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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3章 記憶の傀儡
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Act22 人形格闘世界選手権へ

挿絵(By みてみん)


レイを名乗るシステム。

本当に麗美なのだろうか?


一方、人形格闘世界大会も幕を開けようとしていた・・・

明日には新年を迎えるという晩だというのに、アークナイト社の一室からは灯りが消えなかった。



 カタカタカタ・・・・



キーボードを弾く音だけが室内に流れる。


「それが本当ならば、アヤツを停めねばなるまいな」


画面を見詰めるヴァルボアが呟く。


「君は確かに観たというのだね、レィ君?」


再びキーボードを弾く。

一瞬の後、大きなため息を吐き苦悶の表情となる。


「ふむ、その人類再生計画が世界を混乱へと導こうとしておるのじゃな」


タナトスが掲げる世界人類の粛清。

その一部を知らされたヴァルボア教授は、


「直ちに大学運営側と接触しなければならんが・・・」


今一度念を押すかのように質す。


「君の記憶が間違いないという保証が欲しいのじゃが?」


腕を組んでシステムフォルダの答えを待った。


「ううむ・・・しかしそれでは。

 君という存在を暴露する事にもなるのじゃぞ」


考え込んだヴァルボアが打ち込むのは、他に無いかと訊き返す言葉。

だが、即座の返答に眉を顰めてしまった。


「そうなれば折角逢える筈のリィン嬢が悲しむのだぞレィ君」


画面の文字がヴァルボアの額に映る。


<<ですから・・・私が少女人形に居ることを伏せておいて貰いたいのです>>


「レィ君・・・それでも良いのかね。

 君だって愛しいあの子に話しかけたい筈ではないのかね」


苦渋に満ちた言葉の羅列がヴァルボアの瞳を過る。


「そうまでして・・・良かろう。

 本当の君が目覚めるまで・・・儂の中だけに仕舞い込むと約束しよう」


ウインドウの中に感謝の言葉が表される。

感謝された筈のヴァルボアだったが、大きなため息とともにキーボードに打ち込んだのは。


「しかしなぁシステム上のレィ君。

 いくら自分であって自分ではないと分かったと言ってもだ。

 今現実に存在してしまっているレィという者はどうなるのだね?」


少女人形に宿っている者に後の収去を質す。

自分では無いとは一体どういうことなのか?


「君が求めた通り、人間の魂ではないと断じられる。

 考え方や観て来た物の記憶だけしかインストールされておらん。

 確かに君は麗美君の過去だけの存在だと判ったのじゃがな」


コンコンと机を叩き、


「記憶を抜き取られた麗美君が元のままだとは断言出来んぞ?」


タナトスの実験により、本当の身体に記憶が残されているかは分からないと言った。


「命が助かっただけかもしれないのじゃぞ」


魂という物が存在しているのかどうかなど、研究の範囲以外の話なのだから・・・と。


「記憶という魂が宿った今の麗美君こそが本物かも知れんのだから」


ポツリと呟くヴァルボアは、敢えて打ち込まず。


「取り敢えず、君という存在を内密に別の個所へ保存しておくとしよう。

 いざという時の為もある、また別の身体へ移る可能性もあるんじゃからのぅ」


記憶というシステムフォルダが、もしも本当の魂という物であった場合を考えて執ることにした。


「さて・・・麗美君。

 恥ずかしがらずに全てを開示してはくれんかのぅ?

 元の身体についても・・・何もかもじゃぞ」


ヘラっと笑うヴァルボア教授の眼に、ウインドウが真っ赤になって応じるのが映った。







苦難の波が押し寄せようとしていた。

新しい年を迎えた地上人類に・・・



 ・・・2098・・・



<ノアの箱舟構想>は現実だった。


ユナイテッド・ステーツにある戦略宇宙軍では、早々実現に向けて急ピッチで建設が進められているらしかった。

宇宙空間上に点在しているコロニーベースを月面へと集中させ、地球上からは電波の届かないとされる裏側に基地の造営を開始させていた。

だが、殆どの人々は秘密にされた事業を知る由も無かった・・・


そして今迄通りの栄華が続くものとばかリ思い込んでいた。



 ・・・ニューヨーク市マンハッタン・・・


例年通りに開催される運びとなった<人形格闘世界選手権>


一般公募から選抜された者まで、世界各国から競技に参加を求めてやって来る。

来週には本戦が始まるという大会だったが、今年は今まで以上に盛り上がっている。


何故かと言うと、優勝者にはタイトルと賞金が授与される事となる訳だが。




「なんですって?!今年の賞金はミリオンダラー超え?!」


驚きの声が出てしまったというよりは。


「呆れた!たかが人形選手権なのに」


1億ドルもの賞金を誰が出すというのだろうと。


「こんなだから若い人たちが熱狂しちゃうんだわ」


あまり大会自体に興味を持っていないのか、声を荒げてしまうのは。


「あのねぇユーリィ姉様。大会スポンサーなのを忘れてるでしょ」


プラグスーツを着込んだリィンが毒舌を吐く。


「それにぃ~私も若い人の仲間だから」


大会に向けての準備に入ったリィンと、後援団体であるアークナイト社顧問のユーリィが少女人形の前で言い合っている。


「はぁ・・・そう言えばそうだったわねリィンタルト」


格闘人形を製造している会社でもあるアークナイト社も、大会運営側として位置していたから。


「でも、本当に今年で引退するのね?」


「まぁね・・・たぶん」


あやふやな受け答えをするリィンへ、ユーリィは念を押すかのように。


「優勝が出来なくても?」


「うん、やれるだけやってみて。心残りがなかったら」


しっかりとした気持であるのが分かると安堵した表情となる。


「ふむ。良い心がけね。力一杯がんばりなさいな」


微笑んで妹を応援したのだったが。


「でもねぇリィンタルト。

 今回の大会ではオートパイロットが主流だと聞いたわよ?」


今迄通り闘っても、機械が全てを操る人形相手では分が悪いのではと訊ねて来た。


「こちらもフルオート機能を載せてみたら?」


「・・・駄目」


俯いたリィンが即答で拒否る。


「え?!どうしてなのよ」


「可哀想だから・・・人形達が」


顔を上げるリィンが少女人形を観ると。


ゼロもだけど。

 闘う相手にも悪いじゃない。

 機械で操るだけじゃ、心も魂も通っていないじゃない」


人形を友達だと言い切っているリィンらしい一言で返す。


「きっと、人形には魂が籠っているの。

 操手ドライバーの気持ちや心ってモノが・・・」


基礎台に固定された<ゼロ>に歩み寄って。


「ねぇ・・・零」


瞬きもしない人形の瞳を見詰めて言うのだった。


「そう・・・分ったわ。頑張るのよリィンタルト」


妹の決意を汲んだユーリィはそれ以上何も言わずに研究室を後にする。


「さぁ・・・今度が最後になるかもよレィ」


ゼロ>をレイと呼ぶリィン。

その途端、デスクに向かっていたヴァルボアが飛び跳ねる。


「ななな?!今ナント?」


振り向く顔には驚愕の色が。


「え?いやなにね。日本語ではゼロは<レイ>って言うんでしょ?」


でもリィンは特段気にもかけなかったようで。


「レィちゃんの生まれ故郷の言葉で呼んでみたんだけど?

 一緒に闘ってるみたいで気にいったんだけど、変かな?」


肩をすくめてお道化て来た。


「ああああッ!そ、そ、そうなのじゃな」


思いっきり動揺し、言葉がおかしくなるヴァルボア博士。


「?変な教授」


慌てて動揺を隠す為にリィンへ背を向けるヴァルボアに、リィンは怪訝な顔になったが。


「良いでしょ<ゼロ>。今回からレイって呼んだって」


心の中に住んでいる人と一緒に居たいだけのリィンが求める。


「レィちゃんには、一度ぐらい観に来て貰いたかったんだけどね」


人形の顔を見詰めるマリンブルーの瞳に、薄っすらと涙を湛えて。


「だから・・・一緒だって。闘うのなら一緒にって」


そっと少女人形の身体に触れる・・・


と?!



「だぁあああああッ!」


飛び退いてから背を向けているヴァルボアへ蹴りをおみまいする。


 

 ドゴッ!



「ぎゃふんッ?!」


リィン必殺の蹴りを喰らったヴァルボアが、恐怖と混乱で取り乱したかのように。


「な、何をするんじゃ?!」


引き攣った顔をリィンへと向ける。


「何をじゃないわよ!この変態教授!!」


一方のリィンはと言うと。


「どうしておっぱいが大きくなってる訳?

 どぉ~してなのか、訳をおっしゃいッ!」


吊り上がった眼で威嚇して来るのですけど・・・


「い、いや。他意はござらん!」


「意図も無く大きくしたのね!」


いやはや・・・なんとまぁ。

火に油を注いじゃいました?


シャ~シャ~と威嚇するリィンが手をブルンブルン振って殴ろうとするのを。


「待つんじゃリィンタルト嬢?!

 これには訳が・・・・あ」


「あるのなら、早く仰い!!」


身を捩って逃れようとしたヴァルボアだったが、つい口が滑ってしまった。


「なぁ~ん~でぇ~なぁ~のぉ~かぁ~なぁ~?」


怒りモードのリィンが覆い被さるように迫る。


「そ、それはじゃ・・・」


「そぉ~れぇ~わぁ~?」


引き攣るヴァルボアの顔に大きな脂汗が。

ちらりと零を観やった後。


「麗美君はあれくらいの大きさではなかったのかと・・・」


「ニャに?!レィちゃんの?」


ピクンとリィンが固まる。


「そ、そうじゃ。折角じゃから似せてみようかと思うてのぅ」


「似せて・・・・」


眉間に皺を寄せるリィン。


「気を効かせてやったんじゃぞ。どうじゃ少しは似て来たじゃろうが」


開き直ったのか、ヴァルボアが言わなくてもいい一言を。


「うん・・・そうだねぇ~・・・なんて言うか!この変態教授がぁ!」



 めきょ・・・



撲殺の勢いで拳骨がヒット!

哀れヴァルボアは打ち倒された。



 ・・・ピ(笑)・・・



ヴァルボア教授が観ていたモニターに、一つのウインドウが立っていた。

二人の拳骨漫才を誰かが観ていたのか、笑うかのように文字が躍っている。


そして重なったウインドウ下に映し出されているのは・・・



少女人形とリンクしている<彼女>の3Dグラフィックだったのだが。



「まったくぅ~!レィちゃんが知ったら怒るんだからね」


腕を組んで倒れた教授を見下ろしていたリィンは、気が付かないようだ。

世界中の人形マニアが集う大会へ、今年も出場するというリィン。

もちろん、ペアを組むのは少女人形レイなのだが?


大会は開催され、順調に消化されていく。

本選に出場するのが決まっていたリィン達だったが・・・


次回 Act23 強敵は少女人形

阻むのは同じく少女型の人形だったのだが?何かが起こりそうだ?!

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