ACT11 戦女神<ヴァルキュリア>誇美<コハル>
邪神と戦う空戦魔砲師ホマレ。
魔拳少女ミミという不慣れな身体を駆使し、対等に戦おうとしていたが。
敵である邪神レィの魔力弾が襲い来る!
神々の領域・・・輝く精神世界。
飛び出して行った誇美を観ている蒼き瞳。
キラキラ・・・キラキラ・・・
瞬く光達。
天界にも繋がる結界で、数百にも及ぶ光の粒が瞬いている。
「いよいよだね、皆?」
瞬く光達へと呟くのは、蒼き瞳の少女。
「ホマレちゃんも彼女達のおかげで蘇ってくれたことだから・・・」
光の中、揺蕩う真白き髪の少女。
「私も手伝ってあげなきゃ・・・いけないかな?」
微笑むような声で、光の粒達に伝えると。
「<世界の>理を司る女神として。
ううん、今はまだ。人の理を司る者として還ろうと思うの」
女神は帰還を果すと言う。
悠遠の太陽神<ユースティア>ではなく、人の理を司る者として。
「あの子達だけには任せておけないでしょうから・・・ねぇ、そうじゃないタァム?」
身近に居る光の粒へ、手を指し伸ばして訊ねた女神。
「<ミハル>を名乗る私が、願ってもいるようだから・・・ねぇ、キャミ―?」
片方の指で光の粒をつついて。
「皆が知っている姿になって・・・還ってみようと思うんだ」
女神の周りに集っていた光の粒達が、渦巻くように波打ち始める。
「そうだね・・・皆の言う通り。
この世界を見守るだけでは済まなくなったから。
古からの運命が呼んでいるから・・・ミハルとして帰ろう、今はね」
白髪で蒼い瞳の女神が、取り巻く光達へと告げた。
女神は現実世界へと干渉するのだと、現界して護るのだと。
「蘇るのは審判の時を繰り返さない為。
そして・・・ミハルの願いを叶える為・・・宿命を遂げる為」
キラ・・・キラキラキラ・・・
集う光の粒達が、女神を促す様に群れ跳び。
キラキラキラ・・・・
やがて、少女の姿を光へと換えた・・・
空には満天の星。
明るい夜空に、満月が昇っていた。
そう、ここは現実世界。
幻ではない戦いが行われている場所・・・
美晴の身体へ宿った女神の誇美。
光の揺蕩う結界を飛び出し、向かった先には・・・
ドガッ!
紅い火花が地表を薙いだ。
グワッ!ガガンッ!
薙ぎ去られた地表が裂け、砕けた岩石が弾け飛ぶ。
ビュウウウウウゥッ!
紅い光を放ち続ける大剣を構えた翳りが嗤う。
「ほらほらどうしたんだよ、さっきの威勢は?」
嗤いを浮かべる貌が、邪に歪む。
「戦女神ならば、私と対等に戦えるんじゃぁないのか?」
紅い光を放っている剣を袈裟懸けに振り抜くと。
ドッギャッ!
破壊波動を伴った剣波が飛び出して、翠のホマレ目掛けて襲い掛かった。
「糞がぁッ!」
高い機動力を誇る魔法のブーツ、翔騎を履くホマレだったが。
「こっちの身体が未だ、ウチの異能に順応していないのを見越しやがって!」
魔拳少女だったミミの身体では、空戦魔砲師ホマレの異能を発揮出来てはいなかった。
グワンッ!
寸でで避けたホマレへ、邪神が次弾を撃ちかけて来る。
「ほ~らぁ、もっと必死に避けないと。
当っちゃうぞぉ、蒸発してしまうぞぉ?」
嘲る邪神、苦戦するホマレ。
二柱の神が、対峙している森の彼方の上空に。
キラッ!
突如空間に光が現れた。
ピンクの光を纏う姿。
神々しき光を纏い、現実世界へと現れ出て来たのは・・・
「何だか知らないけど・・・きな臭いなぁ?」
蒼き瞳を森の彼方へと向けるのは。
「誰かが邪な奴と闘っている・・・みたいな?」
のほほんとした声を溢す・・・ピンク髪の少女。
「だったら。どっちに味方すべきかは・・・必定だよね?」
両手に携えた剣へと質した後に。
「剣使らふぁえる、戦闘準備だよッ!
コハルはこれより戦闘態勢に入るんだからねッ!」
自らの使役する者へと命じ、自らの属性を戦女神へと移譲するのだった。
「「マスターペルセポネーの命を承認」」
春神のエンブレムから了解の合図が齎され、
「「チェンジアップ!戦女神モードに移行」」
エンブレムが回転し、飛び出した花弁に拠ってコハルの姿を隠した。
ピンク色の花弁が舞い散り、美晴だった少女の姿が光に包まれる。
花弁が少女の色を変えていく・・・春神だったピンクの髪が金色に染まって。
戦闘モードに切り替わったコハルの髪が金髪へ。
揺れるリボンだけがピンク色の元のまま。
閉じられていた瞼が開いた時、双眸は蒼き光を放つ戦女神の色へと変わる。
「「戦女神モードへ移行完了」」
コハルに与えられた剣使ラファエルから、モードが替えられたのを知らされて。
「よぉ~し!あそこの戦闘に関与しちゃうんだからね!」
前方で繰り広げられている闘いに割って入ると明言したのだった。
その闘いの場とは・・・翠のホマレが邪神に苦戦を余儀なくされていた・・・杜の中。
翠の光と、真紅の光が交差する。
辺り一面が爆裂する光と煙で覆われる。
その光景は、正に戦場とも呼べた。
相対する二人の他には何人の姿も無い。
しかし、二つの異能が辺りに破壊を齎していた。
燃える木々、地表に穴を穿つ爆発。
まるで戦場かと見間違える程の異能の威力。
翠の光を放つ少女は俊敏に立ち回る。
方や、真っ赤に燃える剣を薙ぎ払う影からは破壊波動が繰り出されている。
双方の魔砲弾に拠って、森は爆焔に覆われていた。
翠の魔砲を放つ少女の瞳が睨む。
「返せ!友を!」
憎しみを籠めた声で相手を罵る。
真っ赤な剣を握った影から、嘲りを含んだ声が返される。
「無駄な足掻きだと思い知るが良い!」
声と同時に、真っ赤な剣を薙ぎ払った。
真紅に燃える剣から、強大な光線が翠の少女へ向けて撃ち出される。
ギュゴゴゴ!
強力な魔力弾と化した光線が、一文字に翠の少女へ向けて伸びて行く。
「これで・・・終わりだ!」
勝ち誇るのは、紅い剣を薙ぎ払った影。
「くッ?!」
対峙する翠の少女から、苦渋に満ちた声が零れた。
最早、回避もままならない程迄紅い魔力弾が迫ってきた・・・命中は免れない。
と、その瞬間だった。
ビシャッ!
どこかから、金色の光が・・・
ドッゴオオオオオォ~
紅い剣を持つ影と、翠の少女の前で巨大な爆焔が立ち昇る。
「うぬ?」
勝利を確信していた影が、何が起きたのかを理解するまで1秒にも満たなかった。
「くぅッ?!」
爆焔に煽られた翠の光を放つ少女も・・・<それ>が振って来た場所を見上げる。
シャラン・・・・
戦う二人が同時に見上げていた。
金色の光を放った者を。
シャラン・・・
ゆるゆると天空から舞い降りて来た者を。
スタ・・
そして・・・対峙した二人の間に降り立った・・・白い魔法衣を纏う者の姿を。
「邪なる魂を持つ者よ、あなたの居場所など・・・この世界には無いわ」
真白き姿。
輝を纏ったような黄金の髪を靡かせ。
長い前髪の間から覗く、蒼き瞳が見上げていた。
「神の異能を纏う者ならば、人を見守るべきでは無いの?」
両手に二振りの太刀を握り締めて。
「お前は・・・神か?それとも・・・人か?」
戦いを中断した紅い剣を持つ影が質した。
「人ならば、我の力には逆らえぬ。
もしもお前が神だと言うのであれば、その異能を寄越せ!」
そして剣を突きつけると、
「その身体ごと、我等に差し出すのだ!」
既に勝つと決め込んだかのように最後通告を投げて来た。
「・・・馬鹿だな」
現れ出た真白き姿の少女が、俯き加減で言い返す。
「私がこの場に来た理由が分っていないようね」
両手の剣を下段に構え直して。
パアアァッ!
途端に、少女の周りにピンクの魔法光が吹き荒れる。
「なッ?!お前は?」
影が剣を構え直した少女の異能に気が付く。
「お前は?!まさか・・・」
金色の髪・・・蒼き清浄なる瞳・・・真白き魔法衣・・・
「本当に・・・神なのか?!」
魔法衣の胸元に輝くのは、春の花を模った象徴飾・・・
「だから・・・馬鹿だなって言ったんだよ?」
黄金色の髪の隙間から覗く碧い瞳・・・
「こんな闘いの場へ、単なる魔法使いが来れる訳がないのを知ってる癖に」
零れるのは少女が発した諫めの声。
「まさか・・・まさか?!お前は!」
魔法光が金髪の少女に纏わり着き、花弁が吹き荒れる春の嵐の如く舞い散る。
「そうだよ、邪なる魂。
私が・・・ヴァルキュリアの・・・」
ゆっくりと振り仰ぐ金髪の少女。
凛とした顏を邪なる者へと向けて・・・名乗るのは。
「あなた達、異種者と対峙する戦女神。
人の世界を護る為に降臨した・・・誇美!」
両手に携えた剣を構え、戦闘に介入すると<敵>へと言い放つのだ。
「馬鹿な?!
この場に新たなる女神が降臨した?
データには、お前のことなど記されていなかったんだぞ」
眩き光を纏う少女の姿に、邪神レィを名乗った者が言い募る。
「どこから・・・一体どうやって?
誰に憑依したと言うのだ?!」
正体不明の戦女神の登場に、邪なる魂は困惑した。
「それはねぇ、あなた達が悪さをするから。
現実世界に干渉し始めた<邪な神>が存在してるから・・・よ?」
「我等が存在を感知した・・・とでも、言うのか?!」
コハルへ剣を突きつけて問い質す邪神。
「この世界を終末へと導く我等の、邪魔をすると言うのだな?」
一旦は驚愕した邪神だったが、歯向かって来た少女を見下して。
「ならば、お前から血祭りにあげてやるまでの事!」
魔法剣に魔力を注ぎ込んで対峙するのだった。
「・・・ホント。馬鹿だね、あなた達って」
だが、金色を纏う少女は臆さない。
それどころか、剣を突きつけて来た邪神に向けてこう言うのだ。
「春神のままならいざ知らず。
この戦女神モードの誇美に剣を向けるなんて。
滅して欲しいと言うようなものだよ」
「い、言わせておけば!我の異能を喰らってみるが良い!」
売り文句に買い文句。
神の領域での戦いとは思えないが。
キュイィンッ!
最初に攻撃を仕掛けるのは、紅い剣を握った邪神。
「喰らえッ!」
剣に籠めた魔法力を撃ち出し、コハルへの初弾と代えた。
ドギャッ!
紅い光弾がコハルへと伸びて・・・
「そっか・・・退散する気はないんだね。じゃぁ・・・」
左手に携えていた魔力剣を、
「始めましょうか!」
飛び来た光弾目掛けて振り抜くのだった。
キュィンッ!
目にも留まらぬ俊敏さ。
見詰めていたとしても常人では観えなかっただろう程の速さで。
ギャァンッ!
光弾は弾き飛ばされ、あらぬ方向で爆発した。
「なッ?!なんだとぉッ?」
撃ち出した邪神には、何が起きたのかが理解出来ず。
「我の光弾を弾き飛ばした・・・のか?」
何とか、それだけは分かった様だが。
「い、いや待て。
光弾を弾き飛ばせる刃が存在する訳が・・・無い・・・筈」
もしも刃に光弾が当たっても、その場で爆発するだけだった。
普通の魔法剣ならば・・・だが。
邪とは言えど、仮にも女神級の魔力弾を弾けるだけの剣が在ろう筈はない・・・と、邪神は考えたのだが。
「まさか・・・その剣は?」
紅い光弾を易々と弾ける剣・・・その謂れは?
「そう、ご明察。
この御剣はね、お父様から譲り受けた天使が模ってるの。
その名はラファエル・・・あなたも神の眷属ならば知っているでしょう?」
「ラ、ラファエル・・・だとぉッ?!
それに今、お前が言った父とは・・・誰の事だ?!」
今一度剣をコハルへと突き付ける邪神が訊き質す。
「大天使ラファエルを使役出来た父神とは・・・誰なのだ?」
「・・・ルシファー。私のお父様は人を愛して魔界へ下った神。
そして今は、全能神エールから全権を受領したイエースとも称されているわ」
コハルは少しだけ誇らしげに父の名を示した。
「なんだと?!あの識天使とも称されたルシフェル・・・だと?」
邪神は改めてコハルを睨んだ。
古の天界における伝承から、知る限りの謂れを紐解きながら。
「あ~、あのねぇ。
旧約聖書におけるサタンと混同するのは辞めてよね。
お父様は人を愛する故に神と対峙しただけ。
それだからこそ、今は許されて神へと戻っているんだから」
天使の最上位を言い表した邪神に対し、コハルは元々が神であったと言い張って。
「それと。
この世界を見守り、邪なる奴から人間界を護るようにって。
私達、戦女神達へ下命されたんだよ」
「お前等・・・戦女神・・・達・・・が、だと?」
言葉の端から伺えるのは、複数の戦女神の存在と。
「この腐った世界を護ると言うのか?!」
邪まなる者達から、人間界を守るべく降臨して来るのだとも教えていた。
「そうだよ、異種たる者よ。
この世界の平和を守るのが、お父様から受けた願い。
闘ってでも、尊きモノを護るようにって・・・ね!」
「尊き・・・モノとは、何なのだ?」
決闘が再会する前、邪神からの問いにコハルが応える。
「それは・・・絆。
人が人であるために必要なモノ。
邪なるお前達が求める<無>とは正反対のモノ」
「無にはならないモノ・・・絆を守るのが女神へ下された使命?!」
戦女神モードのコハルが言い切った。
邪まなる魂を現界させた者が訊き質す。
「そう!絆を絶たれなければ無には成り得ないのだから」
身が破滅を迎えたにしても、絆を絶たれなければ無へはならない。
誰かの記憶に留まっていられれば、存在したことが虚ろには成り得ない。
「この世界の中で、誰か独りでも絆を残せるのなら。
真の無になんてならない、無に帰すなんて成りっこないんだから」
ドォオオオオオーン
聖なる言葉が、邪なる者へと突き付けられた。
世界を混沌へと導かんとする悪魔へ、聖なる真理を突きつけたのだ。
「う・・・ぐぐ。
おのれ!言わせておけば」
ぐうの音も出なくなった邪神が、コハルを睨みつけて。
「ならば!世界中の人間共を一人残らず駆逐するまでだ」
剣を突きつけて喚き散らした。
「やってごらんなさい。出来るものならね」
対するコハルも、両手の剣を構えて。
「私との決着を望むなら、こんな場所でなくて。
あなたの望む場所に行ってあげても良いんだよ?」
最期通牒を突きつける。
「糞うッ!舐め腐って!」
それに乗じたのか、邪神は自らの属した空間を展開し始めた。
空に黒雲が棚引き始め、雷が鳴り・・・そして。
「来いッ!我を倒したくば」
「ええ!望む処よ」
結界の門が開き、邪神の空間が現れた。
赤黒き邪神と、金色を纏う女神の姿が門の中へと飛び上がる。
「ま、待つんや!
そこは邪気に満ちた忌まわしき場所なんやで!」
二柱が言い合っていたのを間近で聴いていたホマレが。
「たったの独りで突っ込むんは、奴の罠に填められてしまうんやで!」
思い留まらせようと忠告を与えるのだが。
「せめて理の女神を伴って往け!あのミハルを!」
自分が蘇ったのなら、きっと女神ミハルも帰って来ていると踏んだホマレからの勧めに。
一瞬だけ留まったコハルが・・・ホマレへと振り向いた。
「あ?!」
その顔を観たホマレが、
「そっか・・・そぅやったのか」
何もかもを把握したように頷いて。
知らず知らずの内に、挙手の礼を贈った。
「・・・だ、よな?」
ホマレの瞳に映ったのは、女神から返される事なんてない答礼。
戦場に赴いたことの無い者には分かる筈も無い無言の挨拶。
「任せたで・・・」
結界に突っ込むコハルの後ろ姿を見上げるホマレが、唯一言で<それ>を言い当てていた。
そう。
彼女は・・・そこに居るのだと。
戦女神コハルの介入で、戦いは異次元へ?!
聖と邪の戦いは、コハルの魔力が有利だったが?
邪なる者の正体を暴こうとするコハル。
敵は本当の邪神レィでは無いというのか?
果たしてコハルの目論みは?
次回 ACT12 二人は一つに
コハルと美晴。2人の力が合わさる時、新しい運命の歯車が回る!




