ACT12 大団円?
イシュタル・ゴードムとの決戦は終った。
だが、悪魔ゴードムに魂を奪われた魔読少女のハナは取り戻せてはいない。
今、抜け殻となった身体へと魂を戻す時。
女神コハルとの契約を魔王シキが守るかは、賭けにも等しかった。
しかし女神コハルは信じて放つ。
光と闇が協力できると分かっていたから・・・
魔界に送った意識が身体に戻ると、女神コハルの眼が開く。
光の意識体が舞い戻ったのは、時間にして数分だったのか、数十秒だったのか。
「約束は・・・守ってよね、魔王シキ」
美晴の身体に宿る、女神のコハルが溢す。
「さぁ!転移の秘術を解き放ってよね!」
魔女イシュタル・ゴードムから解放されたハナの身体に向き直って。
「いきますよ戦女神ホマレさん!」
傍らに控える翠髪の少女へと仄めかすのだった。
「いつでも・・・来いや!」
魔拳少女のミミが頷く。
「ハナちゃんを取り戻すんや!
どんな無茶だってやってみせたるさかいに!」
イヤリングに宿る戦女神も、その瞬間を待っていた。
「「姪っ子の言う通りやで、女神コハル。
ウチがついてるんや、大船に乗った気で任せておきぃな」」
憑代であるミミに手を貸すつもりのホマレ。
どこかの女神から授けられた魔力だけでは心細いと感じていたようだったが。
「「フフフ、ホーさんったら心配性なんだから。
この作戦の仕上げは、二人の絆で完結させないと・・・だよ?」」
コハルの右手に填められている蒼き珠から、理の女神が言って退ける。
「「それこそが・・・愛の理なんだから」」
魔法を手にしたミミとハナ。
二人の絆が齎すのは、魔法を超えた愛という名の理。
「「さぁ・・・今がその時なんだよ」」
理を司る女神の声が求めた。
魔界から伸び来る光を感じて。
ピカ
魔界から現れる輝の矢。
「来た!」
求めていた輝きを目にしたコハルが、咄嗟に構える。
「タイミングは・・・逃さないッ」
ハナの魂を呼び覚ます為。
ミミの願いを聴き遂げる為にも。
「私は・・・目覚めを呼ぶ女神なんだから!」
命の芽生えを呼ぶという早春。
命の目覚めを司る、早春の女神が技を繰り出す。
「友を想う娘に、奇跡を与えてあげるのが私の使命!」
蒼い瞳が光りの矢に籠められている魂を捉える。
「奪われし魂よ!失った容へと還りなさい!」
女神の異能を行使する。
命の息吹を、再び宿らせる秘術を・・・
「今一度・・・友の許へと還るのよ!」
繰り出される女神コハルの蘇生魔法。
金色の光がハナの身体を包み込み、飛び来た光の矢を受け止める。
光の矢に籠められていたハナの魂が、本来あるべき場所へと辿り着いた。
「今です!友を呼び覚まして!」
蘇生術を放ったコハルが、ハナの傍らに控えているミミに促す。
「取り戻して!あなたとあなたが求める絆を」
光の礫がハナの身体を包み込んだ。
金色の輝の中、大切な人の身体に僅かだが変化が訪れる。
「ハナ?!ハナちゃんッ」
魔女に身体を奪われていた頃には見出せなかった。
「ハナちゃんなんやろ?!」
僅かに・・・頬が綻んだのを。
「瞼を開けてぇなぁ!」
必死の叫び。
だが・・・まだ足りないのか、瞼は開かない。
微かに・・・ほんの僅かだが、魔女とは違って表情が和らいでいる。
ミミの声が届いたのか・・・それとも魂を喰われてしまう最期の瞬間へと戻っただけなのか。
「女神ティスの魔力を貰って燥いでいたハナちゃん。
あたぃと同じ様に魔法少女に成れたって・・・喜んでいたんや。
その笑顔を取り戻せるんやったら・・・あたぃの異能を全て捧げたる。
あたぃの魔力で・・・あたぃの全てを与えてでも・・・
ハナちゃんを取り戻してやるんやから!」
魔法少女のミミは、全ての異能を右手の拳へと集める。
「あたぃの大切な友へ・・・ハナちゃんへ。
この一発で、魔力を全部捧げてあげる。
喩え二人共が魔法少女や無くなってもかまへん。
ハナちゃんが蘇るれへんのやったら・・・
あたぃは・・・どうせ魔法少女には戻らへんのやから」
全てを賭し、全てを捧げて。
何もかも、大切な友との絆の為に。
「受け取ってぇな、ハナちゃんッ!」
掻き集めた魔力を拳に秘めて。
「これがあたぃの・・・全力全開魔法拳やぁッ!」
翠の瞳で訴えかける。
碧の魔法光を放つ右手が撃ち放たれる。
大切な人を取り戻す為だけに・・・
ドギャッ!
拳はハナには突き立たない。
拳先はハナの手前で停まっている。
ギュワンッ!
だが、強力な魔法はハナの身体に異能を捧げたのだ。
女神ティスから与えられていた魔法力の全てを、命を途絶えさせようとしている友へと。
ミミの魔法力が、ハナの中へと流れ込む。
イシュタル・ゴードムが滅び去った時に失くした魔法力が与えられた。
光に包まれているハナの身体へと・・・
パアァッ
ミミの魔力とハナを包んでいた光が混じり合い、吹飛ぶように消えて行く。
まるで、二人の持っていた女神の異能が消えるかのように。
「・・・ミミちゃん・・・」
「えッ?」
眩き光が消えた時、目の前には。
「なんで私に拳を突きつけてるのよ?」
「へ?」
ジト目でミミを観ているハナが。
「で?ど~して・・・裸なの?」
「へ?どうしてって・・・覚えてへんのかハナちゃん?」
イシュタル・ゴードムに拠って身体を乗っ取られて。
衣服をはぎ取られてしまったからだと答えようとするミミへ。
「いくらミミちゃんが活発だって言っても。
真冬に裸じゃぁ、風邪ひくよ?」
ツンと人差し指を突きつけて来て。
「へ?裸って・・・あたぃもぉ~?」
自分も裸になってしまっているのに、やっと気が付くのだった。
「あたぃもって・・・へ?みぃやぁああああ?!」
そこで。
ハナも自分が裸なのを気が付いたみたいだ。
「なんでぇ?」
「あたぃもぉ?」
互いに抱き着き、恥ずかしさに赤面するのだった。
「ま、魔法衣は?」
「あわわ。慌てて忘れてた」
二人は口を揃えて魔法衣を纏おうと魔法を唱えた・・・が。
「え?エエッ?」
「魔法が・・・かからない?!」
何度唱えようが魔法衣は現れず。
「どうなってんのやぁ~ッ?」
抱き着いたまま、混乱を極めてしまった。
夜空に舞う女神が笑った。
「あらあら。
巧くいって良かったじゃない」
二人の少女が抱き合う姿に。
「どこぞの女神から授かっていたって言う、仮初めの魔法が解けて」
ミミさえもが魔力を失ったのは、意外な結末だとも言えたが。
「そもそも。あなた達が魔法少女に成っていたのには訳があったのよ」
喚き合ってる二人の上で、女神コハルが訳知り顔で見下ろす。
「この現実世界に、伯母様達を蘇らせる為と。
私をここへ降臨させる為・・・でしょ?」
コハルの右手に填められている蒼き珠へと語り掛けて。
「それに。
魔界に新たなる王を誕生させて。
もう一人の美晴を喪わずに済ませた・・・でしょ?」
解答を理の女神に求めたのだった。
「「御明察ね、姪っ子ちゃん。
さすがはミハエルさんとルシちゃんの娘って処ね」」
蒼き珠が明滅して、女神ミハルの言葉を伝えて来る。
「えへへ~、でしょでしょ!」
太陽神でもあり、自分を姪と呼んでくれる高位の女神に自慢して。
「私だって、伊達に女神を張っていませんから」
豊かに育った胸を反らせて魅せるのだった・・・が。
「「随分と自慢気だけど。
隠された秘密には気が付けなかったみたいだねぇ」」
蒼き珠が注釈を加えて来た。
「秘密?なんなのですか、それって?」
「「フ・・・秘密は自分で明かすべきなのよ」」
悪戯っぽい女神の答えに、コハルの頭の上に(・・?マークが燈った。
「「まぁ・・・今はまだ知らなくても影響はないわ。
それよりも、あの二人に着る物を与えてあげて」」
「了解です」
真冬に裸な、ミミとハナに着る物を与えるように促す女神ミハル。
快諾したコハルに拠って戦闘前の状態へと戻される二人。
「あ?・・・っと、服が?」
「うん、戻ったね」
一瞬、魔力が快復したのかと錯覚した二人が喜んだのだが。
「えっと・・・でも」
「魔法は・・・かからないみたい」
魔法呪文を唱えても、何も起こらない事に気付き。
「ティス様の魔法が・・・解除されちゃった?」
「あたぃも。うんともすんとも・・・言わんわ」
授けられていた魔力が無くなり、もう魔法少女とは言えなくなっていると分かった。
「そっか・・・役目を終えられたんだよね」
「そうなん?あたぃはまだまだやり遂げ感が無いんやけど」
何となく、まだ物足りなく思ったミミが翠のイヤリングを弄っていると。
「そうだ、ミミちゃん。
銀さんは?まだ中に居るの?」
ハナが思い出したようにティスの天使が居るのかと訊いて来た。
「う~ん・・・居ないみたい」
イヤリングには人懐っこい天使クリスの居る感じはしなかった。
「もう・・・帰っちゃったのかなぁ?」
女神ティスと天使クリスの目標は<ミハルという女神>の復活。
それが成された今、自分達には用は無くなったとも云えるのだが。
「最期に、お別れぐらい言いたかったよね」
「そやな・・・」
しょげたハナが溢した時、ミミも同様に感じていたのだったが。
「え?」
天使が宿っていない筈のイヤリングから、誰かの声が聴こえてきたように思えた。
「?なにか言った?」
ハナがミミの声に反応したが。
「あ・・・いや、なんも」
惚けるミミにハナが顔色を覗き込んで来る。
「あ~あ。魔法少女もお終いかぁ~」
悟られる前に、言い逃れするミミ。
「・・・怪しい」
その横顔をジト目で観るハナ。
「でも。二人一緒だから・・・良いか」
そして割り切ったように笑いを浮かべて。
「まるで命を洗濯したように澄み切ってるから」
「ハナ・・・ちゃん?」
う~んっと、背伸びをしたと思ったら。
「ありがとうミミちゃん。これからも宜しくね」
利き手を差し出して握手を求めて来た。
「あ?う、うん。こっちからも頼むわ」
咄嗟に右手を差し出して手を取ってしまうミミ。
ふわっ
二人が握手を交わした時、風もないのにミミの髪が靡いた。
「・・・うふふ」
その瞬間、ハナが微笑む。
「な?なんやねんな、ハナちゃん?」
どぎまぎしたミミが訊き質すと。
「い~え、こっちの事だから」
何かを感じたのだろうか?
ミミの翠を滲ませる瞳に、異能を観たのだろうか?
「まるで、ミミちゃんが女神にでもなったかのように観えただけ」
「ほぇ?」
まさかの言い当てに、ミミが声を呑む。
緑色のイヤリングに、今は彼女が居るのを見透かされたのだろうか。
「まさか・・・ハナちゃんの魔読魔法は消えてへんのか?」
小声で呟く。
「「姪っ子。それは断じてないんや」」
イヤリングから戦女神の声が零れ出す。
「「ウチが此処に居るのを知ってるんは、ミハルだけなんやしな」」
「そ、そうなんや?」
だったら何故?ハナには分かっているように見受けられたのか。
「「愛は理って、ミハルも言うとったんや」」
「・・・よう、分からへん」
叔母からの迷言に、ミミは肩を竦めてみせたのだった。
「これで。
残ったのは・・・貴女の事だけ」
夜空に舞うコハルが言い切った。
「私に出来ることは此処まで。
後はあなたが纏めてくれないと・・・ね、美晴?」
女神の異能で身体を借りていた。
邪悪が滅んだ後、始末を任せるのは人である美晴。
「まぁ、現界してって頼んだら。
出て来てあげても良いけどね」
後を頼んだと言ったコハルだったが、美晴だけに任せるのは酷だと思った?
「美雪お祖母ちゃんにも逢いたいし。
御菓子も食べたいし、牡丹餅は外せないから」
・・・お子ちゃまですか?
「まぁ・・・兎に角。後は頼んだからね美晴」
女神コハルはそう言うと、憑代へと身体を還すのだった。
「・・・」
還したのだった。
「・・・(# ゜Д゜)」
還したんだってば!
「むっきぃ~~~~!」
頭から湯気を噴き上げているのは・・・
「こぉらぁ~!どう説明しろって言うのよ!この現実を~~!」
巨神兵が潰え果てた瓦礫と、辺りに散らばる邪操機兵の残骸に囲まれて。
「女神なら最後まで面倒をみなさいよぉ~!」
半べそを掻きながら、美晴は叫んでいましたとさ。
人の理を司る女神は完全に蘇った。
現世を2年間離れていた春女神コハルも戻ってきた。
そして、輝の御子である美晴は。
遠く離れていた絆に巡り会えるのだった。
次回 ACT13 昔日の面影 <美晴は。やっぱり損な子です>
遥々還って来た人は、血縁者に手を指し伸ばす。愛と理の名の許に・・・




