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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3章 記憶の傀儡
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Act20 失意の叫び

タナトスの研究室で行われる魂の転移。

固唾を呑んで見守るリィンとエイジ。


果たして人類再生計画の礎となってしまうのだろうか?


実験は成功するのか?

それとも・・・

機械音は稲妻の音さえも消し去った。


轟音を奏でる装置に、最大の力が加えられる時が来た。




いかずちよ、我が宿願を叶えよ!」


両手を天井へと指し伸ばし、あたかも邪神とならんとするタナトスが嗤う。


「あははははッ!蒼騎麗美のきおくを人形へと宿らせるのだ」


人の領域を超えた禁忌の術を放とうとする悪魔の如く。


研究室の機械全てが、今にも壊れてしまいそうな程の轟音を立てる中。

リィンもエイジも固唾を呑んで、見守るより他が無かった。


「リィンちゃん?!」


「エイジちゃん、レィちゃんは?レィちゃんは大丈夫なのかな」


手を握り合い、全てが終わるのを待つ。


「きっと・・・大丈夫だよ」


円環を填められた姉を見守るエイジ。


ぜろの中へ入れるの?」


少女人形を見詰めるリィン。



挿絵(By みてみん)



・・・と、その時?!




 グワラガラララララッ!!



今迄聞こえていなかった稲妻の墜ちる音が。




 ビシャッ!!



目も眩むぐらいの光が、装置から放たれて。



 バリバリバリ!!



地震のように床が揺れ動く。



「きゃぁッ?!」

「うわぁッ!」


二人が同時に壁まで吹き飛ばされてしまう。


避雷針に直撃した雷の威力で、装置に限界までの力が与えられ・・・・



 バシュ・・・・



途端に唸りを上げ続けていた装置から音が消える。



 シ・・・・ン・・・



そして轟音が消えた。


薄暗くなった室内へ、窓の外から雷の瞬く光が差し込んで来る。


地響きを伴う冬の稲妻だけが研究室の光と音になっていた・・・が。



轟音が消えた室内に、タナトスの低く籠った嗤い声が流れる。


「フフフ・・・遂に・・・だ。

 この時を迎えたぞ。漸く世界を変え得る創造者になったぞ!」


呻くように呟くタナトス。

生命時装置が非常電源となって危急を知らせているのにも構わず、少女人形だけを見詰めて。


「さぁ二人で麗美君を目覚めさせ給へ」


まるで自らが邪神となったかのように振舞う。

その悪魔の如きタナトスの声で我に返る二人へ。


少年と少女が互いに見つめ合い、どうなったのかと瞬きを繰り返すだけだったのに業を煮やし。


「なにを呆けておるのだ!

 お前達の麗美を起こせと命じたのだぞ!」


有無を言わさぬ一言によって、最初に動いたのはエイジの方だった。


「ね、姉さんッ?」


生命維持装置が緊急事態を告げる点滅を繰り返しているのに気が付き、咄嗟に円環を外しに走る。


「いけないッ!非常電源だけだと1時間も保てない」


装置から伸びるコードを引きちぎらんばかりに外し、心電図や脳波計を確認する。


「良かった、まだ値は出ている!」


生命維持装置の反応を確認すると、麗美は生存していると分かり。


「急いで病院まで帰らないと!」


一刻も早く医師の助けが必要だとリィンへと叫ぶのだったが。

壁に寄りかかっていた筈のリィンへと目を向けたのが、そこにリィンは居なかった。


「?!」


慌てて姿を追うエイジの瞳に映るのは、少女人形の前に立ったリィン。


震える両手を少女人形ゼロへと差し出し、固く閉ざした口元がゆっくりと開かれて。


「レィ・・・ちゃん?」


少女人形ゼロを愛しい人の名で呼ぶ。


「レィちゃんでしょ?レィちゃんなんでしょ?」


雷の一撃で電源が断たれた状態の機械人形オートマタへ、何度も呼びかけるリィン。


「ねぇレィちゃん?!返事してよレィちゃんッ!」


黒髪の少女人形は瞬きもせずに基礎台に乗ったまま。

ピクリともしない人形に縋って、声を限りに呼ぶのだったが。


「タナトス教授?!どうなってるのよ、レィちゃんが答えてくれないの!」


いくら叫ぼうが人形からは反応さえも返っては来ない。

動揺と焦りでリィンは泣き声を張り上げるのだった。


「何ッ?馬鹿な・・・そんな事がある訳がない」


今の今迄、自己の実験に自信を持っていたタナトスにも焦りが濃く滲み出る。


「なにが?!私の計算によればほぼ間違いなく転移出来た筈だぞ?!」


雷を用いたのが原因か。それとも他に何かが間違っていた?


焦るのはリィンと同じ、いいやタナトスの方が大きい。

血走った目で装置に駆け寄ると、辺り構わずスイッチの確認を始めるのだった。


「リィンちゃん!今は諦めて病院へ戻ろう」


姉を想うエイジの叫びがリィンを我に返すと。


「そ、そうね。やはり魂の転移なんて初めから無理だったのよね」


タナトス自身からも、実験の成功確率が50パーセントだと告げられていたのを思い出して。


「神様にしか出来っこない術だった訳ね、タナトス教授」


怒りを通り越して馬鹿にするかのように言い放つリィン。


「これでレィちゃんの身にもしものことがあったのなら・・・覚悟しておきなさいよ!」


自分が騙されていた事に気付かず、リィンはあからさまにタナトスへ警告する。


「もしもレィちゃんの容態が悪化したら。

 あなたもアナタの研究も、なにもかもぶっ潰してやるんだから」


財閥フェアリー家の政治力と金の力を以ってしても赦さないと断じる。


「私を子供だからと甘く見ない事ね。

 フェアリー家の娘を使って実験台にしようとした報いを受けさせるわ!

 もしも・・・レィちゃんを喪うような事態になれば・・・ね」


エイジが外で待たせている男達を呼び出す間、タナトスに向けて啖呵をきり続けるリィン。


「君にはそれだけの力があるというのかね?

 私の野望を朽ち果てさせられる程の?」


エイジ達が麗美と少女人形を運び出す間も、呆然と装置に手を伸ばし続けていたタナトスが訊く。


「あなたがレィちゃんを救えなかったのが悪いのよ。

 呪うのなら魂の転移とかを完全な形にしてみたらどう?」


苛立ちと焦り。

二人の間で共通しているのは、目的を達せられなかった事だけ。

研究室を出る間際、リィンが最後に観たタナトスの顔。

暗がりで狂気に支配された男が放つ、異様なる執念の貌。


「分かっている。それが出来なければ創造主には成れないのだからな」


振り返りもしないタナトスの蔭が、まるで悪魔が宿っているかのように揺れ動いていた・・・







病院へ戻った二人。

待っていた医師により生命維持装置は事の無きを得られたのだが・・・


「なんて馬鹿な真似を!」


エイジは両親にこっぴどく叱責され。


「リィンタルト!あなたは人の命を弄ぶ気だったの?!」


麗美を連れ出したのは監視モニターにより知られるところとなっていたのだ。

妹が仕出かした事件の始末を任されたユーリィが駆けつけて来るなり叱りつける。


「大事に至らなくて良かっただけよ?!

 もしものことがあったのなら蒼騎夫婦へ・・・

 どうやって詫びればいいのかなんて考えなかったの!」


叱りつけるユーリィの言葉の陰にある、保身の意味合いがリィンには堪らなく情けなく思えた。


「レィちゃんを・・・何も考えていないじゃない」


反抗する気持ちと、姉が心から心配してくれているのが混じり合い。


「助けたかっただけ・・・助けたかったのよ」


どう言って詫びれば良いのかなんて思いつかないリィンだった。


少女人形ゼロだって・・・助けたかった筈なんだから」


宿る筈だった人形を想い、目覚めてくれなかったレィを悲しむ。

集中治療室へと戻されたレィを一目見てからアークナイト社製の人形へと振り向く。


動力が停められたままの少女人形は、身動ぎもせずに基礎台に固定されたまま。


「あの実験の時、もしも作動させていたら・・・起きてくれたのかな」


基礎台へ固定する間、機能を停めておかなければ暴走する可能性が拭えなかった。

エンジニアだったエイジの判断で、作動させなかったのにはそうした訳があったのだが。


「起きてくれなかった・・・奇跡は」


神からの福音ふくいんは鳴らなかったのだと思い込んだ。


「ねぇレィちゃん。これから私はどうすれば良いの?」


奇跡に頼れないとするなら・・・と。

少女リィンは見えない空を見上げて泣くより他なかった。







冬の嵐が過ぎ去った研究室で。


「まだだ。まだ実験を繰り返さねばならん。

 この私自身が創造者になる為には・・・贄が必要なのだ!」


一度の失敗にも屈しない男が喚く。


「雷で駄目ならば。

 もはや原発1基分の電力を奪い取るだけのことだ。

 その為にオーク社へ情報を流してあったからな。

 奴を唆し、贄と共に・・・手に入れてやる」


実験が失敗したのは、電力が安定していなかった為だと考える。

そして新たな人柱を欲しているのだ。


「もっと闇に染まった魂が要る。

 もっと人間を恨み続ける者が必要なのだ。

 ・・・私と同じように、悪魔に魂を売る程の・・・な!」


自らが堕ちたように、同じような者を欲した。


「くっくっく・・・それにはあの娘が適任だろう」


既に被験者を知っている。


「あの娘は・・・私の望みを叶えてくれるだろうからな」


タナトスは再び悪魔の実験に手を染めようと目論んでいる。

一体その娘とは?



野望を捨てないタナトス。

生贄に狙われている娘がやって来る時、悪魔は禁忌の術を手にしてしまうのだろうか?






病院からアークナイト社研究室へ戻された少女人形ゼロ

基礎台から安置装置へ載せ替えられ、足のソケットから電力が供給され始めた。


体内の充電装置から各部へ供給され始め・・・



自動人形オートマタに再び光が燈る・・・いや、命が燈る。



内蔵された演算処理機構の中で。

今迄空白だった部分に何かが填め込まれていた。




 ・・・・P・・・P・・・PP・・・・



処理が進む・・・人の脳波に似た波形を模り。



 ・・・PP・・・PP・・・PP・・・



解析が終えられた後・・・ありもしない機能が加えられていた。



<<ハード内に保存完了・・・再実行を行いますか?>>


<<セクションの処理にかかります・・・ユーザー名を書き換えますか?>>


演算処理機構が、新たなフォルダを実行する。


そしてフォルダ名の変換を求めた。


<<過去の記憶の中で最も使用された名前を用います>>


実行される書き換え。


そこに書き上げられたのは・・・



<<最終項目の変換終了・・・あなたは零をレィと名付け替えました>>

タナトスの目論みは潰えたかに思えたのだが。

少女人形は身じろぎもしなかった・・・のだが?


冬の嵐の中で、何かが芽生えた?

稲妻が齎した本当の結果は?

少女人形に何かが宿った・・・・


次回 Act21 謎のシステムフォルダ

記憶は魂にも等しいのか?モニターに映る文字が知らせるのは?

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