ACT10 光の神子とうら若き春神
嘗て、終末戦争の折に喪われた英雄がいた。
友を信じ、友を護って斃れた魂。
今、同じ心を持つ絆の許へ。
帰還を果たす!
爆裂する光の中で。
新たな輝きが産まれた・・・
魔拳少女のミミを倒した・・・邪神レィが気付く。
「なに?!」
その輝きに秘められた奇跡に。
「まさか・・・奴は?あの娘如きが?!」
爆焔の中、少女の輝きが邪神を惑わす。
ドンッ!
それまで微かな輝きだったモノが、突如弾け飛んで。
「馬鹿な?!有り得ぬッ!」
強大な翠の光を放ち始めたのだ。
しゅぅううううう~~~~ッ!
弾け飛ばされた強大なる波動。
邪神の異能をものともしないで、新たなる輝きが放たれていた。
「この躰には、ウチと同じ血潮が流れとるんや」
魔拳少女のミミが立っている。
「生きている証・・・滾る血潮を感じるで」
全くの無傷の状態で。
あれだけの魔力弾の直撃を喰らった筈だったのに。
「怒り・・・無念・・・慚愧・・・そして」
翠の髪を結っていた邪気祓いのリボンへと手を伸ばして。
「友を想う・・・ウチと同じ想いを・・・感じるんや!」
シュルっと・・・リボンを解いて。
「この・・・中島の誉に闘えと言ってるんや!」
翠の双眸を邪神へと向け、真の魔法力を解放した。
ギュドオオドドドドッ!
女神から授かった異能と、蘇りし魔法力が併されて。
超絶した魔力が放出された。
ビシャッ!
一気に辺りが緑色の魔法壁で覆われる。
魔力が解放され、今迄魔拳少女だった魔法衣までもが変えられた。
白の魔法衣には翠のラインが牽かれ、今迄は薄い内部装甲だった衣が増圧し。
上着の襟には直立した頸部装甲が囲い、魔力に拠る攻撃さえも透過出来なくした。
素肌にフィットした魔法のスラックス。
脚部の先には、神々と対等に戦えるだけのスピードを誇る翔騎が填められている。
全くの別装備。超絶した魔法力。
その姿は、嘗て神々と対峙していた戦女神そのもの。
「そこの・・・ウチの姪っ子に・・・何をしよった?」
ギラリと光る翠の瞳。
「ウチを天界から呼び覚ましたんは・・・お前の所為なんやな?」
怒りにも似た感情。否、激怒した戦士の声色で。
「この子は・・・友を救おうと闘った。
昔の、ウチが死ぬ前と同じように・・・な!」
一度は死を受け入れた者だけが魅せる貌で。
シュゥンッ!
突き出した手の中に、デバイスロッドが形成される。
それは、魔法力が桁違いに高い証。その魔砲杖は魔戒の証。
「教えてみろや。
お前はこの子の何を奪い去ろうとしてるんや?」
ギュドンッ!
魔砲杖が変化し、人が持てる筈も無い重さの機関砲と化す。
口径25ミリはあるだろう、対空機関砲に代えたのだ。
「なぁ、あんた。
ウチが蘇ったんなら、あの損な娘も帰って来てるんやろ?」
ゆっくりと機関部のボルトを引き絞る。
ガシャッ!
遊底に25ミリ機銃弾が装填されて、右手の指が安全装置を解除した。
「知ってるんやろ?
ここにも理を司ってる女神が居るんを。
世界を救うべき女神の・・・ミハルがいるんを・・・さ?」
ジャキンッ!!
砲口を邪神レィへと突き付け、大音声で名乗りを上げて。
「このホマレの盟友、女神のミハルが呼んだんやろうが!
再び世界を混沌へと貶めようと目論む邪神野郎がぁッ!」
ドガッ!
問答無用で初弾を発射したのだ。
「おのれ!」
いきなり現れ出た翠のホマレに攻撃された邪神レィだったが。
「勝手なことをほざきおって!」
撃ち込んで来た弾を魔法剣で弾こうと・・・
ガキンッ!
「ガァッ?!」
易々と鋼の弾へと剣を向けたのだったが。
「グアアアッ?!」
唯の一発を弾くだけで、手が痺れてしまったようだ。
シュウウウウゥ~~~
砲口から発射煙が流れる。
真っ直ぐ片手を伸ばして機関砲を構えるホマレの眼が、その様子を睨んでいた。
「なめんなよ、邪神。
ウチの弾は、そんじょそこらの魔鋼弾とは違うで」
「ま?!魔鋼弾だと?!」
痺れた手を庇う邪神が、ホマレの言葉に驚愕する。
「まさか・・・貴様は?!
本当に戦女神と呼ばれた蒼空の・・・」
「知っとるんなら話はいらんやろ。
そや、ウチが蒼空の魔砲師と呼ばれた・・・翠のホマレや!」
現実世界でも闘いは急変して行く。
魔界から放たれた禁呪に拠って、新たな運命の輪が回り始めていたのだ。
窮地に立っていたミミを憑代としたのは、終末戦争で名誉の死を迎えた魔法使いの魂。
その卓越した空戦技術で撃墜王とも揶揄された<翠のホマレ>だったのだ。
闘いは完全に互角と成ったのか?
邪神として現れたレィを打ち負かせるのだろうか?
闘いはまだ勝敗が着いてはいない。
どちらかが勝利を謳うには、まだ予断は許さなかった。
そんな折。
光の結界の中では・・・
シャラン
まだ身体を動かす事も出来ずにいた美晴。
横たえた身体の上から、一片の花弁が舞い堕ちて来た。
ヒラ・・・ヒラ・・・
ピンク色の花弁が、美晴の魔法衣へと落ちて来て。
すぅ・・・・
まるで美晴へ同化するみたいに消えて行く。
シャラン・・・シャラン・・・
一片・・・また一片。
まるで春の桜が舞い堕ちてくるように。
桜の舞が繰り広げられるように。
ヒラヒラ・・・ヒラヒラ・・・
横たわる美晴へと、次々に舞い堕ちては消えて行った。
「なんだろう・・・花弁が身体に消える度に。
魔力が戻ってきている・・・気がするけど?」
指に力が戻り、微かに手を動かせる程迄回復していた。
だが、本当は魔力が戻るよりも大切な変化があったのを、美晴は気が付かなかった。
うなじにある紋章が・・・変わっていくのを。
ピンクの花弁が消える度、光と闇を抱く者である証が書き換えられて行ってるのだ。
すぅっ・・・
また一片が消えた時。
紋章は<光を顕す証>と変わった。
それは美晴が聖なる者、光を纏う者と成ったのを意味している。
つまり、<人が神と同じになった>のを示しているのだ。
美晴が神に?
いいや、人は神には成れぬ者。
「・・・ミ・・・ハ・・・ル・・・ちゃん」
どこかから自分を呼んだ気がした。
「ミ・・・ハル・・・戻ってきたよ」
だけども女神を呼んだかもしれないと考えて。
「あたしは・・・人の美晴だよ?」
輝の中に居ても、人でしか無いと告げようとしたら。
「忘れたの?約束を?だったら・・・思い出してよね」
すぅっと・・・瞬く輝が舞い降りて来る。
誰かの面影を残す光が、目の前まで降りて来た。
「え?君が誰だったかなんて・・・もう一人の美晴にしか分からないかも」
光と闇が分離して、以前の記憶が曖昧になっている自分には分からないと答えたつもりだったのだが。
「そんなことは無いよ。
だって、貴女こそが産まれの事実を手にしたんじゃないの?」
光の中から、どこかで聞いた事のある声が知らせて来た。
「それを知ってるあなたは?
もしかして・・・コハル?」
美晴がそう言った瞬間だった。
昔の徒名を言っただけだったのに・・・
「大当たりぃ~~~!」
コハルと呼ばれた光から・・・
「おっひっさっ!」
ボォンッ!・・・と。
「ゲホォッ!」
身体の上に少女が墜ちて来た。しかも、身動きできないままのお腹の上に。
「ガハッ!げぇほぉおおおおぉっ!」
全体重をもろに喰らった美晴が咽返り、苦悶の声を挙げるのを。
「大袈裟ねぇ。あたしはそんなに重くないでしょうが!(ぷんすか)」
ピンク色の髪の少女が拗ねていますが・・・
「重いって事じゃないッ!
強力過ぎる魔力で圧し潰されちゃうところだったんだよ!(げきぷんすか)」
「あ。そっちね?」
ここは神の支配できる結界。
所謂精神世界って場所での出来事だから。
「にゃはは。ごめんねぇ、忘れてたわ。
美晴だったら、女神を受け止められると思ってた」
「死にゅ、死んじゃうからッ!人に何てことをするんだ!」
魔砲力の強さと神の神力を比べるのもおかしな話で。
「い、いやぁ~。元の身体を過信し過ぎちゃったかも。てへ」
「てへ・・・じゃぁないッ!」
未だにお腹の上に居続ける女神っ子に吠えまくる美晴。
「早くぅ~どいてぇ~。ぷりぃ~ずぅ~~~」
で。
半ば眼を廻して訴えるのが精一杯なようで。
「ホントにぃ~圧し潰されりゅぅ~~~」
口から魂を放出しそうな程、ぺったんこ状態になっていますが?
「あ?そう。
だったら・・・くっつきましょうか?」
「へ?」
一瞬、何を言われたのか把握できなくなった美晴に。
「ほぉ~らぁ!
昔みたいに言いなさいよ、魔法の呪文ってのを。さぁ!」
有無も言わせぬ早口で。
「チェンジって!身体を入れ替える呪文を!」
捲し立てて来た。
「ひぃ、はぁうっ・・・ちぇ、ちぇんじぃ~~~」
もう圧し潰されそうで混乱を極めた美晴が、言われるままに呪文を唱えてしまった。
「はい!促成事実完遂ぃ~」
美晴が呪文を唱えたことにより、
「お母様!これより誇美は美晴になります。
現実世界に干渉してでも、邪悪から人々を護ってみせます!」
誇らしげに天へ向けて手を翳した・・・後。
すぅっ!
コハルの姿が瞬く間に消えて。
シュワア~~~~ッ
美晴の身体が変身したのだ。
薄いピンク色の光に包まれ、魔法衣が変わっていく。
白を基調にしてるのは、美晴オリジナルと同じ。
だが、蒼のラインが薄れ、ライトブルーに変わって。
ショートパンツがスカートへと変り・・・靴の形状がブーツへとなる。
魔法衣が変わった後、美晴自身が変えられていく。
髪色がピンクへと、青味を帯びていた瞳がマリンブルーに変わる。
そう。
魔砲少女美晴が春女神ペルセポネーへと変わったのだ。
シュンッ!
旋風が変身を終えた少女を過った。
「あは。
変身完了だね美晴ちゃん・・・って?
聴こえてるの?」
横たわったままだった美晴が起き上がって身体に訊いていたが。
「ありゃ?気絶しちゃってるのかな・・・だらしないなぁ」
あ~あ、っと。呆れ顔になって肩を竦める。
「う~~~ん、と。
イマイチしっくりこないなぁ、特に胸周りが・・・窮屈だよ」
魔法衣を確かめて、なにやら不満げに呟くと。
「美晴ってば、あんまり大きく育っていないのかなぁ?
どうも胸のサイズが小さ過ぎて息苦しく感じるんだよねぇ」
神の魔力を使って魔法衣を変えてしまった。
ぽぅ!
その途端に、エンブレムが桜へと書き換えられた。
「よぉし!これであたしの魔法衣になったね」
則ち、この魔法衣こそがコハルを顕す神の衣だと?
「うん、これで良し。
今から、早速。
現実世界へと出馬しましょう!」
え?でも美晴さんは?
「損な事・・・しぃ~らぁ~なぁ~い!」
そ、損な?!
クルンと手を廻したコハルが、直属の臣下を呼びつける。
「らふぁえる!来て頂戴」
右手に現れた魔戒剣を一閃して。
「美晴の持っていたエターナルレッドも・・・借りて行こうかな」
左手に赤鞘の剣を現わして。
「邪気が溢れる現実世界へ・・・いざ参る!」
シュタッと軽く飛び上がると・・・
シュンッ!
目も眩む速さで結界から消えてしまった
・・・のですが?
蒼空の魔砲師<翠の誉>
女神ミハルを護りし戦士の魂が蘇る。
悪意の権化と化した邪神との戦いは激化の一途を辿る。
一方その頃、女神コハルに同化された美晴だったが・・・
次回 ACT11 戦女神<ヴァルキュリア>誇美<コハル>
戦いに介入するのは戦女神。金色の髪を靡き、蒼き瞳で邪悪を睨む。その名はコハル!




