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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8<レジェンド・オブ・フェアリア>魔砲少女伝説フェアリア  第1章王立魔法軍
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魔鋼の乙女 15話

射撃訓練場に着いた小隊搭乗員達。

初めての小銃を握る美晴。

これから始まる訓練に、一抹の不安を感じていたのだが・・・

広いグランドの片隅に設置されてある射撃所。

片隅と言っても、一番離れた射撃地点から標的が設えてある距離は200メートルを超えていた。

本来、訓練として最も活用されているのは、標的から50メートルの場所に設置された射撃場所だったのだが・・・


「えっと。あの・・・」


訓練用のライフルを受け取った美晴が、


「ここから撃つのでしょうか?」


自分の立っている場所と、標的が置かれた地点を測って戸惑う。


「ああ?そうだけど」


軽々と重い小銃を片手で提げたミーシャ少尉が答えて来る。


「いやあの。この距離で正確に標的を捉えるのは・・・」


いとも容易く答えたミーシャ少尉に、益々困惑する美晴が訊き直そうとした。


「なんだよ候補生。

 訓練なんだぞ、簡単に当たる距離じゃぁつまらないだろうが?」


「だからって。ここから200メートルはありますよ?

 当たる訳がないじゃないですか、あんなに小さい的になんて!ミーシャ少尉」


美晴が困惑しているのは、標的までの距離だけの話では無かった。

目標としている標的の大きさにも原因があったのだ。


小隊搭乗員の射撃訓練に随伴した美晴。

やって来た射撃場の広さに驚き、最も離れた射撃地点で準備を始めた隊員達に息を呑まされた。


「戦車砲を撃つんじゃないんだから」


射距離200と言えば、小銃ではなくて狙撃銃の出番だろう。

美晴が言う通り、銃では無くて砲が狙う距離なのかもしれない。

だが、しかし。


「これ位の的に当てられないのなら、魔鋼騎乗りには不適合だぞ」


いつの間にか背後に来ていた小隊長の一喝が堕ちる。


「魔法使いなら、魔力を以って当てれば良いだけだ」


腕組みしたままのクルーガン中尉が、美晴の声を遮って命じた。

魔法少女ならば、魔法を使えと。


「そんな・・・銃なんて撃った事も無いのに」


初の射撃で、的を捉えるのも困難だと思えるのに。

況してや200メートルも離れた場所にある、人型を模した標的を撃ち抜くなんて。


小銃を持っている手が震える。

軍人になって銃を撃つ日が来るとは考えたこともあったが、編入当日から射撃訓練を命じられるとは思いもしなかった。

それ以上に、魔法使いとして必中を命じられ。

人並外れた射撃距離の的を射貫けるだろうと断じられてしまったのだ。

幼馴染だった上官に。


「初めてだというのなら尚の事だ。

 ミハル候補生が魔鋼騎に乗るべきかを問えるだろうからな」


戸惑う声を出した美晴に、クルーガン中尉が応える。


「的を射貫けない位なら、魔鋼騎乗りとしては失格だろう」


当てられないのなら小隊搭乗員には不適合だと。

その言葉の端には、これがテストであるのを匂わせてもいた。


「当たらなかったら、小隊員にとして認めて貰えないって意味ですか?」


小隊長の言葉に身体をビクンと震わせて美晴が訊き返す。


「違うな。

 当てられなかったのならって言ったんだ」


当ると当てるは意味が違う。

意図せずに当たったとしても命中とは言わない。

つまり、マグレ当たりでは意味がないと言われたのだ。


「・・・・」


厳しい言葉に声も出せない。

もしも当てられなかったのなら、自分は小隊員として認めて貰えない。

なんとしても的を射貫かなければいけない。


「・・・やります」


逡巡した後、美晴は覚悟を決めた。

小銃を握り絞め、遠くに見える的を見詰めて。



「まぁまぁ。そんなに固くなることは無いぞ」


中尉と候補生の会話を耳にしていたレノア少尉が割って入って来た。


「銃を撃つのが初めてなら。

 先ずは、どうすりゃ当てられるかを観て見ることだな」


手本を見せるから参考にしろと言ってくれたのだ。


「ほら。ミーシャ少尉が撃つぞ」


最初の射撃練習者を目で指して。


「あ。はい」


目配せされた美晴が、射撃地点へと顔を併せる。

視線の先に居るミーシャ少尉が、小銃を片手に持って何事かを呟く。


・・・と、瞬く間も無く。


 シュワン!


魔法光まほうこうが奔り、ミーシャ少尉の姿を変えた。


「?!」


まさかとは思ったが、白昼堂々と魔法を放つ姿を目の当たりにして。


「嘘・・・でしょ?!」


衆人環視の只中で、自らの魔力を明かすとは。

魔法を秘匿していた日ノ本ならば、考えることも出来ない話だった。


「魔法衣姿じゃぁ無いけど。

 魔法光を放てるのなら、高位の魔法少女の筈」


小銃を片手に提げるミーシャ少尉。

淡い魔法光を放った後、観ている美晴へと振り向く。


「え?!ミーシャ少尉?」


涼し気な顔で美晴へ微笑みかけて来る。

その笑みは、射撃術を観ていろと促しているかのように自信に溢れていた。

そして。


「まさか・・・ケモ耳でモフモフ尻尾な魔法少女?」


跳び込んで来た変身姿に、美晴はあっけに取られて。


「ミーシャ少尉って・・・獣化魔法少女ケモまじょ?!」


開いた口が塞がらなくなってしまう。


「むぅ。失礼な奴だな候補生って」


唖然となっている美晴にケモ耳魔法少女が文句を言う。


「魔法属性がニャンコなだけだろ」


「にゃ・・・ニャン子?」


魔法のにゃんこ?いいや、猫股?!

声を詰まらせる美晴に、ミーシャ少尉が頷いて応える。


「にゃ、ニャン子な魔法少女?!

 そんな属性があったの?信じられないッ!」


「信じるも何も。候補生の見たまんまだぞ?」


射撃術を観ていろと促したレノア少尉がとどめを刺す。


「魔法を発現させた時、属性も現出するのは珍しいことじゃないだろ」


「でも、だって。あれって・・・本物のケモ耳」


珍しいことじゃないと言われて、泡を喰う美晴。

ブンブン頭を振りながら抱え込んでしまうのだった・・・が。


「「そんなに珍しいかなぁ?」」


頭の中で、誰かが呟いた気がした。


<誰?!>


「あ・・・そう言えば。蒼ニャンが居たっけ」


聴こえた声に記憶が蘇る。

身近に存在していたデサイアという邪神の仮の姿を思い出して。


「そう言えば蒼ニャンって、ケモ耳どころか。

 ニャンコ玉だったっけ。あはは」


青い猫頭姿で接してくれていたデサイアの容姿が過る。

懐かしさに思わず含み笑いを溢してしまい。


「デサイアに比べたら、全然普通だよね」


蒼ニャンを思い出し、ミーシャ少尉の姿を観て想った。


「そうか、魔法使いの中には属性を現わす人も居るんだ」


蒼ニャンの姿をミーシャ少尉に重ねて思った。

今日まで何とも思わずにいた方が不思議な話だということに、今更ながら気が付いた。


「蒼ニャンは紛いなりにも神様だったからなぁ。

 不思議と馴染んじゃってたもんなぁ」


少女時代の記憶を遡り、女神を騙るデサイアを思い起こして。


「あの姿に比べたら、ミーシャ少尉はずっとまともだよね」


勝手に納得してしまったのだった。



「・・・なんだか。トランスしちゃったみたいだな」


レノア少尉が美晴の眼前に手を翳して言う。


「むぅ。魔力を開放して魅せた意味がないではないか」


手を翳されても反応を見せない候補生に愚痴るミーシャ少尉。


「仕方がない。射撃訓練に入れば眼を覚ますだろうさ」


肩を軽く竦めて、小銃のボルトを引いて。


「よぉ~く観てろよ。候補生」


射撃態勢を執る為に地に伏せた。


「びっくりするぜ。タブンな」


呆然と立ち竦んでいる美晴の背後に廻ったレノア少尉が、


「ミーシャ少尉の訓練射撃・・・始め!」


訓練の開始を宣言した。


「第1射・・・ッ!」


十分に照準を併せる時間があったかどうか・・・分かる訳がない。

だけども、彼女には標的を捉えられる自信があったのだ。


 ドムッ!


小銃が吠える。

銃口から飛び出した実弾が、真一文字に標的目掛けて飛んで行く。


 バシッ!!


そして・・・標的の中心に穴を穿った。


「命中」

「ど真ん中!」


射撃判定を任されていたミルア伍長が、双眼鏡で確認するまでもなく。

撃った本人であるミーシャ少尉の声が聴こえた。


「射撃続行!弾倉が空になるまで撃て」


その声に被さるように、小隊長が訓練を続けるように命令する。


了解ラージャ!」


地に伏せたままのケモ耳魔法少女が復命すると同時に発砲した。


 ドム!ダンッダンッダンッ!!


再開された射撃。

最初の一発で銃弾の偏向を掴み、続けられた連射で的を確実に射貫き続けた。


 カシュッ!


12発入りの弾倉が空になり、ボルトが引き付けられた位置で停止する。


「射撃終了。何発がど真ん中に当たった?」


ミーシャ少尉が自信満々の顔でミルア伍長に判定を求めた。


「全弾が標的を捉えました。

 真ん中の小円内を捉えたのは7発です」


200メートルも離れた標的に小銃で射撃し、12発全弾を命中させたと言う。

それだけでも信じ難いというのに、的の中心に7発も当てたのだ。


「ふふん。まぁ、そんな処か」


訓練用に貸し出された小銃を使って・・・と、言う意味で言ったのだろう。


「初めて使った小銃だからな」


レノア少尉もミーシャ少尉が言葉に籠めた意味を悟って続けた。


「初めて撃つという意味なら、同条件に近いよな」


誰かが呟いた<初めて>と同じだと言いたげに。


「・・・そう。ですよね」


最初の射撃音が轟くまで、呆然となっていた美晴であったが。

射撃音が鳴り響く内に、頭の芯が痺れて。


「この地で小銃を撃つのは・・・」


声も擦れ気味になっていた。


「ふん?」


その様子をじっと見ていた小隊長が何かに気が付く。


「まさか・・・な?」


俯き加減に答えている美晴が填めている宝珠を観て。


「本当なのか?」


やがて疑念は確証を得ることになるのだが。


「さぁ!撃ってみろ候補生」


立ち上がったミーシャ少尉が、場所を開ける。


「当たらぬも八卦。当たるも八卦。

 やるだけやってみるんだな、候補生」


空の弾倉を外しながら、薄く笑いかけるミーシャ少尉。


「当たらなかったら。

 暫くは特訓だぞ、ミハル候補生」


背後からレノア少尉が揶揄う。

言葉は荒いが、心配してくれているのが判った。

小隊長が言ったように、失格だとは考えていないのだから。


「ええ。やってみますから」


小銃を片手で持ったミハルが、


「いいえ。当ててみせますから」


ちらりと背後で腕組みをしているクルーガン中尉へ視線を送った。

蒼さの増した瞳で。


「魔法力・・・いいや。

 あれがミハルの異能力スタントなのか」


何かを感じたクルーガン小隊長が顎を引いて応える。


「ならば、見せてみろ。

 お前が放てる底力ってもんを・・・な」


初めての小銃射撃。

訓練とは言えども、美晴にとっては実弾発射は初物バージン

果して的を撃ち抜く事が出来るのだろうか?

魔法の属性。

ミーシャ少尉はニャンコ属性?

ケモ耳モフモフ尻尾付きな姿に驚くのだったが。

問題は射撃訓練の結末如何で搭乗員から外されてしまうこと。

そうなったら、マリアと一緒に居られなくなりかねない。

最悪の場合、ルマの率いる部隊からも外される惧れが?

決死の気持ちで射撃訓練に挑む美晴だったが?


次回 魔鋼の乙女 16話

当たるも八卦、当たらぬも八卦。魔砲少女の射撃は?

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