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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8<レジェンド・オブ・フェアリア>魔砲少女伝説フェアリア  第1章王立魔法軍
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魔鋼の乙女 17話

狙えども、足掻こうとも。

的には掠りもしなかった。

どうしても当てたいと願う美晴。


少女の願いが蒼き宝珠に届く時。

千年女神の息吹が噴き溢れる・・・

的を射貫けず焦燥感を滲ませて射撃を繰り返している姿を観ていた。


姪とも云える、同じ魔砲を属性とした少女を感じていた。

初めて撃つ銃砲に戸惑い、無理だろうとも的を射貫かねばならず。

唯一ただひとつの約束を果そうと藻掻く姿に、忘れ得ぬ過去の自分と重ね合わせた。


「「人は約束を果そうと懸命に努力する。

  大切な人との約束を守ろうとして運命に抗い続ける」」


射撃訓練を続ける美晴に、人のことわりを重ね合わせて。


「「大切な人との約束は。

  人の成すべき絆。人が交わすべきあい

  ならば、人の理を司る者が示すべきは・・・」」




弾倉にはたったの1発しか残されていない。

撃発位置にある弾と併せて、残るは2発のみ。


「当てなきゃ!なんとしたって」


焦れば焦る程、弾は的を捉えられなくなっていく。

10発を撃ち終えた後、どうにか射撃音や衝撃に慣れてはきていたのだが。


「残る2発で、的を射貫かないと!」


唸るように歯噛みして、美晴は射撃を中断する。


照星フロントサイト※1と照門リアサイト※2を的に併せても当たらない。

 どうしてなの?!なにがおかしいっていうの?」


作者注)※1銃身の先端上部にある照準用の突起部。

    ※2前部照準針から後方直線上に据えられてある照準器。上下左右に調節可能な物もある。


魔砲少女として闘ってきた美晴。

魔法のロボット兵器に乗り、装備した銃火器を撃ってきたから無知ではなかった。

どうすれば的に照準する事が出来るか、的に弾を当てられるかは知っているつもりだった。

だが、自分の身体を使っての射撃は今度が初めて。

自分の手で実銃を握るのも、実弾を射撃するのだって未経験だった。


コントロールされたロボットで撃つ事が出来ても、生身の身体で射撃するのとは訳が違った。

ちょっとした体の傾きや震えで、銃身から飛び出た弾はあらぬ方へと飛び去る。

いくら照準が正確だったとしても、力の入れ具合で的を射貫く事が出来なくなる。


平常心の美晴ならば、思いついたかもしれない。

だが、的を射貫く事が出来ず、焦りを募らせてしまい。

最初の1発が、全くの見当違いな場所に着弾してしまったから、尚更に頭の中が混乱してしまったのだろう。

頭の中は焦燥と混乱で真っ白に染まり、次々と的へ目掛けて撃つだけ。

トリガーにかけた指先が、射撃の魔力に捕えられて銃の一部に化していたのだろう。


漸く我に返った時には、残弾数が2発にまで減っていたのだ。


「当てたいのに、当てられない。

 どうすれば当たるっていうの?!」


射撃を中断して自我自問する。


「助けて。どうすれば当たるのかを・・・教えてよ」


焦りの内に救援を願ってしまう。

誰かに命中方法を教えて貰いたかった。

誰でも良いから状況を打開する方策を聴きたかった。


「美雪お祖母ちゃん、ルマお母さん・・・マモルお父さん」


その場に居ない人達を頼ってしまう。

この射撃現場に姿を見せない人に願ってしまった。


「蒼ニャン、デサイア・・・ミハル伯母ちゃん!」


いいや、人ならざる神に。蒼き宝珠に宿る女神へと。


・・・その瞬間だった。


「「当てたいのねミハル?」」


右手に填めた蒼き宝珠が瞬いた。


「「私も同じだったの。

  強制的に動員されて・・・砲術科に放り込まれて。

  上官から無理強いされて。必死に砲を操作したのよ」」


一瞬の事だったから誰にも気付かれないと思った。

辺りに魔法の光が零れても、気が付ける人など居ないと思った。

唯一人、憑代に選んだ美晴以外には。


「ミ・・・ハ・・・ル・・・伯母ちゃん?」


薄れる意識の中、父の姉を名乗った人の声を聴いた気がした。


「あたしには無理なんだ、的を射貫くなんて。

 だけど、当てたい。当てなきゃいけないの」


気を失いかけても願わずにはいられない。

身体を乗っ取られたとしても当てて欲しかった。


「マリアちゃんとの約束を叶えたいから。

 ルマお母さんとの約束を果たしたいから。

 あたしのたった一つの願いを叶えたいんだ」


願いは約束とは別物なのか。

美晴のたった一つの願いとは?


「魔砲少女だって闘わずに済むように。

 あたしは大切な人と共に、平和な世界を勝ち取りたいの」


約束を果たした後にある世界。

そこには闘いなど無い、平和を謳歌出来る世界が待っているという。

それに向けての戦いは辞さないのか。

大切な人との絆の行方は、未だに計りかねるというのに?


「「あなたは絆の行方が何処にあるのかを示したのね。

  ならば、私は人の理を司る者として示してあげるわ」」


優しげな声が美晴の脳裏あたまへと送られる。


「「今から少しの間、私に身を任せて。

  本当の魔砲ってものを、身体に染み込ませてあげる。

  どうすれば的を射貫けるかを・・・体感させてあげるわ」」


そして言われてしまった。

身体を預けるようにと。

戦いに必要となる本物の魔砲を教えると。

それは美晴の懼れていた真実の異能でもあったのだが。


「お願いします!あたしに教えて」


約束を果たす為。願いの成就を求めて。

是が非でも的を射貫かなければならない美晴が頼んだ。


「「ええ。見せてあげるわ・・・あなた達にも」」


承諾した美晴に、女神の声が届いた・・・




固唾を呑んで見守っている訳ではなかった。

初めて銃を撃つ者をヤジる訳でもないが。


「あ~あ。やっぱり無理だったか」

「仕方がない。距離も距離だしな」


レノア少尉もミーシャ少尉も、諦めた口ぶりで見守っている。


「でもな。良くやった方じゃないか?」

「まぁね。的に随分近付いてきたからな」


美晴の射撃が段々と様になって来たのを褒めてもいたようだ。


「次の訓練があれば」

「そうだな。次があったのなら・・・な」


そう言ってから、後方で射撃を観ている小隊長へと視線を向けるのだった。


「小隊長が八特小隊員に認めたのなら・・・な」


厳しい態度に徹しているクルーガン中尉の本心が計りかねたから。


訓練射撃も残り2発になった時、美晴が急に射撃を中断した。

それは的を射貫けない苛立ちからなのか、それとも諦めてしまったからなのか。

成り行きを見守っていたのは二人の少尉だけでは無かった。

命中を厳命した小隊長クルーガン中尉も、ずっと見詰めていた。


だから。

気が付けたのだ。


魔砲の異能を誇って来た彼女に起きた変化を。


僅かな魔法光。

一瞬だけ光った、蒼き異能スタントに。


「ま・・・さか?!」


その光が何を意味したのかを、


「あれは?あの光は?!」


眼を見張って彼女を感じた。

幼い時から知っていた、嘗ての幼馴染とは別ものだと思っていたが。


「本当だったんだな。

 還って来たと言うのは」


還って来た・・・確かにフェアリア産まれの美晴を言い表してもいるようだが。


預言者フューリィが言っていた通りに。

 神憑代かみよの娘が戻って来た」


預言者から何を知らされたのか。

神憑代の娘と言うのは、美晴を指しているのだろうか?


「このミハルが闘いに必要と言うのなら。

 私はこれからどう接すべきなのでしょうか、我が姫君よ」


魔法の戦車小隊を指揮するクルーガン中尉は、揺蕩う霧状の光を感じながら呟くのだった。




残された2発の弾で、的を射貫かなければならない。

この条件を克服する為には。


「「あなたが撃った弾筋を観ていたわ。

  だから・・・ね、判るのよ美晴」」


伏したままの姿勢を執り続けていた美晴に、柔らかな温もりが覆い被さって来る。


挿絵(By みてみん)


「「この小銃には癖があるの。

  銃身から出る弾を右にブレさせる癖ってモノがね」」


淡い光に包まれる少女らしき姿から知らされる。


「「だったら照準を変えないといけない。

  照門を偏射に併せるのよ、こうして・・・ね」」


声に併せて淡い光を纏った手が差し伸ばされて。

美晴の指と重なって、調節摘まみを動かした。


「「照準はこれで良いわ。

  次は射撃姿勢を変えましょう。

  銃身をブレさせないように持つの、こうやって・・・」」


優しく諭すように。

光を纏った手が、美晴の射撃姿勢を正していく。

肩に込められていた余計な力を抜き、銃底を持つ手も自然体へと替えられて。


「「後は。

  弾を撃つタイミングを計るの。

  僅かな風でも軽い小銃弾は影響を受けるから。

  風が薙ぐタイミングを見計らって・・・」」


いつの間にか、美晴の身体から力みが消え。

本人も知らぬ間に、射撃姿勢が完璧になっていた。

後は。


「「撃つ瞬間、息を止めて。

  遠距離射撃だと、呼吸の振動でもブレてしまうから」」


風が止む瞬間は、深呼吸をする間も無くやって来た。

グランドの芝生がそよぐのを停めた・・・その時。


「「今よ!」」


瞬間。

声の導きで息を呑んだ。


「「ェッ!」」


裂帛の声に反射した指が引鉄を絞っていた。




「おい?」

「ああ。当たるな」


見守る二人が感じ取った。


「さっきまでは遊びだったのかよ?」

「全く。全然別人じゃぁないか」


射撃姿勢が格段に違うと。


二人には魔法光が観えなかった。

変身できる程の魔法少女とは言えど、魔法光など見ることすら出来なかったのだ。

だから、美晴の射撃姿勢が変わったのを嘯いていたと言わせたのだ。


「ちぇっ!心配して損をしたぜ」

「全くだ」


直感的に、次の射撃を予言したようだ。

この姿勢から放たれた弾の行方を。


「後は。どこを射貫くだけだな」

「まぁ、ど真ん中は無理だろうけど」


標的に記された円。

中心に往く程、丸が小さいのだが。


「あのど真ん中に当てられたのなら。

 今日の夜菓子は奢ってやるぜ?」

「ほほぅ?よし賭けるぞ」


命中を読み切った二人が駄弁っていた時。


微かに吹いていた風が弱まった・・・


 カチッ!


まるでそのタイミングを待っていたかのように、美晴の指先がトリガーを引き絞った。

 

理を司る者。

願いを胸に抗う者。

宿りし御霊は少女の願いを聴き遂げるのか?


美晴に重なる蒼の光。

今、現世に蘇った女神が魅せる。

魔砲の異能を。双璧を名乗った魔鋼騎士の技を!


次回 魔鋼の乙女 18話

君は時を越えた今も優しさを失うことは無いのか。微笑を湛える心優しき女神の如く・・・

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