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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8<レジェンド・オブ・フェアリア>魔砲少女伝説フェアリア  第1章王立魔法軍
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魔鋼の乙女 9話

二人は夜の街を歩む。

幼かった頃を思い出しながら、美晴は想いを廻らしていた・・・


ここが生まれ育った国なのだと記憶を呼び戻して。

外食を終えた後。

母娘おやこは差し当たって必要な物を買い揃えに、マーケットへと立ち寄った。


「ほら。キョロキョロしないで持ちなさい」


日ノ本では見受けられない食品や装飾品に、目が釘付けになる。


「まるでお上りさんか、コソ泥みたいに見られちゃうわよ」


何食わぬ顔で買い物をするルマとは違い、美晴には想い出に浸れる時でもあった。


「あ、うん。ごめんなさい」


差し出される袋を胸の前で受け取り抱え込んで。


「あのねお母さん。

 小さな頃を思い出していたんだ」


受け取った袋の中身に視線を落して言ったのだ。


「昔もお母さんと買い物に来ていたんだなぁって」


懐かし気に微笑む美晴。

遠い過去の幸せを思い出しているかのように。


「でも。もぅ暫くは二人で揃って買い物に来れなくなるかも知れないね」


軍隊に入れば、二人が揃っていられる時間も限られるだろう。

それを思い、これからを考えて儚げに微笑んでいるのだ。


「・・・馬鹿ね」


健気に微笑む娘を垣間見て、ルマが応える。


「入隊したって、戦時じゃぁあるまいし。

 今はちゃんと休暇が与えられる決まりがあるのよ。

 毎週末には帰宅も出来るんだから・・・」


旧軍ならばいざ知らず。

平時の現在、いくら軍隊と言っても休暇が与えられる決まりだった。


「それに美晴は士官候補生として入隊するのよ。

 無理やり招集された兵じゃぁないんだから、待遇もそれ相応に良い筈よ」


一般公募による下級兵ではなく、士官として配属される前提の生徒。

つまりフェアリア国軍の士官候補生に編入される事になっていたから。


「軍人と言っても、尉官と兵は違うのよ。

 昔なら天と地ほどの違いがあったくらいなんだから」


ロッソア帝国との闘いに従軍したルマが教える。


「士官だったら個室や2人部屋が与えられるの。

 兵には長部屋が与えられてプライベートもあった物じゃないけどね」


「・・・そうなの?」


教えられてもピンとこないのか、キョトンとした表情で聞いている娘へ。


「教育期間が終えられたら、美晴も列記とした士官になるの。

 新米の少尉になって、部下を預かる身になるのよ」


「少尉って、日の本で言う三尉待遇ってこと?」


軍隊のイロハも知らない娘に、少々毒気を抜かれてしまうルマが頷き。


「魔法少女隊でいう3尉相当官とは違うのよ。

 今度は本当の軍隊での尉官であり、少女隊では存在しなかった部下が与えられるの」


「部下?先輩後輩では無くて?」


平和な日の本からやって来た美晴が知らなかったのも仕方がない。

軍隊というモノに精通していないのも頷ける。

しかも、魔法少女隊という準軍隊組織に属していただけに、違いが理解出来なかったのだろう。


「日ノ本では軍隊というより警護組織に近かったから仲間意識が強かったのよね。

 司令代理を務めたから、美晴が理解出来ないのも分からなくもないわ」


「うん、本当の処は分かっていないよ」


困ったように頬を掻く娘を、微笑みを浮かべる顏で見詰めて。


「日ノ本では秘匿された部隊だったのもある。

 配属されてきた人達も、公には軍人とは違う扱いを受けていたの。

 でも、今度は違うのよ美晴。

 あなたはフェアリア国軍に所属する士官として、多くの人々に認識される。

 同僚にも、部隊に配属された部下達にも少尉と呼ばれる事になるの。

 今迄の魔法少女隊とは違って、大きな責任を持たねばならないのよ」


「・・・そうなんだね」


教えられた重責に、声を呑んで応える。

公の軍人としての心構えが出来ていない美晴は身を固くしてしまったのだが。


「でもね、美晴。

 今は平和な時だから、そんなに身構えなくっても良いの。

 教練だって学校教育の延長だって考えれば良いんだから」


「そ、そうなのかなぁ?」


ルマから肩の荷を解けと言われてしまう。


「なによ。新司令の言葉を疑う訳?」


「あ~、はいはい。わかりました」


茶化され、茶化し返して。


「うふふ」

「あはは!」


二人は顔を見つめ合って笑い合えた。




買い物を一通り終えた二人が、仲善く肩を並べて店を後にした時のこと。


「放してください」


通りの向こうから女性の声が。


「うん?」


咄嗟に、美晴が声の方へと顔を向ける。

向けられた視線の先には、3つの影が・・・


「何かしら?」


ルマも遅れて気が付いた・・・時。


「放っておけないな」


傍らで買い物袋を持って歩いていた美晴が?!


「これ!持ってて」


投げ出すように袋をルマへと突き出して。


「あのを助けて来る!」


後を観ずに駆けだした。


「え?!あ、こらッ美晴?」


突き出された袋を抱えてしまったルマの声が追いかけて来たが、美晴には届かなかった。



「手を放してください!」


栗毛の少女が悲鳴にも似た叫びを上げる。


「放すかよ。俺達に見つかったのが運の尽きだぜ」


少女の手を掴んだ男が嘲笑う。

二人の男は逃がすまいと左右に挟む。


「外出許可を貰っているのかよ?無断外出なら懲罰もんだぜ?」


街灯の燈に浮かぶ男達の服装は、陸軍の兵士を表している。

方や、少女と云えば。

あまり馴染みのない青色の制服を着ているようだが。


「市内を闊歩するとは、見上げた営門破りだぜ」


二人の傍らに居た男が、にやけた顏で言う。


「許可は分隊士から頂いています。

 お母さんの容態を観て来ただけなんです!」


掴みかかられている少女が、必死に訳を話しているのだが。


「上官から許可を取ったのなら、許可証を持っているよな?

 それを出してみろ。出せるのならな!」


「許可証?そんなもの・・・持っていません」


男達から脅迫まがいに追及される少女。

戸惑い、困惑しているのが手に取るように判る。


「それ見やがれ。やっぱり嘘なんだろうが。

 所属部隊に連行する前に、憲兵所まで同道して貰うからな」


脅しにかかる男が、有無を言わさずに手を曳きにかかる。


「待ってください!本当に私は許可を頂いたのです」


「捕まった奴等は大抵嘘を並べやがる。信じろと言うのが間違いだぜ」


拒絶する少女に対して、もう一人が声を荒げて捲し立てる。


「それじゃぁ、警護隊に照会してください。

 クルーガン分隊士に。私が所属している魔鋼分隊中尉へ」


「言い逃れは憲兵所で話せ。俺達は連行するだけだ」


居やがる少女が男達に連れて行かれるそうになる・・・


その道の前に。


「手を放せば。嫌がってるでしょ?」


黒髪を靡かせる、青味を帯びた瞳の少女が立ち塞がる。


「あなた達が憲兵だというのなら。

 まず最初に憲兵である証を見せたらどうなの?」


捕まえた少女の手を曳く男達は、確かに陸軍の軍服を着てはいたが。


「憲兵なら腕章ぐらいはしている筈。

 それも着けていないのなら、身分証を見せなさいよ」


憲兵の身分を明かす物が見当たらない。


「なんだぁ、お前は?!」

「俺達が憲兵じゃぁ無いと言うのかよ?」


男達の前に立ち塞がる少女に吠えたてる。


「それ以前に。

 あなた達がフェアリア軍人だという証明も無い。

 違反者を取り締まる憲兵だというよりも前にね」 


威嚇された少女から、正当な答えが返されて。


「な・・・にを!」


顔を引き攣らせた男が。


「ほざきやがって!」


連行しようとした少女を放り出して。


「黙らせてやる!」


道を塞いでいる黒髪の少女へと突進した。



「・・・してやったり(にやり)」


二人の男が掴みかかってくる様を、細く笑んでいる。


「自ら非を認めるようなものだよ」


二人がかりで少女に掴みかかろうとするのは、悪漢だというようなモノ。

そのような行為に出ること自体が、愚かだと考えられないのか。

況してや、立ち塞がった相手の正体も知らずに。


「魔砲なんて必要ないか・・・」


掴みかかってきた男の度量を見切って、


「体術だけで十分かな?」


掴みかかってきた男の腕を・・・


 ぐりゅん!


一捻り。


「ぐわぁッ?」


 ドサッ!


先方の男が地面へと叩きつけられる。


「何やってるんだ!相手は女なんだぞ」


一呼吸入れて襲ってきた男が、仲間に悪態を吐き。


「押し倒しちまえ!」


体勢を整えてもいない少女へと伸し掛かって来た。

の、だったが?


「よ・・・っと!」


身体を屈めてやり過ごしてしまった。


「ど?わぁああああッ?」


顔面から地面へとダイヴする男。


 グシャッ!


モノの見事に地面に這いつくばる。


「いダ、痛だだだぁ~」


腕を捻られ投げ出された男も、地面へと叩きつけられた男も。

一瞬の内に戦意を喪失してしまう。


「どう?少しは懲りた?」


地面に這いつくばる上から、美晴の声が落ちて来た。


「見逃してあげるから、どこかに行ってよね」


勝負が確定したのを宣言すると。


「この小娘がぁッ!」


怒りに任せて男達が隠し持っていた得物へと手を伸ばそうとした・・・


「辞めておきなさい。怪我をしたくないのなら、ね」


それまで穏やかに喋っていた美晴の声が変わる。

と、同時に。


「あたしの魔砲を受けたい?吹っ飛ぶだけじゃぁ済まないからね」


すぅッと、右手を突き出した。


「なッ!魔法だって?!」


耳を疑ったのか、男の一人が訊き返した。

その目の前に。


 ポゥッ


魔砲の発動を示す、蒼き光が。


「ひッ?!魔法・・・魔女!」


声が震え、恐怖に目を抉じ開ける男。


「わ、分かった!赦してくれ」


男達は怯え切って逃げ腰になる。


「二度と・・・悪さをしないでよね。

 女の子を誑かそうとするのなら、あたしが赦しておかないから」


腰を抜かした男達を、蔑むような目で見据えて。


「消えて」


絞り出すように、男達へと与える。


「ひいいいぃッ!」


それを合図に、悪漢は逃げ出した。


「消えて無くなれ・・・ケダモノ」


ポツリと、声を落して呟く美晴。

突きつけていた右手の光が消え。


「・・・っと。おしまい、おしまい」


我に返ったように踵を返そうとしたのだが。


「あ、あの!」


助けた少女に呼び止められる。


「助けて貰って・・・ありがとうございました」


感謝の言葉と共に。


「いいえ、当然のことをやったまでですので」


振り返らず、そのまま立ち去ろうとする美晴へ。


「あの。お礼なんて出来ないかもだけど。

 お名前を、教えて頂けませんか?」


栗毛の少女が訊ねて来る。


「いや、あの。名乗る程のことなんてやってないから」


名乗りを求められて、断りを告げる美晴へ。


「私はフェアリア陸軍伍長のミルアと言います。

 今晩の事は上司に報告させていただきますから。

 証明としてお名前を聞かせていただきたいのですが・・・」


先程、悪漢達に話していたのが本当だと言って。


「入院中の母にも。

 危ない処を救って頂いたと、聴かせたいので」


母親が入院中なのを教えた。


「お母さんが・・・そうなのですか」


母親を想う娘と聞かされた美晴の心が揺れる。

チラリと街灯の下に目を向け、佇んでこちらを観ているルマに目を向けてから。


「あたしはミハル。

 この国に帰って来た、魔砲を使う者です」


それだけ告げると、長い黒髪を靡かせて少女から離れて行く。


「え?ミハル・・・あ、あの?!」


お礼を告げようとしたミルア伍長の眼に焼き付いたのは、小走りに走り去る凛々しい少女の背中。


「確かに今、彼女はミハルって名乗った」


感謝の面持ちと言うよりは、驚きで放心状態にも似た表情を浮かべるミルア。


「まさか、彼女が?

 クルーガン中尉の?」


そして、上司の名前を溢していたのだった。



「アイツ等。兵隊崩れのならず者よ」


戻ってきた美晴に、ルマが言って聞かす。


「軍から解雇されるぐらい、素行が悪かったみたいね」


「ふぅ~ん、遠くからでも分かったの?」


何食わぬ顔で、逃げて行った男達の方へと顔を向ける。


「奴等には階級章が付いていなかったから。

 軍服はどこかで調達したらしいけど、腕章は無理だったようね」


「あれ?聞こえていたの」


男達へと指摘していたのが聴こえていたのかと思って。


「だったら、あのミルアが言った名も?」


「ええ、クルーガンって言ってたわね」


ルマが指摘した、ミルア伍長の上司の名。


「まさか、とは思うけど・・・」


「ううん、まさかじゃぁないと思うんだ。

 階級も中尉だって、言ったしね」


歩き出した母娘おやこが言うのは?


「きっと、天の計らいだよね。

 あの子が近くに居るのが判ったんだから」


フッと、夜空を仰いで美晴が言う。


「クルーガン中尉って、マリアちゃんのことだよね」


幼馴染で想い人の名を。


「やっと、本当にフェアリアへ帰ったんだって気になったよ」


微笑を浮かべて。


北欧の半島の国、フェアリアの夜空に星が瞬く。

見上げる美晴の顔にも、笑みが瞬いていた。

青い制服を着たミルア。

彼女との邂逅は、何を意味していたのだろう。


間もなく始まる軍隊生活。

美晴は運命を感じ、未来に何が待っているのかと考える。

眠れぬ夜を過ごす中、渡航途中に出会った人を思い出していた・・・


次回 魔鋼の乙女 10話

新たなる宿命。美晴は未来に向けて歩み始める・・・

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