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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第2部 魔砲少女ミハル エピソード7 第4章 バトル オブ バースデイミッション<誕生日戦闘>
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ACT 9 もう一つの奇跡

闇の中で。

運命を担う少女が禁忌を犯す。

傍にいる頼っても良い人に寄りかかりながら。

運命を共にすると誓えた人に身を預けて・・・

魔法少女隊が邪操機兵と闘っていた時。

もう一つの闘いも佳境を迎えようとしていた。



赤黒い影に光る、真紅の双眸。


 ドギャッ!


一閃された魔法剣から、衝撃波が繰り出されて。


 ドゴオォッ!


森を薙ぎ払った。


「糞ったれ!」


寸での処で避けた魔拳少女のミミ。


「こっちからの攻撃をモノともせえへん癖に!」


魔拳を駆使して応戦するが、相手には痛痒も与えられていなかった。


「このままじゃぁ、こっちが先に魔法力が無くなっちまう!」


空中に浮かび、揺蕩いながら攻撃して来る相手に、地上を這う魔法少女は対抗する事が出来ないのか。


「こなくそ!」


それでもミミは諦めきれずに抗おうとする。


「ハナちゃんを取り戻すんや!悪魔の手先になんてさせへんのや!」


魂を喰らい、肉体を支配した奴を許せなかった。


「コイツをやっつけて、ハナちゃんを取り戻してやるんや!」


女神級の異能を喰らい、姿までも乗っ取った敵を。

そして悪魔の如き悪態を吐く、邪神化してしまった友を見捨ててはおけないと。


「あたぃがどうなったとしても、ハナちゃんを助けてみせるんや」


凶悪な魔力で攻撃して来る邪神レィに、魔拳少女は残された異能で対抗しようとした。



紅く染め抜かれた双眸が、抗い続ける少女を見下ろす。


「お遊びは此処までにするか。

 もう一つの目標が未だに捕え切れていないようだからな」


着装してある頭部のユニットを触り、苦々しく嗤う邪神レィ。


「この地に居る全ての魔物を相手に向かわせたというのに。

 使えない愚か者共め。

 仕方がない、私が直接捕えに行かねばならんようだな」


ユニットからの情報を元に、邪神はここでの戦いを早々に切り上げると言ったのだ。


「この半端な魔法少女よりは、モノになると言う事だろうが・・・」


女神から異能を授けられたミミよりも、もう一つの目標にしている方に興味を示したのか。


「キサマも私に喰われてしまうか?

 それとも、瞬時に蒸発させられたいか・・・どっちを選ぶ?」


時間の経過が惜しいのか、それとも何らかの事情でことを急ぐのか。


「この剣の錆になる方法を選ぶと良い」


赤紫色の魔法剣をミミへと突き付けて来た。



「どっちも断るっていうたら・・・どうするんや?!」


宙に浮かんだままの邪神レィに、啖呵を切る。


「あたぃがお前を許さへんぐらい分かってるんやろ~が!」


正面切って対峙した両者。

方や魔法剣に魔力の光を燈し、方や拳の先に魔法陣を描いて。


「撃ってみるが良い、その半端な魔砲を」


「言うたな!せやったら・・・喰らってみぃな!」


宙に浮かぶ邪神から。

上空に向かって対峙する魔法少女から。



超重力破滅波ギガグラビトン!」


輝旋風牙シャイントルネード!」


同時に強大なる魔力弾が放たれた。


 ギュオオオオオォッ!


紅い光弾と金色の光の礫が・・・


 ド!ドドドドドドッ!


両者の中間でぶつかり合った。


 ドガァッ!


猛烈な破壊波が周辺を薙ぎ払って行く。

鬩ぎ合う魔力が、両者の中間で弾け飛んだ。


「おらおら!そんなへなちょこ魔砲が通用するとでも思ったか!」


勝ち誇るのは邪神レィ。


「くぅッ!」


押され続ける金色の礫の先には、苦悶の表情を浮かべたミミ。


 ギュルルルルッ!


紅い波動がグングンと金色の光を押し包み・・・


「こんのぉおおおぉッ!」


もう数メートル先にまで迫ってきた。


「あたぃは・・・負けられへんのや!」


必死に魔力を放出していた魔拳少女ミミだったが。


「くたばれ」


邪神レィは。


 ドゴンッ!


魔力を無慈悲にも注ぎ込むのだった。


 ギャルルルルルゥッ!


破壊波動の増加は、金色の礫を飲み込んで。


「!!」


アッと思う間もなく、地上へと叩きつけられた・・・



 グワァアアアアアアアーッ!



猛烈な光と炎・・・そして衝撃波。


光に包まれた中にあるモノ全てが、蒸発してしまうくらいの魔力。

神の誇る雷にも似た、強大な力が何もかもを奪い去ったかに見えた。



「おかん・・・おかぁはん・・・あたぃ。

 あたぃは・・・死ぬんやろか?」


光の渦に飲み込まれてしまう瞬間。


「これが美晴はんが言ってはった、魔法少女の宿命なんやろか?」


死を前にした者が思う、後悔にも似た心の叫び。


「嫌や、あたぃはまだ死ねへんのや。

 ハナちゃんを助けることも出来ず、逝くんは嫌や」


周り中が真っ赤な炎に包まれていく中、魔拳少女は死に抗う。


「なんであたぃは魔法少女に成ったんやろう。

 魔法少女に成って邪悪を倒すのが夢やったのに・・・」


このままでは死んでも死にきれない・・・恨みだけがこの世に残されてしまう。


「あたぃも・・・魔物になってしまうんやろか?

 地上に居る者を妬み恨み、悪鬼となって堕ちてしまうのやろか」


視界が光で奪われ、何も観ることも出来なくなる。


「死ぬんやったら・・・せめて。

 せめてあたぃの想いを引き継いでくれる人に託したい。

 友を助け、絆を繋げる人へ・・・残したいんや」


魔法の異能を。

異能の存在を。


「お願いや・・・ティス様。

 あたぃが亡くなったら、誰かに譲って・・・」


女神に。

授けてくれた魔力を・・・絆の許へと。



 キラッ!



邪神の破壊波動が炸裂する中心点で。



 ビシャッ!


爆発とは違う光点が現れた。





薄暗い世界。

紅く染まってはいたが、この世界の王が邪悪では無いのを示すかのように仄明るい。


魔を属した者達の世界・・・ここは魔界。


 ビュウゥオオオオ~


一吹きの風が治まった後。

魔界には邪まなる魔物達の姿は無くなっていた。


代わりに集っているのは・・・


「新たなる大魔王様へ!」

「我が魔王軍は王の許に!」

「忠誠を誓うのみ!」


数万にも及ぶ軍勢。

大魔王の意に背いた魔物を駆逐して果てたのは、同じ魔族。

その中心に立っていたのは。


「俺はこの子を救う為に大魔王になった。

 世界を混沌から救うべき、御子の為に此処に居るんだ!」


大魔王へと成ったシキ。

そして。


「私はこの術を放つ為だけに闇に居るの。

 魔界で、闇の魔力を以って。女神を転移させる為だけに!」


光と対なる闇の御子となった美晴が。


「俺達は今から禁呪を侵す。

 文句があるのなら俺を滅ぼすが良い!」


大魔王の異能を使って、美晴の為そうとした禁呪を使うという。


「お願いです皆さん。どうかシキ君に力を貸して。

 私は堕ちたってかまいません、お願いです!」


必死に周りを取り囲む軍勢に懇願する。

そして、健気な少女の肩を抱く大魔王を観た魔王軍は。


「我等は大魔王の臣下。

 王が求めに反する筈も無き!」


挙って各々が得物をかざすのだった。

その中から一体の狒狒騎士が進み出でて。


「シキ王に!

 我等が忠誠を示す時ぞ!」


魔戒の剣を振りかざして臣下の礼を捧げたのだった。


 おおおおおおおぉ~~~~~~んッ!


それを合図に、並み居る者共が鬨の声を挙げる。


「すまん、エイプラハム。

 恩にきるよ、コハルちゃんの宰相」


シキが狒狒爺やだけに聞こえる声で礼を告げる。


「若、いや。新たなる王よ。

 いよいよときが熟したようですぞ。

 人間界でも、神世でも・・・ならば急がれよ」


「ああ、分かってるさ。

 今の俺には感じられるんだ、デサイアから受け継いだ異能で。

 いいや、はっきりと言えば。

 俺の本当の父から受け継いだと言った方が良いんだよな」


きりりと引き締まった貌で、狒狒の魔獣へと云って除けた。


「前王デサイアから知らされるまで、若だとは思いもしませんでしたが。

 言われてみれば、面影などがルシファー様の若き日と瓜二つ。

 まさかミハエル様との間に隠し種が居られるとは・・・爺も一本取られましたわい」


相好を崩した狒狒爺が、懐かし気にシキを仰ぎ見て。


「我が君、ペルセポネー様の兄君だったとは。

 妹君との対面が叶いますよう、この爺やもお力になりとうござりますれば」


なぜ魔王軍がいともあっさり、人であったシキを王と認めたのかを話した。


「将軍、それはまた後で話せば良い。

 今は一刻の猶予も無くなってるんだ」


「御意!」


狒狒爺将軍が踵を返して軍勢に命を伝える。


「王の命ぞ!

 門を開け!人間界と神世の門を開くのだ!」


邪まな魔物を一掃した軍勢に拠って、魔界は邪気を払拭されていた。

つまり、門を開いても魔物が出ていく恐れがないということだ。


人間界の門を受け持つ魔獣グランが、


「我が命に代えて、この門を守り抜きますぞ」


魔王ルシファーより授けられた魔王剣を抜き放って。


「神々に侵攻される虞は無いと思われる。

 いざ、開門ッ!」


神世の門を受け持つバフォメットが牛面を顰めて手をかけた。


準備は整えられた。

門が開けば、禁呪を即座に放たねばならない。

その時、大魔王となったシキは重い罪を背負う事になる。

闇の王として、神に背いた罪を背負わなければならなくなるのだ。


「良いか美晴?」


「うん・・・」


重ね合わせた手と手。


「俺から離れるんじゃないぞ」


「離れるもんですか!絶対に放さないから」


繋ぎ止めるのは、同じ罪を背負おうと誓った絆。


「ああ。俺も離すもんか」


見下ろして来るシキ。


「うん。放さないでね」


微笑む美晴も、闇色に染められた瞳で返す。


二人は今。

運命に抗い、宿命を受け入れようとしているのだ。


「開門ーッ!」


総大将の狒狒爺が大音声で命じる。


「若ぁッ!今ですぞ!」


必死の想いが声に表れて。


「女神を転移させよ!」


二人を促すのだ。


「いくぞ美晴!」

「はいッ!」


大魔王の異能を委ねられ。

理の女神から託された転移の術を。


 キュゥイイイイィンンン!


極大魔法陣が形成されていく。

二人が共に立つ足元に。


 ギュルルルルッ!


魔界と天界を繋ぎ、人類の住む現実世界へと伸びて行く光の渦。


シキの姿が金色に染まり、手を繋いでいる美晴も呑み込まれて。


二人は声を揃えて・・・禁呪を放つ。


「「 テ ミ ス 」」


真実の女神を指す<御名みな>・・・

正義の女神を指す<テミス>。


その名を以ってして、禁呪は解き放たれるのだ。



 どごぉおおおおおおおおぉッ!



魔界から発せられた大魔王級の魔力波。

金色に輝く波動は、天界をも揺るがして。

その魔力を以って、喪われし者の魂を呼び覚ます。


 ドドドドドッ!


天界を抜けた魔力波は、やがて憑代と成るべき人の許へと下って。



 ズガアアアアアアアァッ!



強力な波動を伴いながら、人を変えていった。


人の子を、神世の者へと。


呼び出された魂を、憑代たる者へ宿らせる。





禁呪が放たれ、事が成った後。


 ギィイイイイィッ!


二つの門が閉じられていった。

幸いなことに、天界からの咎めは達されなかった。

自ら粛罪を受け入れると決めていた大魔王の意思を汲んだのだろう。

人間界からも何らかの反応も返って来る事は無かった。



「・・・やったな。美晴」


「うん、やったねシキ君」


術を成した後。

大魔王シキと、妃となるのを承諾した魔法少女が微笑を交わしていた。


「これで、何百年大魔王を務めなきゃならなくなったか分からなくなっちまったな」


「うん。でも・・・いいよ私は。あなたが傍に居てくれるのなら」


寄り添う幼馴染だった二人。


挿絵(By みてみん)


「心配かい?俺は産まれた時からこうなる運命だったみたいなんだぜ」


「そうね、私も。こうなるって産まれた時から決められていたみたいだし」


微笑む未来の妃は、うなじを王へと向けて。


「だってほら。この紋章が表していたんだもん」


赤紫色に染まった<闇の紋章>を見せて笑う。


「光の美晴は吸って貰っていたんだよね?

 魔戒の異能をつかったシキ君を癒す為に」


細い首筋にある紋章。

それは以前の<光と闇を抱く証>では無く。


「私も闇の眷属になったから。

 我慢しなくったって良いからね?」


<闇に染まった証>に変わっていた。


「だって・・・ほら。

 私を妃に選んでくれたんでしょ?だから・・・良いよ?」


黒を基調とした魔法衣を着た美晴が、うなじを王へと魅せて勧める。


 ゴクッ・・・


大魔王シキが艶を覚えた少女に息を呑む。


「俺は・・・我慢はしないぜ」


スゥっと瞼を細くするシキ。


「だけどな。

 俺だって大魔王になっちまったんだ。

 もぅ人間でもなくなっちまったんだしな」


両手を美晴に載せて。


「だから・・・俺のモノにしてみせるぜ。

 美晴を、俺だけの美晴に、俺の妃へと!」


ギュッと抱き寄せて。


「今から俺と美晴は、永遠を誓う!」


抱き締められた美晴は瞼を見開いたが、真摯な愛に屈して。


「うん・・・誓います」


すっと顔を挙げて瞼を閉じた。


重なる二人、重なる唇。

愛を謳う者が永遠とわを誓う。


「我等が大魔王陛下を称えよ!

 神代かみよより受け継ぐ、真の王たるシキ王を!」

「我等魔族の真の王にして、愛を謳わん者シキ様に永劫の忠誠を!」

「我が王に万歳を!我等が魔界に万歳を!!」


新たなる大魔王と未来の妃に、魔に属した者共が打ち揃って臣下の礼を捧げる。


邪なる者を許さない新大魔王シキの許で、魔界は平穏を手にした。

自ら粛罪に進む大魔王と妃に拠って、魔族は他の世界に干渉しない事を約した。


・・・そう。


光が届かぬ世界であっても。


奇跡は・・・起きるのだ。


魔界に新たな王が生まれた。

新たなる大魔王は、平穏を求め愛を求める。

嘗て、大魔王のルシファーが人への愛に堕ちたように。

今、新たなシキ大魔王が闇の美晴を娶ったのだ。


新たなる愛に由って、魔界に奇跡が起きた・・・・


次回 ACT10 光の神子とうら若き春神

春を象徴するブーケット。魔法の少女は女神と邂逅する!

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