ACT 2 動き始めた運命の歯車
結界の中では、女神コハルと美晴が戦おうとしていた。
対するのは邪悪なる異種たる者。
その手下の魔物達を前にした魔砲少女の美晴は?
邪気に満ちた結界。
今まさに聖なる者と邪悪なるモノとの決戦が始る。
「こいつを結界から出しちゃぁいけないよね!」
蒼き瞳の魔砲少女が叫ぶ。
「「うん!こんなのを外に出しちゃえば、人界に知れ渡っちゃうし」」
身体を美晴に返した誇美が応じる。
「「それと。
戦闘ともなれば、周りにどれくらいの被害が及ぶか分からないもん」」
強力な魔法と、強大なる破壊力を齎す波動で人的被害も在り得る。
巨大化していくイシュタルの憎悪に連動して、巨神兵の容もいよいよ完成に近づいていく。
このまま放置しておけば、結界を自ら破って現界してしまうかもしれなかった。
魔法力で造り出された結界は、造った者が闘いに勝利するか、滅ぶかでしか消せない。
つまり、戦闘途中に結界を消す事は不可能とされてきたのだが。
「女神級の波動でも、簡単には破れない。
でも、今のイシュタル・ゴードムなら・・・やり兼ねないよ?」
女神の異能を纏い、金色の輝きに染められている美晴が化け物を見上げながら言う。
「完全体に成られる前に、ダメージを与えなきゃいけないよね?」
片手に軽々と掲げ持っている王者の剣を頭上高く突き上げて。
「この剣でどれ位ダメージを稼げるか・・・やってみるね!」
赤黒い翳りが渦巻くイシュタル・ゴードム本体を睨みつけた。
「「うん!往こう美晴」」
女神の神力を魔砲少女へと与えたコハルも。
今、魂をシンクロさせる二人が立ち向かうのは、最悪の邪王と化したイシュタル・ゴードム。
巨神兵に身体を同化させ、ハナだった身体を人質同然とした悪魔。
果して美晴と誇美は、巨神兵を打ち破りイシュタル・ゴードムの野望を打ち砕く事が出来るのだろうか?
「どぉりゃああああああああぁッ!」
足元に魔法陣を描かせ、宙を跳ぶ魔法戦士が剣を振り抜いた。
ドギャァッ!
金色を纏った少女の一撃。
女神級の異能を元に発射された剣波が、巨神兵目掛けて撃ち出された。
「ふ・・・今暫く待てないのか。愚か者め!」
最前迄、不利に喘いでいたイシュタル・ゴードムだったが。
「完全体に成れる迄、下僕達と遊んでおれ!」
地上の悪意を募り、憎悪を糧として巨体を形成させている。
後僅かで完全体を手に出来る処まで漕ぎつけられているようだが。
「我が目的の完遂も、この身体が完成を見なければならぬ。
我等イシュタルが開発した巨神兵を以って、人類を駆逐するのだ。
古のインドラの雷の如く、灰燼に帰してやらねばならぬのだ!」
イシュタル・ゴードムは、古代に起きた破滅戦争を連想させる言葉を吐いた。
マハバーラタなどに記された古代戦争に表れる、神の矢を意味した超兵器。
叙事詩ラーマーヤナには、神の怒りに触れた街を、灰燼に帰したともある。
堕落した人間の街<ソドム>と<ゴモラ>に神の雷が墜とされ、一瞬にして滅ぼされたとされる。
実際、モヘンジョダロという遺構には数多くの不可解な謎が秘められたままなのだ。
一瞬にして死に至ったと思われる死骸や、高温で溶けた陶磁器など。
まるで熱線を浴びて溶かされたかのような痕跡が残っているのだ。
それが何を意味しているのか・・・神の雷が如何なるモノだったのか?
叙事詩や聖書には、詳しく記されてはいなかった・・・
「この世界には、これ以上の兵器が存在しない。
否、旧文明を採掘出来ない限りと・・・言うべきか」
地球外の意志体でもあるイシュタルは、この星の呪われた過去を表した。
繰り返される人類の再生に拠って、失われた文明が存在しているのを。
そして、ここが地球なのを・・・
ズドッ!
剣波を受けた漆黒の翳りが消し飛んだ。
だが、美晴が渾身の一撃として放った剣波も一緒に消えてしまったのだ。
「やっぱり・・・一筋縄ではいかないか」
巨神兵が完全体に成るまでにダメージを与えておこうと考えた美晴の考えは、集う邪気から出現した翳り達に因って阻まれた。
巨神兵を構成する邪気の一部が、翳りとなって防御するのだ。
現れ出た翳りは、物質攻撃にも対応できるように容を取り出した。
黒い身体の獣と化し、美晴の行く手を阻もうとする。
「そっか。あなた達は滅びを求めるんだね」
獣の容を採る邪気は、イシュタル・ゴードムの命で美晴を阻んでいるのだが。
「穢れた感情の中にも、救いを求めているものがあるんだね」
邪気は自身の間違いに気付き、修正を求めているのだろう。
このままイシュタル・ゴードムの言いなりになるよりは滅びを迎えたいと考えるのか。
「あたしの剣で。この神の御剣に拠って。
滅んでしまいたいと考えてるんだね?」
王者の剣を正眼に構え直した美晴。
「いいよ。だったら・・・滅ぼしてあげる!」
言うが早いか。
目にも留まらぬ速さで獣達に討ちかかったのだ。
ズシャッ!ザシュッ!
斬られて果てる邪気達。
消し飛び、消滅して・・・そして。
ズゴゴゴゴ・・・
後から後から、湧いて出て来る。
ズシャッ!ザンッ!
斬られる・・・切り刻まれる。
後から、後から・・・無尽蔵に。
ザシュッ!グシャッ!
既に百体以上も切り刻んだだろうか。
ズグググ・・・
それでも。
ズドゴゴゴ・・・
後から後から・・・湧き出て来た。
「だぁ~~~~ッ!キリが無いよぉッ!」
さすがに、剣を振り回し疲れたのか。
「これじゃぁ、いつまで経っても終わらないじゃないの!」
人類の悪意は尽きず、女神の異能を誇る少女は体力を削がれ続ける。
「こうなりゃぁ、一撃必殺の奥義を撃つっきゃないね」
魔砲少女の美晴は決意した。
この堂々巡りな展開を打破するには、全力全開の魔法で応えるしかないと。
「「何をする気なのよ美晴ちゃんは?」」
咄嗟に誇美が危険を感じ取って質すと。
「決まってるよ!
このどうにもならない展開を打ち砕いて見せるんだから」
「「いや、だから!全力全開って、どうする気なのッ?!」」
答えになっていない返事に、さすがに危ないと理解したのか。
「「まさか、王者の剣からエクセリオ・ブレイカーを撃っちゃう・・・とか?」」
「ぎくっ?!」
ブスリと、企んでいた超絶魔砲を言い当てる。
「「お父様から借りて来たメタトロンで、超殲滅級の一発を撃っちゃう・・・なんて。
その結果、結界ごと私達も爆発に巻き込まれて消滅しちゃうなんて考えてないとでも?
・・・いくら美晴が惚けっ子でも、やらないよねぇ?」」
「・・・そうだよね。うん、やらないよ~(棒)」
女神の誇美に停められた美晴だったが、どうも言葉の端にやる気だったのが見え隠れしているが?
「どうしようもなくなったら~やっちゃうかも~。だけどw」
いやあの。やる気満々じゃないですか?!
コハルも、薄々は感じ取っていたようですけど。
「「辞めて。お願いですから」」
攻撃を躊躇している間も、邪気達は容を採り続けている。
美晴の前に群がる獣の容を採った邪気達は、既に数百体にまで膨れ上がっていた。
「でも、コハルちゃん。
このままだと、いずれは魔力切れになっちゃわないのかな?」
人であれば、魔法力(MP)が消耗されて戦えなくなってしまう。
コハルが女神だから、消耗は極減されていたが。
「「それもそうだよねぇ。
あまり使い過ぎたらお腹が減るもんねぇ」」
お腹・・・ですか?魔力を失うとお腹が減るのですか?
「そっだねぇ~、あたしも少し減った様な気がしてたんだ」
美晴は底なし胃袋だから。
「あ~、どこかの女神様も確か。
それが理だ~なんて。言っていた気がするんだよ」
・・・まぁ、あなたもミハルの名を冠されていますからねぇ。
「「「言ってない」」」
・・・何か、空耳が聞こえた様な。
「で?それじゃぁコハルちゃんだったら、どうするの?」
魔法力の補給が出来ないのなら、現状を打破するにはどうしたら良いのか。
「いっその事、逃げちゃう?」
「「駄目でしょ、それは」」
会話途中でも、美晴は王者の剣を揮って邪気を祓い続けている。
「それじゃぁ・・・本体目掛けて特攻する?」
「「むざむざヤラレに行くようなモノでしょうに」」
良い知恵が浮かばない時は、会話も堂々巡り。
「それじゃぁねぇ、応援を呼んじゃおうか」
「「どこに結界へ入れる異能者が居るのよ?」」
考えた末、自分だけではどうにもできないと諦めたか?
女神級の結界の中へ入って来られる人が居る筈も・・・
「居たよね?」
「「居た気がするね」」
二人が同時に気付き、同時に考えが纏まった。
「魔拳を使う魔法少女のミミ!」
「「確か、女神級の魔力を授かっているのよね?」」
そこで二人は考え付いた。
「役に立つ時が来たんだよね、損な子でも!」
「「超一級の損な子にならなきゃ良いんだけどねぇ」」
ニマリ・・・と、細く笑んで。
「手助けを頼もう!」
「「いいえ、逃げ惑うだけでも役に立つ!」」
悪い知恵を出したようだ。
まさか、闇の美晴に拠って新たなる戦女神が宿ったとも知らずに。
「「「ちゃ~ぁんすぅ」」」
また・・・何か聞こえた気がしたが?
現実世界の他者を、結界の中へと連れ込むにはどうすれば良いか?
答えは・・・
「う~~ん。よくよく考えたらさ、コハルちゃん。
どうやってミミを此処まで連れ込めるのかな?」
「「そう、それ!今考えてたのよね~」」
二人は考えた末、招き入れるのに決めたのだが。
どうやって敵の造った結界の中へ連れ込めるのかが分からなかった。
「手伝ってぇ~・・・なんて。叫んだって聞こえる筈も無いし」
「「イシュタルに連れ込めって言っても、無駄だろうしなぁ」」
考えた結果がこの始末。
「まさか、イシュタルが出て行く時まで待つなんて、意味無し子」
「「そこまで待つのなら、助けなんていらないでしょーに」」
だったら、どうする気なのか?
「他にもっといい考えが無いかなぁ」
「「そうだよねぇ・・・やっぱり一発ぶちかましてみる?」」
諦めが早いと言うか、考えが足りないと言うか。
「「「ホーさんなら・・・来てくれるわよ」」」
また・・・あれ?この声は?
「自棄になっちゃうなぁ。
いっそ、エクセリオ・ブレイカーを結界の外目掛けて撃っちゃおうか?」
「「止めぇ~、無駄な魔法力の消費だよぉ、それって」」
コハルが見境無しに撃つのは辞めろと止めるのだが。
「そっだよねぇ・・・って?あれ・・・アレッ?!」
王者の剣を握っていた右手が差し伸ばされて行く・・・のを。
「「美晴ってば、辞めておきなさいって!」」
止めるコハルに、慌てる美晴が返すのは。
「コハルちゃんこそ!
どうしてあたしを動かしてるのよぉ?!」
と?
どうしたことなのか?
「わわわッ?勝手に魔法が・・・撃っちゃうぅ~?!」
王者の剣に魔力の灯が燈った・・・後。
ドゴォオオオオオオオオォッ!
いきなり。
美晴が発砲したのだ。
「にゃ、ニャンでぇ~~~~?」
え?
結界の天井目掛けて伸びて行く魔砲弾。
蒼き光の弾が、結界の天井に突き立って・・・
グワッシャンッ!
強力な魔力に拠って出来たのは僅かな罅割れ。
その風穴から、美晴の魔力弾が飛びだして行った。
「「美晴ぅ~?」」
「あたしの所為じゃないにゃ~~~」
どうしてどうなったのかが分からなくなった美晴が、目を廻してニャ語になる。
「強いて言うニャらぁ~、どこかの誰かが勝手にぃ~」
「「嘘を言うのなら、もう少し真面なのにしなさいよね」」
コハルが咎めるのにも理由がある。
なぜならば、宿っているのが女神の自分だけだと考えていたから。
体の自由を、美晴以外にはコハルだけが支配できるのだと思い込んでいたからだ。
・・・思い込んでいた?
異変に気が付いたのはコハルだった。
咄嗟に、魔砲弾を放った王者の剣を観て。
「「え?」」
そして・・・気が付いたのは。
シュゥウウゥ~~~
柄を握っている手に視線を落とした時、眼に飛び込んできた。
「「まさか・・・暴走?」」
美晴が戦闘の初めから填めていた、蒼き宝珠が・・・
「「輝きを取り戻している?!」」
蒼き魔法の光を、王者の剣へと絡みつかせて放っていたのだ。
胎動。
女神コハルが美晴へ宿り。
邪悪と対峙する結界で。
何かが目覚めようとしていた・・・
次回 ACT 3 まさか・・・暴走?
戦いの渦中、美晴は進展しない状況に業を煮やしてしまい?
追記)あの女神様が?遂に?!




