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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第2部 魔砲少女ミハル エピソード7 第6章 生まれ故郷は妖精の国
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ACT 1 帰って来たけど? 

第2部 魔砲少女ミハル エピソード7 

  第6章 生まれ故郷は妖精の国


挿絵(By みてみん)


イシュタル・ゴードムとの決戦も終焉を迎えた。

魔砲の使い手、美晴も漸く平静を享受していたのだが・・・



邪悪を退けた魔砲の少女<美晴>達と、その仲間。

しかし、その代償は運命の歯車を回し始める結果と成った。


都を見下ろせる小高い丘の上に建つ、島田剣舞道場で・・・


「母さん、ただいま」


道場主でもある美雪みゆきの前に、息子である真盛まもるが立っていた。


「お帰りなさい、真盛」


帰宅を告げる息子に応える美雪だったが、目を向けていたのは傍らに控えている美晴だった。


「お帰り・・・美晴ミハル


伏し目がちに孫娘を見詰め、声を震わせている。


「良くぞ・・・無事で・・・善かった」


魔法少女隊制服を着たままの美晴へ掛けられる労いの言葉。


「辛かったでしょうに・・・今迄」


でも、何故だか。

美雪が労っているのは美晴では無いようにも採れる。


スッと美雪の視線が美晴の填めた宝珠へと向けられて。


「さぁ、遠慮なんてせずに。

 此処はあなたの家でもあるのだから」


招くように誘うのだった。


「え・・・っと。うん」


戸惑いを感じたのか、歯切れの悪い声を出す美晴。

右手首の宝珠が、淡い光を溢していた。



客間に通された真盛と美晴。

普段の美雪ならば、意の一番に茶菓子を持って来るのだが。


「ルマちゃんから電話があったのよ。

 二人を宜しくって・・・親子水入らずで過ごしてってね」


「ああ、ルマらしい心配りだよな」


知らされたマモルが頬を緩めてルマを褒めた。


「・・・そっか」


美晴は少し俯いたまま、相槌を打つ。


「分っていたんだ、ルマお母さんも」


淡い光を放つ宝珠へ眼を向け、美晴が微かに呟く。


俯いた美晴を横目で見ていたマモルだったが。


「そうそう。

 手土産てみやげがあったんだ」


持って来たリュックを開いて小袋を美雪へと差し出した。

取り出したのは、小箱と封書。


「これ。まこと父さんから頼まれたんだ。

 お母さんへ手渡して欲しいって・・・さ」


まだ帰国していない父からの便りと、小箱の中身は。


「まぁ!こんな物をどうして」


小箱の中から現れたのは、蒼い宝石の着けられてあるネックレス。


「ああ、懐かしいだろ?

 フェアリアに寄った時に買ったんだよ、父さんが」


「この魔法石・・・あのお店で?」


二人は懐かし気に話し合っている。

フェアリアという国名が、聴いていた美晴の身体を震わせる。


「マモル・・・君。あの国に行って来たの?」


日ノ本人の父とフェアリア人の母を持つ美晴には、懐かしい生まれ故郷でもあるフェアリア。

幼き日をフェアリアで過ごし、本当の意味で故郷と云える国でもあったのだ。


「ああ、そうだよ。

 補給と連絡の為にね」


美晴の問いに、マモルが短く答える。


「王室の方々にも伺候したけどね」


付け加えるマモルが、悪戯っぽく笑いかけて。


「ルナリーン様も健やかそうだったよ」


「・・・そっか」


俯いたままだったが、なんとなく答える美晴の声が上擦って聞こえた。


何かを堪えているような美晴の姿を見詰める美雪。

奥間の仏壇へと視線を巡らして、一言孫へと告げるのは。


「あなたも・・・行きたかった?」


フェアリア・・・に?


「逢いたいんじゃないの?」


王女様に?


何気ない一言だったが、美晴のたらだがビクンと震える。


「だって。いつも言っていたんじゃないの?」


「うん・・・」


美雪は孫娘からの返事を待っていたが。


「絆はどれだけ経っても消えたりしないわよ」


煮え切らない態度の美晴へ助け舟を寄越す。


「うん・・・逢いたいけど。

 まだ、その時じゃない気がするんだよ」


俯いたまま、肯定も否定もしない。


「ルナリーン様に逢うのは」


でも、慕い続けているのは声からも伺い知れる。


「あたし・・・まだ。

 立派な魔砲少女に成れていないから」


戦っても、誰かに支えられ無ければ勝つ事も出来ない。

強力な魔法力を行使出来ても、誰かに守られている。


「あたし・・・まだ約束を果せていないから」


月夜の晩に出逢えた<ルナ女神リーン>のように、強くは成れていないから・・・と。

逢いたい心に蓋をする美晴。


祖母と孫娘の話に聞き耳を立てていたマモルが、フッと溜息を漏らした。


「あ、そうだった。

 美晴にも、渡して貰いたいと承ってたんだっけ」


リュックに手を伸ばすマモルが、ゴソゴソと何かを掴み出す。


「これ。

 美晴に渡して貰いたいって・・・彼女から」


「?彼女って」


意味深な呼び方に、美晴がやっと顏を挙げて訊き質した。


「その手紙を読めば判るさ。

 船便でも良かったらしいけど、中尉から頼まれてさ」


「・・・中尉って。フェアリアの士官さん?」


日ノ本ならいざ知らず、フェアリアの軍人に知り合いがいるとは思えず。


「もしかして、マーブル・チアキ伯母さんの教え子さん?」


随分前に帰国した筈の知り合いを兼ね合いに出してみたが。


「チマキの部下じゃぁないから」


あっさりと否定されてしまう。


「今は、王室警護団に配属されているみたいだよ」


「え?!警護団って、エリート中の選抜集団の?」


日ノ本に居ても、フェアリア王室警護団の話は聞いていた。

近衛兵の中で、更に優秀者が集った組織だということぐらいは。

そしてその人員の殆どが、強力な魔法使いだと言う事も。


「あたしの知り合いには、警護団へ配属されるような人はいないよ」


心当たりが全くない。

そう・・・今の美晴には。


「まぁ、後で読めば良いから」


マモルはそう言って、手紙を差し出すと。


「それと・・・これは。

 美晴がいつも欲しがってた土産だよ」


片手に持っていた小箱を畳の上に置くのだった。


「欲しがっていた・・・って?」


手紙を受け取った美晴が、小箱を不思議そうに見詰めると。


「あれ?忘れちゃったのか。

 蒼い宝珠を還した時にも言っていただろ。

 御守おまもりに身に着けたいって、魔法石のイヤリングを」


2年前、マモル達が深海探査へと出航する時のことだ。

美晴は大切にしていた蒼き宝珠をマモルに渡した。

女神が宿るとされた護り石。

それを父親であるマモルへと託した・・・その後で、悲劇が起きた。

交通事故により美晴は死地を彷徨い、光と影に分断される事になった。

美晴の危急を知ったマモル達が、一時の帰還を果した折。

目覚めていた美晴へ蒼き宝珠が返され、今に至るのだ。


「そ、そうだったっけ?」


はっきりと美晴が覚えていないのは、当時は<ミハル>が話し相手だったから。

光と影に分断されてしまった時の記憶が残っていないのは、話したのが影だったからなのだろう。


「ありがとう・・・マモル君」


お礼を告げて小箱へと手を伸ばす美晴には、手紙を開くタイミングが無かった。


「いやなに」


応じたマモルの口元が緩んだのを、美雪は見逃さなかった。


ー あの手紙は、美晴ちゃんの今後を図っているようね・・・


心の内で、美雪は孫娘の身を案じたが。


「開けてごらんなさいな、美晴ちゃん」


今はまだ。可愛い孫の喜ぶ顔を眺めていたかった。


「うん!」


手紙を置いて、小箱に手を出す美晴。

蓋を開けた途端に、


「わぁ~~~!」


眼を輝かせて歓喜の声を挙げる。


小箱から取り出されたのは、蒼き宝石の着いたイヤリング。


「どう?どう?!似合うかなッ?」


急に燥ぎ出した美晴に、マモルも美雪も頬を緩ませて。


「良く似合うよ」

「お似合いよ、美晴ちゃん」


今、この時だけは。

なにもかも忘れたかのように微笑み合うのだった・・・

魔砲少女の美晴は、祖母と父の前で寛いでいた。

手渡された手土産に歓喜し、誰かからの手紙を受け取った。


その手紙が齎すのは、幸せなのか・・・それとも?


次回 ACT2 彼女の便り

美晴の言う、彼女とは誰を指すのか?絆の行方はどこにある?!

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