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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8<レジェンド・オブ・フェアリア>魔砲少女伝説フェアリア  第1章王立魔法軍
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愛憎に縺れる運命の糸  1話

挿絵(By みてみん)


王立魔法軍に入隊した美晴。

待っていたのは幼馴染との再会だった・・・筈なのだが?


※口絵は戦女神で美晴に宿る誇美コハルさんの勇姿?

闇より現れる怪異。

人の世で古より続くのは邪なる者との闘い。


いつになれば終わるのだろう。

どれだけ経てば果てるというのか。


時として人の姿を形どり。

或いは人外の化け物として現界する。


邪悪なる者は、人を貶めようと命を欲する。

闇の中から人の魂を欲して。

まるで人の中に巣食う闇を求めるように。

それは、自らの仲間を増やそうと目論むかのように。


邪悪なる者は闇から出で、獲物を求めて徘徊する。

一度ひとたび目標を捉えれば、悍ましき手を伸ばして来る。

捕えた魂を邪悪に染め、貶めた者に拠って新たな獲物を求めさせる。


その負の連鎖を断ち切らない限り、邪悪なる者との闘いは終わらない。


そう・・・終わりは未だに観てはいなかったのだ。


此処、フェアリアに於いても。





グランドの草が、春風に靡いていた。

見上げる空は青く、太陽の光が眩しく降り注ぐ。


「はぁ・・・はぁ・・・」


荒く息を吐く。


「もぅ・・・無理ぃ」


泣き言を呟く。

何が無理と言うのか。なぜ荒い息を吐いているのか?


「休んでいる暇なんて無いぞ!候補生」


グランドに倒れ込んでいる美晴への叱責。


「まだまだ!それぐらいで眼を廻していたんじゃぁ八特隊員には成れんぞ!」


クルーガン中尉の声が美晴を無理やり起き上がらせる。


「は、はい・・・分かりましたぁ」


ふらふらと腰を挙げた美晴が応えると。


「残り30ターン!気合を抜くなよ」


「ひぃいいッ?!アト30往復もぉ?」


中尉は事も無げに命じ、美晴は驚きの声を挙げる。


「なんだ?訓練に不満があるのか」


「で、でも。匍匐前進で片道50メートルを30回も往復するなんて」


涙目になって訴えている美晴に、小隊長は鼻で笑うような仕草を見せた後。


「やりたくなかったら小隊から出て行くんだな。

 お前がトロいだけの話なんだぞ。

 ミーシャやレノアは、とうの昔に終えたんだからな」


小休止を執っている二人の少尉を顎で指して言い返して来るのだ。


「やぁ、候補生。とっとと終えちまえよ」

「30ターンなんて、あっという間だろ?」


3キロメートルにも及ぶ距離を匍匐前進で進むには、どれだけの時間を要するのだろう。

考えてみれば、どれだけ困難かが判る筈だ。


「魔法を使ったら良いだろうに?」

「そうそう。折角の公認魔法部隊なんだからさ」


でも、二人の少尉からは簡単だと言われてしまう。


「どうやったら魔法で匍匐前進が出来るんですッ?!」


やった事も無い匍匐前進を、魔法で熟すなんて・・・無理な話だ。


「ははは!簡単には教えられないな。

 私らも、試行錯誤の上で見つけたんだから」


笑い声をあげて教えるのを拒否るレノア少尉。


「ちょこっと頭を捻れば分かるだろうけどな」


その横でミーシャ少尉が猫耳と尻尾を揺らしてヒントを示した。


「魔法で?どうやったら地を這いずれるって言うんです」


しかし、美晴には見当もつかない。


「考えろ!頭を捻って・・・な」


ミーシャ少尉は尻尾を揺らして答えて来る。

その仕草を観ている美晴に、小隊長クルーガン中尉の檄が飛ぶ。


「さっさと終えないか!他の訓練部隊の邪魔になるんだぞ」


「は、はい」


追い立てられるように地面へと這いつくばる美晴。

片道50メートルの匍匐前進訓練を再開するのだった・・・


「しっかし。どう思うよ、レノア?」

「う~んん。確かに隠してるよなぁ?」


クルーガン中尉を横目で見ながら、二人はボソボソと囁き合う。


「苛めじゃぁないだろうけどなぁ」

「どう考えても、苛めだろ?」


クルーガン小隊長が特別の感情を以って美晴にアタッているのを指して。


「どうして新入隊者を苛めるんだよ?

 顔見知りだと候補生が言っていたじゃないか」

「昔に何かがあって、苛めているのかなぁ?」


理由が分らない、行き過ぎた訓練を美晴にだけ課しているのを不思議に思っているのだ。


「余程の理由があるんだろ。

 あの優しいクルーガン中尉が鬼になるのは」

「新兵教育に熱心・・・だとは、考えられないからな」


強硬に訓練を課す小隊長。

泣き言を言いながらも訓練に励む候補生。


ミーシャもレノアも、二人の間に何があったのかを知る筈もない。


「まぁ。ミハル候補生が耐えられるかが問題だな」

「辞めたいって言うんじゃないだろうか?」


訓練に耐えきれなくなって、自分から辞めると言い出すのではないかと危ぶむ。


「そう・・・だな。

 辞めると言い出すのを狙っているのかもしれないぞ、小隊長は」

「ふぅ~ん。追い出したいって?」


厳しい態度の裏側を勘ぐって。


「いいや。追い出すのではなく、自ら辞めて貰いたいのかもな。

 小隊からではなく、軍隊から。

 軍に居ること事態を辞めて欲しいのかもしれないな」

「なぜ?候補生も魔法使いだってのに?

 貴重な戦力になるかもしれないってのに?」


ミーシャ少尉にレノア少尉の声が噛みつく。


「ああ、それさ。

 もしかしたら、ミハルを除隊させるのが狙いなのかも」

「どうして?そんなことをする必要があるんだよ?」


不思議がるレノア少尉に、ミーシャが一言だけ返す。


あい・・・いとしいから」

「?」


そして、訓練を続ける美晴を見つめ続けているマリアを一目見た後。


「本当の心を閉ざしたのかもしれない」


鬼教官として接し。

身を引くように仕向けていると言ったのだった。


「何故なのかは・・・分らないけどな」


二人に纏わる真実が、分らない今は。




グランドの片隅で訓練を続けている小規模の隊員達を眺める紅き瞳。


「やはり・・・フェアリアに帰って来たか」


腰に挿した短剣に手を添えて。


「お前とは余程の因縁があるみたいだな」


風に煽られる栗毛色の髪を手串で掻き揚げる。

その手の指に填められているのは・・・


「この時の指輪が呼び求めたのかもしれない。

 時の魔法を司る、アクアに再会する為に・・・な」


フッと、口元を歪めて嗤う。

紅き瞳に彼女を捉えて。


「ミハル・・・私にはお前の魔力が必要なんだ」


剣の柄を持つ手に力を込めて。

魔砲の異能を誇る者へと嗤い続ける。


「間も無く。

 もうスグだ。

 お前の力を必要とする時は」


そして、背を向けると。

瞬きする間も無く・・・旋風つむじかぜのように消えて行った・・・


入隊以来、シゴかれ続ける美晴。

文句を言うことも出来ず、我慢に我慢を重ねるのだったが。


初めての週末がやってくる。

休暇を実家で過ごそうと考えた美晴。

隊門を抜けようとした時、見知った人影を眼にしてしまう。

そこに居たのは・・・


次回 愛憎に縺れる運命の糸  2話

君の前にいるのは、見知った人ではなかったのか?

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