ACT10 異種たる者の終焉
邪悪なる者イシュタル・ゴードム。
悪あがきをみせる魔女に神罰が下される。
人の理を司る女神に拠り、闇は祓われるのか?
偽装された巨大な身体は、機械の塊に過ぎない。
忌まわしい獣の偉容は、本当の姿を隠すための物でしかない。
巨神兵と呼ばれた機械獣は、戦闘の為だけに生み出された過去の遺物でしかないのだ。
世界の裏側に在る精神世界で甦りかけた、単なるロボット兵器にしか過ぎなかった。
蘇りかけた・・・そう。
イシュタル・ゴードムが焦りさえしなければ、完全なる再生を遂げられただろう。
邪悪なるイシュタルの魔女が完全に再生するまで待てば、強大なる戦闘力を発揮できた筈だったが。
焦った結果、80パーセントの稼働力で現世に出て来てしまったのは、迂闊としか言えないだろう。
外観だけは完全に再生出来ていたかもしれないが、内部の装置は完璧では無かった。
肝心要の測距装置も、連動する攻撃兵器も調整が未完だったのだから。
もし、イシュタル・ゴードムが完全に復活させた後で現界させたのなら、女神等も簡単には滅ぼせなかったのかも知れなかった。
そして。邪悪なる魔女イシュタルは、自ら墓穴を掘る・・・
翠の戦女神が砲火を潜り抜け、次の攻撃に備えた。
「ミハルの事やし、一撃で倒す気やろ。
その後が・・・ウチ等の出番やさかいにな」
戦女神のホマレが言い聞かせるように呟く。
「「伯母さん?出番って?」」
翠のイヤリングに宿らされているミミが訊き質した。
「そうやで、姪っ子。
大切な友を取り戻さなアカンやろ?」
「「あ?!やっとハナちゃんを助けられるん?」」
戦女神は頷くと、
「理の女神が仕掛ける。
間髪入れずに奪い返すんやで、いいな姪っ子」
その瞬間が迫ったのを教えたのだった。
「任せたで、ミハル」
黄金に染まる女神のミハルを視界に捉えて、
「チャンスは逃さへんさかいにな!」
身構えるのを怠らなかった。
シュオオオオオォ~~~~
聖なる魔力で闇を討つ。
手にした戦槍に輝が満ちて。
「一発で終わりにしてあげる・・・攻撃始め!」
槍の先に魔法陣が形成される。
「目標捕捉!魔法集束波動砲・・・
発射・・・撃ッ!」
魔法の戦槍に付属したトリガーを引き絞る。
キュゥウウウウ~ンッ!
槍基部の発射口に設えられたシャッターが開かれ、4つ又の穂先からプラズマが迸る。
「撃ぇええええぇッ!」
蒼いプラズマが、輝弾を制御を解除する。
ド! ズッドォオオオオオオオッ!!
女神の魔力を元に、強烈な光の奔流が出現した。
向かうは巨神兵の開かれたままの大顎の中。
光線砲を放った喉の奥へと向けて・・・
ギュオオオオォッ!
蒼と金色の礫を撒き散らし、女神の一撃は目標へと突き進んだ。
ちょこまかと飛び逃げる戦女神を追いかけていた視界の隅に、強大な光が現れた。
「なッ?!なんだとぉッ!」
攻撃を受けて怒りに我を忘れたイシュタル・ゴードムが驚愕の叫びをあげた。
「応射するんだ!」
頭部は前方の女神に向けたままだった。
応射するには大顎からの主砲発射しか道は無い。
だが、一度発射すればエネルギーを貯めなければならないことを失念していたようだ。
「「現状出力では発射不能」」
巨神兵のコンピューターからの答えにゴードムは蒼白になる・・・暇さえも無かった。
「馬鹿な・・・」
強制的に発射を目論む事さえも、徒労に終わる。
何故なら・・・
「間に合わない」
攻撃を魔法障壁で完璧なまでに防いだ女神。
その強力なる魔法力で、今度は攻撃に転じて来たのだ。
「勝てる訳も無かった・・・」
単なる戦女神クラスであったのなら、まだ勝てる見込みがあったのか。
「目の前に居るのは、理を司る者だったのだから」
太陽神でもあり、最上位の魔力を誇る者。
しかも、前終末戦争で巨悪に勝った女神が撃って来たのだ。
「滅びは甘んじて受けねばなるまい・・・」
最早、勝利を捨てたイシュタル・ゴードムが最期に溢すのは。
「だが。最期の勝利は我等の物なのだ!」
巨悪として現界し、人間達に恐怖を与えられたと確信して。
「我等の意志は<無>の拡散なり!」
この世界のどこかに居る、創造主へと見せつけられたと思い上がって。
「我が滅んでも、代わりは直ぐにやって来るのだ!」
星の中に潜むイシュタルが、他にも居ると仄めかし。
「彼の国でも、次なる手が講じられているのだからな!」
日ノ本以外の国でも、悪意に染まった計略が進んでいるのだと明かしたのだ。
自らの言葉が、女神の許へと届いているとも知らずに。
キュド!
突き刺さる輝弾。
ジュドッ!
光に溶かされる金属。
ドドドドドッ!
輝弾は大顎の中へと跳び込み、巨神兵の最大攻撃力を誇ったレーザー砲を無力化していく。
開口部の砲口を溶解させ、続けて砲身部も、砲の基部自体もを消し去っていった。
女神が狙ったように、戦闘力全てを奪い去りながら。
「「動力喪失。戦闘不能・・・自爆装置も作動不能」」
巨神兵の全ての電力が奪い去られ、最期の足掻きまでもが封じられていく。
「お、おのれぇ!女神共めがぁッ!」
現界した本当の目的。
人類に邪悪なる存在を示し、あわよくば創造主に破滅を齎さんとした目論見も潰え去ろうとしていた。
「斯くなる上は・・・我の異能を以って・・・・」
女神級の異能を授かっているハナの身体を以って、
「巨神兵諸共に爆散してやるまでだ!」
巨神兵自体を爆薬に替え、自爆して果てようと。
ボスッ・・・グシュッ・・・ズズンッ・・・
輝弾に拠って溶かされた巨神兵内部には、まだ火砲の残弾が燻ぶり続けていた。
防御火器の一部は戦女神に潰されてはいたが、残っている弾で巨神兵を粉々にするには十分過ぎた。
「この娘の異能を導火線にして、残弾に火を点けてやる」
自爆装置が機能しなくなった巨神兵を、巨大な火薬庫に替える方法。
残弾を連鎖爆発させ得れば、辺り一面を火の海にする事も出来よう。
「我を以って、終焉の狼煙とするのだ!」
自爆を以って勝利へと導く。
イシュタル・ゴードムは自己の考えにのめり込んだ。
強力な女神には勝てずとも、最終的には目的を果せられるだろうと多寡を括って。
「それには先ず、この躰から抜け出さねばならん」
巨神兵の額部に半身を埋め込んでいる肉体を解除し、
「開口部から内部に入り込まねば・・・有効な爆発を得られない」
ハナの持つ魔法力を内部で解放しなければならないと。
「巨神兵の動きが停まったのを、滅びと思い込んでいるであろう女神の隙を突かねば」
思惑を行動に移すのは、今しかないとイシュタル・ゴードムは焦った。
「女神に気付かれる前に・・・」
額から抜け出て、大顎の中へと跳び込もうとした・・・
ピカッ!
僅かな隙を突かんとしたイシュタル・ゴードムの視界に、輝が瞬くのが跳び込んだ。
「な・・・に?!」
その次の一瞬。
ドゴッ!ドスンッ!ズゴッ!バギャッ!
4本の光の矢が、イシュタル・ゴードムが宿るハナの周りへと突き立ったのだ。
巨神兵の顏に。
宿ったハナの身体を動けなくするかのように。
「馬鹿な?!娘に当てる気だったのかッ?」
自らが邪悪なる者だと言うのも忘れて、イシュタル・ゴードムは狼狽えた。
聖なる女神ならば、虜にした娘には手出ししないだろうと踏んでいたようだが。
「娘諸共に始末する気なのか?」
狼狽えた邪悪の権化が言い募ろうとした・・・時。
「貰ろぅたぁ~!」
輝の矢が残した残光の中から、戦女神が突っ込んで来たのだ。
「喰らえやぁッ!」
しかし、その手には魔鋼の機関砲は握られてはいない。
いつの間にか、魔拳少女の手袋を填めている状態で突っかかって来たのだ。
「ごめんなぁッ!ハナちゃん」
その表情に浮かんでいたのは、友を救おうと必死な・・・ミミの顔へと変わっていた。
「後でぶん殴っても良いから・・・堪えてぇーなぁッ!」
その右手に籠めた女神級の魔力を全開にして。
「なぁーくるぅ~ぱぁーんっちぃッ!」
魔拳少女ミミが、全力全開の魔法力で放つのは。
「還せッ!あたぃの親友・・・ハナちゃんをぅ!!」
友を取り戻さんと願う、愛の拳!
ズッドォンッ!
めり込む拳。解き放たれた女神の異能。
「ギャッ!」
漏れる悪意の声。
「グハッ!」
吐き出される邪悪なる意志。
「今やで!ミハル」
瞬時に声色が戦女神に代わり、
「トドメは理を司る者の仕事や!」
背後へと向けて叫んだ!
「了解!」
・・・と、女神の声はいつの間にか直ぐ傍で。
「邪悪なる者よ、成敗してあげるからね!」
戦女神が飛び退くと、理の女神が右手の槍を突き出して。
「ここまで寄られたら、避けれないでしょ?
覚悟は完了してるわよね、イシュタルの民」
女神ミハルの声が宿っている蒼き石本体から零れ出る。
「そして最期に言っておくわゴードム。
如何なる世にだって希望は居るのだと。
暗黒が支配しようとしても、必ず光が現れるのだと。
<無>を求めても無駄だって事も・・・知りなさい」
魔拳少女の一撃で、ハナの肉体から引き剥がされたイシュタル・ゴードムの意志体へ。
「あなた達が諦めないのなら、私達も諦めない。
世界を本当の姿へ戻す為に、女神は闘い続けるの。
あの子と交わした約束を果たす為にも・・・ね!」
蒼き魔法の石から、極大殲滅波が噴き出す。
「悪しき者よ、この星から手を退きなさい!」
避ける事も叶わない至近距離で、女神の粛清魔法が放たれた。
ボワッ!
金色の光が暗黒の意識体を消す。
「グゥワアアアァッ」
邪悪なる意識体が、聖なる女神に依って滅びを与えられる。
シュゥウウウウウ~~~~~~
邪悪は光に溶かされ、意志体を形成していた悪意を消す。
人の世に蔓延った、悪意も共に。
スゥ・・・
ハナに宿っていたイシュタル・ゴードムが消えた後、憑代にされていたハナの身体から力が消えた。
倒れ込む身体を、戦女神が抱えて。
「御苦労やったな、ミハル」
「ううん、ホーさんこそ」
ホマレとミハルが笑って交わす。
「そんじゃぁ、後は姪っ子達に任すとすっか?」
「だよね~。良いかな、コハルちゃん?」
まだ、ラストが残されているとばかりに女神達が教えるのは。
「現役の女神であるコハルちゃんの出番でしょ?ここからは」
理の女神ミハルが蒼き石へと引き上げる前に教えるのは。
「姪っ子美晴には、少々荷が重いから。
ここはビシッと女神らしい技を見せて貰いたいわね」
傍らの戦女神も頷きながら。
「こっちの姪っ子だって、預けられただけの異能しかないんやしな」
人でしかないミミには無理だからと言付けて。
「友を救おうとする気高き想いに、報いてやってぇ~な」
ニコッと微笑んで、若き女神へと頼むのであった。
シュルンッ!
蒼き石が光る。翠のイヤリングが輝いた。
「もぅ!女神扱いが荒いんだから」
金髪の女神が愚痴を溢す。
「でも・・・お父様やお母様も、やり遂げて来たんだもんね」
女神の異能でデバイスロッドを現界させて、
「美晴だって・・・いつかは出来るようになれるんだよ」
もう一人の娘へと注釈をいれると。
「だって・・・彼女はもう一人の美晴だから」
デバイスロッドを魔砲器へと代えて。
「この娘の魂を、この躰へと戻して!」
魔戒のある方角へと向けるや否や。
「輪廻転生を。
失われし魂をあるべき場所へ!」
2年前には魔王として君臨していた魔界へと向けて女神の魔力を撃ち放った。
ビシャッ!
コハルが撃ち出した輝は、願いを呼び戻す異能と化した・・・
まだ。
友を救おうとするミミの戦いが残っているようだ。
女神ミハルと戦女神ホマレによって、イシュタル・ゴードムは潰えた。
だが、魂を喰われたハナを取り戻すべく女神コハルは秘術を放つのだった。
2年前まで友と暮らしていた異界へと・・・
次回 ACT11 魔王(兄)と女神(妹)
もう一人の美晴と共に有り続けんとした新たなる魔王。
彼の許へ女神の意思体が飛んでくる。
今迄伏せられ続けてきた間柄とも知らずに・・・




