ACT15 希望と宿命
生い立ちを確かめるには・・・あの手紙を読まなければならない。
美晴は未来を手に出来るのか?!
自分がマモルとルマの娘なのだと、美晴は信じたかった。
教えられたことが真実であるのを確かめてみたくなった。
それには、あの手紙を今一度観なければいけないと考えたのだ。
天使長ミハエルからルマが貰ったという<魔法の手紙>に、何が記されているのかを。
美晴はルマを伴ってリビングルームに降りて来た。
「あたし、もう一回観て見たい」
自分で取り出さず、敢えてルマに手渡して貰おうと頼む。
「以前に観たのは<ルゥ>から贈られた手紙だと聴いてたけど?」
天使長から贈られたとは聞かされなかった。
人の姿を執っていた男性、ルゥと名乗った人から贈られたと聞いていた。
「確かにルゥと名乗っていたのよ。
でも、彼自身から堕天魔だと聞かされたわ。
この手紙を渡したら、闇の中へ行かねばならないとも言ってたの。
そして既にミハエルさんが粛罪に旅立った後だとも知らされたのよ」
「あ・・・そうだったんだ」
手渡したのは人から堕天魔に戻る前のルシファーだったと言い、手紙を書いたのはミハエルに間違いないとも答えて。
「何度だって観れば良いのよ。
だって、あの手紙は美晴へ贈られた物なのだから」
頷いたルマが、仕舞われてあった手紙を戸棚の奥から取り出し。
「これに書かれてある本当の意味を、今こそ知るべきなのよ」
美晴へ手渡した。
「さっきも言った通り。
今のあなたは光の子として位置付けられる者。
神から贈られた魔法の書を読める筈だから」
「そう言うけど。
あの蒼ニャンでさえも読めなかった手紙を読む事が出来るのかなぁ?」
心配するのは、折角贈って貰った手紙が読めなかったら意味を為さないということ。
「今も言ったでしょ美晴。
天使長から贈られた手紙は、光の子にしか読む事が出来ないって」
「だけど、あたしは光と闇を抱く者としての魔力が・・・」
そう言った時、美晴の脳裏に彼女の姿が過った。
それは、薄汚れた魔法衣を着たもう一人の自分。
「あ・・・?」
そのもう一人の自分が言っていたのを思い出した。
「「あなたこそが光の子」」
そう・・・彼女が認めてくれていたのを。
闇の中に居るもう一人の美晴が、自分を光の子だと言っていたのだ。
「そっか・・・そうなんだね」
闇と光の分離。
もう一人居る美晴が闇を背負った訳。
黄泉還りした自分に光を授ける為に、女神が仕組んだ異能を分離させた意味に気付いた。
「あたしの産まれの謂れを知らせる為にも。
どうして光と闇を分離させたのかも、教えようとしてるんだね」
手渡された手紙に記されていることが、本当の運命を知る事になる。
以前には分からず仕舞いだった全てが分かるだろうと思うと、手紙を開く手に力が籠るようだった。
パラ・・・
封筒から紙片が抜き取られ、美晴の眼にミハエルから贈られた文面が写り込んだ。
「これが・・・天使長ミハエルさんの手紙」
以前に読んだ書面が再び。
~~
拝啓 我が友達へ
新たな命をありがとう
あなた達に頼みたいのは、娘を大事に育てて貰いたいのです
この命の灯を消さないように
唯、祈り続けて欲しいのです
きっといつの日にかお逢いできると願うからです
それが私達の希望なのですから
~~
短い文面には、所々空白が付けられていた。
「前にはこの穴の部分から光が零れて・・・」
魔法力を与えると、それに反応してホログラフィーが出現したのを覚えていた。
蒼き清浄なる天使の姿が現れたのを覚えている。
それが天使長ミハエルなのだと、今は分かり得た。
「あたしの魔力を・・・」
以前より数段魔法力が高められている。
数年前とは桁違いの魔法を放てるようになっているから。
「エクセリオ・ブレイカー!」
極大攻撃魔法でもある魔力を、紙片へと向けて放射させる。
爆裂させる訳ではない、単に極大魔法を鍵として与えるに留めた。
昔の光と闇を抱く者としてではなく。
「聖なる光よ、再び読むことの出来る異能に成れ!」
蒼い光を受けた紙片の3か所から、ホログラフィーを形成する輝きが立ち上がる。
ポォゥ
三点から立ち上がった光が交差し、3Dグラフィックの女性が浮かび上がった。
「これが・・・ミハエルと呼ばれる天使長?」
薄翠の髪を腰まで伸ばし。
青い瞳で白の魔法衣のような衣装を身に纏っている。
「そうよ美晴。
この方が天使長のミハエルさんなの」
昔を懐かしむような声で、間違っていないとルマが念を押して。
「さぁ、聴いてごらんなさい。
あなたへと向けて贈られる言葉を」
映し出されるミハエルの言葉に耳を傾けるように促した。
「うん・・・教えてミハエルさん」
嘗ては耳にすることが出来なかった魔法の手紙に向けて美晴は願う。
「あたしに・・・美晴へ何を教えたかったの?」
2年以上も前、一度は蒼ニャンの魔法で観たことはあった。
でも、あの時は何も聞けなかったし分からなかった。
そもそもホログラフィーが天使長だったなんて知る術も無かった。
「どんな秘密が隠されているの?
あたしの運命には何が隠されているの?」
始まりを知るミハエルへ向けて、真実を告げて貰うように願う。
これから起きる出来事と、自分の運命の係わりを。
シュン・・・
3D映像が一瞬乱れ、ミハエルの姿が光に消えた。
シュン!
再び輝の中にミハエルが現れ・・・
「「おめでとうルマ。
そして、ありがとう」」
祝いの言葉とも採れる最初の一言が紡ぎ出された。
この一言を皮切りに、天使長ミハエルが贈った手紙の真意が開示される。
「「あなた達に神子を委ねられたのを感謝します。
お二人の子として育てて頂けるのを嬉しく想います。
人の子として愛情を注いで貰え、人としての生き方を学ばせて貰えるのだと考えるのです」」
フォログラフィーの声は、温かみがあり優し気だった。
「これがミハエルさんの声なんだ」
初めて耳にした美晴は、どこかで聞いた事のあるように感じた。
「蒼ニャンも、時々こんな声になったっけ?」
理の女神から分離した闇を纏った堕神デサイアも、時折優しい声を聴かせたことがあった。
その時の声と似てる気がした美晴がぽつりと感想を述べると。
「きっと心から優しい天使様なんだろうな」
見守ってくれた蒼ニャンと比較して、同じ位思いやりのある声だと確信した。
「それにしても。
あたしへの言葉では無いような気がするんだけどな?」
自分へ向けて贈られた祝いの言葉とは違う気がして。
「あたしとは違う子へのお願いにも聞こえるけど?」
言葉振りから推察して、他の子を指している様にも思える。
「もしかしたら、ミハエルさんの言っているのは?」
独り言を呟いてしまった美晴の側で、ルマが小さく頷く。
「コハルのことよ」
「え?それって・・・」
横合いから告げられた名に、美晴が訊き直そうとした時。
「「天使と堕神の子を委ねられたのを嬉しく想います。
私達の子をマモルとルマに託せたのは、理の女神が知らせてくれたから。
新たな命と、新たなる宿命を絶やさぬように願ってくれたのだから」」
フォログラフィーからの言葉が遮る。
「「私達の子を人間界に隠し、あなた達の子を守る為に。
二つの魂を女神が見守り続けてくれるでしょう。
そして時が来れば光と闇の魔力は分かつことになるのです」」
天使長の言葉は、まるで今を知らせているようにも採れる。
あの事故によって美晴は、光と闇を分かつようになった。
「「私達が粛罪を終えた暁には、光の子は天界へと還り。
人間界の子は聖なる者へ昇華しなければなりません」」
2年前に起きた大魔王との一戦。
あの時、美晴は勝利を収めた。
闇の中に居た大魔王の姫御子だった娘の助力を受けて。
「よく思い出せないけど、確かに光を感じた気がする。
傍に居た光達に助けて貰ったような気がする」
朧げな記憶。
まるで夢幻の中で誰かが笑いかけているようにも感じた。
「誰?あれは・・・誰だったの?
コハル?もう一人のあたしなの?」
女神に因って分離させられた記憶の欠片に映るのは。
「薄桃色の・・・髪?
あたしと同じ、蒼い瞳の?」
光が揺蕩う中、少女の面影が見え隠れして。
「思い出したら・・・あたしは変われるのかな?」
今、ミハエルのフォログラフィーが言っていた通り。
人である美晴が聖なる者として覚醒すれば・・・
「「一時は天界へと還るべき我が子も。
時が満ちた暁には、光の神子へと戻るでしょう。
あなた方の娘の許へ。
人の世界に生きる、光の子の許へと」」
再臨されると。
もう一度、元の身体の中へと帰って来ると知らせた。
「「これから始まるのは、真の終末戦争への布石。
永き時に亘って人類を見守った女神の啓示。
邪なる者達が蠢き、真の闇が目覚めようと目論んでいます。
世界を護るには、多くの異能者が必要です。
多くの聖なる戦士が目覚めねばならないのです」」
前大戦から20有余年。
再びあの惨禍が舞い戻ってしまうのだと告げられて。
「「この子達の双肩に委ねられてしまったのは悲しむべきですが。
女神の異能を誇る娘として。
また、運命を担う娘としてこの子達が産まれたのだと分かって欲しいのです」」
女神の異能を誇る者。
運命に翻弄され、宿命と対峙する者として。
「あたしは・・・産まれて来た」
悟らされた。
今にして漸く。
自分がなぜ生まれたのかを、どうして生まれながらにして魔力を持っていたのかも。
そして、ルマが真の母であると言う事も、天使と堕神の子を宿らせて生み出されたのも。
「そう・・・あたしは。
祝福されて産まれて来たんだ」
決して女神に身体を与えるだけに生み出されたのではないと。
「「お二人の間に産まれた娘と私達の娘。
現世に生きる人の魂と、天界に住む女神の魂。
二つの魂を一つの身体に同居させたのは、全てが未来の為。
真の平和を愛する女神の為せる業・・・理の女神ミハルの計らい。
これより後は、理の女神に託す事となるでしょう。
いずれ、彼女もまた復活の日を迎えて巨悪と対峙します。
その日まで、我等が娘を頼みます。
光溢れる未来の為にも、小春を託します」」
宿命を背負う娘として。
早春の女神ペルセポネーを宿らされて。
「あたしに宿っていたのは・・・女神となるべき子だった。
美春伯母ちゃんではない、小さな春のような娘・・・」
知らされた。
いいや、思い出させられた。
「コハル・・・早春の女神ペルセポネー」
名を呟いた瞬間、追憶の彼方から女神となった娘の顔が。
「コハルと呼ばれていた本当の訳。
小さな美晴ではなくて、小さな春を意味した名を冠した女神」
自分によく似た顏だけど、髪色が違う、瞳の色もずっと碧い。
「あたしはコハルを宿すべき神子。
光を纏い、聖なる魔力だけを手にすべき光の子」
やっと、もう一人の美晴が言った意味が理解出来た。
「女神を宿すのなら、聖なる異能だけを持つべき」
だから、彼女は闇へと堕ちた。
光と闇の分離、それが産まれた時から決められていた真の姿とも云えるから。
嘗てコハルと呼ばれていた娘は、堕天魔ルシファーの娘として位置していた。
つまりは光と闇を纏う者として、双方の異能を手にしていたのだ。
その娘が女神として覚醒してしまった。
聖なる異能だけを手にする女神ペルセポネーに昇華したのだ。
大魔王戦の末、女神に目覚めたコハルは天界へと帰った。
それは、人である美晴が未だに光と闇を抱く者だったのも影響していたのだ。
女神に覚醒したコハルは、闇の異能も持ち合わせた美晴へは宿れない。
それまでのように宿れなくなったのだから、天界へと還るのは道理でもあった。
・・・それが真実。
美晴が未だに双方の魔力を持ち合わせているのなら、コハルは宿れはしない。
邪悪と対峙する女神を宿す事は叶わないだろう。
だが、美晴は二つに分割された。
あの事故によって・・・女神ミハルの謀に因って。
その事実は、敵にも知られていなかった。
知っていたのは、理の女神ともう一人の哀しい美晴のみ。
「あたしは、生まれる前から女神を宿す運命だったんだ。
美春伯母ちゃんではないけど、女神を宿して戦わなきゃならない宿命だったんだ」
産まれの謂れが明かされた。
でも、それは女神再生計画から生み出された人形なんかではない。
未来への希望を託されて産まれた人間。
則ち、希望の光を抱ける者。輝を宿した神子、美晴。
輝かしい未来を委ねられし宿命の子。
「コハル・・・ミハル。
あたしは美晴でもありコハルでもあるんだ」
記憶の中で、光溢れる女神が微笑んだ。
どこかで逢った気がする蒼髪の女神の顔が過った。
優し気な目で自分を観ていた・・・もう一人の・・・
「そっか。そうだったよね・・・<私>」
記憶の片隅で。
蒼髪の少女が微笑んでいる。
その人の口元から零れるのは・・・
「「おめでとう。あなたは今、本当の自分を知ったのよ」」
福音・・・女神からの祝辞。
天使長ミハエルの手紙が齎したのは、課せられていた運命の扉を開かせるものだった。
記憶に封じられて来た真実を告げ、運命という名の魂を導くもの。
手渡された時から運命つけられていた。
光と闇を抱く者だった美晴が、いつの日にか光の子となり手紙を読むのを。
聖なる者と成り、女神を宿すようになるのを。
「あたしはルマお母さんの娘。
美晴は、女神を宿す聖なる者へ成らなきゃいけないんだ。
コハルちゃんに還って来て貰って、邪な者から大切なモノを守らないといけない。
女神を降臨させなければならないのは、あたしへの願いだったんだから」
闇の中で、もう一人の哀しい宿命を委ねられた美晴が言っていた通り。
人である自分に託された願いを遂げるには、光の子として覚醒しなければならない。
それには、女神ペルセポネーを宿らせなければならない。
昔のように・・・でも、今度は違う。
「もう一人の美晴を助ける為にも!
新たな脅威と対峙する為にも!
あたしは光を纏う聖なる者になるんだ!」
新たなる希望。
新たなる宿命。
美晴は光の神子へと昇華してみせると誓う。
いつの日にか、輝ける希望となる為に・・・
希望と宿命。
光の神子として産まれてきた美晴。
真実を手にした今、運命を担うべく目を見開くのだった。
それは、明日への希望となるのだろうか・・・
次回 ACT16 輝け美晴
明日への希望。未来を掴むために進め!魔砲少女ミハル!!
次回で第3章もお終いになります。いよいよ、誕生日が訪れてしまうのですが・・・




