ACT 1 帰って来たけど?
邪悪を退けた魔砲の少女<美晴>達と、その仲間。
しかし、その代償は運命の歯車を回し始める結果と成った。
都を見下ろせる小高い丘の上に建つ、島田剣舞道場で・・・
「母さん、ただいま」
道場主でもある美雪の前に、息子である真盛が立っていた。
「お帰りなさい、真盛」
帰宅を告げる息子に応える美雪だったが、目を向けていたのは傍らに控えている美晴だった。
「お帰り・・・美晴」
伏し目がちに孫娘を見詰め、声を震わせている。
「良くぞ・・・無事で・・・善かった」
魔法少女隊制服を着たままの美晴へ掛けられる労いの言葉。
「辛かったでしょうに・・・今迄」
でも、何故だか。
美雪が労っているのは美晴では無いようにも採れる。
スッと美雪の視線が美晴の填めた宝珠へと向けられて。
「さぁ、遠慮なんてせずに。
此処はあなたの家でもあるのだから」
招くように誘うのだった。
「え・・・っと。うん」
戸惑いを感じたのか、歯切れの悪い声を出す美晴。
右手首の宝珠が、淡い光を溢していた。
客間に通された真盛と美晴。
普段の美雪ならば、意の一番に茶菓子を持って来るのだが。
「ルマちゃんから電話があったのよ。
二人を宜しくって・・・親子水入らずで過ごしてってね」
「ああ、ルマらしい心配りだよな」
知らされたマモルが頬を緩めて妻を褒めた。
「・・・そっか」
美晴は少し俯いたまま、相槌を打つ。
「分っていたんだ、ルマお母さんも」
淡い光を放つ宝珠へ眼を向け、美晴が微かに呟く。
俯いた美晴を横目で見ていたマモルだったが。
「そうそう。
手土産があったんだ」
持って来たリュックを開いて小袋を美雪へと差し出した。
取り出したのは、小箱と封書。
「これ。誠父さんから頼まれたんだ。
お母さんへ手渡して欲しいって・・・さ」
まだ帰国していない父からの便りと、小箱の中身は。
「まぁ!こんな物をどうして」
小箱の中から現れたのは、蒼い宝石の着けられてあるネックレス。
「ああ、懐かしいだろ?
フェアリアに寄った時に買ったんだよ、父さんが」
「この魔法石・・・あのお店で?」
二人は懐かし気に話し合っている。
フェアリアという国名が、聴いていた美晴の身体を震わせる。
「マモル・・・君。あの国に行って来たの?」
日ノ本人の父とフェアリア人の母を持つ美晴には、懐かしい生まれ故郷でもあるフェアリア。
幼き日をフェアリアで過ごし、本当の意味で故郷と云える国でもあったのだ。
「ああ、そうだよ。
補給と連絡の為にね」
美晴の問いに、マモルが短く答える。
「王室の方々にも伺候したけどね」
付け加えるマモルが、悪戯っぽく笑いかけて。
「ルナリーン様も健やかそうだったよ」
「・・・そっか」
俯いたままだったが、なんとなく答える美晴の声が上擦って聞こえた。
何かを堪えているような美晴の姿を見詰める美雪。
奥間の仏壇へと視線を巡らして、一言孫へと告げるのは。
「あなたも・・・行きたかった?」
フェアリア・・・に?
「逢いたいんじゃないの?」
王女様に?
何気ない一言だったが、美晴のたらだがビクンと震える。
「だって。いつも言っていたんじゃないの?」
「うん・・・」
美雪は孫娘からの返事を待っていたが。
「絆はどれだけ経っても消えたりしないわよ」
煮え切らない態度の美晴へ助け舟を寄越す。
「うん・・・逢いたいけど。
まだ、その時じゃない気がするんだよ」
俯いたまま、肯定も否定もしない。
「ルナリーン様に逢うのは」
でも、慕い続けているのは声からも伺い知れる。
「あたし・・・まだ。
立派な魔砲少女に成れていないから」
戦っても、誰かに支えられ無ければ勝つ事も出来ない。
強力な魔法力を行使出来ても、誰かに守られている。
「あたし・・・まだ約束を果せていないから」
月夜の晩に出逢えた<月の女神>のように、強くは成れていないから・・・と。
逢いたい心に蓋をする美晴。
祖母と孫娘の話に聞き耳を立てていたマモルが、フッと溜息を漏らした。
「あ、そうだった。
美晴にも、渡して貰いたいと承ってたんだっけ」
リュックに手を伸ばすマモルが、ゴソゴソと何かを掴み出す。
「これ。
美晴に渡して貰いたいって・・・彼女から」
「?彼女って」
意味深な呼び方に、美晴がやっと顏を挙げて訊き質した。
「その手紙を読めば判るさ。
船便でも良かったらしいけど、中尉から頼まれてさ」
「・・・中尉って。フェアリアの士官さん?」
日ノ本ならいざ知らず、フェアリアの軍人に知り合いがいるとは思えず。
「もしかして、マーブル・チアキ伯母さんの教え子さん?」
随分前に帰国した筈の知り合いを兼ね合いに出してみたが。
「チマキの部下じゃぁないから」
あっさりと否定されてしまう。
「今は、王室警護団に配属されているみたいだよ」
「え?!警護団って、エリート中の選抜集団の?」
日ノ本に居ても、フェアリア王室警護団の話は聞いていた。
近衛兵の中で、更に優秀者が集った組織だということぐらいは。
そしてその人員の殆どが、強力な魔法使いだと言う事も。
「あたしの知り合いには、警護団へ配属されるような人はいないよ」
心当たりが全くない。
そう・・・今の美晴には。
「まぁ、後で読めば良いから」
マモルはそう言って、手紙を差し出すと。
「それと・・・これは。
美晴がいつも欲しがってた土産だよ」
片手に持っていた小箱を畳の上に置くのだった。
「欲しがっていた・・・って?」
手紙を受け取った美晴が、小箱を不思議そうに見詰めると。
「あれ?忘れちゃったのか。
蒼い宝珠を還した時にも言っていただろ。
御守に身に着けたいって、魔法石のイヤリングを」
2年前、マモル達が深海探査へと出航する時のことだ。
美晴は大切にしていた蒼き宝珠をマモルに渡した。
女神が宿るとされた護り石。
それを父親であるマモルへと託した・・・その後で、悲劇が起きた。
交通事故により美晴は死地を彷徨い、光と影に分断される事になった。
美晴の危急を知ったマモル達が、一時の帰還を果した折。
目覚めていた美晴へ蒼き宝珠が返され、今に至るのだ。
「そ、そうだったっけ?」
はっきりと美晴が覚えていないのは、当時は<ミハル>が話し相手だったから。
光と影に分断されてしまった時の記憶が残っていないのは、話したのが影だったからなのだろう。
「ありがとう・・・マモル君」
お礼を告げて小箱へと手を伸ばす美晴には、手紙を開くタイミングが無かった。
「いやなに」
応じたマモルの口元が緩んだのを、美雪は見逃さなかった。
ー あの手紙は、美晴ちゃんの今後を図っているようね・・・
心の内で、美雪は孫娘の身を案じたが。
「開けてごらんなさいな、美晴ちゃん」
今はまだ。可愛い孫の喜ぶ顔を眺めていたかった。
「うん!」
手紙を置いて、小箱に手を出す美晴。
蓋を開けた途端に、
「わぁ~~~!」
眼を輝かせて歓喜の声を挙げる。
小箱から取り出されたのは、蒼き宝石の着いたイヤリング。
「どう?どう?!似合うかなッ?」
急に燥ぎ出した美晴に、マモルも美雪も頬を緩ませて。
「良く似合うよ」
「お似合いよ、美晴ちゃん」
今、この時だけは。
なにもかも忘れたかのように微笑み合うのだった・・・
魔砲少女の美晴は、祖母と父の前で寛いでいた。
手渡された手土産に歓喜し、誰かからの手紙を受け取った。
その手紙が齎すのは、幸せなのか・・・それとも?
次回 ACT2 彼女の便り
美晴の言う、彼女とは誰を指すのか?絆の行方はどこにある?!




