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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8<レジェンド・オブ・フェアリア>魔砲少女伝説フェアリア  第1章王立魔法軍
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魔砲の戦車と王女の秘密  14話

擬似戦は唐突に終った。


女神級ゴッデスクラスの魔力を受け切れなかった機械が暴走を起こし。

突発的な事故を引き起こしてしまったのだ。

二両は衝突して停まってしまう程のダメージを受けた。

それならば、事故車両に乗り込んでいた搭乗員はどうなったのだろう?

疑似戦は意外とも言える結末となった。

双方が魔鋼状態で闘った為、一般的な戦闘方法を執らなかったからだ。

二号車は優速を生かして挑み、対する一号車は劣った速力で応じた。

両車共に砲撃を控え、機動力で応じる巴戦を執ったのだ。

二号車が突きかかれば、一号車は急旋回でそれを避け。

チャンスを逸した二号車が逃げれば、一号車は追い迫った。

そして・・・


 シュウゥ~・・・


魔鋼状態から脱した二両が重なるように停まっている。

横合いから突っ込まれた二号車に、正面からぶつかって停まった状態の一号車。

薄く煙を吐いているのは、ぶつけられた二号車ではなかった。



「痛たたたぁ~」


衝撃を受けた後、ミルアは叫んでいた。

車体がぶつかった拍子に、ヘルメットをコンソールに当ててしまったから。


「いくらなんでもやり過ぎですよぉ~」


車体が損傷したと思い、事故を誘発した女神ミハル様に訴える。


「魔鋼機械だって暴走しちゃった位なんですから」


双方がぶつかって停まり、訓練が中断してしまう結果となったのを訴えて。

ぶつかったままで動きを停めている二両の魔鋼騎が、どうなったのかを調べる為に後進にギアを入れて。


「あ・・・ほら。

 ギアは入っても動力が停まっちゃってますよ」


一号車が故障してしまい、二号車から離れられなくなっているのが分った。


「観測所に故障報告を入れないと。

 それに二号車へも離れられなくなっているのを知らせないと」


行動できる動力は止まっていても、無線機を使うだけの電力は残されているようで。


「回収車で調整所ブンカーまで曳いて行って貰わないといけませんね」


無線機で観測所へ連絡しようとした。


「お願いねミルアちゃん。

 事故は魔鋼機械の暴走が原因なのも、報告しておいてね」


ぶつくさ文句を言いつつも的確に事後処理を行おうとしているミルアに、女神ミハル様が頼んで来る。


「え?!一緒に報告してくれないのですか?」


事故の一因である、女神級の魔法力に拠る魔鋼機械の暴走。

それを引き起こしたのは女神ミハル様だと言うのに?


「そうしてあげるべきだとは思うんだけど。

 私の目的は完遂出来たから、後は姪っ子に任せることにするわ」

「え?!ミハル候補生に?」


いきなり魔鋼騎を操り疑似戦を戦い、いきなり事後を託すと告げられたミルアが驚きを露わにして。


女神ミハル様の目的って?

 まさかミハル候補生の代わりに疑似戦を戦われただけってことじゃぁ?」

「いやいや。それじゃぁ単なる戦闘馬鹿だよ」


目的の完遂と言い切られた訳を質したのだが。


「目的と言ったのはね。

 姪っ子の魔砲力が、今在る魔鋼技術では御し難いってこと。

 この魔鋼騎では、存分に闘う事が出来ないのを知らせたかったのよね」

「あ・・・それで女神級の魔法力を発揮したってことですね」


女神ミハルから教えられたのは、この車両では美晴の魔砲力がオーバースペックを招いてしまうということ。

魔鋼騎としての能力を、遺憾なく発揮させるのは無理だと教えているのだ。

なにせ、人を超越した女神級の魔砲力を授かっていたのだから。


「そ~なんだよ。

 魔鋼機械だって限界があるのを知っていたから。

 能力超過したら暴走しちゃうのも、過去の経験で知ってたしね」

「・・・それって。ワザと狙っていたんですね。暴走するのを」


・・・

・・・・

・・・・・しばしの沈黙が車内を凍らせた。


「さ、さて。女神は黙して帰るわ」


冷汗を掻き掻き。女神ミハル様が憑代とチェンジすると告げる。


「ああ・・・ミハル候補生はこの状況を認識されているんですよね?」


宿っているのだから、宿られている本人も状況を把握しているものとばかリ思い、訊いてみた。


「え?あ・・・っと。

 姪っ子ちゃん・・・ね。

 ・・・うん~っと。気絶してるわ」

「はぁ。それじゃぁしっかりと説明して貰ぉ~・・・って?え??」


憑代は・・・絶賛気絶中ッ?


「いやいやいや?!気絶してたら駄目でしょうがぁッ?!」


驚愕の事実を突きつけられて。


「待ってくださいミハル様と候補生~っ?」


女神ミハル様と美晴を同時に呼び止めようとしたが。


「じゃぁね~、キュリアさんの娘っ子」


悪戯な女神は声だけ残して・・・


「また。逢う日を楽しみにしてるわね」


美晴の中へ消えて行く。

翳りと共に消えて行く。


「って?!行かないでよぉ~!」


魔鋼機械が停まった車内に残されたのは、ミルアの嘆く声だけ・・・




庁舎から覗き見ていた。


「あああ・・・」


溜息というか、嘆きの声と言うか。

こんな事になるとは思わなかった。

もっと真面で強力な魔鋼騎の姿を見せて納得して貰うつもりだったのに。


「やり過ぎやでミハルってば」


ため息交じりの小声で、幼馴染を叱責するマリアに。


「良いものを見せて頂いたよマリア君」


傍に居る老紳士が笑顔で教えて来る。

疑似戦が有意義であったと。


「これではっきりした。やはりリーンの求める通りだとな」


二両の魔鋼騎が衝突して終わった結末を、良いものだったと教えられたマリアが恐縮して。


「は。参観、感謝申し上げます」


ドゥートルは、小隊長のマリアに応え。

マリアは皇族近親者たる紳士への答えとした。


「明日以降、いつでも伺候できるように執り図られたい」

「そ、それでは?!」


ドゥートルの提案に、マリアが瞼を抉じ開けて。


「いよいよ、選抜されるのですか?」


誰かに会って、何かを授けられるのかと問いかける。


「うむ。あの子が求めるのならば・・・だが」


それに対するドゥートルの答えは。


「その前に。会って貰わねばなるまい、開発者たる娘と」


ニコリと笑い、杖を研究所の方角へ向けて。


「私の誇る、孫とも呼べる娘と・・・な」


それに応えるマリアが傅く。


「はい。承りました閣下」


二人が見下ろす戦闘車両訓練場には、二両の魔鋼騎がもつれ合って停まっていた。




野戦回収車が二両を調整所まで引っ張り還っていた。


「ぶぁっかもん!」


整備班長のビッグこと、ビガーネル少尉が怒鳴っている。


「訓練での故障ならまだしも。

 誰が疑似戦を許した?誰が勝手な真似を許可したんだ?」


魔鋼状態での疑似戦が、誰の許可を得て行われたのかを質して。


「無許可訓練を実施したの挙句、折角整備を終えたばかりの魔鋼騎を壊した。

 これは懲罰ものだぞ、分っているのか!」


訓練の責任者を罰すると言ったのだ。


「それに、運良く搭乗者に目立った怪我人が出なかったから良かったモノの。

 人身事故には成らずに済んだのは奇跡にも等しいんだぞ」


戦車が壊れるくらいの事故だったのに、負傷者が出ずに済んだのはビッグの言う通り奇跡だったのかもしれない。

(その辺りは女神ミハル様の御加護があったのかも)


「す、すみませんでした整備班長」


いの一番に謝ったのは、観測所に居たレノア少尉。


「こんな羽目になるなんて思いもしなかったんだよ~」


まだ、気絶した後遺症からか、呂律の妖しいミーシャも続く。


「申し訳も在りません、ビガーネル少尉」


魔鋼騎に初めて乗り込んだ、一号車の代理車長も。


「まさか、魔鋼機械が暴走するなんて思いもしませんでしたので」


そして、全てを知っているミルアが締めくくった。


「ミハル候補生の魔法力を受けた機械が、制御が不能になるなんて」


詳細は語らなかったが、事故の理由の一部分を報告したのだ。


「なんだと?」

「魔鋼機械が制御不能になった?」

「そんな馬鹿な?」


3人の少尉が、マリアの報告に目を剥く。


「故障の原因は、機械が候補生の魔力を受けきれなかったからです。

 本車の魔鋼機械が制御不能と化したのは。

 ミハル候補生の魔法力がずば抜けて強力だったのが要因かと思われます」


「う・・・そうなのか?」


事故の一因となったのは、魔鋼機械が限界を超えた魔力を与えられたからだと告げ。


「故に、ミハル候補生の魔法力を以って実力を発揮するには。

 本車以上に優れた魔鋼機械を搭載する車両であることが望まれます」


既存の魔鋼騎では、美晴が乗るには不十分だと申告したのだ。


「嘘だろ・・・おい?」

「魔鋼機械の限界を超えただって?」

「能力限界を超える程の魔力ってどれ程なんだよ?」


聴いた3人が一斉にミルアに詰め寄り。


「どうなんだよ、ミハル候補生?」

「本当にミルアの言う通りなのかよ?」

「聞いた事もねぇぞ、魔鋼機械を制御不能にした奴なんて」


横に立っている美晴にも訊き質して来る。

その様子を観ていたミルア伍長が、最後に訊いたビッグへと応える。


「いいえ、前例があるんです。

 前二国間戦争当時ですが、双璧の魔女と呼ばれた方に拠り。

 魔鋼機械を暴走させた前例が残されているのです」


しっかりとした口調で話すミルアが教えた。

嘗て、このフェアリアに存在した魔砲少女が起こした喩えを。


「それって・・・まさか?」

「あの・・・英雄?」

「この候補生と同じ名の?」


ミルアが教える前例者を、3人は知っていた。


「ミハル・・・ミハル候補生と同じ名前の。

 あの英雄で、神に成ったという・・・」


ミーシャが怯えるように顔を引き吊らせる。

それに応じるように、他の3人が揃って美晴を見詰めて。


「あ?あの・・・」


じろりと見詰められた美晴が仰け反って冷や汗を掻き、


「ミハル伯母さんなんですよね。その前例者って」


女神となったのは自分の伯母だと教えるのだった。


「それでその。魔力を引き継いじゃったかも・・・あはは」


今にして漸く。

偉大なる英雄神が伯母だと認め、強大なる魔法力を受け継いだと教えた。


「なッ?」

「んッ?」

「だとぉッ?」


三者が揃って驚愕した。


「あ、あの。皆さん・・・知らなかったんですか?」


何度も魔力を使っていたのに、強大な魔砲力を見せたというのに分からなかったのだろうか?


「あたしの名前でも、想像がついた筈じゃぁ?」


シマダ・ミハルという同姓同名だと言うのに?


「いや、同じ名前だからだとか。

 血縁者だからと言って、偉大な魔力を持っているとは限らないし」

「どちらかと言えば、平和ボケしてるみたいだったし」

「お嬢ちゃんが女神の姪だなんて思えんよなぁ」


思いっきり、駄目出しを喰らう美晴だった。


「・・・そんな」


涙目になる美晴を余所に、ミルアはそっと微笑む。


「どうやら、旨く行ったみたいですよ。女神ミハル様」


そして呟きながら美晴を観ていた。


「怪我人が出なかったのも女神ミハル様の思い通りなんですよね」


あの衝撃を受けても、誰一人として怪我がなかった。

気絶する位の衝突でも、動けなくなっただけで全損まではいかなかったのも。


女神ミハル様の望まれる通りに。

 もっと凄い魔鋼騎に出逢えたら良いのですけど・・・」


暴走させれる程の魔法力を備えた美晴の為に。

新たな車両を手に出来るかも知れないと想い。


美晴と女神ミハル様を重ね合わせて。

優しい声で導こうとしてくれた、理を司る者へと感謝を込めて。


「私がキュリアお母さんの娘だと知っておられたんだ。

 魔法医キュリアの娘だと判って、会いに来てくだされたんだ」


胸に提げているお守の碧い石に手を添えて。


「きっと・・・お母さんを助けてくれる。

 病魔に冒されたキュリアお母さんを護ってくれるんだ」


女神を知った今、希望に胸が躍る。


「私の狙い通りに・・・」


美晴へ近付いたのも、この日を迎える為。

女神を知り、女神に助けを求める為に。


「お母さんから病魔を取り除けるのは。

 神の異能、女神ミハルの神力だけなんだから」


碧い石に手を添え、癒しの魔力を属性としたミルアが呟くのは。

あの晩に出逢えたのも、魔法軍で再会出来たのも狙い通りだったのだと言う。

全てが、母キュリアを救う為にあると言ったのだ。


果してミルアの願いは成就されるのか。

そして女神の思惑通りに事が運ぶのか?


初めて魔鋼騎に乗った美晴の行先に待っているモノとは?


小隊員達は、今になって漸く美晴の魔法力を知った。

偉大なる英雄神の姪であるのを認めたのだ。

否、強力な魔砲の乙女であると分ったのだった。


女神ミハル様に逢えたミルアは、自身の母親と女神の間柄を想い図る。

魔法医の属性を持つ者であろうと治せない病に冒された母キュリア。

美晴との邂逅も、傍に居るのも全てが母の為だと言うのだった。

女神ミハルに拠り、助けて貰うのが狙いだとも・・・


願いと欲望が錯綜するフェアリアで、新たなる展開が待ち構えていた。

女神による魔鋼騎の暴走。

強力な魔力の開示は、誰の為だというのか?

誰に美晴の魔力を見せ付けたのだろう?


次回 魔砲の戦車と王女の秘密  15話

魔鋼機械を暴走させたのは美晴だと認識された。

その結果が齎す運命に、誰もが気付けなかった・・・

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