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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第4章 暗黒王
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Act26 決め手は?

動きの鈍いレイを尻目に。

金髪の少女人形は何かを企む。


それは<彼女>本来の目的。


何も知らないリィンは?

勝手に転がり、何もしないのに躓く相手。


<これが本当に始末しなければならない敵なのか?>


インプットされた指令を疑わなければならないのかと思った。


同じ人形少女だが、仇とでも呼べる存在の筈だったのだが。


<間違いなくアークナイト社製の人形だが?本当にプロトタイプなのか?>


外見が参考資料と少々違う事にも疑念が湧く。


<だが。あのパワージェネレーターの表示はゼロを指している>


アークナイト社で最高の技術を駆使して作り上げられた人形のプロトタイプである証。

格闘人形世界選手権で優勝する目的で製造された、超高性能人形の筈。


それがどうしたことか、初期の機械兵より見劣りする動きを見せているのだ。


<もしや・・・私は騙されたのではないのか?>


レイを見詰める金髪の少女人形は、手を出すのも躊躇して考え込んでしまった。





全力疾走フルバーストをかけ損なって地面へとダイブしてしまった少女人形レイ


モニターで見守っていたヴァルボアも手で顔を覆ってしまう程の失態。


「レィ君・・・やる気あるのかね?」


少女人形の中へ宿らされている麗美に呟く。


試合中で、リィンとシンクロ中だからシステムへの干渉は控えていたのだが。


「分からんようじゃったら、こっちから補助操作を行うかね?」


キーボードを叩いて呼びかけてみた。


 ・・・P・・・


即座にウィンドウが立ちあがると、


<すみませんヴァルボア博士。なにぶん初めての身体なもので(汗)>


麗美が戸惑っているのだと返して来る。


「・・・いや、そ~では無くてじゃな。

 パワー配分とか・・・分っておるのかと訊いてるんじゃ」


と、打ち込めば?


<パワー配分?・・・何の事ですか>


まったく話が通じていない。


「ああああぁ~」


手で顔を覆い直したヴァルボアだったが、今は嘆いていても仕方がない。


「ともかくじゃ!儂が手助けするから指図に従うんじゃぞ」


干渉しなければ満足に闘う事すら出来ない、今の少女人形レイでは。


「それが出来なければ、リィン嬢にも怪しまれてしまうんじゃぞ」


格闘戦闘に長けたリィンには、動きがこれ以上不具合を来せば分かってしまうかもしれない。

同期シンクロしているだけに、誰かが操っているのだと勘繰られる虞があった。


 ・・・P・・・


<そ、そうなのですね。分かりましたヴァルボア博士にお任せします>


初めて少女人形と一体化し、初めて新しい身体で動き、そして格闘戦に挑んでいるのだからレィの戸惑いは分からなくもないが。


「宜しい。儂がリィン嬢とのコンタクトを執るからのぅ」


ヴァルボアは少しばかり考えてから、操手ドライバー機構ユニットに乗っているリィンへ声をかける。


「リィン嬢、どうやら気合が空回りしておるようじゃ。

 新装備のパワーユニットを発動させるのなら、儂等が手助けせねばならん。

 これよりは次の行動パターンを前もって知らせて貰おうかの」


「はぁ?!そんなの今迄一度もやらなかったじゃない?」


一々次はこう、また次にはこれ・・・って?

怪訝な顔で振り向くリィンに、ヴァルボアはいつになく神妙な顔で。


「やらねばいけないのじゃ!」


有無を言わさぬとばかり、


「彼女も準備が必要なのじゃからのぅ!」


タイムラグが生じても、それをカバーしてやると言ってのけるのだ。

だが、聞かされたリィンは余計に怪訝な顔となって訊き返して来る。


「彼女って・・・誰の事よ?」


「ぶぷッ!」


自分で呷っておきながら、自分の失態で噴き出すヴァルボア。


「か、彼女とは・・・レイに決まっておろうが」


焦るヴァルボアは誤魔化しにかかり、


「殆ど新型機とでも呼べるほどのパワーを与えたんじゃからのぅ」


すべてを少女人形へと転嫁させる。

そしてすかさずリィンが反論して来る前に畳み込む。


「分かったじゃろう、リィン嬢」


「え?!あ、へ?」


全然分かっていないリィンへ、とどめの一言。


「良いかのぅリィン嬢。

 レイは君の命令を聞きたがっておるんじゃ。

 リィンの声を・・・耳で受けたいと思うておるんじゃぞ」


「そんな悠長な・・・それじゃぁシンクロの意味がないじゃん?」


でも、リィンの言葉の方が説得力があるようで。


「むぐぐ・・・かくなる上は」


言い返す言葉を見失ったヴァルボアの執るべき返事は?


「きっと麗美君が傍に居たのなら、次にはどうするって聞くと思うのだがのぅ」


「レィちゃんが?!そ、そうなんだ?」


必殺の困惑作戦発動?!


「あの娘が初めて試合を見に来ていたのなら、きっと訊くと思うのじゃがのぅ」


「そ・・・そうか。そうだよね」


レィの名を出されたリィンは、ヴァルボアの誘導に載せられて。


「わかった!レィちゃんへ教えてあげながら闘うわ」


了承したと返して来た。


「ふぅ~、我ながら強引な辻褄合わせじゃったわい」


下手をすればリィンに勘繰られる虞があったのだが、そこはレィを引き合いに出して誤魔化した。


 ・・・P・・・


<ヴァルボア博士も策士ですね>


「いや。問題はこれからじゃぞレィ君」


モニターに表示されるレィの言葉へ忠告する。


「なにせあのリィン嬢の事じゃ。

 見境無しの作戦を執るやもしれん、君の身体が追いつくかどうか。

 君のほうこそ大変な事になるかもしれんのだからのぅ」


心配は人形本体では無くて、人間だった麗美の反応の方だと知らせる。


「まぁ、リィン嬢がやることじゃから・・・諦めて貰うかの?」


 ・・・PP・・・


<ど、努力してみます>


ヴァルボアの言葉から並大抵のことではないと思えたのか、レィも言葉を濁す。


「ふむ。しっかりやるんじゃぞ麗美君」


で。

ヴァルボアときたら、ヘラっと言うだけだった。





戸惑うかのように立ち尽くしている金髪の少女人形だったが。


<こっちの人形はいつでも始末できる。

 だとしたら・・・・もう一つの命令を実行しよう>


観客席をスナイプしながら、目標の場所を探り当てる。

一番試合が観易く、一番居心地の良い場所にある・・・


<あった!あそこが・・・貴賓席>


数個あるガラスで覆われたボックス席。


<あのどれかに・・・居やがるんだ>


蒼い瞳の奥で、望遠レンズが作動する。


<あのどれかに・・・目標が居るんだわ>


数個の内、どれか一か所を目指さなければならない。

どれもが同じように見えて、プライバシーガラスで内部を伺う事が叶わない。


<どれに居る?どこに居やがるんだ?>


吊り上がった眼を殊更細め、金髪の少女人形が爪を研ぐ。


と・・・試合が膠着状態になったのを苛立ったのか。

一つのガラス窓に影が見えた。

長い髪の女性らしき姿が、ガラス窓に影となって現れたのだ。


<この試合を見に来ている貴賓客の中に、女性はあいつ等しか居ない>


左から二番目のボックスに照準を合わせる。

サーチしていく望遠レンズに捉えた影は?


<居た・・・遂にこの時が来たんだ!>


目差す目標を瞳で捉えた瞬間、思わず手に力が入った。


<奴等が怪しむ前に・・・やってやる!>


どうすればあそこ迄辿り着けるか?

一瞬で高性能演算機が結論を下す。


<そう。この相手にも一役買って貰わなきゃね>


ニヤリと口元を歪めて、軌道計算にかかった。

瞳を元に戻し、闘ってる相手へと向き直る・・・







すっくと立ちあがる黒髪の少女人形レイに、金髪の人形が僅かに身構えたのが分かる。




「相手の弱点は・・・どこ?」


モニターで探りを入れてみるが、これといったウィークポイントは見当たらない。


「走攻守・・・バランスの取れた機体ね」


肉弾戦を嫌がるリィンにとって、やりにくい相手だと思われる。


「脚力は、さっきの速さから判断して同等かそれ以上。

 だとすれば、追いかけっこでは勝負にならないわよね」


出だしで見せられた速さから見ても、相手を手玉に取れないのが分っていた。


「だとしたらぁ~、巴戦しかないかなぁ?」


お互いがくんずほぐれつして相手を倒す戦法。

柔道や合気道の技を駆使して勝負を決めるやり方に、リィンは困ったように考え込む。


「もしも相手が術を習得していたら、こっちが不利になっちゃうもん」


リィンは格闘技には疎く、練習もしてこなかったから。


「だってぇ~、練習したら・・・痛いの嫌じゃない?」


それがリィンなりの答えでしたか。


「どっちかと言えば、フェンシングの方が優雅じゃない。

 私は剣の道に歩んでたのよねぇ~」


剣道とは言わずに・・・フェンシングですか。

確かに剣道も打たれたら痛いですけどね。


「まぁ、それはともあれ。

 相手の子はどうしようとしてるのかな?」


レイもだが、相手も華奢な少女型人形なのだから、組み合いは避けて来ると考えていた。

だが・・・相手は両手を前へと突き出して来た。


挿絵(By みてみん)



「マジ?!まさか本当にレスリングの真似事を?」


掴み合いの泥試合に突入?!

こうなる事は百も承知だったが、いざ少女人形同士でやり合う事になるとは思いもしなかった。


「どうしよう・・・嫌だなぁ」


相手がその気になってしまったのなら、こちらも受けて立つしかないと。


「なるべく寝技なんかにならないようにしなきゃ」


それこそキャットファイトにも思えてしまうから。


「投げ飛ばせれるのなら・・・投げ技に特化してみるかな」


リィンは両手を突き出して来る相手の裏をかく方法で勝負しようと考える。


「よし決めた!

 相手の手を掴んで放り投げる作戦でいくよ!」


リィンは柔道の技なんて知りはしなかったが、それは投げ技の内でも最も強力な一撃を与えれる・・・


「掴んだ片手を背中越しに振り抜いてやるんだから!」


・・・一本背負い・・・


「その場で地面に叩きつけるんじゃなくて・・・放り投げる!」


・・・の、強化版?!


「ねぇ?レィちゃん。聞こえたかな」


どこかで見てくれていると、心の底で信じて。


「それで勝負を決めてみせるからね!」


一撃で勝敗を決するんだと教えた。

柔道の技にも思えるのですが。

そこは機械の身体を持つ少女人形ですから。


トンでもない力技が炸裂しそうです・・・


でも、それは<彼女>にとっても願ったり叶ったりだった?!


次回 Act27 復讐者リベンジャー

宿願成就の刻来たり!彼女は復讐を諦めてはいなかったのです!

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