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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8<レジェンド・オブ・フェアリア>魔砲少女伝説フェアリア  第1章王立魔法軍
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あなたの正義に愛はあるのか   9話

突如、現われた魔鋼の戦車。

操ってきた白衣の開発者が指していたのは、美晴だった?!


一体彼女は?

何を求めるのだろうか?


長大な砲身を突き出している戦車。

丸渕眼鏡をかけた金髪の女性開発者が砲塔上で手を指し伸ばす。

蚊帳の外に置かれたルナリーン中佐が目を剥くのを尻目にして。


「どうかしら?マリア中尉。

 この魔薙破マチハを第08特別戦車小隊に加えて貰えない?」


今度は小隊長であるマリアへと認可を求めて。


「通常の魔鋼騎では不十分との報告を受けたわ。

 機械が魔力を受けきれずに暴走を起したんだってことも。

 余程の魔法力を持っているようね、その新車長って娘は」


既に昨日の件を知っていて、この戦車を譲り渡すと言っているのだ。


「この魔薙破マチハはね。

 魔力に制限リミッターを設けなかったのよ。

 人の能力値を遥かに超えた異能にだって応えられるようにね」


強大な魔力を誇る美晴が乗るのに相応しいと勧めていた。


「制限の無い・・・魔鋼機械?」


言葉では容易そうに思えるが、実際に制限の無い機械を造れたのだろうか?


「人を超越した魔法力・・・」


マリアは実機の性能を疑い、美晴は自らの能力を慮る。


「あら?性能を疑ってるわね。

 良いでしょう、信じられないというのであれば試験テストすればどう?」


白衣の開発者は丸渕眼鏡を光らせ、二人に試験搭乗を勧める。


「尤も、この車庫では無理な相談でしょうけどね」


狭い室内で、魔鋼機械を発動しても数値の測りようがないのは当然。

ならば、どうすれば魔薙破の性能を発揮できるというのか。


「それに、私だって最大能力を把握している訳ではないし。

 魔鋼機械を暴走させる程の魔力ってものを観たことも無いからね」


開発者は勿体ぶって、


「だから・・・実証させるには。

 魔砲少女を乗せて、実戦で結果を観るしか無いと思うのよね」


新型魔鋼騎の魔薙破マチハを装備しろと、再度強く勧めたのだった。


「それは・・・命令でしょうか?

 それとも、技官からの委託なのでしょうか」


小隊長として、部下の命を預かるマリアが訊いた。


「いくら新型の魔鋼騎だと言っても。

 試験しなければ分からないのなら、試作機と同じではないですか。

 それで実践を経ろと申されるのは酷というモノではありませんか」


乗せられるのは美晴しかいない。

不確かな性能を以って、戦闘を行えと言うのは理不尽にも感じた。

しかも、魔薙破に乗せられる美晴は初陣なのだ。


「あらあら?

 これは言葉足らずだったようね。

 戦闘には十分に耐えられる性能を誇っているわよ。

 私が言いたかったのは、ミハルの最大能力が未知数だって言いたかっただけ」


問われた開発者は試験機では無いと仄めかし。


「今現在の魔力を以ってしても、制御出来るのかが焦点なのよ」


まるで過去の美晴を知っているかのように話したのだった。


「・・・あたしの名を。知っておられるのですか?」


初めて会ったというのに。

名乗った訳でもないのに、なぜ知っているのかと美晴が疑う。

すると、金髪の開発者は。


「あ・・・っと。

 そ、それはあの・・・報告に書かれてあったからで」

「今現在のって、仰られましたよね?」


慌てて口籠るのに、美晴が追い打ちをかけた。


「まるで、昔からあたしを知っているようにも聞こえましたが」

「いやあの、それは・・・その」


途端に、それまでの口調が崩れて慌てふためく女性開発者。

二人の様子を見守っていたマリアが、少しだけ含み笑いを溢して。


「判りました技官殿。

 この新型魔鋼騎を受領致します。

 我が八特小隊の装備車両として加えさせて頂きます」


新規装備車両として受領すると答えるのだった。


「マリアちゃん・・・良いの?」


開発者の勧めに乗ってしまっても良いのかと、美晴が念を入れるが。


「良いんだよ美晴。

 半端な車両を譲渡されるんなら、未知数に賭けるのもええんやないか」

「そう?まぁ、そうかもしれないよね」


マリアから一縷の望みを託したと言われてしまっては断れない。


「それに観てみろや美晴、あの長砲身の主砲を。

 あれやったら、魔砲の異能を存分に活かせられるで」

「うん、そうだと良いんだけどね」


まだ、実力さえも分らない魔薙破マチハに、二人は期待を寄せる。

与えられる未知の魔鋼騎が、どれ程の可能性を秘めているのかと。



金髪の開発者が乱入して来た。

それまでは思う通りに事が運んでいた・・・と、思っていたのに。

現れ出た戦車に、潜んでいた部下達が排除させられた。

美晴の能力値を測った車両が押し退けられる始末になり。

挙句には、乗り込んで来た金髪の開発者に拠って得物を奪われそうになっている。

しかもだ。

マリア小隊に、この戦車が贈られるというのだ。


「こんな馬鹿げた話って」


狙った獲物を奪い、既存の魔鋼騎より優れた機体を贈ると言う。


「何様のつもりよ?!

 ここは造兵局の車庫なのよ。

 新機種の開発者が居て良い場所では無い・・・」


蚊帳の外に置かれていたルナリーン中佐の怒号が開発者へと向けられた。


「・・・無いと言うのに?!」


そこで、白衣の下から観えた褒章に気付く。


「なんだ・・・と?」


黄金色に輝く、皇太子姫の褒章に。


「ま・・・さか?こんな場所に居る訳が」


その褒章を携えられる人の存在を認められず。


「王女が。ルナリィ―ンが!

 人を殺める戦車の開発に、手を染める訳が無い」


王女を名指しで呼び、悪態を吐くのだった。


そう。

その一言でも判る。

このルナリーン中佐という者が、王女では無いということが。


フェアリア王女への侮辱とも採れる中佐の喚き声に、その場にいた3人が振り返る。


「お前は誰なのだ?!どうして私の邪魔をするッ?」


垣間見た皇太子姫へ贈られる褒章を信じられず、


「王族に所縁ゆかりのある者なのか?

 ルナリィ―ン王女に褒章を贈られたのか!」


皇太子姫ルナリィ―ンから褒章を譲渡されたと考えたのだ。


「ルナリィーン姫?」


白衣の開発者と中佐を交互に見る美晴が、本当なのかと訊くが。


「・・・私が王女かどうかなんて、関係ないわ」


丸渕眼鏡をツイっと掛け直して、白衣の開発者が答える。


「この魔薙破マチハを造ったのは、悪しき者と闘う為。

 国を、民を・・・そして全ての愛するモノを守る為に他ならないのよ」


新型魔鋼騎を造った訳を。

闘うにしろ、そこには愛を守らんが為に開発したのだと。


「まさか・・・本当に。ルナリィ―ン様?」


砲塔の上に立つ白衣の女性からの言葉に、美晴は幼き時に出逢えた王女を想う。


「凛々しく優しかった・・・王女様?」


開発者と王女の面影は懸離れていたが、なぜだか心が惹き付けられた。


「あたしが帰って来るのを信じられ、待つと仰られてくだされた」


もう一度、このフェアリアで逢えるのを願った・・・願い続けて来たから。


「ルナリィーン姫様なのですか?!

 幼き日に王宮の庭園で助けて頂いた・・・あたしですッ!美晴です」


思わず名乗り、真実を求めてしまう。

本当に王女だったとしたら、応えてくれると思って。


美晴の声を聴いた白衣の開発者が、ほんの僅か表情を和らげたように観えた。

だが、その口から零れたのは。


「あなたがシマダ・ミハル候補生だったのね。

 魔鋼騎を暴走させ得る魔砲の使い手だって、報告書に記されてたわ」


まるで初対面のように応えて来た。


「私は王女ルナの意を汲む魔鋼の開発者。

 技官となってから候補生とは面識が無いの、残念でしょうけど」


王女では無いと、逢った事実も無いと言ったにも等しい。


「そ、そうなんだ・・・」


はっきりと断られた美晴が落ち込む。

でも王女では無いと答えた開発者が、王女の意を汲んだと教えていたのに対して。


「ルナリィーン姫様は、やっぱり正義に愛を求められていたんだ」


貶めようと謀ったルナリーン中佐とは対照的に、王女ルナリィーンを引き合いに出して。


「だったら、やっぱり。

 あたしはこちらの<魔薙破マチハ>に乗りたい。

 ルナリィ―ン姫様の正義を信じたい!」


きっぱりと中佐へ決別を告げるのだった。


キリリと締った表情で、ルナリーン中佐へ向き直った美晴。

それが嘘偽りの無い言葉だと教えているのだが。


「くっ?!

 横槍を入れられたとしても、こちらには軍紀があるわ」


諦めの悪い中佐が、軍隊を盾にして命じて来る。


「良いこと八特小隊、これは上官としての命令よ。

 あなた達が乗るのは、試験の結果に拠り造られる魔鋼騎。

 この試験機体から導き出される最強の武具に乗りなさい、判ったわね!」


戦車小隊長のマリア中尉と部下の候補生に対して、権力を嵩にして命じたのだ。

まだ、誇美や美晴に試験機内部を破壊されたとも知らずに。


「命令を聴けないと言うのであれば。

 即刻のこと、憲兵に拘束させるわよ」


理不尽だろうと無視するつもりのようだ。

息のかかった配下の者に、二人を連行させるつもりのようだった。


「あはは・・・馬鹿じゃないの?」


声高に命令を執行しようとする中佐に、笑いかけたのは。


「ここは造兵局の審査部庁舎。

 原隊でもないのに陸軍中佐如きが勝手な命令を下せる場ではない。

 あなたの仕組んだ謀なんて、とっくにバレちゃってるのよ。

 アンダ~スタン?フェアリア陸軍中佐のルナリーン」


白衣の開発者が笑いを停めると言い放った。


「どうして私が、あなたの試験機を狙って壁を破って現れたのか。

 なぜ、あなたの部下達が襲い掛かろうとした背後から出てこれたのかも。

 分かってはいなかったようね?」

「な・・・嘘でしょ?!」


この時になって漸く、ルナリーン中佐は理解した。

眼前の開発者がただ者では無いことに。

何もかもを知っていて、今こうして眼前に立っているのかが分ったようだ。


「いい加減に諦めなさいよ、偽者のルナリーン。

 本当の王女ルナだと嘯き通すのなら、潔く負けを認めたらどうかしら?」

「私の負け・・・だと?」


言い切られたルナリーン中佐が、グラリと後退って。


「負けただと?

 フンッ!たわけたことを!」


悔しさに顔を引き攣らせながらも、


「こちらには試験機からの情報が手元にあるんだ。

 その車体に仕組まれてあった触診機械からの情報が・・・な!」


負け惜しみを吐き出して逃げ出そうとした。


「そう?

 だったら、新しい機種を造ってみれば?

 造れるものならば・・・ね!」


白衣の開発者がきっぱりと言い返す。


「ミハルの情報を手に出来たと思うのならば・・・やってみなさいよ」


リボンで結わえてある金髪を掻き揚げて。


「捻じ曲げた正義を振りかざすのなら。

 私は必ずあなたのあいを取り戻してみせるから」


誠の正義を見出すと言ったのだ。

あなたの正義には、愛が必要だと諭そうとしたのだ。


「愛だと?そんなもので平和が勝ち取れるものか」


しかし、ルナリーン中佐の闇は深かった。


「お前達の甘さが、邪悪を助長させるのだ。

 それだからこそ、私が存在する。だからこその<救世主メシア>なのだ」


車庫から逃れて行きながらも、自己の信念を貫こうとし。


「その試験機が無くても、既に情報は手に入ったのだ。

 結果を基にして造れば良いだけの事・・・

 次に会う時まで、精々首でも洗っておくと良い。

 次こそ、私の魔法武具が完膚なきまでに倒してみせるからな」


負け惜しみを残して姿を消した。

魔法少女の魂を穢そうとした戦車を残して。



延び出ていたケーブルを切断された試験機を残して・・・


「マッタク。

 諦めの悪い人ね、彼女ってば」


車庫に残ったのは、マリアと美晴。

それと、砲塔に腰かけた白衣の開発者だけ。


「出来もしないことを、出来ると思い込んじゃって」


その視線は、壊れた試験機へと伸びていて。


「アクァから聞いたんだよね。

 前もってそれらしいコードを切断しておいたって」


柔らかな笑みを零し、ルナリーンの謀にも動揺しなかった訳を話した。


「それに。

 あの子ってば、なかなかにやるじゃないの」


丸渕眼鏡の端から美晴を観て。


「やっぱり・・・あの時の娘だったと言う訳か」


時の流れを想う声が零れた。

その身に宿った異能を感じ取り。


「今は・・・ミハルの姪っ子に収まってる様だけど」


柔らかな青い瞳で、真実を見破っていた。

まるで女神が真実を見通せるように・・・



王女の偽者ルナリーン中佐。

彼女を前にして語る白衣の開発者。

求められるのは美晴の意思。

願われたのは誠の正義。

そして、新たなる魔鋼騎は八特小隊に加えられるのか?


次回 あなたの正義に愛はあるのか   10話

君に与えられる武具は勝利へと導いてくれるのだろうか?

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