ACT12 約束は絆
フェアリアへ渡る決意を固めた美晴。
思い出されるのは、彼の国に伝わる伝説と・・・世界を一度は救った女神の伝承。
今、蘇るのは。
幼き日に授けられていた宿命との対峙だった。
日ノ本滞在武官の島田ルマに下された召還命令。
永く務めた彼女への慰労では無いことぐらい分かっていた。
後任者が着任したのなら、直ちに帰還するようにとの厳命を受けていたのも。
命令の一文に記載されていた<娘も同道させるように>との項目にも。
フェアリアが何を欲していたのかが伺い知れる。
世界に魔法が蘇った・・・今。
現世に悪魔が復活した・・・邪悪なる者達と共に。
それならば、対たる神は?
邪悪なる者に対抗できる者が必要だろう。
悪魔が復活したのならば、神も然りなりや?
日ノ本を襲った怪異の状況を鑑みて、魔法を知る国は先手を打って来た。
人知を超えた魔法を使役できる者。
退魔の異能を持つ者を集わせ。
国家安寧の礎にする・・・嘗ての魔法少女部隊の如く。
今より30年程前。
当時フェアリア皇国と呼び習わされた小国と、帝政を布く軍事大国のロッソア帝国が干戈を交えた。
悲惨なる戦争の中、小国フェアリアは魔法を武器に換える戦車を用いて強大なる敵に抗した。
操る魔法少女の命を削りながらも、魔力で戦車を変える技術を導入した。
通常時の数倍、いいや。
時には一両で数台もの相手に拮抗できる装甲と火力を、魔法力を以て変化させたのだ。
圧倒的戦力で押し寄せるロッソア帝国に、少数の魔法の戦車が立ち塞がった。
さながら、王国を守ろうと奮戦した<騎士>のように。
その姿は、味方からも敵からも畏怖される。
敵からは悪鬼と呼ばれ、味方からは魔鋼の戦車と称えられ。
搭乗する戦車兵達からは鋼の騎士を揶揄して、こう呼ばれた。
<<魔鋼騎>>・・・鋼の魔法戦車だと。
戦闘は苛烈を極め、騎士達は二度と多くは還らなかった。
魔鋼の戦車とは言えども、無敵では無い。
乗り込んだ若人達と共に、敵弾によって露と消えたのだ。
一年に亘る戦争で、両国は疲弊した。
人も国力そのものも。
双方共に人命を喪い、物資を失い。
両国の民は財産を奪われ、肉親をも奪われた。
結果。厭戦機運が高まった。
発端より1年後。
戦争は意外な結末を迎えることと成る。
多くの犠牲を強いられた帝国ロッソアの瓦解。
民が反旗を翻し、恐怖政治を執り行って来た皇帝を倒した。
帝国主義の崩壊・・・民衆の蜂起が戦争を終わらせたのだ。
二国間戦争の終結は、それより暫く後の事だった。
されども、多くの魔法少女達が戦場に斃れ、また数多の命が断たれた。
犠牲の上でしか平和が来なかったのだろうか。
死に至った魂達の怨唆が残っただけなのだろうか・・・
だが、悲惨な戦争は世界中に蔓延っていた。
多くの国家が利権を求め紛争を続けた。
人類から争いを無くすことは出来ないのか。
世界を創った神は、この世界に失望した・・・
二国間戦争後、世界に大過が訪れる。
世界を創造した神々により、人類殲滅戦争の幕が切って落とされた。
人類の存亡を賭けた終末の闘い。
未曽有の大戦が世界を席巻し、数多の人命が奪われる。
強大な軍事力を誇る<神軍>に対し、普通の軍隊などは蹴散らされるだけ。
人類は最後の手段として魔法を求めた。
その結果、数多の魔法少女達が悲惨極まる戦いに巻き込まれたのだ。
僅かな魔法使い達は、命を賭けて戦った。
しかし、奮戦するも何万、何十万もの人命が消え、人類は殲滅の時を迎えるかに思えた。
失われる希望・・・奪われる絆。
創造主たる神が放つのは、殲滅の雷。
神を名乗る者との攻防戦の末、人類は一人の少女に運命を託した。
最期の瞬間、人類は<光>を観る。
残された者達は、女神からの祝福を受ける。
世界は終わらなかった・・・人類に福音が齎されたのだ。
運命を託された少女によって。
女神にも等しき、魔法少女を失った末に。
終末戦争が終わった後。
暫しの間、魔法が失われたと考えられた。
少しの平和が人類に与えられ、世界が幸福に包まれたかに思われた。
だが、人類は幸福を享受できるような知恵を持たなかった。
世界を救った有志連合は戦後、世界連合を創設した。
一部の力ある国家が集い、戦後の秩序を造ろうと図った。
世界平和を齎すと目されていた連合だったが、各国の思惑が錯綜する結末を招く。
ある国家は、平和目的という理由で軍備を増強させた。
また、とある欧州の強国は、加盟しなかった国を標的とした武力行使に踏み切った。
折角多大な犠牲を払って勝ち取った平和だったのに・・・
魔法少女に戦いを強いたのはフェアリア一国だけではない。
日ノ本だって、ロッソア帝国だって同じ。
可憐な少女の魂を戦場に放り込んだのは、世界の流れだったのかもしれない。
それを理不尽だと言うなかれ。
人類の業は、悪魔にも近い<負>を覗かせる。
方や、希望は<聖>なる輝となった。
聖なる希望・・・
命を代償に抗う者。
フェアリアに伝えられる伝承にも似た。
魔法を誇り、運命に抗う・・・少女達。
魔法少女の中でも、神にも等しき異能を誇った者。
双璧を名乗るべきは<並ぶべきも無い>魔法少女。
女神と等しき異能を誇る、神の御子。
フェアリアに産まれ、彼の地に降り立つ者。
それが・・・東洋の魔女とも揶揄された少女。
祖母から受け継ぐ魔法の力。
父の名は、島田 真盛。前大戦の勇者の一人。
母もまた、生き残れた戦士だった。
異能を宿らせて産まれ育った。
日ノ本で培われし魔力を宿し、運命に抗う術を身に着けた。
その功績を聞き及んだフェアリアの王女が帰還を求めた。
全てが再始動した・・・そう考えた、彼女の魂と同じ様に。
今。
少女は約束を果そうと・・・旅立つ。
万感の想いを胸に秘めて。
月の輝く夜。
「その昔。
魔法使いの少女が飛んで行ったの。
約束を果たす為に。
大切な人を守る為に。
遠く・・・地の果てにある国までも・・・ね」
祖母が孫へと聴かせているのは、日の本に伝わるお伽話。
「魔法の少女は、女神様からも頼まれていたの。
あの国へと戻り、大切な人を悪魔から護るようにって・・・ね」
魔法使いの少女が、女神の依頼で向ったのは。
「遠く離れた国には、お姫様が待っていたの。
悪魔に魅入られた国を救って欲しいと願い。
仲の良い魔法使いに再会したいと。
そして・・・魔法の少女は再会を果たしたのよ」
魔法使いはお姫様との約束を守った。
「悪魔を討ち果たし、姫様を・・・国を護った。
魔法使いは姫様と共に<双璧>と呼ばれ。
平和を享受できるまでに、国を栄えさせたの」
果したのは約束だけでは無いと。
お姫様の願いも叶えて差し上げた。
「お姫様は国を愛し、平和を愛したの。
魔法使いは共に、同じ道を歩もうと願ったの。
喩え、再び逢えなくなってしまうと分っていても。
魔法使いは女神との約束を守って帰って来た。
いつの日か、もう一度再会を果たすと誓って。
肉体が滅んだ後、魂だけとなってでも」
約束を守り、姫を救った魔法少女は還ってきた。
そして二度とは姫と逢えずに終わったという。
生涯二度と再会を果たせず、二度と奇跡は起こらなかった・・・
「だから、魔法使いは願いを託したの。
自らの子孫へ、願いを受け継ぐ縁へと」
遠くの国で待っている筈の姫へ逢う為に、魔法使いは希望を残す。
自らが没した後だろうと、願いを繋げて。
「魔法使いは書を残したわ。
誰にも知られず、誰にも明かさず。
偉大な魔法使いの残した書は、それ自体が魔法を放ってるの。
お祖母ちゃん達へと望みを託すみたいに。
魔法で姫に逢わせようとするみたいに・・・」
祖母は孫を顧みて言う。
「日ノ本からフェアリアへと渡ったお祖母ちゃんが持っているの。
双璧の魔女が記した書を。偉大なる魔法少女が残した書を。
古の姫との再会を求めた<蒼いの姫>ミコトが残した絆の書を・・・ね」
魔法の書物を持つという祖母。
古の大魔法使いが残した書を、なぜ持っているのか。
「お爺ちゃんは、その書を記した魔法使いの子孫。
そしてお祖母ちゃんは、終わりを回避する運命を担う子。
次代に運命を託してしまった書と同じ。
罪作りな母でもあるの」
終わりを回避する運命。
終末を回避出来たのは、一人の少女の為した技ではなかったのか。
祖母は哀し気に孫娘を見詰めて続けた。
「あなたの中にも、お祖母ちゃんと同じ運命が流れているの。
この世界を終焉から救う為の魔力が。
私の娘と同じ、世界を破滅から救える奇跡の異能が」
奇跡を起こす魔法。
破滅を回避出来る運命の子。
即ちそれは・・・
「あなたにも受け継がれているの。
女神にも等しい魔法の力が。
お祖母ちゃんの娘から引き継がれた、救世の魔法力というモノが」
孫娘は祖母を見上げて頷く。
「創造主たる神に託された運命の子。
古よりの絆を受け継いで生まれて来たのよ。
聖なる輝と希望を。
生まれながらにして持っているのよ・・・美晴ちゃんは」
幼い顔で祖母の顔を見詰める孫娘。
祖母ミユキの背後には、明るい月が浮かんでいる。
幼い少女の瞳は、月明かりを反射しても尚。
まるで古の魔法少女の如く、青く輝いていた・・・
「そうだったよね、ミユキお祖母ちゃん」
日ノ本の月を見上げる美晴が呟く。
「あたしには願いが託されていたんだから」
フェアリアに住んでいた幼き頃。
王宮で出逢った姫<ルナリーン>との約束。
「再会する人は、マリアちゃんだけじゃない。
ルナリーン姫との約束だって残ってる。
それに・・・フェアリアには逢わねばならない人達が居る。
出会わなければならない運命が待っているんだから」
魔法少女の運命を理解できるようになった。
悲運に嘆き悲しむだけの少女ではなくなった。
自ら進んで危地へと飛び込む覚悟も培った。
魔法の国でもある日の本で。
何も知らない少女から、本物の魔法少女へと成れた今。
「あたしは誓う。
どれだけ辛く苦しくても、必ず約束を守るって。
もう一度、日の本に帰って来るからって!」
月を見上げる美晴の瞳は・・・金色の月に染まって輝いていた。
いよいよ日ノ本を起つ時が訪れる。
大切な思い出。
大切な友達達。
すべては別れの挨拶と共に。
始まりは再会の約束の果てに・・・・
次回 エピソード7最終話。
ACT13 さよならは言わないで
君は別れに際して、友へと贈る・・・再会を誓うのなら!




