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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8<レジェンド・オブ・フェアリア>魔砲少女伝説フェアリア  第1章王立魔法軍
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魔砲の戦車と王女の秘密  3話

秘めていた魔法力を開放した美晴。

これまでとは違い、訓練でも余裕をみせる様になった。

それまでとは格段に明るく振舞えるようにもなっていた。

魔法力の開示。

その理由はミーシャ少尉が明かしていた。

魔力を持っている美晴が乗る事となる戦車。

魔法を持つものだけが乗る事を許される車体。


そう。

魔法の戦車・・・<魔鋼騎>に乗るのだから。

八特小隊が訓練に明け暮れていた部隊から20キロ程離れた所にも、フェアリア軍が管轄した施設があった。


周りを高い塀に囲まれた敷地には、些か古ぼけたビルが数棟建っている。

その辺りに住んでいた者は覚えているだろうか。

30年ほど前には、そこが旧フェアリア軍の研究施設であったのを。

そこから生み出されていたのが、新規開発された戦車だったのも。


高い塀に囲まれた施設は、今現在も開発機関として稼働していた。

軍の直轄施設として新たな装備を開発する為に・・・


敷地の端に位置するコンクリート建ての工廠。

そこは今日も立ち入りを禁止する立て札が掛かっている。

近付けば漏れ聞こえてくる騒音。

中で作業が行われているのを伺わせていた。

関係者以外の立ち入りを禁止してでも行われているのは、秘密を守らねばならない程の物なのか。

それとも、危険な実験を強行しているのだろうか。


誰も近寄れない筈の工廠に、杖を持った老紳士が歩んで来る。

白髪で髭を蓄えた恰幅の良い老紳士は、立ち入りを禁じた立て札を杖で除けると。


「最早、隠し立てする必要も無かろうに」


柔らかい声を残して、工廠の中へと入って行くのだった。



 ガコンッ!


大音響を立てて、最後の作業が終わりを迎えた。


「よっし。これで完成だわ」


前髪に丸渕眼鏡を載せた研究者が一息入れるように呟く。


「なんとか・・・間に合ったわね」


目の前には、これと言って目新しくも無い車両が置かれてある。


「あの子が実力を発揮できれば良いんだけど」


戦闘車両・・・戦車としてはの話ではあるが。


丸渕眼鏡の研究者。

金髪を三つ編みに結い、ピンクのリボンで括っている。

そう、美晴の母ルマと会っていた研究者の。


「ルナ。出来上がったのかな?」


騒音が鳴りを潜めた工場内部に、白髪の老紳士が現れた。


「あ?ドゥートル叔父様」


丸渕眼鏡を前髪に載せたまま、振り返ったルナリィーンが老紳士へと応える。


「はいッ!漸く間に合ったみたいなの」


現れたドゥートルに駆け寄り様、ルナリィ―ンが教えるのは。


「シマダ親子から譲り受けた資料を基に。

 魔鋼機械の最新技術を培った、最新最強の魔砲具が出来たのよ」


喜びのあまりに老紳士に抱き着き。

やっとのことで完成を観た機械の事を知らせたのだった。


「おお。よくぞ成し遂げたな、ルナよ」


とびっきりの笑顔を溢すルナリィーンの頭を撫でたドゥートルが褒め称える。


「ありがとうドゥートル叔父様。

 これが完成出来たのも、叔父様が協力してくれたからです」

「いいや。ルナが必死に頑張ったからじゃよ。

 老いぼれが出来たことは、多寡が知れておるからのぉ」


歳の離れた研究者と、老紳士が協力した結果が此処にある。

この工廠で産まれた、新たなる戦車。

それには如何様な秘密が載せられたというのだろう?


「叔父様。あの子はこれに乗ってくれるでしょうか?」


ツイっと顔を挙げてルナリィーンが訊く。


「ブラックボーン達の計画に従わずに?」


その顔には、先程までとは打って変わって真剣さが滲んで見える。


「同じ名前の。いいえ、もう一人の私に心髄する結社集団の目論見は防げるの?」


もう一人の・・・ルナリィ―ンが居ると告げ。


「命の尊さを見失ったルナリィ―ンが、ミハルを堕とさないでいるかしら」


もう一人が謀っているのを知っていると言うのだった。

悲し気に、苦し気に。

全てを知った上で、この機械の開発に全力を尽くして来たのだと。


「彼女が望むようにはさせない。

 そう願ったのはルナ自身ではないか。

 魂を機械の傀儡に堕とす計画に賛同しなかったではないのかね」


「そう・・・だけど。心配なのです」


心を痛めるルナリィ―ンに、老紳士は労わりの声をかける。


「そうか、心配か。

 ルナは優しい。叔母であるリーンにも勝る程に。

 だからこそ、この老いぼれ達が味方に成りたいと思うのだ」

「はい。いつも有難く想っております」


ドゥートルの大きな手が、もう一度ルナリィ―ンの髪を撫でて。


「よしよし。そんなに心配だと言うのであれば。

 この老いぼれが執り図ってやろうではないか」

「え?なにを・・・でしょうか?」


突然の言い草に、ルナリィ―ンはキョトンとした目で見上げる。


「お前の造った<魔鋼騎>に乗るように・・・な」


続けて応えられた言葉は。


「美晴の。ミハル・シマダの専用車となるようにな」


老紳士のウィンクを以って結論付けられた。





毎日の日課と化した訓練だったが。


「は~い!本日の訓練を終えますよぉ~」


魔法を堂々と使えるようになった美晴には、厳しい訓練も辛くは無くなったみたいで。


「ぜぇ~ぜぇ~・・・化けモンか、候補生は~」


美晴の練度に併せて強化されたカリキュラムが、周りの隊員達にも課せられるようになったから。


「は~は~・・・どんだけ魔法力を持ってやがるんだよ~」


ミーシャ少尉もレノア少尉も、立場が逆転してしまったのを体感していた。


伸びて座り込む二人を尻目に、レベル5の魔砲少女は溌溂としていて。


「ミーシャ先任、レノア少尉。

 訓練終了の整列ですよ~。お急ぎくださいね~」


意気揚々と小隊搭乗員集合場所に駆けて行くのだった。

その姿は、先週とはまるで別物。

暗く落ち込んでいた表情だったものが、明るく輝いているように観えるのだから。


「候補生、ミハル候補生」


駆ける背後から呼ばれた。

振り向くまでも無く、声の主が誰だか分かった。


「うん~?ミルア伍長」


グラウンド脇の原っぱから、自分と同じ補欠要員であるミルアが呼んでいるのに気が付いて。


「なにかな?」


立ち止って用件を訊こうとした。


挿絵(By みてみん)


「いいえ、用ってことでもないのですけど。

 今週になってから急にお元気になられたみたいなので・・・その」


するとミルアから逆に質問されてしまった。


「どうして・・・って?」

「はい」


少し小首を傾げる風に考えてから美晴が教えた。


「そうだね。安心した・・・かな」

「安心?なにを、でしょうか?」


再びの問いに、フッと笑みを零した美晴が。


「うん、それはね。

 あたしって、護られているんだなぁ~って。

 みんなから力を与えられているのを教えて貰ったんだ」

「守られている・・・安心感でしょうか」


ミルアからの質問に頷き返して。


「だからね。もぅ怖くなんてなくなったんだ」

「怖かった?ミハル候補生が・・・ですか」


ミルアは訊き質したかったのだろうか。

強力な魔力を秘めた美晴でも、怖く感じていたモノの正体を。


「うん、でも今は。

 ミルアさん達が居てくれるから、怖くは無くなったんだよ」

「私達って・・・八特小隊員ってことですよね」


しかし、美晴からの応えに何かを感じ取ったのか。


「それでしたら、善かったです。

 私も同じみたいなものですから」


表情を緩めて、美晴に応えるのだった。


「ミハル候補生が八特小隊に居てくれて嬉しいですから」


心の閊えが取れたように。

まるで、魔法で心が癒されたみたいに。



二人が互いに労っていた・・・その直ぐ傍の陰で。


「いつまでも暢気にしていられると思うなよミハル」


茶髪で赤眼の少女が哂った。


「姫の命さえ下されたら。

 お前は忽ちにして捕らえられるんだからな」


腰に下げた二振りの剣に手を添えて。


「私じゃない者の手に依るかは知らないけど。

 お前の魂を欲しがっておられるのだから・・・ルナリーン様は」


フェアリア王家の姫、ルナリィ―ンの名を告げるのだった。


「報告しておいたぞ、お前が既に卓越した魔法力を持っていると。

 強力な魔法力を持っているのを・・・だが」


一旦言葉を区切った紅い瞳の剣士が次に口走ったのは。


「私の剣術に抗し切れるのか。

 直々に試してやろうじゃないか、ミハル・シマダ」


美晴との剣戟を所望したのだ。


「もしも、このアクアを打ち破れたのなら。

 その時こそ、お前を捕らえることを進言しよう。

 まぁ、時を司れる私に勝つのは出来ないが。

 剣術次第では、一時の勝利を手には出来ようがな」


口元が歪む。

完全に相手を見縊った嘲りで。


「ちょうど良い具合だ。

 今夜は晴れて月も明るかろう。

 月夜に舞う魔女が求めるように。

 獲物が悶え苦しむ様を見せて貰うとしようか」


何かを匂わせる様な一言を残して、陰の中に消えて行った。




解散の命がマリアから下され、三々五々に隊員達は歩き出す。

その中で、美晴が宿舎へと向かう後を追いかけて来たのは。


「美晴・・・ちょっと」


まだ、フェアリア語で呼び止められた美晴が振り向くと。


「マリア・・・中尉?」


駆け寄って来たマリア小隊長が、小声で言ったのは。


「今夜は外出したらあかんで美晴」

「え?外出は駄目って。当り前じゃないマリアちゃん」


意味が分からず怪訝な顔になって訊き返した。


「まだ土曜日でもないのに外出できる訳が無いでしょ?」


此処は軍隊で、自分は軍人なのだからと言ったつもりだったのだが。


「いやいや、ちゃうちゃぅ!

 今夜は宿舎から出たらアカンって意味やったんや」

「はいはい。門限破りなんてやらないから」


全く以って、融通の利かない美晴にマリアは近寄って。


「違うんや!

 今夜は何があっても外へは出るんやないで、って言うとるんや」

「え?あ、そうなの?」


思いっきり大声で窘められた美晴が目を丸くして驚く。


「奴等の動きが怪しいんや」

「奴等って・・・あの人達を指してるんだね」


美晴を衝け狙う者達が、今夜何かを狙ってくると?


「何をってことが分らないから。慎重を期したまでやけど」

「なるほど。マリアちゃんが心配してくれるのなら言う通りにする」


美晴が魔法力を開放したことに対する敵側の動きに対応できるまでの期間。

夜間の行動には慎重を期さねばならないと、マリアは忠告してくれたようだ。


「ふむ。なんやったらアタシと一緒に寝るか?」

「ふむふむ。魔物と寝る位に身の危険を感じるんだけど」


方やマリアは真面目に、応じる美晴は悪戯っぽく。


「なんやとぉ~?」

「だって。押し倒す気満々じゃないの?」


幼馴染な魔法少女は、お互いの心を分かり合っているから。


「プ!大丈夫そうやな」

「あはは!うん、心配してくれてありがとねマリアちゃん」


笑い合って応えるのだった。


夕陽が落ちた庁舎の前で。

上弦の月が舞い上がって来た夜闇の始りで。

まだ、その晩になにが待っているのかも知らなかったから・・・



戦車を開発したのは、ドートル退役将官の言ったとおり王女ルナリィーンなのか。

一体誰を乗せると言うのか。

誰の為に開発して、何を求めるというのか?


彼女の名はルナリィーン。

そして美晴に迫ろうとしているのもルナリーンと名乗っていた。

今、フェアリアには王女が二人存在しているのだろうか?

そして監視している者が夜闇を突いてやって来る。

己が欲求に、剣を忍ばせて・・・


次回 魔砲の戦車と王女の秘密  4話

月夜の光が堕ちて来る。それは魔女が舞う妖しき晩・・・

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