ACT 3 まさか・・・暴走?
結界の天井部分を貫いていった魔砲弾。
外の世界まで飛び抜けた光の弾を目にした者は、そこで何が起きているのか分かりようがないはずだった・・・が?!
まさかの、異能の暴走?
それはあまりにも突然だった。
弾の尽きた輝騎で闘っていた少女の前に、邪操機兵が躍りかかった。
最早、観念をせざるを得ない・・・そんな時。
キュド!
金色の光が地表から突き出し、躍りかかって来た敵を飲み込んだのだ。
「な?!なんなノラ?!」
邪操機兵を相手に苦戦を強いられていたノーラの眼に飛びこんで来た光の柱。
まるで悪魔を懲罰する神の一撃が、地の底から表されたかのよう。
光の柱・・・金色の輝。
もろに光の柱に呑まれた邪操機兵は、跡形も無く消し飛ばされた。
物質を消滅させる程の光。
それが意味していたのは・・・
「魔法光・・・強大な魔力の顕れ」
森の中に現れた金色の柱を見上げて。
「そ・・・か。あたぃの友が助けを求めてるんやな」
翠の髪を靡かせる少女が呟いた。
「あそこに居るんやな。ハナちゃんが・・・」
気を失っていた間に、何が起きたのか。
強大な敵と対峙していた筈だったのに、何故か独りだけになっていた。
「行かへんとアカンのや・・・」
しかも、眼にする事は出来るのに。
「せやのに・・・身体が動かへん」
動こうとしても、自分の意志に身体が従ってくれなかった。
「なんでや?どうして動けへんのや?」
最初は敵の一撃で負傷したのかと思ったが、どこからも痛みを感じることが無かった。
ついで、身体を何かが束縛しているのかと思ったが、拘束されているだけなら動ける筈だと思い直した。
「身体が動かへん・・・のとはちゃぅみたいや。
まるで身体から魂が抜けてしもうたみたいに・・・なんも感じへん」
それが意味しているのは・・・自分が既に死んでしまったかもしれないと採れた。
「そ・・・やったっけ。
あのレィとか言う悪魔にやられてしもうたんか」
気を失う前を思い起こし、魔砲戦で敗北を喫したのだと悟った。
「あの時、誰かがあたぃに手を指し伸ばしてくれたように感じたんやけどな」
光の渦に巻き込まれる瞬間、誰かが助けに現れた気がしたのだが。
「あはは・・・やっぱ、幻やったんか」
今の状況が、絶望を表しているように思えて。
「あたぃ・・・死んでしもうたんかな?」
諦めにも似た感情が湧きかえって来た・・・
「死ぬんは一度で十分なんやで」
?!
「姪っ子はんの魂は抜け出てはおらへんから安心しなはれ」
?!?!
自分の声が自分の耳に飛びこんで来る。
それも、意図しない台詞で。
「「え?え?え??なにがどうなってるんや?」」
と、今度は自分の声がくぐもってしまっているのにも驚いて。
「「い?あたぃ、ホントに死んじゃったんかぁ?」」
混乱が混乱を招いて、パニックに堕ちた。
「心配せんでもええんや。
ウチが身体を借りているだけやから」
「「いやいやいや!意味が分からへんし!」」
耳に聞こえるというか、意識に声が届けられると言うか。
「「あたぃの身体を返してぇ~」」
詳しくは分からないが、身体を誰かが乗っ取ったと思われて。
「「まだ死ねへんのやぁ~~」」
でも、パニックからは抜け出てはいなかった。
「あはは。姪の御美ちゃん、初めまして。
ウチが伯母の誉なんや、よろしゅうにな」
「「ほぇ?」」
声の主から名乗られて、
「「伯母・・・ちゃん?今、中島の伯母ちゃんの名を言った?」」
母方の姉に、そう呼ばれた人が居たのを思い出した。
「そや。ウチがホマレ」
「「って・・・戦争で亡くなった、あの誉伯母ちゃん?」」
前終末戦争で、英霊と成られた伯母だと言われて。
「「あ・・・やっぱ。あたぃも死んだんや」」
死者の仲間になったと勘違いした。
「プ、姪っ子ちゃんはそそっかしいなぁ。
言ったやろ、死ぬんは一度で十分やって。
ウチがイッペン死んどいたさかい、死んじゃあいやへんで」
「「へ?ど~いうことなんや?」」
亡くなった伯母が現れて憑依してる?
それはミミの肉体が死を受け入れてはいないと?
「「あたぃはまだ譲れへんのや。
奪われた友達を助けへんとアカンのや!」」
まだ現実だとは受け入れ難かったが、夢だとしても譲る気は無かった。
「「あの光を辿れば、ハナちゃんの許へ行けるんや!」」
金色の光を指して、
「「あたぃはどうなっても、ハナちゃんだけは助けたいんや!」」
心から願った。
「・・・あの時のウチと同じや。
ミハルを救おうとした、あの時と。
死んでも護りたかった、最期の瞬間に想ったのと同じ」
ポツリとミミの意識に飛びこんだ言葉。
「そやからか。ウチが姪っ子ちゃんに宿れるようになったんは」
魂の回帰。秘めた想いが繋がった・・・絆の帰還。
「それと。
今度は守りきれるだけの戦闘力を与えられてるんやしな」
ぎゅっと握られた拳の中に、強大なる魔法力を秘めたロッドがあった。
「ウチのデバイスも神格化されてるんや。
一度死んでしもうたから・・・神へと成れたんかも知れへんな」
以前とは違う、強力な魔砲杖を手にして。
「それに。
姪っ子はんが女神から授けられた魔力もあるみたいやから」
二人の異能が合さり、更に強力化したと?
「そしてなによりも・・・や。
姪っ子はんの願いを聴き遂げるんが、ウチに与えられた宿命みたいやしな」
ミミの危機に現れたホマレ。
そのタイミングは絶妙で、偶然とは思えなかった。
「そやろ?理を司る女神。
あんたが仕組んだんは、ウチかて分かっとるんやで」
全ては理を司った女神の仕業だと見切っているようだ。
「そして今度は。
魔法少女を助け出し、姪っ子はんの願いを成就させる気なんやろ?」
金色の柱を見上げていたホマレが、瞼を閉じて哂う。
「ええやろ。
手出ししろって言うんやったら・・・」
足元に翠の魔法陣が描き出される。
その円環から、炎のような翠の羽根が生えて・・・
「望む処やで!」
ホマレの瞼が開かれた時、瞳は緑に染まって。
ドシュンッ!
翠の炎が羽ばたくや、猛烈な速さで空中へと飛び立った。
・・・光の柱へと。
「「美晴・・・穴が開いちゃったよ?」」
「開けちゃった」
結界の天井に向けて放たれた魔砲。
一撃で空間壁を貫いて行った魔力弾に、二人が呆然としていると。
「愚かな奴め。自ら結界を破ろうとするとは」
イシュタル・ゴドームが嘲り嗤う。
「だが、まだ少々早い。
この巨神兵が完全となるまでは、結界に留まらねばならんのでな」
人界に出てしまえば、悪意を募る事が出来ないのを分かっているのだ。
現界してしまえば、不完全のままに終わるのも。
「完全体にしなければ、人類を駆逐する事は叶わぬのだからな」
巨神兵だとしても完全体に成らなければ、全能力の発揮が不可能だとも分かっている様で。
「邪魔をするお前に割いた分、遅れてしまっているのがもどかしいぞ」
攻撃を防御する為に邪気を使っているイシュタル・ゴドーム。
その影響で完全体にするのが遅れていると言うのだが。
「だが、もう間も無くだ。
人類に我が脅威を示すのは。
世界を恐怖のどん底に突き落とす時が来るのは・・・な!」
嗤う・・・その時が来ると信じ切り。
結界の天井が破られたと知っても。
何も起こらないと舐め切って。
己が、自らだけが世界を牛耳れると多寡を括り。
「「「開けたのよ」」」
・・・
「「「ホーさんが来てくれるようにね」」」
・・・・
「「「私が呼んだのを分かってくれてる筈だから」」」
・・・・・
「「「って?もしかして。気が付いていなかったの?」」」
・・・・・・・・・・・
「「「ちょっとぉ?届いているんでしょ<ミハル>の声が」」」
・・・はぁうッ?!・・・
「な?な?!な?!?」
「「え?え?!え?!?」」
戦女神モードのコハルが、身体を固まらせて冷や汗を垂らす。
「い、い、今、聴こえた?」
「「うん、空耳じゃないよ・・・ね?」」
どう言う事なのか、何が起きたのかが理解出来ない二人。
「今の・・・ミハル伯母ちゃん?」
「「いや、まさか。そんな事が・・・」」
有り得る筈が無い。
だって、美晴にはコハルという女神が宿っているのだから。
「「宿れるのは一人に一柱だけ。
女神であろうとも、同居出来る筈がない」」
そう答えたコハルだが、
「「まさか・・・暴走?!」」
無茶ぶりする堕神を思い出して、
「「意図しない間に、乗っ取られた?あの蒼ニャンみたいに」」
昔に起きた神の暴走を思い出したのだが。
「「「誰の事?蒼ニャンって?」」」
応える声からは否定を表されて。
「「「私はこの石にずっと眠っていたんだけどぉ~?」」」
「「は・・・ぃい?」」
言われて気が付いていたことを思い出す。
美晴の意図しない魔砲弾。
それを放ったのは、あの蒼き宝珠からだったのを。
「えっとぉ・・・どちらのどなた様なんでしょうか?」
今迄蚊帳の外だった美晴が、呆けた声で訊ねてみれば。
「確か今、ミハルって言いましたよね?」
そして訊かなくても良い一言を続けてしまう。
「それって、あたしの伯母さんってことでしょうか?」
ピキッ!
蒼き宝珠が・・・癇に障ったように震える。
「それにしてはお若い声に思えましたけど?」
ビキビキッ!
完全に・・・怒った。
「「あ?美晴ってば、辞めて・・・」」
異変を察知したコハルがそれ以上訊くなと、停めようとする前に。
ビッカァーンッ!
宝珠から電撃が・・・
ぶす・・・ぶす・・・・
で・・・美晴共々焦げてしまった。
「・・・なぜ?げほげほ」
「「私まで巻き込まないでよ!ごほごほ」」
宿った女神までも焦がす電撃。まさに神業W
「「「永遠の17歳に向かって失礼千万!」」」
「・・・さいですか(涙)」
黒焦げてトホホな美晴。
「って?もしかしてホントに?!」
で、漸く事実を認める気になった?
「あたしが17歳になったから、宿れたんですか?
えっと・・・終末戦争が終わったのが今から23年前だから。
17足す23は・・・っと」
「「美晴ってば、辞めなさいってば!」」
損な美晴は余計なことをするのも役目?
ドシャァーーーンッ!
二撃目の雷が・・・
「「「数えなくて良いの!」」」
ぶすぶすぶす・・・・
「・・・・」
「「・・・・・・」」
黒焦げ状態になってしまった二人からは、もう応える声も返ってこない。
「「「あ・・・やっば。やり過ぎちゃったかな、てへぺろ」」」
テヘペロじゃぁ、済みそうにもないが。
「「「まぁ・・・どうせ、乗っとるつもりだったから良いか」」」
善くありません。
「「「それじゃぁ。暫く気を失っててね」」」
鬼ですか!あなたは。
コハルの右手に填められていた蒼き宝珠。
女神を宿した宝石が、一段と輝きを増した・・・
「っしょっと!はぁ~久しぶりの実体化だねぇ。
何年ぶりかなぁ・・・はて?何百年ぶりだったかな」
コハルの身体を乗っ取った女神?
「ん~~~~。何だか変な奴がのさばってるけど。
それって、私達に殲滅されたいってこと・・・なんだよね?」
目の前に蠢く悪意の塊に対し、コハルに宿った女神が笑う。
「ねぇ・・・そうだよね。ホーさん?」
その眼が、穿かれた天井へと向けられて。
「お久しぶり。我が友よ・・・なぁ~んちゃって!」
そして、飛び込んで来る翠の光体へと手を指し伸ばした。
「お帰りなさい、ホーさん。
ありがとう、私の願いを聴き遂げてくれて!」
微笑むコハルだった顏に、涙が光って。
「美春に逢いに来てくれて!」
その顔が、姿が。
蒼き光に包まれ、古の儘へと変わっていく・・・
帰ってきた。
永き時を越え。
永遠の17歳がW
理を司る者にして、一度は世界から消えた女神。
数々の伝説を残し、数多の戦いを経て。
1000年もの時を越えて。
今、美晴と誇美の前に・・・って?
気絶させられてるぅ~?
次回 ACT 4 かくて二人は帰還する?!
女神ミハルとホマレ。終末戦争の英雄が、絆の許に再会する!




