あなたの正義に愛はあるのか 8話
傘下へと下るように迫るルナリーン中佐。
試験機の背後から妖しげな翳りが近寄りつつあった・・・
と。
その時、猛烈な破壊音と共に、何かが襲い掛かってきた!
内部を破壊された戦車の向こう側。
薄暗い車庫の奥から、妖しい影が忍び寄って来る。
「「美晴ッ!緊急事態よ」」
頭の中で誇美の叫びが警告した。
現れ出て来る闇を感じ取った戦女神からの警告。
そう思い込んだ美晴が、闘いを予感して身構えた・・・のだが。
次の瞬間、予想もしなかった事態が?!
ドガッ!ガラガラガッシャァアアンッ!!
「ヒィッ?!えええええぇッ?」
瓦礫と化した車庫の壁が、美晴達の居る試作車両に降り注いで。
「うわぁッ?!」
何がどうなっているのかも分からず、マリアの手に曳かれて車体から飛び降りた。
ガラガラガラッ!ドギャギャギャッ!!
降り注ぐ破片は、今の今迄薄暗かった部屋の奥側から飛んでくる。
つまり、妖しい者達は瓦礫の中に埋まってしまったのだ。
否、吹き飛ばされたというのが本当だろう。
「な?!何事なのッ?!」
マリアと美晴が飛び降り、転げるように避けるのを視界の端に捉えながら。
「一体何が?!」
ルナリーン中佐も、何が起きたのかが把握できていないようだった。
観えるのは大きく崩れた壁と、破片に拠って巻き起こった煙のような埃。
そして・・・
キュラキュラキュラ・・・
無限軌道音と・・・
ズアッ!
破壊を齎したモノが、埃の中から姿を現して来たのだ。
ガガンッガラガラガラ!
長い砲身を備えた・・・未知の戦車が。
ドガッ!
走り込んで来たと思ったら、問答無用で試験車両に衝突した?
ガキャッ!バキバキ!!
ルナリーン中佐が用意していた試験車両が、往き足の停まらない未知の車両に拠って押し退けられる。
重量のある戦車なのに、あっけない位に振り回されてしまった。
ギギィッ!
試験車両を押し退けた未知の戦車が、美晴達の前で漸く停まる。
「な・・・なんてことを。
誰がこんな真似を仕出かしたの?」
目前で停まった戦車を見上げ、動揺を隠しきれないルナリーン中佐が喚くのを尻目に。
ガチャッ!
砲塔上部に設えられたハッチが開く音が流れ出る。
「こんな真似をして。タダで済むと思うのか!」
ほんの数分前までの余裕が消え、怒りに喚くルナリーン中佐。
だが、車長用キューポラハッチが開いた後、姿を現した人影を観た途端に。
「誰なんだ、お前は?!」
白衣を纏う、金髪で丸渕眼鏡の女性に向けて叫んだのだった。
破片が降りかかって来たと思った瞬間。
「アカンっ!」
マリアの手がグイっと引っ張った。
車体から飛び降り、転がるように破壊から逃れようと走る。
「何が起きたの?!」
妖しい影と対峙するつもりだった美晴が訊いたが。
「分らへん。せやけど、逃れるチャンスやったとは思うで」
警告を与えて来た誇美に訊いたつもりだったが、代わりにマリアが応えて来て。
「ルナリーン中佐の雰囲気やったら、何か知らんけどヤバかったと思うんや」
「うん、そうだよね」
周りに溢れる邪気を感じ取っていたのか、マリアも危機だと認識していたらしい。
あのまま数分もすれば、妖しい者達との闘いに追い込まれていただろう。
「ホンマに・・・救援して貰ぉたようなもんやな」
下手をすれば破壊に巻き込まれたかもしれないのに、マリアには助け舟と思えたようだ。
「そ?そうかな~?」
危機一髪で逃げられた。
あのタイミングで、壁をぶち破って来るだなんて誰が予想できたか。
一走りして、危害半径から抜け出せた二人が振り返る。
棚引く埃を掻き分けて現れ出た車体が、つい今しがたまで居た試験車両を押し退けているのが見て取れた。
「「言ったでしょ。非常事態って」」
危険から逃れたのを察したのか、誇美がやっと応じて来た。
「「妖しい奴等なんかを相手にしてる時じゃないんだよ。
もっとヤバイ異能者を感じちゃったんだから」」
暗がりの中から迫る影よりも、もっと危険な相手を感じた?
「「壁を突き破って来るくらいなんだから。
とんでもない相手なんだろうなって、思うんだよね」」
戦女神が警告する位の相手?
そんな強力な敵が現れてしまったのだろうか?
「分った。十分に警戒しておくから」
戦車を操って来た相手を警戒しておくと答える美晴に。
「「こっちも、イザという時に備えておくからね」」
いつでも現界出来るように準備しておくと答える誇美。
・・・だったのだが。
「ちょ・・・ちょっと待った。
まさか・・・あれは?あの人は?!」
戦車を見詰めていたマリアが、急に声色を変え始める。
「え?」
マリアの視線を追って、砲塔上部に開かれたハッチを観る。
「嘘?!嘘やろ?」
「え?えっと?」
開かれたハッチから現れた金髪の女性。
戦車を操って来たのだから、当然のこと軍人だと思い込んでいたのだが。
「白衣?お医者様なのかな?」
何も知らない美晴が、的外れな職種を呟いたら。
「アホ!医者が戦車を操れるかいな。
あれは技官ちゅ~う役職で、肩書は軍属やけど待遇は・・・」
キューポラに現れた女性を観て、マリアが美晴へと答えたのは。
長い金髪をリボンで三つ編みに結った開発者がキューポラから出て来た。
ファサッ
丸渕眼鏡を隠していた前髪を掻き揚げ、
結わえた髪を手串で煽り・・・
「どうやら茶番は終わりのようね・・・クルーガン中尉」
車体の傍に居るルナリーン中佐を無視し、見詰めているマリアへと話しかけた。
「は、はい!」
紹介していたマリアが途端に姿勢を正して答えるのを、不思議そうに美晴が見詰めると。
「このくだらないポンコツは、廃棄して良いわよね?」
白衣の女性開発者が、ルナリーン中佐の試験機を眺め降ろして訊いて来た。
「え?は?し、しかし。
私の小隊に譲渡される予定だったのですが」
答えるマリアが、少々戸惑うような素振りをみせると。
「あはは!これのどこが譲渡車両なのよ。
誰が観たって使い物にもならない抜け殻。
おまけに誰かさんが仕組んだ計測器だらけじゃないの?」
まるでルナリーン中佐の謀を知っているかのように言い当てるのだ。
「ですが、私達には。
新たな車両が必要なのです」
白衣の開発者にマリアが訊く。
「新しい戦車長の乗機を。
我等八特小隊が誇る、魔砲少女が乗る為に」
傍らに控える美晴を指して。
「そう・・・なのね?」
丸渕眼鏡が光を受けて反射する。
白衣の開発者が美晴を眺めろしていた。
「あなたが・・・必要だと言うのなら」
問われたマリアではなく、美晴を見詰めて応える。
「魔砲の異能者が乗るのなら。
こんな薄汚れた車体ではなく。
並外れた異能者が乗ると言うのならば・・・」
呟くように話し出した開発者が、俯き加減になって。
「この新型魔鋼騎こそが相応しいわ。
世界に二つとないこの機体こそが、あなたが乗るべきなのよ」
ツイっと眼鏡をかけ直した後に。
ばぁっ!
白衣を翻して叫んだ。
「これこそが真の魔鋼騎士に与えられる魔法武具!
あなたの魔力を最大限に活かす事が出来る・・・魔薙破なのよ!」
魔鋼騎ではなく、魔を薙ぎ払い破る事の出来る武具なのだと。
この戦車が、美晴の魔法力を活かせられる特別なモノなのだと・・・
紅いリボンが揺れている。
結わえられた金髪が光を受けて眩く輝く。
眺め降ろしてくる白衣の女性は、美晴へと手を指し伸ばしていた。
未知なる戦車を操って現われた白衣の開発者。
赤いリボンで金髪を結い上げ。
大きな丸渕眼鏡で目元を隠している・・・
その彼女が言うのだ。
「あなたはこの魔薙破に乗る」のだと。
美晴を獲りこもうと謀ったルナリーン中佐の前で・・・
次回 あなたの正義に愛はあるのか 9話
君が欲したのは<勝つ為の正義>なのか?それとも<愛ある正義>か?どちらを選ぶ?!




