ACT 6 宜しい。戦いを教育してあげよう
誇美と美晴の代わりに矢面に立った女神。
理を司る者として戦いに備える美春。
その姿は古の戦女神にも思えて・・・
23年の時を越え、今に蘇った女神の姿。
1000年の時空を越えて、此処に還って来た少女。
人へ理を授け、人に理を齎すとされた女神。
そして、幾多の闘いに明け暮れた戦女神として。
再び邪悪の前に現れた。
ビュウウオオオォッ!
暗黒の風が吹き荒れる。
否、邪気が渦を巻いて一塊になっていくのだ。
グゴゴゴゴ・・・
邪悪な意識が集い、邪なる体躯を形成していく。
世界を滅ぼすと言われる巨神兵の一部となっていくのだ。
「あと僅かで・・・巨神兵が人間共の前に姿を現せるのだ」
身体を半ば迄も巨神兵に埋め込み、禍々しき巨体の一部と化したイシュタル・ゴードム。
「その時こそが、我等の存在を知らしめることと成るのだ」
異世界から地上へと舞い降り、地上の全てを灰燼に化そうとする魔女。
本来の目的は、繰り返される創造の名の許、改変機械<ケラウノス>の発動だった。
だが、目的を果たすには女神の存在が邪魔だった。
聖なる女神に依り計画が邪魔されるのを懼れ、女神の異能を持つ者を事前に消去、若しくは喰らってしまおうと画策していたのだ。
現界する為に必要な最低限の生贄を求め、後には敵である女神達を駆逐して行こうと考えていたらしい。
手始めの生贄は本来の標的であった美晴ではなく、突如現れた二人の異能者の内の一人に変更した。
組みしやすく御しやすいと判断したからでもあったが、より高位の魔法少女である美晴を然る後に捕えれば良いとの考えに替えた結果でもあった。
それが間違いであったと気が付いたのは、本当の女神が関与していると知った後だった。
小娘女神コハルから得た情報に拠れば、世界の改変が前回不完全に終わった理由がそこにあった。
異種たる者に対峙する、本当の女神の存在。
宇宙に亙る諸悪の根源種でもあるイシュタルに対して、始原の神でもある太陽神は。
遍く星々の和を尊び、遍く絆を貴ぶ・・・聖なる種でもあるのだ。
斯くて宇宙銀河の平和を乱す異形種は暗黒を求め、和を重んじる神々(エール)は光を齎す。
全宇宙を跨ぎ、二つの勢力は凌ぎ合う結果と成った。
<無>を蔓延らすブラックホールを造るイシュタルと、<絆>を齎す星々の連携を募るエールとの闘いは、いつ果てるともなく続けられて来た。
そして今、イシュタルの魔手は地球へと触手を伸ばしていたのだった・・・
「世界に再び混沌を振り撒く。
人間共が自ら招いた闇が、再び殲滅の劫火となって襲い掛かるのだ」
巨神兵が破滅の雷を放つのならば。
旧世界で巨神兵が振り撒いた殲滅の光に依って。
「我が勝てば地上は終焉を迎える。
だがもしも、女神共が我に勝ったのならば・・・」
イシュタル・ゴードムが勝てば、世界に終わりがやって来てしまう。しかし、聖なる女神が勝利を収めることが出来たのならば。
「我が滅んだとしても、女神共に本当の勝利などは来ない。
何故ならば、我が失敗しても同志達は既に・・・動き始めたのだからな」
嘗ての終末戦争が教えていた。
一度は破滅を回避出来た世界だが、異種たる者は滅び去った訳では無かったのだと。
此処に、イシュタル・ゴドームが存在しているように。
悪意の意志体は、まだ他にも存在していると知らしめているのだ。
「いずれ、この星は消滅の日を迎えよう。
その時こそが、我の宿願が果たされるのだ」
魔女が滅んだとしても代わりが居るのだと・・・諸悪の根源は嘯いた。
赤黒い巨体が震え始めた。
それが意味しているのは、最早幾許の猶予も無いと知らせているに等しかった。
「そう。そこで観ていてね姪っ子」
背後に居る意志体となった美晴に言付けた。
「ここからは、戦争を知っている者の闘い方になるから」
平和を享受して来た世代である美晴には荷が重いとも。
「それに。
私が砲手として戦塵に塗れて来たのも、教えてあげるから」
魔砲の戦闘。魔法力の使い方も千差万別あるのだと。
「あなたもよ、春神。
ルシちゃんから聞いていたかも知れないけどね」
理の女神ミハルが、胸のブーケットへ手を充てて言った。
「あなたは此処から観ておきなさい。
戦女神を名乗るのであれば。
私と同じ位にまでは、魔力を使えるようにならなければならないのよ」
太陽神の象徴徽章には、春神の象徴が仕舞われていた。
姿を借りたミハルの中に、今はコハルが隠されている。
「「はい、お父様から少しばかり聞き及んでいます。
ミハル伯母様が目覚められるのを、心から願っていましたもの」」
素直なコハルは経験も位も上の伯母に、任せてみようと従った。
「そっか。ルシちゃんも待っててくれたんだね。
随分と遅くなった気がするけど・・・
その間、いろいろとお世話になっていたみたいだよね」
「「いいえ、御世話だなんて。
父が聴いたら怒りますよ、ミハル伯母様」」
何気ない会話に聞こえるが、女神同士が交わし合えば、それ自体が記憶の融合ともなる。
つまり、ミハルの記憶をコハルが求めれば。
「「あわわッ?!伯母様って・・・損な?」」
幾多の戦場を駆け巡った記憶が流れ込み。
「「うわッ?うわ、うわわッ?」」
1000年もの時の流れに身を任せて来た歴史に驚嘆して。
「「シクシク・・・シクシク・・・」」
想像を絶した苦難に涙した。
「・・・ちょっと。プライバシーの侵害に当たるんですけど?」
勝手に求めて来て、勝手に泣きじゃくったコハルに呆れて。
「今は私のことよりも、戦いに集中しなさい。分かった?」
「「はいぃ~~~ぃ」」
忠告とも訓戒とも採れる一言を与えて。
「先ずは奴の出方を観て見るわよ」
早速にも戦闘に突入すると言って聞かせた。
「「わっかりましたぁ~」」
泣き止んだコハルが、了解を返すと。
「じゃ・・・往くわよ!」
手にした槍を構え直すと、
ドシュンッ!
目も眩む程の速さで巨神兵目掛けて突っ込んでいく。
「「ひゃわわわぁっ?!」」
コハルでも目を廻す程のスピード。
「「いひぃいいいぃッ?!」」
戦女神を名乗る女神だとしても目が眩みそうになる程の魔力。
ビィシュッ!
瞬く間に巨神兵の間近まで接近を果す。
・・・が。
ドゴゴゴゴッ!
「「?!え?」」
爆音が耳を貫いた。
てっきり高速力の衝撃波かと思ったのだが。
ゴゴォンッ!
背後から爆発衝撃波が襲って来る。
「撃って来たのよ、奴がね」
理の女神が教えてくれた。
衝撃波が造られた理由を。
猛烈な弾幕が拡がっていた・・・かなり後方で。
「「え?え?!いつの間に?」」
コハルが気が付かない間に?
戦女神モードでも分からない間に撃って来ていた?
「姪っ子が私の記憶を覗いていた時。
ほんの僅かな隙を見せた一瞬を見逃さなかったのよ、奴が」
「「え?!あの僅かな時間を?」」
ひやりと汗が噴き出す。
もしも自分だったとしたら、敵弾に気が付いた時には避けれなかったかもしれないと。
「いいかな姪っ子?
戦場では一瞬たりとも気を抜いてはいけないの」
「「は、はい!」」
天界で修業を熟してはきたコハルだったが、本物の戦場を経験してきたのでは無かった。
「覚えておきなさい、これが戦闘の基本。
気を抜けば、女神であろうとも痛撃を喰らうんだってね」
「「はいッ!」」
巨神兵からの攻撃を、モノの見事に回避したミハルという女神に。
未熟な戦女神が教えを授かった。
「回避が出来たのなら、次の攻撃に備える。
それから敵の攻撃方法を見極め、対処法を確立させるの」
「「い、イエッサ~!」」
次々に闘い方を教わるが、コハルとしては聴くだけで精一杯。
とても理解して行動できる筈も無かった。
「と。こんな処かな?
戦闘の基本中の基本だけど、難しいかな姪っ子には」
「「ひぃぃい~ん、難し過ぎますよぉ」」
今迄対峙して来た相手が、モブな魔物ぐらいだったから経験は関係して来なかった。
だが、敵が強力な相手になればそれ相応の闘い方があるのだと知って。
「「でも、教わったからには自分のモノにしてみせますから」」
後の闘いに備えて学ぶと答えて来た。
「宜しい。それでこそルシちゃんの娘だ」
まるで新兵に教育を施しているかのような女神の言葉に。
「「まるで教官みたい・・・」」
ポツリとコハルが口を滑らせてしまった。
「姪っ子、戦場では無駄口も厳禁だからね」
「「ひぃッ?ごめんなさい」」
慌てて口を塞ぐようなコハルの声に、教育している女神が言った。
「それでは。
これからは一々言葉に表さないから、そのつもりで。
観て感じたことを覚えておきなさい、いいわね?」
「「りょ、了解です!」」
つまり、ここからが本物の戦闘状態に突入すると告げたのだ。
「それと、もう一つ。
戦いにもしもは禁句だけど、仮に私が破れた時は。
あなたも一蓮托生ですからね、覚悟完了?」
「「へ?えっと・・・はい!」」
巨神兵を打ち破れなかった時には、宿ったコハルも破滅を迎える事になる。
その覚悟があるのかと問われたコハルが即答した。
「「勿論!
まぁミハル伯母ちゃんが負けるなんて、考えてもいませんけどね」」
全幅の信頼を預けているからと。
「フ・・・どうだか。
私も本格的な戦闘なんて、3百年ほどブランクがあるんだからね。
ひょっとしたらやられちゃうかも知んないわよ?」
「「・・・あ、あの?ミハル伯母様?」」
顏を引き攣らせて応えるコハルが想像できます。
「フフフ・・・でもね姪っ子。
今回はホーさんも一緒に闘ってくれているんだから。
そう簡単に死にはしないって、約束してあげるわよ」
「「はぁ?」」
緊張したり和まされたり。
「それじゃぁ・・・よっく、観ていなさいよ!」
で。
いきなり、決戦へと突入させられる。
巨神兵の身体から伸びる数本の触手。
そこから撃ち出せるのは防御火砲と思われた。
「おのれ!すばしっこい女神めが」
最初の砲撃は空振りに終わった。
圧倒的な火力を武器に、女神を倒そうと試みていたが。
「防御火砲では捉えることも叶いそうにない。
ならば・・・主砲の一撃を以ってして駆逐するまでだ」
巨神兵の主武装とでも言える<インドラの雷>。
それは獣の身体を模った巨神兵の開口部、大顎から放たれる殲滅の光を意味した。
「完全体の一撃には及ばぬが、出力80パーセントぐらいならば発揮できよう」
まだ完全に目覚めた訳では無かった。
イシュタル・ゴードムの焦りが、戦闘を早めたのにも起因する。
「発射すれば、この結界が貫かれ。
人界にも光の威力が表されよう・・・ふふふ」
結界までも貫き、外の世界に影響が及ぶ程の威力を秘めているようだが。
「防ぐ手立てはあるのかな、理の女神ミハルよ?」
発射自体を停めれなければ、成否に係わらず巨神兵の存在を知らしめることになる。
「キサマを倒せずとも、我が意は成されるのだ」
発射が齎す影響の多寡には係わらないと、イシュタル・ゴードムは持て囃す。
「人間共に、異種たる者の存在を見せつけてやれば。
世界は再び混沌へと堕ちてゆく事になるのだ!」
脅威を目の当たりにした人間達が、悪魔に拠って滅ぶ結末になると予見する。
「強大なる力には、より強力な武器を。
繰り返される兵器の膨張に、人間共は邁進する事になるだろう」
そう、それは事実。
そして導き出されるのは、最悪の武器が誕生してしまうこと。
「終末の武具。神々の黄昏。
人間が生み出した悪魔になれる兵器。
一旦産まれれば、次から次へと増殖する悪魔達。
その名は・・・アトミックボム、核兵器」
イシュタル・ゴードムが仕組むのは、人間達が闘いを予想して究極の兵器に手を染めること。
人類が終末の日を回避する為に造ってしまう悪魔の兵器を望んで。
「そうなれば、審判の女神も坐しては居られまい。
世界から核を失くした創世期のように。
再び世界へ改変の光を晒すだろうからな」
そう。イシュタル達の宿願通りに。
地球最後の改変の光を放つように仕向けるのが、イシュタル・ゴドームの狙いなのだ。
「他の同志に任せずとも。
このゴードムが<無>へと成してみせるのだ!
この地球と呼ばれる星を!この銀河を!」
異形の民、イシュタルの狙いは暗黒宇宙にあるブラックホール。
光さえも喰らうというブラックホールを造る・・・それが存在の全て。
それは理の女神ミハルが、嘗て闘った相手とも通じる。
<無>を求める悪鬼達と戦った経緯があるのだ。
「また・・・繰り返されるのかな?
あの戦争みたいに、人と神が闘った昔日の干戈のように」
巨神兵の前で、女神が憂いた。
「強大なる悪意の前に、再び惨禍が始ろうとしているのね」
手にした槍に魔力を与えて。
「そう・・・だったとしたら。
私も再び往かなきゃならない。
あの国へ、あの大地へ。
私の始まりを告げた国へと・・・」
目の前に居るイシュタル・ゴードムの奥に控える者へと眦を決して。
「それが新たなる宿命とあらば。
この子達が生きる希望になるのならば」
戦鉾の中心部にある蒼き珠へ、強力な魔力を募らせて。
「人の世界を。
今度こそ取り戻せるのならば!」
理の女神が魔力を集中させ始める。
その異能は女神自身をも変えていった。
そう。
在りし日の。
最終形態へと。
いよいよ?!
魔鋼騎戦記フェアリアのラストの魔法衣姿が蘇る?
その魔力に優るものなど・・・居ないと言うのに・・・
美晴は伯母の姿に畏怖するのか?
次回 ACT 7 秘められた魔法
嘗て、世界に存在したという時を操れる魔法<時の魔法>。今誰の手の許に?




