴に。


「どうでしたか?新しい機種は」


同乗配置のミルア伍長が駆け寄って来た。

いつも見慣れている笑顔に、幾らかの興味を含ませて。


「あ?うん。新型の魔鋼騎だったよ」


ちょっとだけ言葉を濁し、当たり障りの無いように答える。


「そうでしたか!良かったじゃないですか美晴候補生」


それを知らずか、ミルアは喜んだようで。


「新型だったら、この前のようには壊れちゃわないですよね?」


一昨日の事故を例えとしてくる。


「戦闘中に暴走するだなんて、洒落にもならないですもんね!」

「えっと・・・そうだよねぇ」


実の処、<その時は気絶していたから記憶にはない>とは言い出せない美晴が、

言い辛そうに言葉を濁していただなんて、ミルアには分かる筈も無かったのだけど。


「新規配乗は、いつになるんでしょう?

 いつになれば新型魔鋼騎を観れるのでしょうか?

 あっと、その車体に乗れるとは決まっていないんでしたっけ?」


期待に胸を膨らませたミルアが、いろいろと訊き齧って来るのを微笑ましく思った美晴が。


「白衣の開発者さんは、近い内にって仰られていたんだけど。

 あたし専用の車体だからって、他の魔法使いには乗せれないとも言われたんだけど」


内密にと言われていたのに、ついつい口が滑ってしまった。


「えッ!美晴候補生の専用車体なんですか?」


当然、ミルアが聞き逃す訳も無く。


「い、いやその・・・一等官待遇の開発者さんが、そうだって言ってたから」

「一等官?!それって将官待遇ってことですよね!

 だったら信じるに足るって意味に受け取れるじゃないではないですか!」


言い逃れしようとした美晴が自ら墓穴を掘ってしまうのも、お構いなしに。


「って、ことは・・・バケモノ仕様ってことですよね?!

 暴走する位の魔力を受けても壊れない魔鋼機械を積載してるのですよね?ね?!」

「・・・バケモノは言い過ぎだと思うんですが」


ミルアが瞳を異常なまでに煌めかせて訊くのに、毒気を抜かれた美晴が否定せず。


「でも、ねミルア。開発者さんが言っていたんだ。

 新型の魔鋼機械も<魔薙破マチハ>と呼ばれる機体も。

 まだ試験運用の段階なんだって・・・試作機と同じ状態なんだって」


触れたことも無い状態なのを教えるのだった。


「そうだったのですか。

 まだまだ未知の魔鋼騎だと・・・」

「うん。実用には問題が無いとだけ、教わったんだけどね」


苦笑いを零し、ミルアの期待には添いかねるかもと知らせたのだったが。


「それは・・・否応も無しに期待が増しマシですよね~」


却って興味を増されてしまったようで。


「もしかしたらですよ。

 神通力さえも受け取れるほどの、規格外な機体なのかもしれません」

「いやいや。あのね、ミルアさん?」


益々以って、ミルアの瞳がキラキラ光るのを停めれなくなる。


「だってそうじゃないですか!

 美晴候補生専用機だって言うのでしたら、女神の威力を発揮出来る筈です。

 この間だって、理の女神様が暴走させたのですから!」

「・・・ほほぅ?」


期待に胸を膨らませたミルアだったが、美晴と同様に黙っていなければならないと約束させられていた事実を漏らしてしまった。


「あ・・・」

「にゅふふ・・・怪しいとは思ってたんだけど。

 そうだったんだ・・・へぇ~~~ふぅ~~~ん」


半眼になって薄ら嗤いを浮かべる美晴に、恐怖すらを覚えるミルア。


「ひぃッ?!候補生様ッ、どうかお気を確かに?!」


仰け反って美晴から逃れようとするミルアを余所に、美晴は嗤いつつもピンクのリボンを解いて。


「知ってたんでしょッ誇美コハル!」


ぎゅう~~ッと力一杯握り絞めて恫喝する。


 きゅぅ~・・・ヘタリ


ピィーンっと張りつめていたリボンが、くにゃりとへたって。


「もぅッ!ミハル伯母ちゃんもコハルも!

 教えてくれたって良いじゃないッ!」


リボンが気絶した事から、ミルアの言葉が嘘では無いと分かり。


「覚えちょけ!戻って来たら問い詰めてやるんだからね!」


離れている理を司る女神へと、怒号をのたまうのであった。



・・・で?


「なに喚き散らしてるんだ、候補生?」


そこは訓練隊の敷地内だったから。


「まだ終業時間には早いんだが?」


仁王立ちになっている小隊長が、ジロリと部下を睨んで。


「罰則を受けたいのなら。与えてやるが?」


ツイっと指先で、場周駆け足を命じて来る。


「ひぃっ?損な?!」

「そんなもへったくれも無い!駆け足ッ」


問答無用で罰則を命じられ、泣く泣く駆け出す美晴に。


「あ~ぁ、損な子はいつまで経っても損だよなぁ~」


周りで観ていたレノア少尉が笑う。


「ニャハハ!損、そん~」


それに釣られたミーシャが嗤うのを。


「何をやってる。お前等も連帯責任だ」


ぶすりとマリアが突っ込んで。


「にゃ?!」

「なんですとぉ~?!」


二人の少尉が飛び上がる。


「よかろう!お前達だけに責任は取らせない。

 このマリアも同罪として・・・走る!」


だが、小隊長自らが美晴の後を追って走り出すのを見逃してはおけず。


「八特小隊は連帯が基本だからな」

「いやそこ。マジで連係が基本だから」


二人の少尉も駆け出して行く。


「我等が魔法戦車隊は、常に手を携えて闘うのを旨とする!」


マリア中尉が指標を示す。


「皆が常に一つの目的を果たす為に」


指揮官としての。


「誰一人として欠ける事の無いように」


否、志を同じくする者として。


「生きて還る為に!」


闘う戦士を表わす言葉。

戦闘を控えた兵士の、偽らざる心を表わして。


夕焼けに染まる隊員達の姿。

後、この日を覚えていられたのは何名だったか。


フェアリア魔法軍、第08特別戦車小隊の出撃が近付いていたのが分っていたのだろうか。


繰り返された戦闘の後、誰と誰が生き残れるのか。


今は只。

束の間の平和に身を預けるだけだった・・・




 異変は、理の女神が遠くへと向かった時から始まった。



今迄、鳴りを潜めてきた邪操の機械達。

まるで女神がフェアリアへと赴いたから警戒していたかのようだった。

しかし、美晴から感じ取れなくなったのを察知でもしたかのように・・・



「司令!辺境の探知装置に反応が現れたようです」


フェアリア国の最果てにある守備隊本部からの緊急電が告げて来た。


「ロッソアから侵攻される虞があります」


越境して来る者の存在を。


「単なる不法入国者ではありません。

 小規模の威力偵察でも無いようです!」


しかも、それが国家を揺るがす程の存在だと報じて来たのだから。


「部隊規模を以ってする侵攻だと考えられます!」


司令官を前に、部下の情報士官たちが口々に報告して来る。

そのどれもが非常事態を表わしてもいた。


「先年よりこの方、警告は為されておりましたが・・・」


司令官に寄り添う副官が付け加えるのは。


「ロッソアの新しい大統領が掲げておりました。

 大ロッソア帝国の復興を。

 独立した衛星国を、再び傘下に治めると。

 そして・・・」


三十年程も前、帝国ロッソアは瓦解して二国間戦争は終戦を迎えられた。

一時は民衆のチカラで皇帝を排斥できたのだが、新たに造り上げられた政府は共産主義を謳いはしたのだったが、巧くは機能せず。

再び内戦が起きた後、新たな政府には大統領制が導入された。

一見、民主主義を執ったかに思えたロッソアだったのだが、その実は全ての権力を独りが担った<総統>制だったのだ。

名目上は大統領と呼び、権勢は一握りの閣僚が牛耳る<総統府>に託されていた。

則ち、旧泰然とした帝国主義国家の復興を意味してもいた。


副官が言葉を切ってから。


「そして、その後には。

 古より続けられた侵略戦争の終末点を目指すと。

 我がフェアリアを、ロッソアに組み込むのが。

 彼等の真意であり、帝国の完全たる復興を意味するようです」


折角、築き上げて来た平和を蔑ろにすると断言され。


「今の国際連合では、紛争を停めれるだけのチカラもありませんから」


神軍と対峙した折に造られた国際連合機構には、もはや期待も寄せれないと言って。


「近隣国は、口だけの援助を申し入れるだけ。

 自国の防衛にかまけて、我々を助ける気など毛頭もありはしませんから」


専守防衛など、大国との干戈には無理がある。

攻撃されるのを待つだけでは、国家の存亡に係わる。

故に、副官が上伸するのは。


「国境部隊へ、直ちに応戦の許可を。

 いいえ、越境を試みた敵に対しての攻撃許可を!」


専守防衛を破り、進んで攻撃を始めるべきだと裁可を仰ぐのだった。


「先に手を打っておかなければ。

 国民の信を失いかねます。

 先の二国間戦争と同じく坐したまま開戦を向えれば。

 今度は政府の怠慢を訴えられるでしょう」


則ち、戦端は奇襲に非ず。

双方が名目を以って為さねばならないようにしなければ、世界中から味方を得れなくする。

只の二国間問題として取り扱われては、同盟国からも援助を受けれなくなる。


戦争は、始めるのも難しいが終えるのはもっと難しい。

一度開かれてしまった戦端を収められる方法は、どちらかの政府が屈しなければ終われない。

その事実は、先の二国間戦争でも実証済みだった。

だからこそ、副官が司令へと先制攻撃を含む開戦への行動を示そうとしたのだが。


「平時ならば、一度の間違いには目を瞑ろう。

 だが、今は非常時とも採れる中である。

 双方が同じように間違いを繰り返せば・・・

 取り返しの出来ない事態へと迷い込むのだぞ?」


司令は戦争という災禍を懼れた。


「確かに一時の占領も有り得るであろうが。

 平和裏に交渉を進めて取り戻すのが、最上の策ではないのかね?」


侵攻を企てた国家に、現状を壊せるだけの世界的な信用が無ければの話であったが。


「いいえ。

 不可侵条約でさえ破る国家をのさばらせる連合に、如何程の期待がありましょうか?

 守るべきは国土であり、そこに住まう国民なのです。

 それを守ってこその軍ではないのではないのでしょうか?

 その任を全うするのが国家ではないのではありませんか」


副官は強引とも採れる進言を繰り返す。

その言葉が、どれほどの重みを意味しているのかが分からずに。

・・・と、その時。


「侵攻を試みる部隊。国境線へ、後2キロに迫りました!」


残された時間は幾ばくも無い。


「司令!」


決断を迫る副官。

そして司令官が下したのは?


「命令。

 国境に在る防備部隊に警報を出せ。

 越境を試みるロッソア部隊に対し、防衛発動を命じる。

 直ちに各員は戦闘配置と為せ!」


国家間の宣戦布告を前に、独断で防衛命令を下したのだ。


「これが戦争に発展しないのを、祈るべきか」


天を仰ぐようにして、司令官が瞑目する。

自国の命運を賭けてしまった自分の言葉に恐怖すら覚えて。


「幸運の女神が、我等と共にあらんことを」


戦争ともなれば、どれ程の惨禍に見舞われるのかを忘れたように。


「再び、ロッソアの脅威から逃れますように」


二度目の干戈を呼んでしまうと・・・知っていたのに。



そして。

悲劇は。

繰り返される・・・


二つの国に再び流れる不穏な空気。

国境を守備する為に、出動を命じてしまった軍幹部。

このままでは両国の間に紛争が起きてしまう・・・


なぜ、今になってロッソアは領土を侵犯しようとするのか?

強国だった過去への回帰妄想が暴走を引き起こしたのだろうか?

再び干戈を交える事は、両国を悲劇に貶めると気付かないのか?

誰かが止めなければ、惨禍は再来してしまう・・・


次回 王立魔法軍 魔砲少女は斯くて闘う  4話

国境守備隊は確かに<侵攻部隊>を撃退した。だが、本当の敵は別に居たのだ!

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