表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8<レジェンド・オブ・フェアリア>魔砲少女伝説フェアリア  第1章王立魔法軍
251/428

魔鋼の乙女 3話

公用車はフェアリア軍教育部隊に辿り着く。


旧軍の敷地を再開発した施設に案内される母娘。

玄関ロビーに入った時、目にしたのは?

白壁の庁舎が聳え立つ。

何棟もの建物が軒を並べる中に公用車が停められていた。


「此処が教育隊の司令部だよ」


車から降りた母娘を、白髪の紳士が案内する。

立派な建物に足を踏み入れ、まず最初に向かったのは。


「フェアリアの次代を担う、若人の学舎でもあるのだがね。表向きは」


広い玄関フロア。

外観から想像していたよりも、内装はシックで落ち着いた雰囲気を醸し出している。

ここが軍に関係あると知らなければ、どこかのホテルかと思うだろう。


ドートルの言葉にルマが問いかけた。


「表向き・・・実際には?」


「話しておいた通り、軍部だろうと関与出来ない部隊があるのだよ、此処にはね」


教育隊と初めに教え、事実は違うのだと言っている。


「・・・日ノ本の魔法少女隊みたいなものですか?」


疑問に感じた美晴がおずおずと訊きなおした。


「私は日の本における魔法隊を詳しくは聞いておらんが。

 国民に伏せておくという意味では同じとも云えるだろうね」


「じゃぁ、フェアリアでも魔法が復活したのを知られてはいないの?」


美晴は日の本と同じだろうと思って訊いたのだが。


「美晴君。

 我が国に於いては、初めから魔法を失ったとは考えられておらんのだよ」


「え?」


ドートルの答えに、驚きの声を挙げる。


「此処フェアリアという国はね。

 建国以来ずっと伝承が残されて来たのだよ。

 女神の如し王女と・・・救国の魔女の存在を」


「魔女?」


不思議に思った美晴に、白髪の紳士がロビーに掲げられたタペストリーを指す。


「観えるかな、美晴君。

 あそこに描かれてあるのが<双璧の魔女>と呼ばれた伝説の二人だよ」


「双璧の・・・魔女?!」


双璧・・・それは並び立つ者も存在しないことを意味する。


「祖国の危地に降り立った天使。いいや、女神だとも呼ばれる。

 二人の乙女が成し遂げたのは、救国と繁栄の礎。

 我がフェアリアが今日まで存続出来たのは。

 描かれた伝説の魔女の偉業とも伝えられているのだよ」


「女神・・・魔女・・・偉業」


フェアリア産まれの美晴も聞いたことぐらいはあった。

その昔、実際に存在したとも呼ばれる二人の噺を。

白髪のドートルから改めて教わる必要も無い位は。


タペストリーには、邪悪を払い除ける二人の女性が描かれている。

鎧を身に着けた金髪の乙女は剣を突き上げ。

蒼き髪を靡かせ、錫杖を振りかざした少女が寄り添う。

悪魔達は気高き乙女達に慄き、錫杖からの輝に滅ぼされていく。

その絵は、人ならざる闘いを表してもいるかのようだ。

聖なる者と邪悪・・・まさに神魔の終末戦争を意味する絵図。


美晴が暫く絵に釘付けになっていると。


「さて。

 話が逸れたが、今日は表向きの訪問だと考えて貰いたい。 

 この教育隊には普通の学生達もいるのだからな」


「普通の・・・」


ルマが口を挟もうとしたが、声を閉ざしてしまう。


「学生ってどれ位の歳なのですか?」


何か物言いたげなルマを制して、美晴が訊く。


「ああ。美晴君と同じ、ハイスクール位の年齢だよ」


「そ・・・そうなんですか」


自分と同じ位の年代が、軍に属しているのを知らされる。

日ノ本ならば、18歳で防衛大学校にでも進学しない限り軍とは無縁なのに。

此処フェアリアなら高校生くらいで入隊する事が出来るのだと分かった。


「戦前から、今日まで。

 フェアリアでは変わってはおらんよ」


事も無げにドートルが教える。


「平時から有事に備えるのは、国の務めではないのかね」


「そうですけど・・・」


陸続きの国家ならではの考え方なのだろうか。

一朝有事に際しての備えなのだろうか。


「隣国が攻めて来る訳でもないのに」


平和な時代を生きて来た美晴には、専守防衛しか分からない。

敵国が存在するなんて、考えたことも無かったのだから。


「海洋国家的な発想だね。

 隣国と陸続きな大陸国家を維持するのとは違うみたいだね」


ドートルがルマを顧みて。


「多寡が30年・・・平和を維持できたのは。

 それ以前は何度も干戈を交えて来たのだがね」


ロッソアが帝国だった頃を指して。


「国の代表が代わっても、民族は変わらないという事だよ」


前戦争を生き延びた軍人でもあるルマに目配せした。


「・・・そう・・・なのですね」


それで何もかもを悟ったように、ルマが小さく呟いた。


「だから私のようなモノを・・・司令官に据える気なのね」


帰還する前から命じられていた。

日ノ本でも魔法少女隊の司令を務めていたのだから。


「悪夢の再来・・・巨悪の復活。

 戦争という災禍が訪れようとしているのね・・・」


娘に聞こえないように。

聴かれてしまえば、不幸を招いてしまうのが分っていたから。


「やっぱり・・・宿命からは逃れられないの?」


傍らでドートルを見詰めている娘。

日ノ本を発つ前から覚悟はしていたのだが。


「できる事なら・・・惨劇を見せたくはない」


戦争ともなれば、闘わねばならなくなる。

本当の戦争に発展してしまえば、否応も無く死地へと送られる。


嘗ての自分のように。

美晴と同じ年頃の少年少女達が、目にしてしまう。


「人の死を。希望も未来も喪った・・・人の死に顔を」


一度観てしまえば、自分が死ぬまで忘れることが出来ない。

壮絶極まりない・・・戦争の現実を。


「だから・・・帰りたくなかったのに」


ルマは日の本で、家族と共に平穏に暮らしたかった。

夫と娘がフェアリアへ還る事を勧めなければ。


「戦争にならないように・・・それだけを祈るわ」



ルマの回想を余所に、美晴はドートルに訊く。


「あのぉ。この教育隊には魔法少女が居るんですよね?」


「ふふふ。君もその一人ではないかね美晴君」


美晴が聴きたいのは魔法部隊のこと。


「そ~じゃぁ無くて。

 此処にはあたしと同じ歳の娘達も居るんですかって意味」


「如何にもそうだが?」


美晴は17歳。

フェアリアでもハイスクールに通っている年頃の娘を指しているようだが。


「じれったいなぁ~。

 魔法部隊は実施部隊だって言ってたでしょ?

 だったら、あたしと同じ様に日の本帰りの娘が居てもおかしくないでしょ?」


「・・・何を言いたいのかね?」


突然、訳の分からない事を言い出す娘に、怪訝な顔になるドートル。


「すまないが、個々の情報は開示されてはおらんのだよ。

 尤も私事に首を挟む程、酔狂でもないのでね」


ドートルが教育隊の司令だとしても、各々の事情など知る筈も無い。

余程の人物なのならば、いざ知らず。


「その娘と何かがあったのかね、美晴君?」


訊き質してしまったのだ。

美晴が此処に居る訳と・・・目的を。


双璧の魔女を模したタペストリーを背後に、美晴は右手を胸に添えて・・・


「約束・・・したから」


「約束・・・そう言ったのかね?」


小声で応える美晴に、ドートルが質してしまう。

すると、美晴の眼が見開かれて。


「そう!

 あのとの約束!

 必ず逢うって誓ってた。きっと逢えると願ってきたの。

 日の本からフェアリアまで帰って来たのも・・・」


ひと息に話す美晴が、更に声を大きくして。


「マリアちゃんに再会を果たすため!

 シマダ・ミハルは此処に来たんだから!」


思いの丈を叫ぶのだった。



その様子をロビーの片隅で観ていた者が居た。

微かに口元を歪めながら・・・

教育部隊を隠れ蓑にした<魔法軍>とは?

なぜドートルは美晴を帰国したその足で連れてきたのか?


眼前に掲げられた<双璧の魔女>を表したタペストリー。

それは救国を志す者が集うべき場所を意味しているからか?

そっと様子を窺っている者の影。

美晴はこれからどうなってしまうのだろう?!


次回 魔鋼の乙女 4話

教育隊司令官に母娘を紹介するドートル。そして勧めてきたのは?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ