ACT 9 導かれる仲間
女神達が交わした約束。
宿られている少女達には知る術もなかったのだが。
美晴の心は、約束の国へ。
日ノ本から遠い、フェアリアへと向かっていた・・・
理の女神ミハルと、戦女神ホマレが約束を交わし合った・・・とは知らず。
「はぁ~・・・なんだかお邪魔虫も大人しくなったみたい」
帰宅した美晴は、ミミが別人のように変わったのを微笑ましく思えていた。
数日前までは何かにつけて付きまとって来ていたのに、今日は随分と素直に接してくれたから。
「何があったのかな?何だか急に懐かれちゃったような気分」
女神と会わせろなんて要求して、誇美とチェンジした処までは覚えていたが。
「コハルちゃんと、どんな話を繰り広げたのかな?」
てっきり、誇美があしらったと思っていたのだが。
「「あ~~。えっとね、そうじゃないんだ」」
体の中から誇美が言い辛そうに答えて来た。
「え?そうじゃないって・・・どういう意味?」
部屋着に着替え、ベットに横になっていた美晴が起き上がる。
「「あの・・・その。
理の女神様が・・・お出ましになられたの」」
「え?ミハル伯母ちゃんが?」
言い難そうに話し始めた誇美に、訊き返す美晴。
「「そ~なんだよ美晴。
なんだか、私じゃぁ相手にして貰えないみたいだったから」」
「うん?ミミがそんな大それた言い口を?」
身体を明け渡した後、ミミに応対していたのは誇美だった。
明け渡した美晴には、二人の会話を聞く事が出来ずにいた。
「「いやぁ~、そうじゃなくて。
あの子にも女神が宿っていたんだよ、これが」」
「えぇ~?!まだ女神級の魔力を保持してたの?」
どこかの女神から異能を授けられたのを思い出し、美晴が驚くと。
「「違う違う!
そうじゃなくて、新たな・・・いや。
昔の英雄が神格化してって・・・説明するのが難しい」」
「余計ややこしくなってる」
説明するのが面倒臭くなったのか、誇美が説明を省いて教えて来るのは。
「「どうやら、理の女神様と深い関係の女神が宿ったらしいんだ」」
「は?!え?」
説明を省かれた美晴は、目を点にしてしまう。
「それって?!お邪魔虫がミハル伯母ちゃん級の女神を宿したって事?」
「「・・・そうとも言うかな」」
だけど、当の誇美も本当は分かっていないようだ。
「ふ~~ん、そ~言うことかぁ」
「「そ。だから、理の女神様が応じられたのよね~」
否定もせず、肯定もしない誇美。
実際の処は、女神ミハルが現界した瞬間には記憶が途絶えていたのだが。
「「なんだか、私達がフェアリアへ還るのを知らせたようなのよね」」
多分そうであろうとだけ、朧気に感じているらしい誇美。
「「あの娘もだけど。
女神からは知らされていないんじゃないのかな。
別段変わった処なんて見受けられなかったし」」
「ふむふむ、なるほど。
お邪魔虫に知られたら、事が大袈裟になっちゃうからねぇ」
美晴はまだ誰にも転居を知らせていない。
近親者で知っているのは両親と誇美、それと理の女神ミハルぐらいか。
「「あの娘なら、辺り構わず言いふらすかもしれないもんねぇ」」
「それは困るよ。
みんなにはアタシの口から知らせたいからね」
急な転居。
しかも遠い外国へ行くのだから、別れを告げるのには時間が欲しかった。
「せめて、ノーラちゃんやローラ君にだけは。
自分の口で知らせたいんだもん」
実際、魔法少女隊員の二人だけには、前もって教えておきたいと思っている。
「後何日、日の本に居られるのかが確定したのなら」
フェアリアへの出発日が決定されたのなら、一番最初に教えようと考えてもいる。
「だって・・・助け合って来た仲なんだから」
友達を超えた絆。
戦う仲間でもあり、クラスメートでもある。
出逢いは敵同士だったのが、今は掛替えも無い友だったから。
「分かれるのは辛いけど。
きっといつの日にかは再会できると思うんだ」
これから逢えるマリアのように。
願えばきっと叶うと思えたから。
「誇美ちゃんだってそうだったでしょ。
どんなに離れてしまったとしても、絆は繋がったままでいられるんだよね」
美晴は胸に右手を添えて、心の中に仕舞ってある想いを声にする。
「「その通り。
友が忘れない限り、絆は永遠に繋がっているの」」
誇美も。
かつて大魔王に身を堕としてしまっても付き従ってくれた友を想い。
「「私達は。
絆の許に導かれる仲間なんだから」」
幾千、幾万もの魂が繋がり合う、絆の行方。
その未来は、きっと希望に満ちていると考えていた。
「だよね!」
絆の交わりが齎す、永遠の明日を信じて。
「フェアリアに往っても、友達には変わりがないもん」
頷く美晴の右手には、蒼き宝珠と・・・
しなやかな指に填められた、翠の指輪が光を反射していた。
ポゥッ・・・
闇の世界に灯りが燈る。
ファッサッ!
黒き闇のドレスが舞った。
「あの子が・・・往くのね」
魔王の許嫁がため息を吐いた。
「私の故郷へ・・・古の魔法に導かれて」
闇色の空を見上げ、感慨深げに呟く。
「私も人間でいられ続けたのなら。
帰ってみたかったけど・・・無理な話ね」
人であった頃の面影は、魔界に堕ちた時から変わって来ていた。
人間の娘が魔王の妃候補となったのだ、普通でいられる筈もないだろう。
漆黒に染められた髪。
闇色に染まる瞳。
闇に生きる者を眺めている間に、知らず知らず変わって来ていた。
少女らしい表情は、妃に相応しい女性らしさへと。
否、まるで魔界へと堕ちて来た天女のように。
可愛らしさが抜け、麗しく変わってきている。
「マリアちゃんに・・・逢いたかった」
本来、この闇に堕ちた娘の方がフェアリアへ還ったマリアに近い。
それは人であった頃の想い。
事故で死の瀬戸際まで堕ち、女神の計らいで光と闇に分割された。
希望を失いかけ、もう一人の自分に全てを託す筈だった。
でも・・・忘れることが出来なかった、マリアへの想いを。
大親友として、幼馴染として過ごして来たのだったから。
「もぅ・・・逢ってくれる筈も無いけど」
既に自分は人では無くなった。
魔王の妃候補の、魔界の住人に堕ちてしまった。
親友は、穢れた自分を許してくれないだろう。
いいや、最悪の場合。敵として対峙しなければならなくなるかも・・・
哀しみに暮れた闇色の瞳に映るのは、魔界の薄暗い空だけだった。
スッ・・・
瞳に映った闇の空が、誰かに遮られる。
「美晴ともあろう娘が弱気を吐くなんて・・・な?」
それが誰なのか、瞬時に分かる。
「弱気じゃないよシキ君・・・いいえ、大魔王様」
漆黒の闇。
闇色の翳りが、容を表す。
薄紫の髪、金色を孕んだ瞳の色・・・美晴にだけ見せる優し気な顔。
「願いが断たれた・・・だけ」
哀し気に応える許嫁を、大魔王シキが見下ろす。
「絶たれた?絶望したとでも言うのか」
「絶望・・・望みが断たれるのをそう言うのなら」
視線を反らす様に俯いてしまう闇の美晴。
「あの娘と逢いたいんじゃないのかい?」
「逢いたかったわ。再会を果たしたかった。
でも、もぅ叶わない・・・それだけの話よ」
自分が魔界の住人になったから。
望んでシキの傍に居ると誓ったのに。
「哀しいんだね美晴。
嘆いているんだろ、心の底から」
「ううん・・・こうなったのは、私が望んだ結果だから」
愛しいシキの傍に居たい・・・それは本当の気持ち。
マリアとの約束が果たせなくなると知りつつも選んだ道だったから。
「意地っ張りな処は、昔から変わらないよな」
大魔王シキの手が、許嫁の美晴へと伸びて。
「健気なのは良いけどさ。
俺には弱い処を曝け出してくれたって良いんだぞ」
哀しさに圧し拉がれた身体を包んでくれた。
「大魔王様・・・シキ・・・君。
私・・・あたし・・・悲しいよ」
魔界に堕ちてから急激に大人びて来た美晴が、本来の少女へと戻って。
「大丈夫。俺が傍に居るから。
悲しむ美晴を観たくはないから・・・さ」
むせび泣く美晴を抱き寄せる大魔王のシキが、耳元で教えるのは。
「俺がきっと願いを果させてみせるよ。
その為に・・・布石を打っておいたんだから」
「布石?なにをやったって言うの?」
ツィっと大魔王が美晴の顎に手を添えて視線を併せて。
「光の御子に。
誕生日プレゼントを与えておいたのさ。
あの娘とコンタクトをいつでも取れるように・・・ね」
「え?」
どう言う事なのかを問う前に。
「あの翠の指輪を填めてくれているのなら。
いつでも話を聞く事だって・・・話しかけるのも可能だからね」
「?!それって・・・人の世界へも干渉出来るの?」
現実世界の美晴を介し、話しかけることが出来る・・・会話装置?
「ああ。
彼女を見守る為だったけど、役に立てられると思うんだ」
「嘘?!あなたって人は・・・素敵すぎるよ」
抱かれる美晴が、感謝の面持ちで大魔王にしがみ付いて。
「益々・・・好きになっちゃうじゃない。
もぅ、シキ君しか愛せなくなるじゃない!ありがとう大好きだよ」
今度は、嬉し涙に暮れた顏で大魔王に抱かれるのだった。
現実世界と魔界。
隔絶された筈の絆が・・・再び交わり合うのだった・・・・
現実世界・・・そうなのかもしれない。
魔法が飛び交う世界・・・今の時代。
少女達は己が道を歩む。
未来に待っているのが光だと思って。
どんな時でも諦めず、如何なる時にも自分を見失わずに。
魔砲の異能が導くのは、光に満ちた未来なのか。
強大なる闇に打ち勝つのは、少女達の絆なのか。
待っているのは、再び巻き起ころうとする戦乱。
最期の闘いの末に待っているのは?
魔砲少女が辿るのは?
友との絆。
それが希望だとするのなら、その先にあるのは。
絆の行方は輝を求める。
光の神子<美晴>と、闇に忍ぶ魔王妃<みはる>
共に心はフェアリアへと向けられている。
旧友マリアとの再会を望む二人の接点は、彼女との約束だった。
美晴は母ルマの心を知りつつも渡航を願う。
フェアリアに何が待っているのか。
あの国で何が待構えているのか。
女神は彼の地で何が起きようとしているかを知っているのだろうか?
次回 ACT10 真実を措いて
美晴は絆を信じ、未来を見詰める。約束と言う名の絆は何を求めようというのだろう?




