ACT 6 それでも朝は来る
フェアリア国への帰還を告げられ、承諾した美晴。
懐かしさと希望に胸が熱くなって。
眠れぬ夜を過ごしていたが・・・
両親から故郷でもあるフェアリアへの帰還を告げられた夜。
願いが叶ったのだと浮かれていた美晴は眠れなかった。
「マリアちゃんに逢えるんだ。
フェアリアに往って再会するのが叶うんだ」
2年前に写した写真を掲げ持って、嬉しさに頬を緩める美晴。
「約束だったもん。
きっともう一度逢うって。
やっと、果たせる日が来るんだ」
幼馴染で、大親友。それに・・・
「あたし、やっぱりマリアちゃんが大好きなんだ」
別れる前に告白した。
マリアがフェアリアへ帰って行く前、美晴は性別を超えた愛を告げた。
「もう一度。
あたしからキスしても良いかな?」
別れを惜しんだ美晴は、精一杯の勇気を振り絞ってマリアへ。
「それとも。
マリアちゃんから・・・えへへ」
マリアは美晴の愛を受け入れてくれた。
少女達は、互いの気持ちを汲んだ。
そして、別れても絆は繋がったままだと約束を交わしたのだった。
<<もう一度逢おう>>と。
<<必ず再会を果たそう>>・・・と。
「早くフェアリアに帰りたいな」
期待に胸を熱くする美晴。
両親から打ち明けられた帰国の勧めを、否も無く受け入れた。
本当に良かったのか?
詳しい経緯を聞かずに鵜呑みしても良かったのか?
何か気にするべき謎が無かったのか?
あった筈だ。
少なくても、背中を押していたルマの手が震えていたのを感じたのなら。
「「良いの美晴?簡単に受け入れても」」
感じ取ったのは美晴だけでは無かった。
「「ルマお母様は、何かを秘めているみたいだったんだけど?」」
宿る女神コハルが訊いた。
「「どうして急に帰国するのかを・・・訊かなくても良いの?」」
戸惑うような、哀し気な声で。
「え?何か気になるの。コハルちゃんは?」
突然、水を差されたような気になり怪訝に訊き返すと。
「「気にならない方が変だよ美晴。
勧めておきながら、なんだか不安そうな顔色してたでしょ?」」
「そうかなぁ?全然気が付かなかったよ」
浮かれ続けていた美晴は、ルマの顔色が分らなかったらしいのだが。
「「それに・・・ね、美晴。
マモル君も。言葉数が少なかったよね」」
「あ・・・そういえば。そうかも」
フェアリアへの帰国を告げて来た二人。
何処がと言う訳ではないが、何かしら不自然な点が見つかった。
最初はルマの手が背中に触れた瞬間。
次は帰国を切り出したルマの傍らで、何も話そうとしないマモル。
二人に感じた違和感は、何かを教えようとしていたのか。
「「帰国するにしても、真実を聴かなきゃいけないね。
どうして今になって帰るのか、二人に感じた違和感の訳を」」
「そうだね・・・」
フェアリアへの帰還が、美晴の運命に関わるのか?
女神を宿した今だからこそ、呼び戻されるのか?
「「理の女神様からも聴いたわ。
最終戦争が近付いているって。
もしかしたら・・・その布石なのかもしれないわね」」
「それはあたしも聞いた事がある。
世界が終わりに向かっているって。
それを防げるのは、現実世界の勇者だけだってのも」
美晴も誇美も。
自らの意志に関わりなく運命の糸車が回っているのを感じている。
世界が終わりを迎えるのか、それとも自分が終わりを受け入れなければならないか。
誰にも、誰でも。宿命に翻弄されていくのを停めれないのを。
「「ねぇ美晴。
私も一緒に往くから・・・生まれ故郷へ」」
「そうだね誇美。
あたし達は二人で一人だもんね」
産まれた時から、幼き時から二人は一緒だった。
時には光として、またある時は闇に君臨して。
産まれた時からの宿命を受け入れ、今日まで生きて来たから。
「だから・・・帰ろう。
還って、帰還を果して・・・この目で真実を見極めるの」
希望か絶望かは分からない。
でも、往かなければ何も始まらない。
「あの国との絆は、絶たれていなかったのだから」
「「そうだよね。あの国が私達を産んだとも云えるんだから」」
今居る日ノ本とも親交の深い国。
北洋の半島に位置し、古来から神々が住む国とも呼ばれ。
古から引き継がれた王族が治め、伝承が息衝く妖精の国。
世界に魔法という異能が存在し。
聖なる意志と、邪悪なる魔が存在している。
人は運命に抗うか、飲み込まれてしまうかの二つに一つ。
人は理に殉じ、理を謳う者。
ならば、美晴の執るべき道は・・・
「あたし。どんな事が起きても諦めないよ」
宿命に翻弄され続けても、絶望に路を阻まれたとしても。
「だって、あたしは。
魔砲を操れる魔法少女なんだから!」
魔法で切り開く。
魔砲で絶望でさえも撃ち抜く。
それが・・・魔砲少女の美晴なのだから。
眠れる夜だとて、朝は訪れる。
月曜日が明ければ、火曜の朝が来る。
「ふんぎゃぁ~~~~!」
断末魔の叫びが、リビングを揺るがす。
「ど、どうして起してくれなかったのよぉ!」
寝惚けていたのもつかの間。
時計の針を観た瞬間、現実へと引き戻される。
「起きなかった美晴が悪いだけでしょ」
リビングでは、いつもと変わらぬ顔のルマが居て。
「おやおや。今日は格段に凄い髪をしてるなぁ」
ボサボサ頭にアホ毛がピョンと立っていて。
「しょうがないわねぇ、この子ったら」
朝食を終えていた二人に揶揄われる。
「遅刻しちゃうよ!セットなんてしてられないんだから」
ばたばた用意を急ぐ美晴が、パンを片手に玄関へと飛んで行く。
「帰ったら!詳しい話を聞かせてよね」
玄関を後にする時、訊いたのは。
「フェアリアで何が待っているのかを」
誇美が気にしていた、帰還の秘密だった。
玄関から飛び出していく美晴の背を見送る二人は、来るべき時が来たのを悟るのだった。
駆ける。
朝日を受けて、清らかな光を浴びて。
この世界の果てには希望があると疑わずに。
「待っていたで・・・島田先輩」
校門を駆け抜けた瞬間。
「昨日は見逃したけど。今日は逃がさへんで」
待ち構えていたミミに捕まる?
「遅刻!遅刻ぅ~」
ミミの眼前を駆け抜けて行く。何も聞かなかった振りをして。
「ま?!待ってぇな~~~?」
立ち止らない美晴に、慌てて追い縋ろうとするミミ。
「チャイムが鳴っちゃうよ~?」
無視した訳じゃないのを知らせるように、後ろに続く下級生に向けて。
「放課後に校舎裏に来なさい」
話は授業後にするからと告げてから。
「逃げたりしないから・・・ね」
ウィンクをミミへ向けて贈るのだった。
「島田・・・先輩?」
その笑みの意味を、ミミが判る筈が無かったのは言うまでもない。
唯、昨日とは別人のように穏やかな表情にびっくりさせられただけだった。
「ミミちゃん。
どうやら先輩も覚悟したようだね」
見守っていたハナも、美晴の変化を悟り。
「何かが先輩を変えたみたい」
一晩で変わった態度を観て感じ取って。
「そうみたいや・・・な」
校舎へ駈け込んで行った美晴の背中を見送るのだった。
「おっはよ~」
チャイムが鳴る中、美晴が教室へと飛び込んで来る。
「遅刻したかと思った」
全力で駆けて、なんとか遅刻せずに済んだ。
「遅い・・・ついでに言うとノラ」
「美晴さん。今日は髪を括ってないんだ?」
迎えるノーラとローラに気付かされる。
「ほぇ?」
いつも左髪を結っていたリボンが無い。
「あっちゃぁ~。忘れてた!」
髪をセットする間も無く飛び出して来たことを。
「おまけに。お間抜けな髪になってるノラぞ」
ぴょこんと撥ねる阿保毛を揶揄するノーラが。
「美晴っち。ホレ」
どこかから出した手鏡を美晴へ向けて。
「授業前に括るノラ」
持って来ただろう筈のリボンを結えと促す。
「うん!感謝~」
阿吽で通じる。
それが友というものだろう。
鞄の中からリボンを出し、髪を括る。
「ほぅ?」
「今日は・・・ポニテですか?」
二人の前で、美晴が結い上げたのは。
「今日はね、こうするのが良いかなって」
ピンクのリボンを後ろで括る。
その髪型は、誰かを彷彿とさせるものだった。
「誇美ちゃんの結い方とも違う。
今日は・・・ね、ポニーテールが良いんだ」
結い上げた美晴が、二人へ笑いかけた。
「だって。
あの人と・・・話す事になるんだから」
「あの人?誰の事なノラ?」
二人に意味深な一言を残す。
ポニテにした意味を含ませて。
「なぁ~いしょ!」
ニコッと笑って誤魔化す美晴。
その誰かとは・・・誰を指すのか?
まだ、何も分かっていなかった。
だから、本当の意味を知りたくなった。
急な転居の意味・・・その訳を。
平日の朝が明け、また普通の日常が訪れる。
学校に行けば、あのお邪魔虫っ娘達が待っているだろう。
いつまでも放置は出来ない。
なぜなら、フェアリアに旅立つ日がいずれやってくるのだから。
女神を宿す美晴は、どのように解決する気なのだろう?
次回 ACT 7 校舎裏での密会
夕日が届かない校舎裏で。約されたもの同志が対峙する?!それは古の絆をも蘇らすのか?




