あなたの正義に愛はあるのか 7話
闇から現れたのは、金髪の女性仕官。
美晴も一度だけ会ったことのある・・・ルナリーンを名乗る陸軍中佐だった。
士官服を着た金髪の女性。
蒼い瞳には、翳りを纏ったような澱みを感じる。
「ルナリーン・・・中佐」
このタイミングで、この車体の前に現れたルナリーン中佐が何を求めているのかを感じ取った美晴が、月夜の晩に一度だけ会った事のある相手の名を呟く。
再び会う時には、何もかもを差し出せと言っていたのを思い出しながら。
「何を言ってるのです中佐殿」
歩み寄って来る女性中佐に、マリアが美晴を庇いながら訊いた。
「美晴の魔法力を奪う気なのですか?」
予てからの計画を実行に移すのかと警戒して。
「マリアちゃん・・・」
その庇われている美晴が、そっとマリアに今迄の経緯を教えようとしたのだが。
「・・・必要ないわ、今はね。
魔力の測定と、属性だけが分れば良かったから。
それさえ分かれば、魔法武具を試作出来る。
神にも劣らぬ世界最高性能の戦闘武具を造れるもの」
問われたルナリーン中佐が、必要は無いと答えたのだが。
「でもねぇ、マリア中尉。
その子は余計な真似を仕出かしちゃったのよ。
計算外の攻撃魔法を・・・その中で放ってしまったようだから」
俯き加減の顔に、邪な笑みを浮かべて続けた。
「え?!美晴が・・・魔法を?」
どのような経緯で魔法を放ったのかも分からず、焦りを顔に露わにさせたマリアが。
「そうやったのか?!それを狙って状態異常に堕とされてたんか」
操られて魔法を放ったと思い込んだ。
「フフフ。
おかげで最高の測定結果を残せた。
車内の計測器を分析すれば、強力な武具に活かせる筈だ」
二人が立つ車両を見上げて、ルナリーン中佐が嗤う。
美晴がアーニャを昇天させる為に撃った、極大魔砲呪文が齎した結果を知らずに。
「ねぇ、マリアちゃん。あのね・・・」
余裕を噛まし、嘲笑い続ける中佐から隠れるようにマリアの陰で。
「壊しちゃったんだけど。受領出来るのかな?」
ツンツンとマリアの背を突いて教える。
「中にあった機械を。
ぜぇ~んぶっ、ブレイカーで消し飛ばしちゃったんだ・・・てへぺろ」
マリアにだけ聞こえるくらいの小声で。
「・・・なんやと?」
すると、ぴくくッと顔を引き攣らせたマリアが。
「そないな強力魔砲を放ったんやったら、車外にも影響を及ぼす・・・」
知らされた事実に疑問を投げかけようとした。
真実は、全ての機械を消し飛ばした美晴を、女神の誇美が防御魔法で護り抜いた。
荒れ狂う魔砲力から美晴を守り、必要の無い破壊を車体外へと流出するのも防いでいたのだ。
「それはアーニャさんも望まないから。
車外にはマリアちゃんだっているんだし・・・ね」
「アーニャ?誰なんやそれ?」
小声で話す二人。
計測出来たと思い込んでいるルナリーンには教えるつもりはないが。
「この中に囚われていた人。
あたしを頼って、呼んでいたの。
もぅ、この世界からは居なくなっちゃったけど」
「魂を・・・閉じ込められていたんか?
その人が、アーニャって娘だったのか?」
うん・・・と、頷く美晴が経緯を知らせた。
「哀しいけど、今の私達では助けてあげれなかった。
出来ることと言えば・・・憑代の破壊だけだったんだ。
穢されて魔女と化してしまう前に、人の心を持ったまま。
運命を受け入れて、天へと召される道を選んだんだよ、アーニャは!」
「そうやったのか・・・」
知らされた真実に、マリアは過去に遭遇してしまった悲劇を思い起こす。
「まるで・・・邪操の虜と、同じやな」
悪鬼が送りつけて来る災禍と同じだと。
悪魔の所業とも言える、魂への拷問と変りが無いと。
ギロリ
怒りの眼で、マリアはルナリーン中佐を睨む。
「これではっきりしました。
私は、あなたの命令に従う気はありません。
喩え上官命令とはいえ、人の命を蔑ろにするなど。
魂を悪魔に売るような真似は出来かねます!」
そして、きっぱりと絶縁を言い放ったのだ。
「金輪際、私の隊に関与しないで貰いたい。
大切な部下に手を出す気ならば、全力で阻止しますので」
背に寄り添う幼馴染を護る為にも。
関わるなと警告したマリアを眺めていたルナリーンの瞼が閉じる。
「プッ・・・あ~はっはっはっ!
何を言い出すのかと思ったら・・・」
閉じた次の瞬間には、大笑いした中佐だったのだが。
「つけあがるのはいい加減にしなさい!
魔法軍に入れたのも、警護官に抜擢されたのだって。
<我が姫>たる私が居たからでしょうに!
このルナリーンの推薦があったからだったのを忘れたというの?!」
怒りを露わにして吠えて来た。
「もう良いわ。
お前なんかにその子を預けておけない。
私が直々に教育を施してあげる。
我が姫たるルナリーンの戦闘人形に造り変えてあげるわ!」
欲望のままに、己が正義を振りかざして。
「人形?戦闘人形?」
吠えるルナリーン言葉を聴いた美晴の顔に翳が差す。
「その言葉・・・聞いてしまったことがある」
傍に居るマリアにも聞こえない小声。
「フェアリアへ来る前に・・・あの時、あのお婆ちゃんから」
記憶が蘇り、何かを思い出して。
「あたしは・・・人形なんかにはならない」
拒絶する言葉が喉から出た。
「そや!美晴は決して生贄の人形なんかやあらへん!」
「へ?」
知らず知らずに言葉にしていたのを、マリアが肯定して。
「残念やけどな、中佐。
生憎やが、ウチから美晴を奪えるとは思わんこっちゃで!
いいや、光の御子を失う訳にはいかへんのや!」
今こそ約束を果たす時とばかりに、中佐へと応戦した。
睨み合うマリアとルナリーンを名乗る中佐。
バチバチと、視線が火花を放っていたが。
「もう、話すだけ無駄ね。
仕方がありません、あなた達二人を・・・」
ルナリーン中佐が収拾を図り、誰かを顧みて命令を下そうと・・・
「私達の仲間へと招き入れてあげましょう。
尤も、私の命に服すことを拒まなかったら・・・ですけどね」
パチン と、指を一回だけ鳴らした。
その瞬間、室内に異変が起き始める。
ざわ・・・ざわわ・・・ざわざわ・・・
陰の中、何個かの影が蠢き。
光の届いていない部屋の隅から近寄り始めたのだった。
「「美晴ッ!緊急事態よ!」」
頭の中で誇美からの警告が告げた。
「判ってるよ、コハル」
翳りに気付いた美晴も、
「イザとなれば。マリアちゃんだけでも」
緊張感を滲ませて誇美に同調する。
翳りは静々と近寄り、やがてその姿を露わに・・・
する。
その時だった。
バッガアアアァアァアアァーンッ!
大音響が室内に響き渡った!
遂に牙を剥く<我が姫>たる者。
美晴を囚らえようと謀る中佐が手下を以って仕掛けた瞬間。
破壊音が車庫に轟いた?!
何が?次ぎに始まるのは?
美晴達は魔の手から逃れられるのだろうか?!
次回 あなたの正義に愛はあるのか 8話
今度こそ?!本当の騎兵隊が救援に来てくれたのか?それとも?




