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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8<レジェンド・オブ・フェアリア>魔砲少女伝説フェアリア  第1章王立魔法軍
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愛憎に縺れる運命の糸  4話

やっとのことで幼馴染だと認めて貰えた美晴。

2年ぶりに懐かしい笑みを観て、心に安らぎが戻った。

そして、ひと時の平穏を実家に求めるのであった・・・

煌々と星明りが照らす屋上で、独り佇んでいたのは。


「くっしょんッ!」


春の夜は、まだ寒い。

でも、美晴の心は。


「感動しちゃった。

 感激しちゃった。

 やっぱり、マリアちゃんはあたしのことを考えてくれていたんだ」


寒さとは裏腹に、心は温かく火照っている。


挿絵(By みてみん)


日ノ本語で打ち明けてくれた、どうして厳しい態度を執っているかを。

誰かに聞かれたらいけないから。

わざわざフェアリアでは聞き慣れない外国語である、二人が出逢った国の言葉で教えてくれたのだ。

酷い仕打ちの訳も、何故突き放した態度を執って来たのかも。

全ては美晴を思っての行動だったのだと。


「幼馴染だと分っていたからこそ。

 危険な目に遭わせたくなかったんだよね。

 軍隊に居続けたら、恐怖に苛まれることになるって。

 しかも、あたしの書いた手紙を読んでいたから。

 闇の魔力を失ったって、知っていたんだよね」


日ノ本に居た頃、手紙を交わして来た。

互いの近況や、未来について。

その中には、もう一人の<美晴>が居た事についても記しておいた。

なぜ、自分に闇の魔法力が無くなったのかを知らせておく為に。


「マリアちゃんがあたしの事を別人って呼んだ時。

 <もう一人>こそが幼馴染ミハルだと考えたのかもって思ったんだよ」


大魔王シキの魔力で破滅を逃れた<もう一人の美晴>。

確かにオリジナルとでも呼ぶべき存在だったが、今此処に居る自分だって同じ美晴なのだと言い切れた。


「事故の前からの記憶だって持っているもん。

 マリアちゃんの事も、シキ君のことも。蒼ニャンだって。

 みんな皆、なにもかも覚えているんだから」


イシュタルと呼ぶ悪の権化との決戦。

闇の中で、もう一人の美晴は消滅の危機に瀕した。

自ら消滅を受け入れ、光の御子<美晴>へと託す筈だった運命を変えたのは。

蒼ニャンこと、粛罪を終えた堕神デサイアだったのだ。

罪を償い、女神へと戻る際に託した・・・新たな大魔王へと。

それが美晴の幼馴染の一人、シキという青年だったのだ。

新たな大魔王は、闇の中で美晴を救った。

強大なる大魔王の魔力に拠り、滅びる運命だった少女を生き永らえさせた。


そして。

闇の美晴は大魔王シキの愛に依って妃候補となり、魔界に存在する事となる。

大魔王のシキが望む限り。

新たな闇が現れ、大魔王シキが滅ばない限りは。



一頻り、感慨に耽っていた美晴だったが。


「んふふ~。

 マリアちゃんが守ってくれるのなら。

 あたしだって負けられないし、耐えてみせるんだから。

 ・・・っクッション!」


春の夜は肌寒くて。


「いけない?!

 外出許可を貰ってたんだ。

 早く門を出ないと閉じられちゃうって!」


外出にも門限があるのを急に思い出す。


「思い出に浸るのは、家に帰ってからにしなきゃ」


そして星空の屋上を後にするのだった。



美晴が屋上で立ち尽くしていた頃。

二年前から口にしてこなかった、もう一つの故郷とでも呼ぶべき国の言葉で喋ってしまった。

秘めて来た本心を。喋ってはならないとされた秘密も。


「本当は帰って来てくれて嬉しかった。

 一週間前のあの日、美晴を見た瞬間に抱しめたかった。

 ここが軍隊の中じゃぁ無かったのなら・・・」


吐露される本心。

クルーガン中尉は、美晴を前にした時に思ったのだ。


「好きなんだ、美晴が。

 どんな手を使ってでも守ろうと思った。

 喩え絆が崩れようとも・・・」


逢えなかった二年間の想い。

知らされていた美晴の不運も、悲しい戦いの末に招いた結末も。

マリア・クルーガンは受け止めると誓っていた。


それは美晴を愛するが故。

なんとしても美晴を守ると誓った、幼馴染の心意気。


「喩え、我が姫君の命だとしても」


課せられた宿命に抗ってでも、護り抜くと言い切った。


独り、心に決めるマリア。

と、その呟きに被さって。


「そう?

 あの子を以って邪操機兵に充てる。

 <魔神補完計画>に従わないって?」


廊下の奥。

長い髪が揺れて観える。


「し、従わないとは・・・言っていません」


独り言を聞かれたと思ったマリアの口が濁る。


「ですが。

 余りにも酷い計画だと思うのです。

 光の御子を邪悪と闘わせ、魂の重さを知らしめる・・・

 もしも、美晴が耐えきれなかったのなら、どうなされる気ですか?」


先程本心を打ち明けた、幼馴染ミハルを庇って。

戦いの果てに、何が待っているのかと。


「酷い・・・かしら?

 そう考えているのは、あなたが未来を見通せていないからじゃないの」


美晴を庇うマリアに、声の主は反対に問いかける。


「本当に酷いのは、この世界を創り出した<神>ではないのかしらね?」


「で、でも?!私はあの子を・・・」


マリアは必死に訴えかけようとしたが。


「教えてくれたじゃないマリア。

 美晴はミハルではないと。

 女神は宿り切ってはいないって。

 あの石に宿っているだけだと・・・そう、あの子が記していたと・・・ね」


長い金髪を靡かせるフェアリア魔法軍士官が、マリアの眼前を過ぎ去る時。


「魔砲の少女は。

 未だに完全復活を遂げれていないと。

 理を司るべき女神は、人のかたちには戻れていないのだと・・・ね」


冷たく感情を持たない声で告げた。


「待ってください!

 まだ女神が人に戻れるという確証がありません。

 それなのに美晴を危険に晒そうとするのは・・・」


過ぎ去った金髪の士官を呼び止めようとしたマリアの声は。


「・・・あ」


訴える先を失っていた。


振り返ったマリアの眼には。

暗い廊下だけが映し出されていただけ・・・だった。






フェアリア市街。

美晴は土曜の晩に帰宅していた。


たった独りだけの家に。


外出時に持って帰って来た鞄が、ダイニングに転がっている。

髪を括っていた二本のリボンの内、紅いリボンがソファーに置かれてある。

・・・その脇には、蒼き宝珠も。



「ただいま・・・みんな」


自室に入った美晴が声をかけたのは。


「一週間ぶりだね、グラン君。エイプラハムさん」


ベットを囲む縫いぐるみ達に。

まるで生きている者達へと声をかけるように。


「ねぇ聞いてよ。

 あたし、ね。

 ずっと逢いたかった人に会えたんだよ」


嬉しい再会を報告するのだった。


「あたし、ね。

 フェアリアへ帰って来れて良かった。

 これからどんな事が待ち構えてたって、立ち向かえれる気がするんだ」


運命の再会を叶えられたと、未来に向かって歩めれると。


「みんなも。応援してくれると嬉しいな」


縫いぐるみ達に囲まれたベットに横たわり、取り戻せた絆を想って微笑む。


「来週からは、もっと頑張らなきゃ。

 マリアちゃんに迷惑かけたくないもん・・・ね」


幼馴染から知らされた本当の気持ちに、安堵したのか。


「頑張らなきゃ・・・頑張るから・・・すぅ・・・すぅ・・・」


ベットに横になったと見るや、忽ち睡魔に囚われる。

この一週間、心身共に疲れ切っていたからかもしれない。

帰宅する前に聞かされた、マリアから贈られた温かな想いからなのかもしれない。

いいや。

ここが自室だという安らぎが、美晴を眠らせたのだろう。


「すぅ・・・すぅ・・・すぅ・・・」


安らかな寝息。

明日の朝、目覚めるまで続くのだろう・・・


「・・・」


 ざわ


「・・・・・」


 ざわ ざわ


「・・・寝ちゃった・・・よね?」


 ざわ ざわ ざわ


「にひ!強制・・・ちぇんじぃ!」


 ざわわわわッ!


縫いぐるみ達が激しく動揺する中。


 しゅるる~ン!


美晴の身体が光に包まれる・・・や、否や。


「小春神の誇美コハル!チェンジ完了」


美晴の髪色がピンクに染まり、結わえてあった魔法リボンが頭頂部に結わえ直されて。


「爺ぃ!姪っ子美晴は当分起きないわよね?」


むっくりと起き出したコハルが問いかけると。


「「姫ぇ~?!なんと身勝手な振る舞いを~?」」


古びた猿の縫いぐるみが制止しようとしたのだが。


「いいじゃん?

 折角生まれ故郷に帰って来たんだしぃ~。

 私だって故郷を満喫したいんだよね~」


髪を手串で直すコハルが、爺やの忠言を聞き流す。


「だぁ~かぁ~らぁ~!

 こんなチャンス。見逃せる筈がないじゃない!」


ニマ~と不敵な嗤いを零す、戦女神の誇美さん。


「「ま、待たれよ。

  我が姫。それはあまりに我儘すぎまするぞ」」


忠臣エイプラハムも、唐突な誇美に度肝を抜かれたようで。


「「勝手な振る舞いは・・・」」


「だったら。爺やも一緒に来たら?」


ポンっと、手を打つ誇美が一言。


「お目付け役が一緒なら。問題無し子でしょ?」


「「・・・は?」」


猿の縫いぐるみが顎を外した。


「そうと決まれば。

 着替えなきゃ・・・だよね」


「「いやいやいや。お待ちくだされコハル様ぁ?!」」


軍服を着たままだった美晴。

身体を乗っ取った誇美が、縫いぐるみ達の前で衣服を脱ぎ去ると。


「「・・・ぶ」」


縫いぐるみ達が一斉に突っ伏して。


「「嘆かわしや・・・」」


爺やの呟きも、心なしか何事かに苛まれたようで。


「これで・・・良いかな?」


ピンク髪を掻き揚げるコハル。

ジャンパーを羽織った姿は、まるで普通の少女のよう。

豊かな胸が、セーターを盛り上げ。

ショートパンツが、小振りなヒップを包み。

すらりと伸びた足にはブーツが良く似合う。


「あ・・・っと。

 この髪じゃぁ、目立っちゃうかな?」


ピンク色の髪のままでは、目立ってしまうと?


「ん~?

 それじゃぁ・・・戦女神モードに変えてみようか」


伸ばした手に先に魔法陣が現れ、それを透過した途端に。


「よ~し。これなら、欧州人と変りが無いかな」


金髪に変わった髪を撫で、ニコリと微笑む。


「ポシェットに。

 君を入れて・・・っと」


ベットの上に居た猿の縫いぐるみを摘まんで。


「爺や。同道しなさい」


有無を言わさずに放り込む。


「あ。

 それから。

 この事は理を司る女神様にも・・・内緒だからね」


「「な?!なんと!

  チャンスだと仰られたのには、斯様な訳が?」」


エイプラハムも驚くしかなかった。

誇美の悪知恵に。


「告げ口したら・・・ぶっとばすからね」


にちゃりと笑う誇美に、爺やは開いた口が塞がらない。


「んじゃ。

 マンションを抜け出す迄は・・・そろ~り、そろり」


ダイニングを足音を忍ばせて通り抜け。

蒼き宝珠に気付かれないようにと。


挿絵(By みてみん)


「よっし!脱出成功ぉ~」


玄関ドアを飛び出した誇美が、


「夜の街に・・・繰り出すぞぉ~」


ウキウキと燥いでいた・・・


「「姫様ぁ~」」


爺やはホトホト気を揉んでいるようだけど。

美晴が眠った後。

宿る女神コハルがしゃしゃり出る。

彼女もフェアリアが故郷なのだ。

懐かしさのあまり、勝手に外出するのだったが?


次回 愛憎に縺れる運命の糸  5話

のんびりと散策している場合じゃない?!誇美コハルにも役目がある筈だろ?

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