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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8<レジェンド・オブ・フェアリア>魔砲少女伝説フェアリア  第1章王立魔法軍
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魔砲の戦車と王女の秘密  10話

代理車長の美晴候補生が命じた。

魔法の戦車に発進せよと・・・


初めての戦車、初めての魔鋼騎。

訓練の中、魔砲の乙女が求めるのは?

一号車の車長席に立つ、代理車長の美晴候補生が発進を命じた。


「進発します!」


操縦席で運転を担うミルアが復唱し、ギアをローに入れた。


「最初はゆっくりと進んでね、ミルア伍長」


高まる発動機エンジン音が鼓膜を揺らす。

騒音で聴きとれないのを補助する車内通話回路を開き、喉頭マイクを指で押さえて命じる。


「はい。徐々に速度を上げます」


耳を覆ったヘッドフォンから、応じたミルアの声が返される。



 キュラキュラキュラ・・・


車体調整所から発進した1号車が、草の生い茂る訓練場へと進んで。


「じゃぁ、ミルア。

 時計回りで場周走行に移るわよ」

「了解です」


車体の操縦席と砲塔上部あるキューポラで、互いの声がヘッドフォンから流れる。


「もどかしいな。肉声で会話が出来ないっていうのも」


同じ車体の中だと言うのに、通話装置に頼らなければ聞き取り難いのは不思議な感覚でもあった。


「操縦席と僅かしか離れていないってのに」


キューポラから車内を覗き込む。

砲塔基部が邪魔になって、ミルアの座る操縦席は見えていなかった。


「このぐらいの音なら、大き目の声だったら話せると思うけど」


初めて乗った車長席で、余計なことを考えてしまう。

見晴らしの効くキューポラに上半身を出して外界を観ていたから、想いに耽るだけの余裕があった。

だけど・・・


「ミハル候補生・・・いいえ、代理車長。

 これより場周走行に移ります。揺れますから気を付けてください」


敷地を旋回して車体のテストを行うように命じられていた。

先に基本動作を確認して戻ったレノアからも、実戦に即した試験テストを行えと言われていたのを思い出して。


「うん。走破力のテストに懸ろう。

 ミルア伍長、全速前進!」

「了解!」


美晴の命令を受けたミルアが、アクセルを踏み込み速度を伸ばし始める。


 ド・・・ゴロロロロ!


エンジンが唸り、ギアが金属音を奏でる。

キャタピラが土を噛み、排気管から不活性煙が噴きあがる。


 キュラギャッ・・・ギャッギャッキュラ・・・


キャタピラが草と大地を削り取り、二本のわだちを残す。

不整地を走破する1号車は、サスペンションを軋ませながら速度を上げていく。


 ガタンッ ゴトッ ガガンッ


サスペンションで抑えきれない揺れが、キューポラの美晴までも突き動かす。

激しい揺れに美晴は、車長席で姿勢を崩さないようにと、把手に手を突っ張って。


「今の速度は?」


これが全速なのかと訊き質す。


「現在、5速で40キロです!」


ヘッドフォンから聞こえたミルアの声が、まだ全速力には至っていないと答えて来る。


「ミーシャ少尉が出した100キロには遠く及びません」


そして先程見たミーシャの二号車には及ばないのも。


「あれは。少尉が魔法を使ったからでしょう?」


白猫ホワイトキャットの紋章を輝かせ、物凄い速さで壕を飛び越えた。

その姿は美晴の記憶にも鮮明に残っている。


「ミハル候補生。

 この1号車だって同じ車両なんですよ」


魔法を使って速度を倍近くまで伸ばした2号車と、今乗っているのは同じだと教えて。


「この小隊長車も。魔鋼騎なのですから」


魔法を使役できる者が乗る戦車。

魔力を受けて変化する車体。


「ミハル候補生だって。変える力が有るのですよ?」


魔法の戦車と、魔法使いが為すのは。


「ミハル候補生も観たくはありませんか?

 私達の魔法が、この車体をどう変えるのかを」


勧められた。

同じく魔法を授けられているミルア伍長に。

魔法使いが乗るべき陸の王者が、更なる進化を遂げるには何をするべきかを。


「ミルア伍長。あたしに魔砲まほうを放てと言うの?」

「そうすべきなのではありませんか?

 候補生がどれ程の異能ちからを見せてくれるのかを。

 マリア中尉は、待たれているのではないのでしょうか」


ヘッドフォンからの声に、美晴は身を固くした。

魔鋼騎とフェアリアでは呼ばれる魔法の戦車に乗った今。

車体を調べる意味でも、自分がどれ程の変化を齎せるのかも知らねばならないから。


況してミルアが言ったように、訓練を準備していたのはマリアだったから。

美晴が軍隊から身を引けない現状を鑑み、抗う方法は唯一つだと思ったのだろう。


「あたしの魔砲力が変える・・・のよね」

「そうです!」


ー 変えるのです。運命をも!


ミルアの声が。自分の中に居る別の心が。

抗える力を求めて、頭の中で響き渡った。


「やってみる。マリアちゃんが求めたのなら。

 変わってみせるから・・・未来の為に」


速度を増す魔法の戦車で。

受け継いだ魔砲の異能を放つのだと云って除けた。

 

「了解です!ミハル車長」


決然と応えるミルアの声。


「いつでも・・・命じて!」


魔砲少女からの命令を求めて。


 すぅっ・・・


息を呑む。

胸に右手を添えて。


 シュゥンッ!


蒼き宝珠が、魔砲の異能を受けて光った。


「往くよ・・・ミハル」


自らを鼓舞するように。


「変れ・・・我と共に」


宿った女神へも命じるように。


見開かれた瞳が、青さを増す。

翻る黒髪が徐々に蒼髪に。


「ミルア!チェンジ・・・魔鋼機械発動ッ!」


喉から絞り出すかのように・・・叫んでいた。


「魔砲よ!あたしに闘う術を与えて」


生れて初めて。

本当に・・・初めての瞬間だった。


真の魔砲力が開花したのは。

古から引き継いだ魔砲の異能が、魔鋼機械を動かしたのだ。


魔法少女ミハル・・・いいや、魔砲の乙女が目覚めを迎える。



発動を命じられたミルアの手が、紅いボタンを押し込んだ。

魔法を使役出来る人類が開発した・・・魔鋼の機械に火を燈した。


 ブゥウウウウン!


砲塔基部に設えられた<蒼き魔法石>が回転を始める。

魔法石から溢れ出す魔力の奔流が、機械を動かし魔法を増幅した。

人知を超えた何かが、車体内部へと噴き出して。



 ビシャッ!


瞬く間に車内に溢れた・・・のと、同時に。


 キュワンッ!


ミルアが手にしていたハンドル形状が変わる。


「?!わッ?」


目の前にあった計器も。


「全てがデジタル化しちゃった?」


アナログだった走行装置も、


「シフトノブもクラッチさえも無くなった?

 これって・・・オートマチックって奴なの?」


ミルアは戸惑いよりも驚きで眼を丸くする。


「びっくりです。こんなに変えられるなんて」


魔鋼の機械が齎した変化に、ミルアは燥いでしまう。


「魔法がこんな変化を造り出せるなんて。

 驚くよりも、感動してしまいましたよ」


操縦席を見渡し、装置へ手を伸ばして感動して。


「流石は英雄の娘ですよね。

 これこそが、本物の魔砲使いって変化ですよね」


目をキラキラさせて車体を変えた魔法使いに振り返る。

そこに美晴が座っていると思い込んで。


「ねぇミハル候補生・・・え?」


振り返ったミルアの瞳に写り込む。


「う・・・そ?」


何かの影のような。

誰かの霊魂とでも言えた様な。


翳りを纏ってしまったかのような美晴の姿が。

車長席に居たのだ・・・

美晴は魔鋼騎に変れと命じる。

知らず知らず呪文のように<チェンジ>と言い放って。


魔鋼機械へ魔法力が与えられ、車体が変った。

車内も車外も・・・魔砲力が変えていく。

それは魔砲の乙女が求めるように。

そして彼女が求めるように・・・


次回 魔砲の戦車と王女の秘密  11話

蒼き光が車内を輝かせる中、美晴の身体を包み込んだのは?

(やっぱり・・・チェンジって言っちゃったもんね?)

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