ACT 9 魔力解放攻撃開始!
イシュタルの民、ゴードムが吼える。
蘇りし女神に対峙して。
そして蘇った女神は邪悪に戦槍を突きつける。
再び始まる戦いの序曲だと分かっていても・・・
黒い翳りを纏う巨体。
獣の容を採る巨神兵が、現実世界に繰り出して来た。
「うわぁーはっはっはっ!観るが良い人間共よ。
これこそが虚無への始り、今からが終焉の訪れなのだ!」
巨神兵の額部に収まったイシュタル・ゴードムが吠える。
「この世界には邪悪が存在し、世の終わりを求めているのだ」
自らの存在を誇示し、自らの目的を果たさんとして。
「我が手に拠り、煉獄の劫火を撒き散らしてやろうぞ!」
そして、巨神兵に命じるのだ。
「先ずは、この国を滅ぼしてやる。
都市を悉く灰燼に帰して、人間共を残らず駆除してやるまでだ。
破滅の光で薙ぎ払え!」
旧世界でインドラの雷と呼ばれた破滅の光を放てと。
邪悪なる魔の光で、人間の世界に鉄槌を下せと言い放ったのだ。
<ごあぁぁぁぁぁッ>
開かれていく大顎。
その喉奥に設えられてある大口径の光線砲に、火が燈った。
キュウウウウウゥンッ
咥内へ、濁流の如く空気中の水素が流れ込み。
ギュルルルルッ
砲口閉塞弁が開かれて行く。
「初弾は・・・あの邪魔な女神に喰らわせてやろう」
目標を空中に浮かんでいる白き魔法衣姿の女神に絞り。
「巨神兵よ!女神を血祭りにしろ!」
攻撃の火ぶたを切った。
ギュルルルルッ
巨神兵が空中に浮かんでいる女神へと嘲るように嗤った・・・
「思惑通り・・・な、展開になったね」
翳った月を背後に廻して、空中に揺蕩う女神のミハル。
「初弾から地上へと撃ち込まれたらヤバかったんだけど。
こっちが願った通りに撃って来てくれそうね」
手に携えた戦槍を構えてから。
「そちらがそう来るのなら・・・こっちは」
ガシャンッ!
槍の基部に設えられてある装填棒を牽いて、魔法弾を発射位置まで籠めた。
「驚かせてあげるから。
理を司る女神の異能が、どれ位の物かってね」
地上で顎を開け放った敵に向けてと、言うよりは自分等を観ているだろう者への意味合いを込めて。
「これ位の相手に、最上位の女神がどうにか出来るなんて思わないでよね」
呟くミハルの眼が、翠の魔法衣を捉えて。
「準備は・・・整ったようね。
だったら・・・戦闘開始だよね」
戦槍の安全装置を指先で解除した。
イシュタル・ゴードムが吠える。
「撃てぇッ」
ドギュルルルルッ!
その途端、巨神兵が主砲を放った。
大顎から放たれる紅い閃光。
邪悪に満ちた光の奔流が、空中の水分を蒸発させながら天空へと伸びて行く。
対する女神は。
「超魔絶障壁!」
カートリッヂを籠めていた戦槍からの一撃で応じた。
魔法力で金色の魔法陣を展開して、襲い来る光を受け止める。
ドガッ!
光の濁流が魔法障壁にぶち当たる。
極大魔法陣と紅い光が鬩ぎ合う・・・かと思えたのだが。
ギャインッ!
巨神兵の放った光の濁流が、極大魔法陣にあっさりと弾き返されてしまった。
まるで小口径の弾が、分厚い装甲板に負けて弾き返されるように。
ドォオオオオォッ!
弾き返された光が数十本にも枝分かれして、女神の後方辺りを薙いで行った。
辺りを覆った翳りを吹き飛ばして。
サァ~~~~
翳りが薙ぎ飛ばされた後、女神の背後には。
「月よ、穢れ無き月の光よ。
見せてあげて。
あなた達にも・・・あの子等にも。
私が復活したのが分かるでしょうから」
穢れ無き白の魔法衣を纏った女神の姿が、月明かりを背景に浮かび上がっている。
「この世界に再び邪悪なる者の手が迫るのなら。
聖なる者も再び立ち上がる。
人の理を司る者として、私は蘇ったの」
戦槍を天へと翳し、時を越えて舞い戻って来た女神が空に舞っている。
「そして・・・ね。
今度こそ、全てを終わらせたいんだ。
人が求め続ける希望を手にしたいから」
蒼き髪。
清浄なる蒼き瞳。
誇り高い聖なる魔法衣を纏った・・・女神ミハルがそこに居た。
「「あれは・・・誰なノラ?」」
「「ミハルさん・・・じゃぁないよね?」」
モニターを見詰める二人の魔法少女が聴き合う。
「特異点は魔物ではありません。邪操の者とは反応が違い過ぎます」
オペレーターが観測した反応を報じて来る。
「あれは・・・あれが?」
太井女史が傍らの司令官に訊き質した。
「見知っておられるのでしょう?ルマ司令ならば」
軍帽を深々と被っているルマへと、答えを促すのだ。
「知らぬ訳がない。
忘れる筈もない。
喩え今の私の姿が分からずとも、あれが誰か位は言い当てられる」
太井女史の眼に、軍帽が小刻みに震えているのが映った。
「やはり・・・戻って来られたのですね。
美雪副隊長の娘が。蘇ったのですね彼女が」
最大望遠でモニターに映し出された月を背景に、その姿が眼に焼き付く。
「ええ。あれは・・・あの人こそが。
いいえ、そこに居るのは・・・間違いなく」
事件を知った報道各社が緊急放送を流していた。
報道カメラが捉える異変に、街中が釘付けになっている。
巨神兵を映し出すテレビ画面に、人々は恐怖を募らせていたのだが。
「始まったようね・・・再び」
明かりを消した室内で、テレビに向き合っている美雪が溢した。
その胸には、しっかりと抱き締められている遺影がある。
「だから・・・還って来たのよね・・・」
遺影を力の限り抱いて、画面の端に映る者を観ていた。
「お帰り・・・永かったわ。
あなたと別れてからというもの、きっとこの日が来ると信じていたのよ」
白き魔法衣を纏った娘の姿を。
「お帰りなさい・・・愛しい我が娘・・・」
バラッバラッバラッ!
頭上で旋回するローター音が、一頻り大きくなる。
「班長!燃料が足りません」
コ・パイロットが窮状を訴えるのも無視して。
「急いでくれ!どうしてもポイントまで辿り着かなきゃいけないんだ」
操縦席までのめり出して来た島田1佐が頼んでいる。
「分かってまさぁ!
喩え燃料が尽きたって飛んでみせますぜ勇者マモル」
嘗ての大戦に従軍したメイン・パイロットが応じた。
「月明かりの中には・・・あの娘が居るんでしょう?」
年嵩の主パイロットに促されたマモルが大きく頷く。
「ああ!見間違う筈が無いだろ。
だって彼女は。
モニターに映っている人は・・・俺の姉さんなんだからな」
報道を映し出すモニターに、食い入るように目を凝らして。
「天使長ミハエルさんが予言したのが、本当になったんだ。
美晴が17になったら、帰って来るって言っていたんだ」
だから・・・今。
それが本当だと信じていた親爺であるマコトが間に合うようにと飛ばしたヘリで。
「俺は・・・その場へ行かなきゃいけないんだ。
行って・・・呼んでやらなきゃいけないんだよ」
グッと息を呑んで、待ち続けて来た人の名を叫ぶ。
真盛も美雪もルマも・・・皆が皆。声を揃えるように。
「「ミ ハ ル」」 と。
嘗て、一度は世界を救ってくれた女神の名を呼んだ。
初弾は物の見事に無駄弾と潰えた。
「お・・・おのれぇええええぇ!」
唯の一撃で滅ぼせると思い上がっていたイシュタル・ゴードムが吠える。
「次は、出力全開で撃ってやる!」
80パーセントの威力で事足りると踏んでいただけに、余計に驚きが隠せなかった。
巨神兵の主武装であるインドラの雷が、あっけなく徒労に終わったのを認める訳にはならず。
「今のは、こちらが舐めていたのが失敗だっただけだ。
次は、総力を挙げて攻撃してやれば良いのだ」
巨神兵には副武装として、指先に仕込まれたメーザー砲がある。
それも併用して、全力で撃てば勝機は転がり込むと考えていた。
「主砲を弾かれても、10本のメーザーからは逃れきれまい。
なにせ此処は現実世界、精神世界とは違って肉体を切り刻む事が出来るのだからな」
光線砲であるメーザーに拠って、女神の身体へ攻撃を行おうとしているのだ。
「いくら女神と呼ばれる者だとても、光の速さを超えられる筈もないのだからな」
迎撃されるとは考えていないのか、それとも光線砲の威力を過大視しているのか。
「今度こそ・・・滅ぶが良い」
それに、女神が一柱だけだと思い込んでいるようだ。
「あのなぁ、ウチの事を忘れとりはせぇへんか?」
全くの不意に。
間近からの声が・・・
「なッ?!」
声の聴こえた方へと視線を巡らす暇も無かっただろう。
ドシュンッ!
真横からの一撃が、巨神兵の左目を射貫いた。
「がぁッ?!」
普通の銃砲弾だったのなら、巨神兵のカメラまでは破壊出来なかっただろうが。
バチバチバチッ!
左の眼に仕込まれてあった観測装置が破壊されてしまった。
「言わへんかったけか?ウチの撃つ弾は魔鋼弾やってな」
通常弾の数倍もの威力を誇る魔法の弾。
しかも撃ったのは戦女神のホマレだったのだから堪ったものではない。
「糞ぉっ!忘れていた」
もう一柱女神が居たのも、武器が魔法の銃砲だったのも。
「糞がぁッ!」
左の視界を潰されて、怒り狂うイシュタル・ゴードム。
「対空防御ッ!」
身体に仕込まれてある小火器に迎撃を命じ、ホマレに応じるのだが。
「遅いで!これも喰らっておきぃーな」
左側頭部へ狙いを着けていたホマレの指先がトリガーを引く。
ドムッ!
25ミリの魔鋼弾が音波兵器を司っていた耳に飛びこんで。
ガガンッ!
左側の電探を無効化したのだ。
「おのれ!おのれ!おのれぇッ!」
左側の機器を喪失してしまったイシュタル・ゴードムが狂ったようにホマレへと応射させたのだが。
「後の祭りや!のろまな亀さん」
空中を飛び退くホマレには、全くの無駄弾にしかならなかった。
「糞ぅッ!糞がぁッ!」
戦女神の機動力に、砲火が追いつけず。
「先にこいつからやっつけてやるッ!」
怒りの矛先をホマレへと向け直してしまった。
対空砲火の軸線を眺め降ろして。
「やっぱりホーさんだけはあるね。
空対地の利点を最大に発揮してるんだから」
地上の目標を空から痛撃するホマレの攻撃法に、ミハルは納得顔で頷いてから。
「じゃぁ私は。
一気にケリをつけてあげる方が良いかな?」
巨神兵を打ち破る攻撃法。
「どうせ、イシュタル・ゴードムのことだから。
邪悪の最期の足掻きってのも、見越しておかないとね」
後腐れなく、倒して見せれるのか?
「一撃でやっつけなきゃ。
自爆されちゃぁ堪んないもんね~」
なまじ情けをかけると、しっぺ返しが来ると読んで。
「あの巨体が爆発でもすれば、この辺り一帯が消し飛ぶ事にもなりかねないから。
それに、ホーさんの頼みを聴き遂げられなくなっちゃうからね」
戦槍へと神力を注ぎ込み始める。
「全弾装填。
出力全開。
魔鋼波動機構稼働始め!」
ガシュッ!
金色の矛先が四方に分割される。
「目標、砲口の開口部。
ターゲット・ロックオン!」
今迄槍状だった戦槍の柄部分から、射撃ハンドルが持ち上がって。
「メインクロスゲージ、明度80。
耐ショック、耐閃光防御・・・」
握られたハンドルにトリガーが起き上がって。
狙いを絞るミハルの眼前に照準器が投影された。
「魔鋼弾数は5個を使用する。
貫徹能力は500ミリ。溶解能力は50メートルとする」
発射される魔砲弾の能力値は、巨神兵の体長を凌ぐ位に調節された。
「魔砲により、敵の無力化を図る。
イシュタル・ゴードムを完全には滅ぼさず、巨神兵だけを殲滅する」
ターゲットスコープに、巨神兵の顎を捉えて。
「私の狙い・・・分かったかな?」
観ているであろう者へと注釈を加えて。
「残りの1発で。
イシュタル・ゴードムを封じてみせるからね」
カートリッヂは6発が籠められてある。
その内5発で巨神兵を倒し、残った弾で何かをやると言ったのだが。
「よぉ~く、観ておきなさい。ひよっこ共!」
照準を絞り、姪っ子達へと達示てから。
「攻撃開始!
照準宜し・・・撃ッ!」
トリガーを引き絞った。
強大なる女神の異能。
巨神兵からの一撃を難なく防いだ。
そして彼女は戦闘の主導権を握るのだった。
次回 ACT10 異種たる者の終焉
異界からの侵略者イシュタル・ゴードムは、理の女神の前で最期の咆哮を挙げるのだが?




