愛憎に縺れる運命の糸 7話
突然襲い掛かってきたアクアと名乗る少女。
二振りの剣を構え、瞬時に接近を図る。
その姿を見た瞬間、誇美は咄嗟に?!
白金髪の髪が揺れた。
垂れていた前髪の隙間から、鋭い眼光を放つ紅い瞳が垣間見れる。
「アクア?!どこかで聞いた気が・・・」
立ちはだかる少女の名前を耳にした誇美だったが。
「するけど?!」
咄嗟に身体を捻った。
瞬く間も無く距離を詰めて来た紅眼の少女に併せて。
シュッ!
もし、身体を捻って避けていなければ、
シュンッ!
鋭利な刃物に斬られていただろう。
「おおっと?!」
戦女神の瞬発力でも、ギリギリの処で避けれただけ。
体を躱したついでに、詰められた距離を飛び退いて執った。
「いきなり斬って来るなんて。
問答無用にも程ってモノがあるわよ!」
飛び退いた誇美が、二振りの剣を下げるアクアに食って掛かる。
「あなたも魔法少女なんでしょ?
闘う相手が違うんじゃない?」
邪悪なる者に唆されたのならいざ知らず。
名乗ったと思えば、問答無用で攻撃して来た。
しかも、相当の手練れだと思える剣術で。
「フ。今のは手加減してやったんだ。
本気を出したのなら、切っ先で捉えていたぞ」
剣を繰り出して来たアクアが、哂いながら応える。
「得物を持たない奴を斬ってもつまらんからな」
魔戒剣をエイプラハムに返している誇美を観て、嘲たのだ。
「つまらないで済む訳がないでしょ!
斬られる方の身になってみなさいよ!」
アクアの嘲りに、カチンときた誇美。
「そんなに勝負したいのなら。
こっちだって手加減しないんだからね」
提げているポシェットに手を伸ばして。
「人間だからって、悪さをするのを見逃したりはしないんだからね!」
今一度、剣使ラファエルを取り出そうとした。
「「姫、我が姫様。この現実世界に魔戒剣を呼びつけようと為されますか?」」
だが。臣下髄一の忠臣が諫めた。
「「人の居る前で?我等の存在を明かそうと為されるのか?」」
魔界の住人であるエイプラハムが止める。
人間には使役出来ない魔戒剣の存在を教えるのは、愚行としか言えないのだと。
そしてまた、自らが人を超越した存在であるのを教えることにもなるのだと。
「あ・・・そうだったわね」
暴走しかけていた誇美が、エイプラハムの諫めで思い留まる。
「思わず魔戒剣で応える処だったわ」
ポシェットから手を放し、迂闊な自分を窘める。
「どぉした?得物を出すんじゃなかったのか」
剣を下げるアクアが、
「出さないのなら・・・出したくなるようにしてやるぞ」
勿体ぶっていると勘違いして。
「お前の異能を見せてみろ!」
再び間合いを詰めて来た。
「だぁ~かぁ~らぁ~!
こっちは手ぶらなんだから!剣をひっこめなさいよ」
至近距離まで待つまでも無く。誇美は逃げの一手を打つ。
「フ!おまえが本気を出すまで。逃がしたりしないぞ!」
それに急追をかけてくるアクア。
先程の瞬発力だったら、逃げる誇美を追い詰めるのは容易いと思える。
だが、逃げ足の速い誇美と同程度の速さで駆けて来るだけ。
「いやだから!
人目に付くから剣をしまいなさいってば!」
いくら夜だとは言え、街の中で剣を振り回したら目立ってしまう。
二人の少女が追いかけっこをしているだけだとは、誰だって思う筈がない。
追いかける少女が刃を持っているのだから。
市街地を走り抜ける合間、何人かの通行人が驚きの声を挙げるのを耳にした。
何人かの大人が、正義感から立ちはだかろうとしてくれたのも判る。
それでも追いかけ続けるアクアを停められない。
市街地を外れたとしたって諦めてはくれそうになかった。
「もぅ!諦めが悪いなぁ」
人の子である美晴の身体に宿っている今、女神本来の異能を現実世界で発揮させることは出来ない。
幾分かは控え目に落とした魔法力を使うに留めている。
「しょうがない。あそこの公園でなら」
目に留まった公園に足を向けて。
「人目なんて、この時間なら気にしなくったって良いでしょ?」
既に真夜中の時間。
森林公園に人なんて居る筈もない・・・そう考えた。
だから。
「爺!魔戒の剣は使わないけど。
アクアを振り払ってみせるからね」
このまま朝まで追いかけっこをするつもりなんて毛頭ない。
「それに。どうしても知りたい事があるの」
どうして諦めないのか。
それに?
「さっきは目も眩む程の速さで斬りかかって来たのよ。
あの速さの理由は、どこにあるのかってね」
女神でも避けるのがやっとだった。
それ程の速さをどうやって手に出来たのか。
相手が魔法少女だからという理屈だけでは納得がいかなかったのだ。
「「如何にも。アヤツの繰り出す魔法は何処から来るのか。
今後の為にも知っておいて損ではございませんでな」」
魔界にあっては臣下髄一の誉も高いエイプラハムであっても、アクアの属性を見抜けていなかった。
それ故に誇美の暴走を諫め、相手を見極めるように仕向けたのだ。
「もしかすると。
もしかするのかもって?」
「「御意。御父上より賜りし、下命に添うものかと」」
忖度する忠臣。忠言を取り上げる姫。
この主従は何を求めているのか。
「よっし!駄目元でやってみるか」
追い縋るアクアを横目で確認し、何かを試そうと?
「この躰だって、元は美晴なんだから。
魔砲攻撃には都合が良いじゃない?」
魔砲?
魔法ではなくて?
「剣で魔砲を防げるのならね」
一体何を目論むのか、誇美は?
林の中に駆け込んだ。
辺りに人の気配を感じられない。
それは、誇美の望んだ通りだった。
だが、しかし。
「ようやく、お前の望んだ場所に辿り着いたようだな」
追手のアクアには分かっていたらしい。
ここで決めて来るのを。
「本気を出してみろ。
私が望む通りに!」
十分に間合いを取るアクア。
咄嗟の攻撃にも対処が可能だとの判断からか。
それとも?
「そちらから攻撃して来ないのなら。
今度こそ、斬り捨てるまでだ!」
間合いを取ったのではなく、攻撃開始地点だったのか。
「そう?切り捨てられちゃうのは・・・御免被るわね」
対峙する誇美が悪態を吐く。
「あなたをぎゃふんって、言わせるだけよ」
右手をアクアに突き出して。
「言わせれるものならな」
対するアクアも紅い瞳で睨み返す。
「うん!言わせてみせるから」
薄暗い中で睨み合う二人。
・・・の、中間地点で。
キュウゥンッ!
蒼い光が!
「この魔砲で・・・ね!」
誇美の魔法力で現れた光弾が!
「魔光弾・・・発射!」
アクア目掛けて撃ち出された。
「なッにぃいっ?!」
いきなりの魔法攻撃に、アクアは動転する。
突然現れた魔砲弾に、剣を向ける暇も無く・・・
ドゴォッ!
光が弾けて。
薄暗かった森の中が、一瞬で眩き光に包まれた。
ゴォオオオオオ~
弾けた魔砲弾によって、森が照らし出された。
木立がざわめき、やがて爆発光が薄らいでいく・・・
オオオオォ~
暫くすると、眩んでいた眼に森の光景が戻って来る。
逃げる間も無く、直撃を喰らったのなら無事でいられるとは思えない。
いくら剣術に優れていようとも。
だが・・・
「え?!」
自慢の魔砲攻撃を放った誇美が、
「嘘でしょ?」
攻撃を受けたアクアよりも驚く。
「直撃だったのに?!」
僅かに立ち位置がずれている以外、アクアの身体に変化はなかったのだ。
間違いなく命中した・・・筈なのに。
「攻撃を受け流した?
そんな馬鹿なことが・・・」
剣を使って魔砲を無力化したとでも言うのか?
魔法剣であろうとも、弾き返すのは不可能の筈。
絶対の自信があった魔砲攻撃を避けるでもなく無力化できるとは思えずに。
「どうやって?
あなたは魔法の爆発から逃れられたの?」
信じ難い結果に、誇美が訊き質す。
「ククク。教えたらどうすると言うんだ?」
嘲るアクア。
「お前が魔砲の使い手だって分かったんだ。
教えれば相応の対抗策を練られるに決まってるじゃないか」
言葉の端に、何か特別な秘術を使ったのを匂わせて来る。
「日の本で出逢った、魔法少女のようにな」
そして一言だけ付け加える。
「日ノ本?あなたは東洋の島国へ赴いた事があるの?」
耳にした国名に反応して。
「まさか・・・あなたの言った魔法少女って?」
勘の鋭い誇美が訊き質した時。
「女神を宿すという魔法少女に・・・な。
会いに行ったんだよ、姫君の依頼を受けて・・・な」
嗤いを停め、真顔で応えられた。
「姫君?まさか、フェアリアの姫?」
「それは・・・言う必要もないだろ」
真顔で応じるアクア。
嘘を吐いているとは思えない声色。
「じゃぁ?あなたは姫の命令で仕掛けて来たの?」
「それも。答える必要は無い」
質す誇美に、返すアクア。
「最初に感じてはいたけど。
あなたの魔法属性って瞬間移動でしょ。
あの素早い動きも、今の光弾を避けれたのも。
一瞬で位置を変えられたから・・・そうじゃない?」
嗤うアクアに分かったような物腰で訊く誇美。
「ククク。そう思うのならそう思っていれば良い」
適当な受け答えを返すアクア。
「眼にしたのだけが真実だとは思わない事だな」
的を得ていないと言わんばかりに。
確かに、誇美の魔砲を受けた筈だった。
直撃とはいかないまでも、相応のダメージを受けて然るべきだった筈なのに。
当らなかった?それでは爆発も起きなかったのではないか?
当ったからこその爆光だった筈。
当ったのに、無傷?
当る瞬間に・・・なにが起こった?
確か、爆光が過ぎた後。
アクアの立ち位置がずれていた。
それが故に、誇美が瞬間移動したと言っていたのだ。
そうでは無いとすれば?
「直撃は・・・間違いない。
でも、何か途轍もない力が作用した。
まるで、時間を停めたかのような・・・失敗をやり直せるような」
女神の異能を誇る娘が思いつく。
「昔。伯母様が潰えさせた魔法のような。
理不尽を乗り越えれる魔法力があったと聞いたわ」
「う・・・ぬ?」
ポツリと吐く誇美に、耳を聳てるアクア。
「このフェアリアに語り継がれた伝承にもあった筈。
夜に舞う魔女の伝説と・・・」
「まさか・・・知っているのか?」
昔語りを始めた誇美に、驚愕の眼差しになるアクア。
「時を司った禁書と・・・指輪の伝説」
「馬鹿な?!どうして知っているんだ!」
驚愕の眼差しは、やがて畏怖へと変わる。
「この指輪に纏わる伝承は、ルビナス父さんで立ち消えた筈だぞ!
時を戻せる指輪が復活したなんて、誰にも知らされていなかったのに!」
そして、うっかり口を滑らせてしまうのだった。
「ルナナイト家の末裔である私が。
再び手にした<時を司る魔術>を使ったのを!」
時間を戻せる魔法。
起きてしまった不幸をやり直す事が出来るかも知れない禁忌の魔法。
一時は消え失せた魔法の指輪が、アクアの指に填められていた。
嘗て、とある魔法少女に依って潰えた筈の禁呪が、復活していたようなのだ。
「ほほ~ぉ?時間制御の魔法って奴?」
しっかりと記憶に留めた誇美が、
「な~るほどねぇ。
道理でテコズル訳だわ」
ニマリと笑った。
「でも、これで分かったから。
あなたの魔法属性ってモノと・・・狙いがね」
何もかも解決したかのように。
勝ち誇る女神のように。
アクアの剣を封じようと図った魔力弾も、無力化された。
いったい彼女の魔法とは、如何なるものなのか?
女神コハルは見切ったようなのだが・・・
戦いは突然の来訪者に因って意外なる展開へ。
次回 愛憎に縺れる運命の糸 8話
君の前に現われた人は、あの人を求めていた?!




