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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第4章 暗黒王
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Act27 復讐者(リベンジャー)

投げ技を画策するリィン。

だけど、相手の少女人形は黙って投げ飛ばされるのか?


金髪の少女人形。

その蒼い瞳の奥には何かが燻っているのだが?

掴みかかるかに見える相手の動きに、リィンは即座に対処を考えた。

これまで培ってきた経験と、身体に覚え込まされた体術を元に。


「突き出して来た右手を掴んで。

 相手の動きを逆手にとって、身体を低くして捻りを加えて投げ飛ばすよ!」


リィンはこの後の動きを説明する。


「普通の人間なら、投げたって多寡が知れてるだろうけど。

 今は人形なんだから、吹っ飛ばすくらいの威力があるんだよレィちゃん!」


この場に居たのなら、初めて人形の闘いを観ることになるだろう人への想いを胸に。


「外野まで投げ飛ばしたら、相当のダメージを稼げるんだ!」


一撃で倒せなくたって、ポイントを稼げるのは間違いないと踏んで。


突き出して来る相手の動きを先に読むと・・・


「今だ!やるよレイっ!」


左手を金髪の少女の右手目掛けて突き出した。


「左手を引き寄せて!

 右手で相手の腕を捉えて!」



 ダンッ!



掴んだ相手の腕を引き寄せ、その下に右手を絡ませて・・・


「回転を加えて遠心力を利用して・・・」


掴み取った相手を態勢を入れ替えて背負い込む。


「このまま全力で振り回して・・・」


腕を掴んだ勢いのまま、逆方向に身体を捻り相手を振り回す。


「まだまだ!眼が回っても手を離さないで!」


脚力に物を言わせて相手を掴んだまま回転を速める。



 ギュルルル!



フィギアの選手が回転するのと同じ・・・いやそれ以上の速さで。


「どぉりゃああぁ~ッ!」


雄叫びを挙げて、回転に耐えるリィン。



 ビュルルルル~



グランドの砂が舞い、少女人形レイを中心に竜巻のような旋風が巻き上がる。


「目標ッ、グランド端のフェンス・・・いくよぉ!」


投げつけてぶつけられたら、相手は一時的にも戦闘不能と化す・・・かも知れない。


「これが!あたし全力全開フルバースト


強烈な回転で目も眩みそうになりつつも、リィンは技に耐えると。


「リィン砲・・・発射ぁッ!」


掛け声とともに両手の解放を命じた。

一瞬だけレイの反応が遅れたのは、猛烈な回転に因って<彼女レィ>が眼を廻しかけていたから。



 ドンッ!



「いけぇ!」


裂帛の気合で相手を投げ飛ばすリィンが吠える。


投げ出す瞬間のタイムラグに由り、少々フェンスよりも高めな軌道を採ってしまう。

だが、回転を停めた処のリィンは分かりようも無かった。


「ひぃいいいい~目が回りそうだよぉ」


自分もフラフラになっていたから。


「まさか、ヴァルボア博士の訓練が。

 こんな時の役に立つとは~」


新開発された人形操手プログラムで強烈な回転を経験していなければ、相手より先に目を廻して倒れていたのかも知れなかった。


「レイも眼を廻しそうだったよねぇ」


モニターに映る観測装置が、僅かに回り続けているような錯覚に捕らわれて。


「人工頭脳でも・・・目が回るのかな?」


少女人形の演算機構でも、あの回転力には敵わなかったのか・・・と。


「それくらいの威力ってことでしょ」


で、自己完結したリィンの眼に飛び込んだのは。


「あ?!あれあれ?どうしてそうなるの?」


相手を追いかける瞳が、信じられない光景を映し出していた。






それは・・・金髪の少女人形の思い通りの展開だった。

リィンが投げ飛ばして来るのを予想していた<彼女>の企てだった。




掴みかかる様な態勢を執れば。


<こっちの思い通りの手を打って来たわね>


左手を掴まれた瞬間、この後どうすれば良いかが読めた。


<地面に叩きつけては来ないだろう。

 それ位ではポイントも稼げないし・・・

 寝技へと持ち込まれるのを懼れるだろうから>


だとしたら・・・投げ飛ばすだろうと?


<どれ程の威力で放り出してくれるかが鍵だな>


投げ飛ばされるのが狙いだとでも?


黒髪の少女人形は、こちらの思う壺に嵌った。

振り回して投げ飛ばす気なのは明白になる。


<ほぉ?これは・・・なかなかだな>


少々驚かされたのは、振り回すにも程があるくらいの回転力。

まるで竜巻に巻き込まれてしまったかと思えるぐらいのスピードで振り回して来る。


<これだけの回転力を誇るのに、先程までの失態はなんなんだ?>


脚力は半端なく強力に思えた。


<なるほど。さっきまでのは私を欺く為か。

 一撃で勝負を決めようと、歌舞いていたのか>


納得できた。これは少々本気を出さねばならない相手なのだと。


<下手をすれば、互角の闘いに発展したかもしれないな>


少しだけだが、納得感と喜びが湧く。


<フフ・・・次には必ず勝負してやる>


振り回して来る少女人形を片目で見据えながら。


<だが今は・・・奴等を!>


もう片方の瞳の奥で貴賓室を捉えて準備する・・・その一瞬を。



「どぉりゃああああぁ~!」



少女人形のスピーカーから、どこかで聞いた事のある少女の声が流れ出た。


<来るッ?!>


声の主が誰だったかを想い計る術も無く。


捕まれていた腕が離された!


<今だ!>


相手の腕から解放された一瞬を捉え、身体を捻って態勢を整える。



 ドンッ!



空気が裂け、猛烈な勢いで空を舞う。


<目標までの距離50メートル!>


真っ直ぐ飛んで行っても・・・


<フェンス頂部でバウンドをかける!>


目標はフェンスよりかなり高い場所にあるから。


<ぶつけられた振りをして・・・ジャンプする!>



考えてあった想定を実行へと移す。

強烈な反動をものともしない人形の身体を利用して。

人間では不可能でも、機械の身体を手に入れた今ならば・・・


 

 ガッキンッ!



身体を僅かに捻って靴底をフェンス頂部に叩きつける。


<ぐっ?!思った以上の衝撃だわ>


砲弾の直撃を受けたかのようにフェンスが折れ曲がる。

それほどの威力でぶつけられても、両足のパワーユニットは何とか持ち堪えられた。


<だとすれば・・・跳べる!>


 ドォンッ!


両足へ動力を集中し、パワーユニットから放出する。

ぶつけられた反動をも利用し、目指す場所へ跳躍をかける。


<さぁ!ここからが・・・私の闘い!>


目差す貴賓室を望遠レンズが捉え、目標人物が居ることを確認して。


<そして・・・復讐の時よ!>


防弾ガラスをも打ち砕けとばかり、右手を突き出していった。




「ひぃ?!」


動かない試合状況に業を煮やしたエリザが窓辺に近寄っていた。

だが、リィンの操る人形が相手を捕まえて振り回し始めた時には勝利を確信して哂えたのだが。


「エリザ姉様?」


貴賓室のソファに座っていたリマダが、姉の声に何事かと腰を挙げた時だった。


グランドを見下ろしていたエリザが怯えた様な悲鳴を上げた。


「なんですって?!」


姉を観ていたリマダにも、当のエリザにも何が起きようとしていたのか分かる筈も無かった。




 ガシャンッ!




黒い何かが正面ガラスを突き破った。



 グシャッ!



リマダの瞳に黒い何かが姉を突き飛ばすのが見え・・・



 ブシャッ!



頭部を掴まれたエリザが部屋の壁に叩きつけられる。


「ひッ?!」


金髪の少女人形だと分かったが、姉に何をしたのかが理解出来ない。

ただし、部屋中に撒き散らされたエリザだった血肉が教えていた。


「「お父さんは頭を射貫かれた・・・」」


飛び込んで来た人形からの声が聞こえる。


「ひぃ?!なんてことを!」


少女人形の声が、耳入らなかったエリザの叫び。


「「お母さんは・・・胸を!」」


血に塗れた少女人形がリマダを睨む。


「や、やめ・・・」


恐怖に怯えるリマダが後退ろうとしたが・・・


「「思い知れ!私の両親を奪った罪を。

  ガルシアの民を理不尽にも惨殺した罪の深さを!」」


エリザを殺害した少女人形が、横っ飛びに体当たりをかけて来た。



 グシャ・・・メリ・・・



少女人形の肘が、リマダの胸を砕く。


「が・・・・」


心臓を圧し潰され、声もあげれずにリマダは絶命する。

肺をも潰され呼吸器から血飛沫を飛ばして。



 ずる・・・ずる・・・ずる・・・



絶命した二人が床へと崩れ落ちる。


貴賓室は撒き散らされた血痕で染まり、惨劇が終わったのを知らせていた。


二人のフェアリー令嬢が床へ斃れた後、佇むのは彼女だけ。


「「やった・・・殺ったわ。

  遂に復讐を果せた・・・両親の。

  それに私を貶め、最後の希望までも奪い去った奴等に!」」


亡骸を見詰める少女人形から、嗚咽を含んだ声が流れる。


「「そうよ!この躰を手にしたのも。

  人形なんかに堕ちてしまったのも!

  みんなこいつらが悪いんだ!なにもかもこいつ等の所為なのよ!」」


狂ったかのように嘲る少女人形。


「「これで父母の仇は取れた・・・でも。

  私の復讐はまだ終わらない。

  まだ殺り残した奴等がこの世に存在しているのよ」」


倒した仇から顔を背け、もう一つある貴賓室へと向け直す。


「「次は誰?お前が望むのは誰だというのかしら?」」


血に塗れた少女人形が哂った。


「「人間だったフューリーでは叶わなくても、戦闘人形ファーストなら出来るわよ」」


挿絵(By みてみん)


自らがフューリーだったと溢す少女人形。

操手ではなく、人形へと堕ちたとも言っていたが?


「「ロッゾア・・・オーク社会長のロッゾアが望むのは誰?

  次は誰を始末して欲しいというのかしら。

  まだ彼の準備が整ってはいないから・・・遊んであげても良いのよ」」


オーク社会長とも繋がっている?

一体フューリーの身に何が起きたというのか。


「「復讐がこんなにも気持ちが良いなんて。

  人間を始末するのがファーストにはお似合いだと分かったわ」」


嘲笑う少女人形。

果たして次に狙われるのは誰なのだろうか?

少女人形を操っていたのはフューリー?!

人形操手としては素人だった筈?

まさか・・・あの実験を受けたのか?!


彼女は恨みを募らせていたのだが、本当にタナトスの魂の転移を受けてしまったのだろうか?


エリザとリマダに復讐を果たしたフューリー。

次なる標的とは?


事件はうやむやの内に事故と判断される。

その蔭には、あの男が関与していた・・・


そう。

オーク社会長、ロッゾア・オークという巨悪が。


次回 Act28 ロッゾア・オーク<暗黒王>

・・・もう辞めよう・・・

君は残酷な現実に気付かされ・・・頼れる人にしがみつく


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