ACT 3 誇美<コハル>の悪戯
月曜日の朝。
なんら変わらぬ日常の始まり・・・
授業が始まる前、ノーラとローラが観たのは?
教室に現れた美晴だったが、何かが違うような?
その理由は・・・
明けて月曜の朝、学園は何事も無かったように始まった。
そう。
あれだけの事件が起きたというのに・・・
1学年の教室で、二人が寝ぼけ眼で欠伸をしている。
「ふぁあああ~・・・まだ寝たりんわぁ」
「だよ・・・ねぇ」
ミミとハナが身体の節々を摩りながら交わしている。
「昨日は一日中筋肉疲労で痛かったしぃ~」
「頭の中がぼやけて、眠るのだって辛かったもんねぇ」
身体を酷使した後のおばさんみたいな会話を交わしていたのだが。
「島田先輩はどうなんやろ?」
「魔法少女隊員だから、大丈夫だったんじゃないの?」
戦闘中に助けに来てくれた魔法少女の先輩に話を移して。
「まだ、お礼を言ってなかったしな~」
「お昼休みにでも2年生教室へお伺いしなきゃ・・・だね?」
戦いの後、お礼を言う前に退散してしまったのを後悔しているようだった。
「それに・・・ホマレ伯母さんも逢いたがってるから・・・」
ぼそりっと、ミミがイヤリングを弄りながら呟く。
そのイヤリングには、蘇った英霊の魂が宿っているようだった。
「え?何か言ったミミちゃん」
聴こえていたのか、ハナが突っ込んで来るのを苦笑いで応えて。
「あ、いや。独り言ってやつや」
分かっているだろうことは薄々感じているミミが、茶化して誤魔化した。
2年生の教室で・・・
「今日はお休みかもしれないね、ノーラ姉」
「ふむ。お父さんとゆっくりしているのかもノラな」
ノーラとローラ姉弟が、ホームルーム直前に迫った教室で待っていたのは。
カララララ・・・
教室の開き扉が開き、中へと入って来た。
「おはよう」
青みを帯びた黒髪を、ピンクのリボンで左サイドポニーに結っている・・・
「お?!来たノラか」
「おはよう。美晴さん」
二人が迎えた少女は、僅かに微笑んで。
「おはよ~、ノーラちゃん、ローラ君」
窓際の自分の席へと歩んで来た。
「?!美晴っちなノラな?」
怪訝な表情になったノーラが聴き質す。
「あれ?なぜか・・・見慣れた雰囲気じゃない気がするけど?」
本来が男の子で、今は女の子になっているローラも小首を傾げて訊いて来た。
二人の前迄来た美晴が、自席のフックに鞄を引っ掛けると。
「あ・・・やっぱり。分かっちゃうかな~」
俯き加減で応えて。
「私が美晴じゃぁ無いって事が」
二人の前へと向き直る。
「え?」
「何を・・・」
突然改まる美晴に、二人が眉間に皺を寄せて訊き質そうとすると。
「2年ぶりって奴?
覚えてくれていると嬉しいんだけどぉ~」
俯く美晴のマリンブルーに輝く瞳が、前髪の間から垣間見えて。
「私。
ノーラさんとローラ君に助けて貰ったのを忘れていないよ」
何かを訴える様な顔つきで見上げて来る。
「二年前?なんのことなノラか?」
「いやいや、美晴さん。何を寝ぼけてるのさ?」
二人は気が付いていないようだ。
この<美晴>がミハルでは無いことに。
「う~~~んっと。
思い出して貰えないのかぁ~。
だったら、こうすれば美晴じゃぁないって気が付いて貰えるかな?」
少し困ったような顔つきになった黒髪の少女が、
「ちょっと待ってね」
そう言うと、結わえていたリボンを解くと。
「魔戒戦で、邪悪な魔王から救ってくれたよねノーラさんが」
リボンを頭頂部で結わえ直し、
「美晴と一緒に闘ってくれたよねローラ君も」
すっと顔を挙げて、二人へ向き直したのだった。
「・・・まさか」
「美晴さんが・・・暴走?」
姿顏は美晴のまま。
だけども髪型を変えただけなのに、何かが違う。
「・・・まだなの?まだ私だって気付いてくれないの?」
まぁ、顔姿が同じだったら。
単にイメージチェンジとしか映らないのも頷ける。
「そっかぁ・・・だったら。
美晴とは別人だって解からせるっきゃない」
むぅ~っと、口元を歪ませた黒髪の少女が制服の上着を開けさせて。
「これを観ても・・・美晴だと言うんじゃないよね?」
シャツの胸元を開いて・・・魅せるのは?
「うわ・・・いつの間に?」
ローラ君が慌てて手で眼を覆う。
「にゃんですとぉ~ッ?!美晴っちが、こんなに巨乳な訳が・・・」
ノーラが驚愕の・・・いや、目を光らせてのめり出る。
「一晩でボインボインに成長している筈が・・・無いノラぁ~!」
・・・いやあのね、ノーラさん。
それって一昨晩も美晴さんのおっぱいを注視していたって意味に採れますが?
「うふふ!やっと気が付いてくれたようね。
私が美晴じゃぁ無いってことに」
胸元を拡げる黒髪の少女が、更に胸を張って魅せると。
「どんな魔法を使ったノラ~?
教えるノラ、美晴っち!」
「・・・気が付いて貰えてない・・・シクシク」
敢えて突っ込むノーラに、ショックを受けたようだ。
「で?君の名は?
美晴さんを憑代にするなんて、タダ者じゃぁないんだろ?」
「お?ローラ君は分かってくれた」
目元を手で隠していたローラが、真相を質そうとする。
「ローラは直球過ぎなノラ。
ここは相手に口を滑らせるってのが常套手段なノラぞ」
魔法の盗賊であるノーラが口を尖らせて駄目を押す。
「どうやら悪意は無さそうなノラ。
美晴っちが乗っ取られているだけみたいなノラが・・・」
「おお?!そこまで見破るなんて」
今度は黒髪の少女が驚く素振りをみせる。
「やっぱり美晴の友達だけのことはあるわね。
私は・・・ね。あなた達に助けて頂いた<コハル>なの。
覚えてくれていたのなら、光栄なんだけど?」
ポンっと胸に手を添えて名を明かす、黒髪の少女が。
「また、この世界へ還って来れたんだ。
また、昔のように美晴の世界に戻れたんだよ。
今は、春を告げる神に成って・・・だけど」
二年前は新米魔王として魔界に君臨していた。
しかし、邪悪なる魔王との決戦でノーラ達と共闘した。
然る後、闘いを経て天界に召され、女神に成った・・・コハルだと告げたのだ。
「どう・・・かな?
思い出してくれた?」
教える<コハル>が、二人へ質すと。
「・・・」
「・・・」
答えが返ってこない。
「あああああ?!
どう言ったら信じて貰えるのよ」
あ~でもない、こ~でもないと考えあぐねてしまうコハルが、
「え~ぃいッ!奥の手だぁ!」
キランっと、マリンブルーの眼を輝かせて。
「完全変身してやるぅーッ!」
魔法衣姿に変身しようと手を指し伸ばした・・・
・・・の、だが。
ピシャッ!
一瞬のことで、誰にも分らなかったのだけど。
「・・・ごほ。ごめんなさい理の女神様」
まるで電撃を受けた後のようにゴホつくコハル。
「勝手に現界しませんから・・・赦して、ぷり~ずぅ」
一瞬、蒼き光が宝珠から放たれたような気がしたのだけど?
「電撃は・・・無し子で。お願いしますです・・・」
やはり・・・喰らっていたようですW ってか、怖いな理の女神って。
独りで呟くコハルを名乗る美晴に、ノーラもローラも唖然としていたが。
「巨大損には・・・変わりがないノラ(呆れ顔)」
「いえす。まぁ、似たり寄ったりだよね(痛い顔)」
コハルの何たるかを瞬時に悟ったようです。
それからそれから?
授業の合間、休み時間になると会話が弾んだ。
「んで?女神になったノラか誇美っちは?」
「そ~なのぉ。ばっちり修行も積んで来たんだから」
見た目を美晴へと戻したコハルが応えると。
「随分大人になっていたんですねぇ?」
「ん~~~?女神の特権かなぁ、母性愛の賜物って奴?」
ローラがコハルの身体つきを観て訊く。
「修行ってのは、何をやってきたノラか?」
「ん~?一応だけど、私ってば戦女神も兼ねているんだよ~」
戦女神に成る修練って奴でしょうか?
「剣戟は美晴がやってくれるだろうから、他の事をね」
「他の事って?」
ローラが意味深に捉えて訊き直せば。
「んふふ!愛よ、愛」
「ブッ?!愛って・・・あのその?」
噴き出すローラに、真顔なコハルが言うのは。
「当然!愛と言えば、男女が織成す絆を深める・・・」
二人が顔を赤くするのも厭わず、しゃぁしゃぁとコハルが言って退ける・・・寸前。
ぼむっ!
謎な煙がコハルを包み込んで。
「ぜは~ぜは~・・・強制変身って、疲れちゃうんだよ」
二人の前に現れたのは。
「良い?二人共。
今のは聞かなかった事にしてよね、分かった?!」
「・・・美晴っちなノラ」
「そのようですねぇ」
あっけにとられる姉弟の前で、肩で息を吐く美晴が居ました。
「おちおち熟睡も出来ないノラなぁ?」
「そーなの」
寝落ちしたら、コハルに身体を奪われていた?
「本物の寝盗られって奴かもしれませんねぇ?」
「いやそれは。寝取られの意味が・・・」
身体を奪われる意味では、確かに<盗られ>てしまったようですが。
「まぁ。良い意味で目の保養になるノラが」
「良くありません」
ノーラが美晴好き故に言ったことに、過敏に反応した。
「あたしだって!
前よりかは大きくなったんだから。
・・・その、コハルちゃんよりかは小さいけど(ごにょ)」
胸の盛り上がりを気にして。
「ふむ・・・確かめねば。
ど~~~~れ?どれ?!」
何気ない振りをして、ローラが触診を・・・
げしっ
「やめぃ!」
その頭を弩突くローラ。
「でもさぁ、美晴たん。
憑代にされたって言っても、普段は美晴たんのままなんだよね?」
「うん。余程の事が無い限りは・・・」
それじゃぁ、今朝は?
「二年前のお礼を告げたいって言ったから・・・なんだけど」
「それで。譲ったの?」
コクンと頷く美晴に、溜息を溢すローラが。
「それなら。事前に教えておいて貰いたかったんですけど」
「い、いやぁ~。サプライズになるかもって・・・ごめん」
はぁ~っと、息を吐くローラに謝る美晴。
「でも。
やはり噂通りでしたよね。
17歳の誕生日に起きる奇跡ってのが」
「そ、そっかな?あまりにも色んな事が起き過ぎちゃって」
一昨晩からの事件へと話を振るローラに、美晴が応えようとする。
「奇跡って言われても。
与えられた事も失ったのも大き過ぎて。
あたしには・・・理解出来ないよ」
帰還を果した女神達。
現世から消えた人達。
そのどれもが奇跡だと思いたくなくて。
「逢いたい人に会えるのなら嬉しいけど。
離れたくなかった男性に逢えなくなっちゃうのは。
とっても辛いんだよ・・・まだ逢えなくなるとは限らないけど」
魔界の王に収まった男性に想いを寄せ、
「もう一人の自分が幸せになってくれるのは良いことなのに」
魔界に堕ちた<美晴>へも募らせて。
「あたしってば、欲張りなのかも・・・ね」
全てが自分の思い通りにはいかないことさえも、理解出来てはいなかった。
「シキ君は・・・消えた訳じゃない。
あたしを嫌った訳でもない。
唯・・・昔の美晴を愛している・・・あたしよりも」
新たな魔王に収まった想い人に、未練が残ってもいた。
本当の処は、昔に美晴を守ると約束していたシキの独断でそうなってしまったのだが。
今の美晴には分かる術も無かった。
美晴の指先が翠のリングに触れる。
愛の形だと想う指輪に、割り切れない想いが籠められてもいた。
外そうとも考えたのだが、もしかすると想いが届くかもしれないと填めたままにしているのだった。
「助けてくれるかも。
辛く苦しい時に、想いだけでも届くのなら・・・」
もう一人の美晴に譲った恋だけど、心の隅では未だ想いが残っている。
「だって。
絆が途切れた訳じゃぁないんだもん」
時空を越えて還って来れた女神が居るのなら。
異世界の住人に堕ちた人にだって逢える・・・筈だと思った。
呟き続ける美晴に、ローラは静かに相槌を贈った。
昼下がり。
教室でランチタイムを終えた処に。
ガラララッ!
突然の来訪者が現れる。
「うん?」
「なんなノラ?」
ローラとノーラが振り返った先には。
「あ!あなた達?!」
美晴が驚愕の声を挙げる。
ちゃっかり憑依していた誇美だったが。
理の女神が放った電撃で眼を覚ました美晴(それまでは寝ていた?!)に邪魔されてしまったようですねW
なんだか、オリジン・ミハルに二人して弄ばれているような気もしますが?
ミハルの前に現れる<あなた達>とは?
この後、どんな出来事が待っているのでしょうか?
次回 ACT 4 往くか留まるか
進んで往くのか?それとも今を変えずに留まるのか?
魔砲少女ミハルは選択を迫られる?!君は絆を求めて進むべきだ?!




