表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8<レジェンド・オブ・フェアリア>魔砲少女伝説フェアリア  第1章王立魔法軍
267/428

魔鋼の乙女 19話

フェアリアに残された伝説。

そこには<とある女王と魔女>との逸話が伝えられている。

1000年もの昔に起きた、奇跡を生んだ女王を称えた物語が。


そして今。

フェアリアで起きようとしていたのは・・・

民主国家となる前のフェアリアには王政が布かれていた。

永き歴史を誇る王国フェアリア。

ロッソアが帝政国家だったのに対し、王を国家元首とした立憲君主制を布いていたのだが。

先の大戦を終えた後、王政から立憲民主国家へと変わったのだった。


僅か30年にも満たない新たな政治体制に、直ぐに国民も応じられなかったのは、王家への忠誠心が染み込んでいたのだろうか。

国王を国民の象徴と刻んだ新たな憲法下でも王族を敬う心が残されていたのは、いにしえから脈々と受け継がれてきた王家への信頼の為せる業だったのだろうか。

民主国家になったフェアリア。

未だに王家への信頼が厚いのは、この国に伝えられる伝説から。

それはこの国に伝わる奇跡と、魔法を以って国を治めた女王の軌跡が語り継がれているからだろう。


伝説の皇女おうじょ

聡明で心優しく、容姿麗しい。

その姫の名はリィーンと伝えられている。

後に彼女は、フェアリア中興の祖とも呼び称えられる女王となる。

リィーン皇女に纏わる伝説に、双璧の魔女を称える文言が表されていた。

遠い国から来た魔女とリィーン皇女が邂逅し、国に蔓延る闇を撃ち斃した。

国家安寧を切望し平和を齎したリィーン皇女の伝説は、当時の時代背景も手伝って民に語り継がれる事になる。

リィーン皇女が女王となって国を治めた時代は、多くの国が他国と干戈を交えた戦国割拠の暗黒時代。

征服者と滅び去る者。

戦争で勝った国でも、滅んだ国で支配者に圧政を受ける民も。

王に不満を抱くようになる。傲慢なる支配者に反感を抱く。

その中で、リィーン女王の布いた善政は民の心を掴んだのだろう。

それより後、フェアリアでは伝統的に王家への忠誠が強かった。

何度も強国に攻めよられても、王を筆頭に国土を護り切った。

建国以来一度たりとも・・・1000年もの間。




古から受け継がれてきた城。

フェアリア国王が住む宮殿。

国民の象徴に変わったが、王族は変わらず宮殿に居を構えていた。


ドレス姿の女性が扉を開け放って飛び込んで来た。


「ルナリィーン姫?!どこに行かれていたのですか!」


プラチナブロンドの髪を手串で直している姫の背後から、ドレス姿の金髪の女性が訊き質して来る。


「午後から公務だとお知らせしたではありませんか?!」


ドレス姿の女性は、慌ただしく姫を急き立てているようだ。


「お急ぎを!政務次官から矢のような催促を受けておりますので」


ドレス姿の女性は姫の背後から言いたい事を告げると、更に慌ただしく姫を急き立てた。


「はい・・・分かりましたわ、セリーヌ女史」


姫は小声で応え、セリーヌと呼んだ女性に頷く。

そしてドレスの裾を持ち上げると、セリーヌ女史の後追って控室から出て行くのだった。


ルナリィ―ン姫は結い上げた金髪を靡かせて廊下を進んでいく。

なぜだかは分からないが元気がないようにも観え、心配気な顔色で俯き加減だった。

前を歩くセリーヌには気付かれないように、小声で何事かを呟きながら。


「どれだけ経っても・・・慣れないわ」


微かに漏れた声は、誰にも聞こえる筈も無かったが。


セリーヌ女史に先導されるルナリィ―ン姫の姿を見詰めているマリンブルーの瞳があった。


「あのったら。大丈夫なのかしら」


心配そうに呟く声は、


「巧く誤魔化し通せるのかしら。これからも」


宮殿の片隅からルナリィ―ン姫が歩く姿を眺めて。


「冷や冷やものだわ・・・本当に。

 いつまで続ければ良いというのかしらね・・・リーンは」


溜息を交えながら呟いているのは。



「ユーリィ女王陛下。

 王室警護司令に任命されたルマ中佐が罷り通されました」


女官が恭しく報じに来たのに対して、


「そうですか。

 それではわたくしの執務室へ案内しなさい」

「はい。陛下が御命じのままに」


女王としての威厳を正し、現フェアリア女王のユーリィは宮廷女官に命じるのだった。



セリーヌ女史に同行されて政務官室へと足を運んだルナリィ―ン姫。


「会議を始めるに当たって。

 本議場に皇太姫ルナリィ―ン様がお見えになられました。

 各議員は立席の上、最敬礼をお願いします」


議場に入って来たルナリィ―ン姫に、議長が敬意を示す。

それには何も答えず、議場の上座に位置した席へと進み。


「お直り下さい」


席の前に立つと、会議場へと一言だけで応えるに留めた。

その声は、凛とはしていたのだが小さく聞こえ辛かった。

参議の委員が直ると、それを観た姫が着席する。

姫の様子を観て、議場に着席の音が流れた。

それは議場に居る者全ての眼が、ルナリィ―ン姫を観ていた証でもあった。


「緊張で・・・心臓が爆発しそうだわ」


議場の視線を浴びて、姫が溢してしまう。


「いつまでこんな事を続けなきゃいけないの?」


会議も上の空。

正面を見続けている気なのに、次第に顔が俯いて行く。


「早く戻って来てよ・・・リーン」


誰かに頼む様に。

誰かの帰りを待っているかのように。

ルナリィ―ン姫は我慢を続けるのだった。




女王の執務室。

今、この場に居るのは二人だけだった。


「本当なのですか、ユーリィ様?」


身を乗り出して訊いてしまうのは、警護の任務を請け負う部隊の司令官。


「本当よルマ。

 あの子ったら・・・相変わらずのじゃじゃ馬なんだから」


応えるのは女王のユーリィ・・・昔はユーリ―と呼ばせていた相手ルマに続けるのは。


「ドートル叔父様も同罪だけど。

 あなた達家族には申し訳もありませんわね」


謝罪を籠めて説明していた。


「いいえ。美晴は進んでフェアリアへ帰ったのですから。

 自らの意志で運命と向き合うつもりのようですので」


女王の謝罪に、ルマは応えて。


「そうするのが魔法を使役出来る娘の業なのでしょう」


美晴が軍籍に身を置くようになったのは、ユーリィの罪では無いと慰めた。


「ありがとうルマ。

 でも、美晴さんを戦闘に誘うなんて。

 あのは一体何を考えているのやら」


心労の為か、ユーリィ女王の顔色は良くはない。

あの娘と呼ぶのは、一人娘であるルナリィ―ンの筈なのだが?

自分の娘である姫は、会議室で大人しく振舞っていた筈だが?


「30年前に戻った気なのかしら?

 蘇っても国の為に身を尽そうと考えているのかしら?

 それとも単に、気性が激しいだけなのかしら・・・ね?」


「ははは・・・ユーリィ様も気苦労が絶えないようですね」


饒舌に話す女王に、ルマもタジタジになって相槌を打つ。


「先の戦争とは違うって言いながら。

 またしても軍籍に身を投じるなんて。

 やはり・・・リーンはリーンだってことかしらね?」


「まぁ・・・リーン隊長らしいって言えば、そこまでなんでしょうけど」


二人は嘗て人類の為に身を投げ打って戦った人の名を出して語り合う。

旧ロッソア帝国との戦争で平和を勝ち取った英雄姫を思い出して。


「本当にあの子ったら。

 ドートル叔父様迄も、巻き込んじゃって。

 いいえ、同じ血筋で容姿の似ている姪のリィタさんを・・・」


「いやいやなかなか。流石は策士ですねぇ」


溜息を吐きながらルマに教えてくるユーリィ女王に、感嘆詞を付け加えるルマ。

そして今回の件が全て繋がったのを受けて。


「分かりました。

 不詳、このルマが承りました故、ご案じ召されますな」


ポンと胸を叩いて快諾した旨を応えるのだった。


「お願いしますねルマ司令。

 このフェアリアも、ついては娘も。

 あなた達の誠意に頼らざるを得ませんから」


女王ユーリィは、警護団新司令官へ頭を下げる。


「お任せください。

 必ずや姫様の身辺警護に万全を期します」


応える司令官は自信を窺わせて、


「リーン様のご期待に沿うよう、務める所存です」


嘗ての上官の名をんで応えたのだった。






フェアリア王宮で新司令官が伺候していた頃。



教育隊のグラウンドが、夕日に染まっていた。


「本日の訓練を終了する。各員、解散」


小隊長の宣言で、この日の作業が終了を迎えた。

慣れない射撃訓練で、身体を酷使する事となった美晴は。


「はぁああぁ~」


やっとの事で一日が終わったと心労を吐露したのだった。


「お疲れさん、候補生」


先任搭乗員のミーシャ少尉が、労いと揶揄い半分に声をかけて来る。


「初日から大変だったな、ミハル候補生」


同僚のレノア少尉も、笑いかけながら荷物を整理して。


「今日からは宿舎住まいなんだろ?」


帰り支度を整えて、美晴が何処に帰るのかを問いかけて来る。


「えっと・・・そう言えば」


で。当人は全く知らされていなかったらしく。


「どこに帰れば良いんでしょうか?」


キョトンとした顏で訊き返したのだった。


「はぁ?!お前・・・お惚けし過ぎだろ?」


答えられたレノア少尉が呆れたように突っ込むのを。


「小隊寄宿舎か。若しくは教育隊に決まってるだろうが」

「どちらなのでしょう?」


司令部では、小隊に着任すれば全て判ると言われていた。

だから今後の居住も任せておけば良いと思っていた。


「司令部に問い合わせてみます」


埒が明かないと思った美晴が、レノア少尉に応えた時。


「その必要はありません。

 候補生の宿舎は決められてありますので」


ミルア伍長が助け舟を出してくれた。


「え?ホント?!」


身一つで入隊して来た美晴。

生活用品や私服は、入隊時に司令部に預けて来たから身の回り品も何も持っていなかったので。


「教えてくれるかな?何処へ行けば良いのかを」


ミルア伍長に頼むしかなかったのだ。


「ご案内しますね、ミハル候補生」


応えるミルアは、にこやかに快諾すると。


「ミーシャ先任。これより候補生を士官候補生宿舎に案内して参ります」


小隊先任搭乗員であるミーシャ少尉に申告した。


「なぁ~んだ。普通の候補生と同じ扱いだったのか」


横からレノア少尉が笑って応え、


「まだ八特小隊員とは同居出来ないんだな」


少し残念そうに、美晴の待遇を慮ってくれた。


「よし。ミルアに任せるからな」


ミーシャ少尉は、ミルアに案内を任せると命じてから。


「明日は0600に小隊詰め所へ集まるように。別れ!」


明日の訓練開始前に集まれと、美晴へ教えるのだった。


「はい!」


解散を命じられた美晴は、ミルア伍長に案内されて宿舎へと向かった。

日の暮れた教育隊に、やっと気の休まる時間が訪れる。

そこが軍隊の中だと言うのに、そこかしこで雑談の声が聴こえてくる。

歩きながら、美晴の眼にも和んだ景色が見えて。


「そうだよね。あたし達って、まだ少年少女の年頃なんだから」


隊門を一歩抜けたら、学生位の年代の子供なのだからと呟いてしまう。


「そうではありませんよ、ミハル候補生。

 軍籍に身を置くからこそ、自由時間が大切なんですよ」


耳に入ったのか、ミルアが教えて来た。


「苛烈な訓練を受けているからこそ。

 一時の自由が大切なんです。

 仲間との憩いの時間だけが、人に戻れた気がするんですよ」


戦闘に備える軍隊だからこそ、気を休める時間が大切なのだと。

息つく暇もない訓練を終えた後だからこその、自由なのだと。


「そっか・・・そうなのかもしれないね」


今日が入隊初日の美晴には分からない。

でも、今日一日だけで判った事もある。


「きっと、あたしも。

 自由な時の有難味が、判る日が来るんだ」


昨日までとは全く違う日常が来てしまったことを。


ミルア伍長に案内されて、教育隊宿舎棟へと足を向ける。

建物の窓から零れる灯りを見上げながら。

ここが軍隊の中なのだと認識を改めながら・・・

意味深な王女ルナリィーンの言動。

それに纏わる人々。

一体フェアリアでは何が起きようとしているのか?


戦いに巻き込まれそうになっている美晴。

軍隊生活はこうして一日を終えたのだが・・・


次回 魔鋼の乙女 20話

君はフェアリアの真実を知らずに軍隊に来てしまった。

あまりにも深い意味が隠されているのに気付けなかった・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ